【作品コレクション物語】高松和樹編(アートで広がる価値観)
「アートコレクションする人ってどんな気持ちで購入しているんだろう」という疑問がありましたが、体験談というのはなかなか聞く機会が少ないと思います。そこで今回は、アートコレクションに至るまでのストーリーをご紹介します。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- 作品から感じたことを、実生活で活かして行動が変わったことで、アートが好きになっていった過程が分かる。
- 20代の会社員の状態でアートコレクションを始めるケースについて
初めてのアート作品購入の疑問解消や、アートを買うとはどういうことかの一例として、参考になれば嬉しいです。では、観ていきましょう!
コレクションした作品
今回紹介する物語は、こちらの作品をコレクションしたときのものです。
高松和樹《過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。》
フランス語で「インクの吹き付け」を意味する言葉です。版画技法のひとつで、高性能インクジェットプリンタを使ったプリント方法です。リトグラフやシルクスクリーンの版画技法と比較すると、耐光性(紫外線の影響を受けにくいこと)と色の再現に優れているといわれています。
コレクションに至るまでの物語
作品コレクションに至るまでの物語を、高松和樹さんを知ったところから振り返ってみます。
1.作品を知ったきっかけはアートフェア東京
高松和樹さんの作品を初めて観たのは、アートフェア東京2014です。当時はアートに全く興味がない状態で、数あるイベントの中の一つに遊びに行く感覚で参加しました。
「アート=美術館」にあるような小難しいものというイメージだった私にとって、会場に展示されている現代アート作品の数々は新鮮で、「これが今のアートなんだ!!」という衝撃がありました。
「アートフェア東京って何?」という方は、こちらをご覧ください。
アートフェア東京は出展数が100ブースを超えるため、情報量が多く波に飲み込まれていましたが、気づくと足を止めていたのが高松和樹さんの作品でした。
2.不思議な魅惑を持った作品に惹かれる
高松和樹さんの作品を初見で感じたことはこんな感じでした。
- 黒と白しか使わないシンプルさに惹かれるような感じ
- すべての要素が地図で使われる等高線を描くように描かれていて、距離感が表現されていたのが新鮮だった
- モチーフとなっている女の子が魅惑的だった
当時は作品のコンセプトや作家さんの情報を知らずに観ていましたが、何が描かれているのかが分かり、不思議な魅惑を持った作品でした。西洋美術がメインだった美術館鑑賞とは全く違う新鮮さがありました。
つまり、「アート=西洋美術」だと思っていた自分が、現代アートの魅力に気づいた瞬間の作品だったということかなと思います。
目の前の作品が何を表現しているのか、ある程度知覚し理解できるものであったことも、振り返ると大事なポイントだったと思います。
3.作家の他作品を観たくなってネットでチェック
アートフェア東京の会場内には数えきれないほどの作品が並んでいました。一方、帰宅してから覚えている作品はほんの数個くらいで、その中の一つに高松和樹さんの作品が入っていました。
飾ってあった作品以外に、どんな作品を制作しているのだろう?
そう思い、作家のホームページをチェックしました。
展示作品以外の作品を観て、しなやかな女性像と銃や骸骨など硬いものであったり、霞や花など柔らかいものであったりを掛け合わせた作品を制作しているんだなと感じました。
4.作品にテーマやメッセージがあることを知る
作品を見ているうちに、現代アートには、テーマやメッセージといった、いわゆるコンセプトある場合があることを知りました。では、高松和樹さんの作品にはどんなテーマがあるのでしょう。
- 「黒と白」は「善と悪」や「人種や宗教」を象徴するもの
- グラデーションを強調したレイヤーは、「光と影」がはっきりしない「距離」を表現するもの
- 女性は未知の存在であり、その匿名性とそこに映し出される『現代っ子』がテーマ
- 海外では日本の自然の驚異や漫画文化、高度に発展した科学技術と関連した”東洋的なエロティシズム”を表現していると評価されている
出典:アートペディア
作品を観ていて掴めていなかった表現の理由を、テーマによって知ることができました。作家さんの想いや技術を集約して1つの作品ができあがっている、そう考えると作品というのは作家さんにとってのわが子も同然のようだなと感じます。
5.作品を所有したいと感じた理由
それから時間は流れ、高松和樹さんの個展に行ってみたいと思いつつも叶わず、気づくと2012年から9年(!)が経過し、2021年となっていました。その間、別の作家さんの展覧会にも行くようになり、現代アートは作家さんによって本当に表現方法が違い、言葉にできない魅力を感じていきます。そうしているうちに、アート作品は自分が経験できない価値観を疑似体験できるものと感じるようになっていきます。
例えば、小説や映画のように物語を読んだり観たりして、自分の人生の糧にしていくことに似ていると思います。小説や映画と比べてアート作品の異なる点は、文字や言葉での対話ではなく、表現との対話であること。感じ方に答えはなく、そこにわりきれない楽しさがあると思います。
これまでは展覧会に赴いて表現との対話をしていましたが、生活の中でもできたらいいな、と思ったところから作品を所有したい、そう思うようになっていきました。
6.作品を選んだ理由
所有を意識しだしたときに思い出したのは、現代アートの面白さを知ったきっかけにもなった高松和樹さんの作品でした。そんな中で、2021年のアートフェア東京に行ったときに出会ったのが《過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。》という作品です。
作品を観て、こんなことを感じていました。
- 目を閉じた瑞々しい表情と、右手を胸に当てている仕草から、「周りとは程よい距離感で、自分の内から発せられる言葉を大切に」というメッセージを感じることができた
- 全体的にしなやかさを感じる作品で、自然に触れることの少ない都会でも、自然に触れたときと似た感覚になった
- 過去の白と黒から、個人的に好きな色でもある紺色のグラデーションになっていた
自身の感情によって感じ方も変わるかもしれませんが、はじめて観たときの初心を大切にしたいのと、現代アートが好きになるきっかけでもあり、9年間変わらず好きな作家さんであったことから、高松和樹さんの作品購入を決断しました。
購入したのはユニーク作品(一点ものという意味)ではなかったものの、今の私にとって気軽に購入できる額ではなかったので、緊張しながら購入しました。
コレクション前後でどんな変化があったか?
作品が届いてから、「飾って楽しむ!」ためにも購入しているので、家の壁に掛けてみました。
部屋に彩りがプラスされるのはもちろん、購入時に感じた初心も作品の中に保存されているようで、仕事で疲れた日や落ち込んだ日に観ていると、作品からエネルギーをもらえているような感覚になります。また、作品の保管方法や新たな情報が入ってきて、さらにアートを知るきっかけにもなっています。
自分の人生の延長線上では経験しないであろう価値観に触れて、広げていけるのが、これからの人生の糧になっていると感じます。
作品と一緒に、私自身もステージを上げていけるよう、日々の積み重ねを大切にしようという意識も湧く経験ができました。
まとめ:自分にとっての“好き”から価値観を広げる
「アート購入する人ってどんなことを思って購入しているんだろう?」そんな聞いてみたいけど、聞く人がいない疑問に答えてみました。
作品というのは作家にとってのわが子も同然なのかもしれないと思うと、所有するからこそ、借り物のように大事にしようと当たり前のことを改めて意識しようと立ち返れます。
自身の資金と相談することは大事ですが、自分にとって印象的だったものや、この作品と長く生活してみたい、そんなところからギャラリー巡りをしていくと面白いかもしれません。
自分にとっての「好き」とつながる作品と出逢ったときに購入へ一歩踏みだす勇気に繋がったら嬉しいです。