名和晃平「Fountain」|素材探求とアート制作の旅路を観る(5シリーズの作品を紹介)
モチーフをビーズで覆った彫刻作品が有名な名和晃平さんですが、素材への探究や彫刻の在り方を柔軟に解釈した彫刻作品をはじめ、多くの作品を制作しています。今回の展覧会が、あなたにとっての彫刻作品の概念を変えてくれるかもしれません。
今回は「銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM」にて開催した名和晃平さんの個展「Fountain」の模様をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- 名和晃平(なわ こうへい)さんは1975年生まれ、「Sandwich Inc.」主宰や、京都芸術大学教授もしている大阪府出身のアーティストです。
- 感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目した作品や、素材に委ねて造形した作品を制作されています。
- 本展は2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレさんとの協働によるパフォーマンス作品「《VESSEL》《Mist》《Planet [wanderer]》」の書籍刊行を記念した展覧会です。
- 展示作品は、名和晃平さんの大学院生時代のドローイングから、近年制作した平面、彫刻、そしてパフォーマンスをもとにしたものが展示され、それぞれの領域を横断するように楽しむことができます。
それでは、観ていきましょう!
名和晃平とは?
名和晃平(なわ こうへい)さんは1975年生まれ、大阪府出身のアーティストです。
京都市立芸術大学美術科彫刻専攻を卒業し、同年に英国王立芸術大学院へ交換留学、2003年に京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程彫刻専攻を修了しています。
名和晃平さんは感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目した作品を制作しています。
これまでの彫刻作品に対する定義を柔軟に解釈した、まるで科学研究とアートを融合したような作品が特徴的です。
これにより、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚刺激を与える作品を制作していて、例えば、以下のような作品を発表しています。
- 《PixCell》
ネットで見れても実際の本物には触れることができない、情報化時代を象徴する彫刻作品 - 《Direction》
生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング - 《Force》
シリコーンオイルが空間に降り注ぎ、重力の様態を鑑賞できるインスタレーション - 《Biomatrix》
高粘度の液面に現れる泡とグリッドがマグマのようなエネルギーを感じるインスタレーション - 《Foam》
小さな泡が集合体(フォーム)として巨大なボリュームへの成長を通して、代謝や循環を支える細胞の活動を連想できるインスタレーション
現在は京都を拠点に活動しながら、2009年に元サンドイッチ工場をスタジオにした「Sandwich Inc.」の主宰や、京都芸術大学教授もしています。
展覧会タイトル「Fountain」は「森の生命の循環」がテーマ
展覧会タイトル「Fountain」は本展で展示している彫刻作品のタイトルでもあり、「森の生命の循環」がテーマとなっています。
生命が土から生まれ、多種多様な姿で生き、そして土に還る、生命の循環が表現されています。
また、本展は2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレさんとの協業によるパフォーマンス作品「《VESSEL》《Mist》《Planet [wanderer]》」の書籍刊行を記念した展覧会になります。
平面、彫刻、そしてパフォーマンスと、名和晃平さんの作品を横断するように楽しむことができます。
展示作品を鑑賞
Fountain(森の生命の循環をテーマにした新作)
森の生命の循環をテーマにした新作の彫刻作品です。
多種多様な生命が土から生まれ、さまざまな形体に変化し、そして最後には土へと還り、そして、その過程の中で互いに関係し合う様子を表しています。
中心からは泉が螺旋状に湧き出ていて、その周りも異なる形で生命が湧き出ています。地面から空に近づくにつれ形体の変化が顕著になり、それぞれが異なる形をしています。
どこか風の谷のナウシカに登場する腐海の底の浄化された空間のような印象があり、独自の生態系が発達し互いに関係し合いながらも、終わりと始まりは大地から始まるという、生命の根源的な要素も感じる作品です。
