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【解説】ギンザ シックスの名和晃平アートを観る(代表作のPixCellシリーズも紹介)

銀座の複合施設「GINZA SIX(ギンザ シックス)」内の吹き抜け空間に現れた大きな鹿の作品。この作品にはどんな想いが込められているのでしょうか。

今回はこの鹿のインスタレーション作品をはじめ、GINZA SIXに作品を展示している名和晃平(なわ こうへい)さんについてご紹介します

・名和晃平さんとその作品について知りたい
・作品のコンセプト・テーマについて知りたい
・現地でアートを観に行けないから、せめて写真を通して観てみたい

そんな方向けに、ご紹介していきます。

名和晃平さんの作品はただ観ているだけでも魅了される作品が多いですが、その制作過程やコンセプトといった「ストーリー」を知ると、さらに鑑賞を楽しむことができます。

ただ観るから「一歩踏み込んで鑑賞」してみる、そんな体験をしていきましょう。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

  • ギンザ シックス内吹き抜けに展示しているインスタレーション作品名は、《Metamorphosis Garden(変容の庭)》という作品で、「生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界」をテーマに制作されています。
  • 《変容の庭》を制作したのは名和晃平(なわ こうへい)さんという大阪生まれの彫刻家です。
  • この作品以外にも、名和晃平さんは「PixCellシリーズ」と呼ばれる、”彫刻の表皮に着目し、肉眼では捉えられな細胞を大きくしたような粒で全体を覆った彫刻作品”も有名です。

本記事では《Metamorphosis Garden(変容の庭)》をはじめ、ルーヴル美術館に特別展示された作品、代表作の「PixCellシリーズ」など、名和晃平さんの多様な作品についても触れていきます

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

銀座シックスの作品を鑑賞

まずは、名和晃平さんの作品を観ていきましょう!

Metamorphosis Garden(変容の庭)

《Metamorphosis Garden(変容の庭)》
名和晃平、2021、アルミナ,マイクロビーズ

波打つ表皮を持った鹿と、その周りを雲が漂っているようなインスタレーション作品は、まるで雲海の上のような景色を生み出しています。

この作品のテーマは、「生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界」です。

この景色は島と海を表しているそうで、その不定形さから混沌を感じることができます。現代のパンデミックが生活を不定形にしている様子と、どこか重なるところがあります。

それと同時に、海は生命が発現した根源であり、作品の中心には生命の象徴として「神鹿」が凛々しく立っています

あらゆる生命の根源は、不定形で混沌とした海から始まったといわれています。

そんな混沌からでも、神鹿のように生命を絶やさずに生き抜いてきた力を現代にも活かせるはず、という生命力を感じる作品です。

雲の上というのも、雲を見上げるように、上を向いて歩んでいこうというメッセージが潜んでいそうです。

また、今回の作品はリアルとデジタルのコラボレーションもされており、振付家ダミアン・ジャレさんとの共作によるARのパフォーマンスも2021年6月8日から観られるそうですよ。

銀座からルーヴル美術館に渡った《Throne(g/p_ boy)》

《Throne(g/p_ boy)》
名和晃平、2017、mixed media

同じく銀座シックス内にある蔦屋書店には、こんな作品も展示されています。

江戸末期や明治初期の極度に造形の発達した山車や神輿といった「祭り」の造形から、現代の東京に再来させる発想から生まれた作品です。まるでガンダムの百式のように神々しく全体が輝いていて、その中心にちょこんと、少年が座っています。

玉座に座るのは本来権力者ですが、それが少年になっているところにメッセージが隠れているような気がします。

未来を作り上げていく子供が、積極的に能力を発揮できるように、という想いが込められているように感じます

この作品は、銀座蔦屋書店から、「日本の伝統工芸や世界の現代美術も含めた大型のアート書店」の中に展示する作品をつくって欲しいという依頼があり、以前からあったThrone(スローン:玉座)の構想を実体化したものだそうです。

作品に金箔を使っているのも、アートと工芸を扱う書店のコンセプトと重ねるように、3Dのモデリングによる造形に金箔を施すことによる古今の技術をハイブリッドした作品にしています。

何気なく展示されているこの作品、実はルーヴル美術館に特別展示された作品の原型なんです。

ルーヴル美術館で開催された「ジャポニスム2018」の特別展示として、この作品がコンペティションで選ばれ展示にいたっています。では、なぜ名和晃平さんの作品が選ばれたのでしょうか。

それは、金箔はルーヴル美術館にとって重要な意味があるから。ルーブル美術館は金箔の研究所を持っていて、金箔の起源となる古代エジプトのものから近代のものまで、時間をかけて研究を続けてきているため、思い入れのある素材なのだそうです。

そういった偶然が重なり、館内にあるルーヴル・ピラミッドという場所に《Throne》が展示されることになりました。

何気なく展示されている作品ですが、アート界の大御所ルーヴル美術館で発表された作品の原型がある、ということは、日本文化の発信という意味でもすごいことです。

名和晃平さんとは

ところで、こうした作品をギンザ シックスで展示している名和晃平さんとはどんな人なのでしょうか?

