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ブルーピリオド×ArtSticker 第3会期|現代アートは観るほど面白い

よしてる
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今回は渋谷にあるhotel koe tokyoにて開催した岸裕真さん、川田龍さん、島田萌さん、松浦美桜香さんのグループ展覧会「ブルーピリオド×ArtSticker 第3会期」の模様をご紹介します。

第1会期はこちらをご覧ください
2会期はこちらをご覧ください

「ブルーピリオド×ArtSticker」とは?

「ブルーピリオド × ArtSticker」とは、TVアニメ「ブルーピリオド」と、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」がコラボした展覧会です。

ブルーピリオドとは、世渡り上手な努力型ヤンキー高校生が絵を描くよろこびに目覚め、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく物語を描いたコミックです。

そのアニメ版の各話を展示テーマとして制作された作品を、アニメ放送期間に合わせて段階的に展開していく構成となっていて、アニメと展示を連動しながら楽しめるようになっています。

現役美大生から美大を卒業し活動するアーティストまで参加しているので、出展作品も絵画から彫刻までさまざまな表現に触れることができます。

気になったアート作品はキャプションも観てみよう

作品の横に、作品タイトルや作家の名前が入った「キャプション」というものが添えられています。

今回の展覧会では、このキャプションも作品制作の背景を知るためのヒントとなってくれておすすめです。

もし、気になる作品があって、「この作品はどんなことを表現しているんだろう?」と思ったら、キャプション右下にあるQRコードを読み取ってみると、作品に対してのアーティストコメントをみることができます。

作品によってはコメントがないものもありますが、作家本人の想いが言語化されているので、コメントと併せて作品鑑賞をしてみると一見分かりにくい現代アートのイメージを和らげてくれるかもしれません。

第3会期作品を鑑賞

展覧会は3会期に分けて作品展示が続きます。今回は第3会期の展示作品を観ていきましょう!

岸裕真:AIの持つ知性を用いた作品

岸裕真(きし ゆうま)さんは1993年生まれのアーティストです。2019年に東京大学大学院 工学系研究科修了し、2021年現在は東京藝術大学先端芸術表現科の修士課程に在籍しています。

岸裕真さんはAIを人を模倣するもの(人工知能:Artificial Intelligence)ではなく、異次元のエイリアンの知性(異質な知性:Alien Intelligence)として捉え、その知性を自らの身体にインストール・依代として貸し出すことで、デジタルな知性とアナログな身体を常に並列関係に配置した制作を行っています。

protrusion #1

《protrusion #1》
2021、岸裕真、acrylic resin, styrofoam、30 × 38 × 60 cm
展示テーマ「さまよう、溺れる」 アニメ第9話より

アクリル樹脂と発泡スチロールからなる作品ですが、実際に観るとプラスチックのような重量感と質感を感じる作品です。タイトルの「protrusion」は直訳すると「突出、突起」という意味になります。

縦長のエイリアンの頭のように見えるこの立体作品は、「GAN」と呼ばれるAIを用いて構築されているそうです。

AN(ガン、ギャン)とは?

GANとは「敵対的生成ネットワーク(=Generative Adversarial Network)」と呼ばれるディープラーニングの進化形のこと。「生成するAI」と「監視するAI」の2つのAIがともに競い合い、学習を重ねていくAIです。主に画像認識の分野で活躍が期待されています。
(参考:Hello,AI ーはじめての人工知能ー

突起というテーマからAIが連想し構築したものと、鑑賞者が作品を観て連想するものにギャップがある観点から、AIとの距離感を考えさせられます。

chair

《chair》
2021、岸裕真、acrylic resin, styrofoam、49 × 47 × 87 cm
展示テーマ「さまよう、溺れる」 アニメ第9話より

4つの脚と背もたれのある、よくある椅子の作品。ただ、座面の中央に大きな穴が空いていたり、ひとつの脚が地面についていなかったりと、「椅子としての機能」は果たせなそうです。

機能面ではない、創造性をAIが膨らませているようで、「椅子」から連想される先入観を静かにほぐされる感覚になります。

川田龍:身近なモチーフに西洋絵画的要素を反映した作品

川田龍(かわだ りゅう)さんは1988年生まれ、新潟県出身のアーティストです。2015年に東京造形大学美術科絵画専攻を卒業し、2018年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻(壁画第二研究室)修士課程を修了しています。

自分や友人、物といった、自分の手の届く身近なものをモチーフに描きながら、西洋の古典絵画の極致に近づく作品を制作しています。

Untitled(Aluminium wire 5)

《Untitled(Aluminium wire 5)》
2021、川田龍、キャンバスに油彩、194 × 162 cm
展示テーマ「ありのまま」、 アニメ第10話より

アーティストの自画像でありながら、西洋絵画で用いられるモチーフを模した針金の冠を被った作品です。西洋絵画に身近なモチーフが描かれていることで、なんとなく縁遠い存在に感じる西洋絵画に親近感が湧いてきます。

針金の冠はディルク・バウツの《荊冠のキリスト》(1415年頃 – 1475年)という作品に登場する、キリストが荊冠(けいかん)を頭にのせて苦しそうにしている作品をモチーフにしているのかなと感じました。《荊冠のキリスト》は痛々しい作品ですが、川田さん作品の針金には痛々しさ・苦しみというよりは、世間で注目されると批判されてしまう現代の生きづらさのようなものを感じました。

島田萌:デジタルエフェクトで観たモチーフを描いた作品

島田萌(しまだ もえ)さんは1995年生まれ、東京出身のアーティストです。2019年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業しています。

