ギャラリー

名和晃平「TORNSCAPE」|無情観をインスタレーションから体感できるアート

よしてる

今回は日暮里 谷中にあるSCAI THE BATHHOUSEにて開催した名和晃平さんの個展「TORNSCAPE」の模様をご紹介します。

名和晃平さんといえばビーズに包まれた作品のイメージが強いですが、今回の展示ではそれらとは違った、「素材の物性研究なのでは」とすら思えてくる作品に出会えました。

名和晃平とは?

名和晃平(なわ こうへい)さんは1975年生まれ、大阪府出身のアーティストです。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻を卒業した同年に英国王立芸術大学院へ交換留学、2003年に京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程彫刻専攻を修了しています。

名和晃平さんは独自の「PixCell」という概念を機軸に、多様な表現を展開されています。また、彫刻家以外にも、

  • 元サンドイッチ工場をスタジオにした「Sandwich Inc.」の主宰
  • 京都芸術大学教授

などの活動も幅広くしています。

鹿をモチーフとした代表作

名和晃平さんは彫刻の定義を柔軟に解釈したさまざまな作品を制作されています。

例えば、鹿が大小さまざまなビーズに包まれた作品のイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。

《PixCell-Reedbuck (Aurora)》
名和晃平、2020、mixed media

このビーズで表面を覆った作品は2002年に発表した「PixCell(Pixel(画素)とCell(細胞) を合わせた造語)」と呼ばれるシリーズです。

ネットでいろんなモノを見て知ることができる一方で、リアルで”そのもの”と触れる機会までは作れない情報化社会を象徴した彫刻作品で、作品もモチーフの表面をビーズで覆うことで「モチーフをビーズを通してしか見れなくなり、直接触れることもできない」ようになっています。

また、鹿の肌が波打っているような作品も、名和晃平さんが制作した《White Deer》という作品です。

《White Deer》
名和晃平、2016、アルミ鋳造、H6,000×W4,042×D4,442㎜

人里に時々現れる鹿「迷い鹿」とインターネット検索で現れた鹿の剥製を重ね合わせ、3Dスキャンして得たデータを元に制作した作品です。

作品は東京ガーデンテラス紀尾井町や、宮城県石巻市牡鹿半島のホワイトシェルビーチ(2027年までの期間限定展示予定、現在は恒久展示に向けNFT販売プロジェクトなどの取り組みをしています)で実際にみることができます。

最近では、銀座シックスでもパブリックアートを鑑賞することができます(2022年10月に終了)。

今回の個展では「PixCell」や「White Deer」とはまた違った、素材のもつ物性に着目した作品を展示していて、名和晃平さんの世界観をさらに味わうことができました。

展覧会「TORNSCAPE」の作品を鑑賞

Tornscape:映像と音から入り込む無常な空間

《Tornscape》
名和晃平、2021、Installation、Dimensions vaiable

ギャラリーに入ると、《Tornscape》の映像インスタレーションと大気の流れるような音が出迎えてくれます。

映像は常に変化し、色も白から茶、赤と変化していきます。

この映像は気象や物理データをもとに無数の粒子の運動を映像化しているそうで、まるで川を流れる水のように同じパターンを繰り返すことがないそうです。

作品は日本の三大随筆の一つ、「方丈記(1212年、鴨長明 著)」を参照して制作されています。ということで、方丈記の冒頭文を読み返してみましょう、作品の見え方も変わってくるかもしれません。

方丈記 冒頭文(原文)
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみにうかぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と棲(すみか)と、又かくの如し。
(訳)
流れる川の流れは絶え間ないが、しかし、その水はもとの水ではない。
よどみの水面に浮かぶ泡は消えては生じ、そのままの姿で長くとどまっているというためしはない。
世の中の人と住まいも、これと同じなのだ。

四季の美より引用

方丈記は約800年前の政権交代や災害など動乱の時代に描かれた随筆で、日本人の無常観を表した作品といわれています。無常観とは、「世の全てのものは常に移り変わり、いつまでも同じものは無い」という思想のことで、そういった制作背景を知ると、2019年から続く不確実な状況と重ねて観てしまいます。