名和晃平さんは、大阪生まれの彫刻家です。京都を拠点に活動をされていて、彫刻家以外にも、

  • 元サンドイッチ工場をスタジオにした「Sandwich Inc.」の主宰
  • 京都芸術大学大学院 芸術研究科教授

と、彫刻家の枠を超えてさまざまな活動をしています。

建築のプロジェクトでもアートと融合した大規模な活動をされています。例えば、広島県福山市にある神勝寺の《洸庭(こうてい)》は、全体が木でできた舟形の特徴的な曲線美が境内でひときわ映えています。

ドイツ人のある一言が、活動拠点を決めるきっかけに

国内外で活躍されている名和晃平さんですが、ブレーメンでのアートプロジェクトをしていた際に、名和晃平さんはあるドイツ人にこう相談したことがあるそうです。

「欧米に来ないとアーティストとして活動できないような気がする。」

その言葉に対して、相談されたドイツ人はこう答えたそうです。

「ドイツやイギリスでも難しいのは一緒だ。なぜ自分の地元の状況を変えようとせずにわざわざ他国に来るのか。」

京都を拠点にしていたり、日本での活動に力を入れている理由の一つには、この言葉が影響しているのかもしれません。

代表作「PixCell」シリーズとは何か

《PixCell-Crow#5》
名和晃平、2020、mixed media
(GYRE GALLERY「Oracle」(2020)にて撮影)

名和晃平さんといえば、「PixCell(ピクセル)」という概念を用いた作品制作でも有名です。

PixCellとは、「Pixel(画素)」と「Cell(細胞)」 を合わせた造語で、彫刻の表皮に着目し、肉眼では捉えられな細胞を大きくしたような粒で全体を覆った彫刻作品です。

《PixCell-Reedbuck (Aurora)》
2020年、mixed media
(GYRE GALLERY「Oracle」(2020)にて撮影)

見た目がキラキラしていて綺麗な作品ですが、そのコンセプトを知ると情報化社会を象徴した彫刻作品であることが分かります。

情報化社会では、画面越しにいろんなモノを見て知ることができますが、リアルで”そのもの”と触れる機会までは作れません

PixCellの作品は、

・ネットから作品となる素材をランダムに抽出するという作り方
・素材の表面全体に粒を貼り付けることで、モチーフの表面は球を通してしか見えなくなり、直接も触れられなくなる

という特徴があります。

「素材に直接触れることができないもの」という点で、情報化社会との共通点が見えてきます

紀尾井町の鹿《White Deer》

《White Deer》
名和晃平、2016、アルミ鋳造、H6,000×W4,042×D4,442㎜

東京ガーデンテラス紀尾井町の屋外にも名和晃平さんによる鹿のパブリックアート作品《White Deer》が展示されています。この作品は、私が名和晃平さんの作品を知るきっかけにもなったものです。

パブリックアート巡りをしていたときに出逢った作品で、江戸時代は大名屋敷、明治以降は皇族の宮家邸宅があった由緒正しい歴史の地「紀尾井町」に、神秘的な空気感を生み出しています。

鹿は古来より「神使」として信仰を支えるイメージとして人々に親しまれています。

一方で、人里に時々現れる鹿は「迷い鹿」と呼ばれているそうです。

古くは「神使」として親しまれ、現代では「迷い鹿」と呼ばれるようになってしまう、そんな変化する時代を象徴しているようです。作品に用いられている鹿はインターネット上に表示された鹿の剥製を取り寄せ、全身を 3D スキャンして得たデータを元に制作しています。

また、オークションでは鹿の作品のミニバージョン《Velvet – White Deer (R)》がBSIアートオークションに出品され、Estimate(エスティメート:査定価格のこと)100万円 – 150万円に対して、落札価格が276万円になったことも記憶に新しいです。

オンライン化が進む今こそ、リアルな場でアートを体感しよう!

今回はギンザ シックスの展示作品から始まり、作品のコンセプトや制作過程に重点をおいて、名和晃平さんの作品を紹介させていただきました。

2022年はリモート・ファーストという言葉ができるほど、オンライン化がますます日常的なことになっています。そうした生活の中で相手を「画像=データ」を通して見ていると、リアルで人と会う機会が減ったなと感じます。

PixCellシリーズは2002年に発表された作品ですが、19年が経過した今、現代の状況をより一層反映している作品ではないでしょうか。

また、直近の作品からは生命力を感じる表現を取り入れている印象がありました。

アート鑑賞もそうですが、リアルで体感することは画面越しとは異なる良さがあるなと思います。

一歩踏み込んでアートのことを知ってから鑑賞してみるときには、参考にしていただけると嬉しいです。

展示会情報

展覧会名Metamorphosis Garden(変容の庭)
会場GINZA SIX | ギンザ シックス 2F中央吹き抜け
会期2021年4月12日~2022年10月(予定)
※ARは6月上旬展開予定
開廊時間11:00~19:00
※営業時間は変更になる可能性がるので、最新情報は公式ウェブサイトをご確認ください。
サイトhttps://ginza6.tokyo/news/94805
観覧料無料
作家情報名和晃平さん
HP:http://kohei-nawa.net/
Instagram:@nawa_kohei

関連リンク

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関連書籍

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  • KOHEI NAWA | SANDWICH: CREATIVE PLATFORM FOR CONTEMPORARY ART – 2014/1/20
    (SANDWICHでの活動について分かる本)
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よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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