デジタルエフェクトをほどこした写真をモチーフに作品を制作しています。肉眼では見えない色彩や歪みも、スマホやパソコンなどのデジタルツールが普及している昨今の新しいリアルだと考え作品制作をしていて、人物画をはじめ、近年では花や陶器、ガラス細工の置物などモチーフとする対象を広げているそうです。

bug series “Figure I”

《bug series “Figure I”》
2021、島田萌、キャンバスに油彩、116.7 × 116.7 cm
展示テーマ「自分の答え、自分の世界」 、アニメ第11話より

画面がバグり、人物画の色味が光の三原色である赤・緑・青に分解されているように見えます。バグシリーズはいままでも制作されていたもののようですが、人物画は今回初のお披露目となりました。

キャンバスが正方形であるところから、Instagramの投稿画面を彷彿とさせます。Instagramは2021年時点で世界中からおよそ5億人ものアクティブユーザーが毎日アクセスし、多様な画像を投稿しているそうです。

その画像のもとは肉眼では見えない三原色の組み合わせからかたどられていること、そしてそのかたどりの差を競うように5億人ものユーザーが毎日時間を使っていることを表現しているように感じる作品でした。

absolute difference series “Ceramic Vases III”

《absolute difference series “Ceramic Vases III”》
2021、島田萌、キャンバスに油彩、60.6 × 91 cm
展示テーマ「自分の答え、自分の世界」 、アニメ第11話より

静物や風景をひたすら描き続けたイタリアの画家、ジョルジョ・モランディをリスペクトし、「モランディが現代に生きていたらモチーフをどう描くのだろう?」という問いから展開しているシリーズ。

壁に映る花瓶の影が青めいているところに非日常空間を感じます。また、背景をよく見ると右と左とで高さが違うようです。陶器の厚みやボリュームが繊細に描かれていて、異なるバリエーションの作品も観たくなります。

他展示での島田萌さん作品はこちら

松浦美桜香:モチーフを「崩し」「再構成」した作品

松浦美桜香(まつうら みおか)さんは2001年生まれ、東京都出身のアーティストです。多摩美術大学絵画学科油画専攻に在籍中の現役生です。

自分を介し見た人物を、その時感じた感覚や記憶を頼りに制作する行為により、自分の無意識下に存在している深層世界と他者の記号的な情報とを融和させながら、絶妙なバランスで「崩し」「再構成」した作品を制作しています。

《mixture》
2020、松浦美桜香、木炭紙に木炭、130 × 100 cm
展示テーマ「色づき始めた自分」、アニメ第12話より

アンバランスさを持った人物画は、髪が長く見えたり耳が二重に見えたりしていて、独特な造形となっています。その表情はどこか冷たく感じ、人間の無意識の部分はこんな表情で日々の判断を下しているのかもしれないと感じました。

《portrait》
2021、松浦美桜香、木炭紙に木炭、130 × 100 cm
展示テーマ「色づき始めた自分」、アニメ第12話より

大型の女性の表情を描いた作品。木炭独自の明暗のグラデーションが印象的で、こちらもどちらかといえば、冷静沈着な表情をしています。

こちらのアーティストステートメントにはこんな一言が添えられています。

人の見つめる先、それは他者にとって未知の対象であり、私たち人間はその表情を読み取ることしかできません。 この人物像から、貴方は何を想像しますか?一体何を見つめていると感じますか?自分なりの鑑賞をしてご覧になって下さい。

アーティストステートメントより引用ー

口をつぐみ、相手を見透かすような表情のように見えつつ、私には”外界でふるまう意識下の自分を見つめる無意識下の人”に見えました。自分の中の人にもこんな感じの表情で常に見られているのかもなと感じる作品です。

まとめ:現代アートは観るほど面白い

ブルーピリオド×ArtSticker 第3会期の模様をご紹介しました。

3つの会期それぞれの作品を観て感じたのは、「現代アートは観るほど面白い」ということです。アーティストそれぞれの物語から生まれた作品を観て、さらにこの作品が2022年以降どう飛躍していくのか、今後が楽しみです。

年明けの初鑑賞としても足を運んで観てはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名ブルーピリオド × ArtSticker
会場hotel koe tokyo 2F「koe渋谷」POPUPスペース
東京都渋谷区宇田川町3-7
会期2021年10月22日(金) ~2021年1月14日(金)
第1会期:2021年10月22日(金)〜2021年11月18日(木)
第2会期:2021年11月19日(金)〜12月16日(木)
第3会期:2021年12月17日(金)〜1月14日(金)
開廊時間11:00〜20:00
※ 新型コロナウイルスの影響により、変更となる場合があります。詳しくはhotel koe tokyoの公式Instagramをご確認ください。
サイトhttps://artsticker.app/share/events/783
観覧料無料
作家情報第1会期:2021年10月22日(金)〜2021年11月18日(木)
第1話 梅沢和木さん|Instagram:@umelabo
第2話 瀬戸優さん|Instagram:@yu_seto1222
第3話 須永有さん|Instagram:@aru_sunaga
第4話 國分莉佐子さん|twitter:@petrichor__xx
第2会期:2021年11月19日(金)〜12月16日(木)
第5話 小津航さん|Instagram:@ozzzz0429
第6話 倉敷安耶さん|Instagram:@ayakurashiki
第7話 平田尚也さん|Instagram:@_naoya___h__/
第8話 藤川さきさん|Instagram:@fjkw第3会期:2021年12月17日(金)〜1月14日(金)
第9話 岸裕真さん|Instagram:@obake_ai
第10話 川田龍さん|Instagram:@ryokawada_0817
第11話 島田萌さん|Instagram:@moe.shimada.23
第12話 松浦美桜香さん|Instagram:@______nnnn5
※展示時期・展示順につきましては、都合により⼀部変更になる可能性があります。

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1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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