Velvet Kinjiro(撤去されつつある二宮金次郎像をモチーフにした彫刻作品)
昭和初期から日本の小学校に数多く設置された「二宮金次郎像」が、人類の進化過程のように並んだ、合計11個の彫刻作品です。
「勤勉、倹約して国家に奉仕する理想的な臣民像」として全国の学校に設置されてきた二宮金次郎像。ところが、1970年代から「児童が像の真似をして本を読みながら道路を歩くと交通安全上問題になる」ことから撤去が進み、さらに2010年代に入ってからは「歩きスマホを助長する」などの指摘により、全国的に撤去が進んでいるそうです。
そんな、二宮金次郎の意志とは関係なく振り回される運命を辿った彫像をモチーフにして、オブジェの表面を部分的に膨張させ、全体を真っ黒なベルベット状にしています。
見た目で大きさの違いはすぐにわかりますが、よくみると、ひとつひとつの金次郎像のポーズも異なります。
まるで人類の進化のように、二宮金次郎像が時代に合わせ在り方を変え、そして衰退していく様子を表しているようです。
Plotter(マシンによるドローイング作品)
プロッターマシンというオリジナルで作った装置にボールペンを取り付け、ドローイングの画像データを元に描かれた作品です。
定規と鉛筆によって描かれたアナログのドローイングから、マシンによるドローイングへの翻訳を試みています。
制作メカニズムに不完全さがあるようで、それによって生じてしまうエラーが紙の破けやインクもれのようなドットとなって現れています。このエラーをそのまま受け入れることで、一見均質に見える画面も遠くから見ると、線の揺らぎができているのを観て取れます。
マシンによる制作でも全てが均質にはならないことが、作品に個性を生む可能性を示唆しているようです。
Esquisse(大学院生時代のスケッチの版画)
Esquisse(エスキース)とは、コンセプトの検討や作品制作する前にするスケッチ・下絵のことです。
この作品は名和晃平さんが大学院生だった2000年ごろに描かれたドローイングをシルクスクリーンの版画にして蘇らせた作品です。
現在の作品制作に繋がる根源的な要素を観る形で楽しむことができます。
個人的には、顕微鏡で生物の組織を観察しスケッチしているように見え、細胞の破裂や繊維の構造を繊細に観察し描いているように感じました。
Orbit(ダミアン・ジャレとの協業作品)
ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレさんとの協業によるコンテンポラリーダンスの舞台公演《VESSEL》《Mist》《Planet [wanderer]》の世界観を表現した仮想の3D空間を撮影し、コンピューター制御によるドリルミルでアルミ板を削り出して制作された「写真彫刻」作品です。
今回展示されている作品は、パリでスキャンされた《Planet》のダンサーの3Dデータから制作された作品のようです。
ちなみにOrbitは「(天体や人工衛星などの回る)軌道、軌道の一周、(人生の)行路、生活過程」といった意味を持つ言葉。
アルミ版の削り出しの強弱だけでダンサーと惑星のような世界観が生み出され、アルミ版の持つ美しい銀白色の金属光沢が銀河のようにも見えてきます。
素材の特性に身を委ねて造形したアートを鑑賞しよう!
名和晃平さんといえば、「鹿」「ビーズで覆われた作品」というイメージを持っている人も多いと思いますが、他の作品を観ると、素材の特性に委ねて制作した作品が多く登場します。
今回の展示も、大学院時代のものから今に至る素材研究とアート制作の旅路を観るような鑑賞体験ができます。
展示会情報
展覧会名 | 名和晃平「Fountain」 |
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会場 | 銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM 東京都中央区銀座6丁目10−1 SIX6階 |
会期 | 2022年4月16日(土)~5月8日(日) ※終了⽇は変更になる場合があります。 |
開廊時間 | 11:00~20:00 |
サイト | https://store.tsite.jp/ginza/event/art/25984-1443380412.html |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 名和晃平さん|Instagram:@nawa_kohei |
関連書籍
関連リンク
エントランスに展示中の作品についてはこちらが参考になります。
名和晃平さんの妻でもある清川あさみさんとのコラボ作品も以前展示されていました。