粒子が相互に関わり合うから安定するように、ヒトの営みも隣人から動植物、自然現象と幅広い関わり合いで成り立っていて、不確定要素ばかりの環境で「常が無く」生きていることを再確認できました。

Black Field:地層ができる過程をみているような作品

Black Field#6

《Black Field#6》
名和晃平、2021、Oil on wooden panel、83.4 × 108.1 × 8.5cm

濡れた黒い土壌を思わせる《Black Field》シリーズ(2020年〜)は、油絵具と油を混合した素材でつくられた作品です。

表面は細い枝のようなものが幾重も重なっているようになっていて、その間に液状のテカリが見えます。(緑色に映るのは照明の反射で、実際の作品は全体が黒色です。)

この表面は時間経過とともにひび割れ、その裂け目から乾ききっていない液体が吹き出して、その自然現象の痕跡も残るのだそうです。

Black Field#7

《Black Field#7》
名和晃平、2021、Oil on wooden panel、96.7 × 140.7 × 8.5cm

素材で作品を制作するというよりは、素材それ自体の性質を作品化しているようです。

その動きは噴火と地層の関係の縮図を見ているようで、科学実験のようでもありました。

Dune:自然の成り行きを可視化したような作品

Dune#47

《Dune#47》
名和晃平、2021、Paint on canvas、235 × 195 × 6cm

《Dune》とは直訳すると砂丘、砂の小山という意味で、地学では「砂堆(さたい):波浪や沿岸流によって運ばれた砂礫(されき)が堆積してできた地形」という意味も持ちます。

雪山を上空から撮影したようで、標高の高く見える白い部分の一部がひび割れて下地が見えるようになっていました。

Dune#54

《Dune#54》
名和晃平、2021、Paint on canvas、218 × 154 × 6cm

油絵具と粒度の違う絵具や水などを混合して、キャンバスを傾けて広げて描いているそうです。

そう考えると、作家の意志が働いているのは素材選びと描くときの傾け方くらいで、キャンバス上では素材の持つ粘度と傾けた重力で描いていることになります。

そういう意味では自然の成り行きを可視化した作品であり、また色彩の広がり方が幻想的でこの広がり方も計算の上で描いているのだろうかと考えてしまう作品でした。

「SCAI THE BATHHOUSE」ギャラリーにも注目

今回の展示会場「SCAI THE BATHHOUSE」は、名前の通り銭湯を改装したギャラリーです

天明7年(1787)に創業し、約200年の歴史を歩み閉業となった由緒ある銭湯「柏湯」を改装し、外観は銭湯そのもの、内観は現代アートを展示する空間になっています。

「なぜ銭湯がギャラリーに?」と思ってしまいますが、そこには柏湯七代目・松田檀雄さんの「コミュニケーションの場であった銭湯の意味を引き継ぐ文化的な空間にしていきたい」という想いから紡がれています。

入口は昭和26年(1951)に建て替えられたものをそのまま残していて、暖簾をくぐると松竹錠のついた下駄箱が並ぶレトロな玄関があり、もの懐かしさを感じます。

ここからギャラリー内に入った時のギャップに驚かされます。

まとめ:自然の映りゆく景色を鑑賞する空間

名和晃平さん展覧会「Tornscape」を鑑賞してきました。

ものごとの常に移り変わる様を表現した作品や、素材の特性を作品化したもの、自然の成り行きの要素も強い作品が展開されていました。

また、その予測不可能そうな要素を理論的にまとめ上げているようにも感じる魅力を堪能できる展覧会でした。

展示会情報

展覧会名TORNSCAPE
会場SCAI THE BATHHOUSE
東京都台東区谷中6丁目1−23 柏湯跡
会期2021年11月2日(火)~12月18日(土)
※日・月・祝日休廊
※事前予約制。予約はこちらから
開廊時間12:00~18:00
サイトhttps://www.scaithebathhouse.com/ja/exhibitions/2021/11/kohei_nawa_tornscape/
観覧料無料
作家情報名和晃平さん|Instagram:@nawa_kohei

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東京の展覧会をめぐりながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタートし、コレクション数は15点ほど(2022年11月時点)
好きな動物はうずら。
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