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山田康平個展「Strikethrough」|ストロークが重なる色面への没入を誘うアートをご紹介

よしてる
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鮮やかな色がぶつかり合ってできる、具象と抽象の間をいくような色面が多く登場する絵画を描く、山田康平さんの作品。

抽象度の高い作品は「何が描かれているのかわからない」と感じる方もいると思いますが、山田康平さんのストロークが生む色彩空間を観たら、抽象度があるからこそ生まれる良さを体感できるかもしれません。

線・ストロークが誘う没入感や色面に潜む筆致のやりとり、派手な色が生む引力と斥力に注目していくと、抽象的な表現の展示空間に浸る楽しさを味わえるはず。

累計120の展覧会レポートをまとめた経験と、2021年からアートコレクションをしている視点をもとに、東京・六本木のタカ・イシイギャラリーにて開催の個展「Strikethrough」アート鑑賞レポートをしながら、山田康平さんとそのアート作品についてご紹介します。

山田康平とは?

山田康平(やまだ こうへい)さんは1997年生まれ、大阪府出身の作家です。

2020年に武蔵野美術大学 油絵学科 油絵専攻、2022年に京都芸術大学修士課程 美術工芸領域 油画専攻を修了されています。

主な展覧会に

  • 個展「それを隠すように」(2022、biscuit gallery、東京)
  • 個展「線の入り方」(2022、MtK Contemporary Art、京都)
  • グループ展「nine colors XVI」(2022、西武渋谷店、東京)

などがあります。

今回の展覧会は山田康平さんにとってタカ・イシイギャラリーでの初個展となりました。

色で「覆う・隠す」ように描かれた絵画作品

山田康平さんの作品には、鮮やかな色がぶつかり合ってできる、具象と抽象の間をいくような色面が多く登場します。

この色彩はキャンバスにオイルを撒き、染み込ませた状態で色を重ねながら描ことで生まれるそうです。

こうした制作について山田康平さんは、

絵を「描く」という言い方に少し違和感があります。実際、それに間違いはないのですが、私は「覆う」であったり「隠す」という言い方の方が、自分の絵を観ていると納得することが多いです。

タカ・イシイギャラリー|EXHIBITIONSより引用

と説明しています。

以前は山や風景といった「イメージに向かって描く」制作もしていますが、今回の展覧会では特定の何かを描いているという意識はないそうで、筆や刷毛による「ストロークが生む色彩空間」に注目しています。

こうした制作過程が、展覧会タイトル「Strikethrough」の言葉にも表れています。

「Strikethrough(ストライクスルー)」には

  • 取り消し線
  • 印刷用語で紙の裏までインクの油分がにじみ出る現象

を指す2つの意味があります。

作品の画面が色で覆われ、重ねた色が混ざり合っている状態や、キャンバスに染み込んだオイルの様子を表しているといえます。

山田康平個展「Strikethrough」のアート作品をご紹介

山田康平さんの作品が生み出す「ストロークが生む色彩空間」を楽しみながら、展覧会ステートメントも参考に、今回は抽象度の高いアート作品を「線・ストローク、面、色」の要素に注目して観ていきましょう。

Q
今回参考にした展覧会ステートメントはこちら

…色と面を用いて描かれる、奥行のある抽象的な空間は、自身が目にした記憶の奥底にある風景や、この世界で起こる事象が基になっています。筆を進めることで形や記号として表出するそれらは色面へと変化し、表面しか見えていなかった物の内側に光があたります。描かれた奥行のある空間の中には、山田が見つけ出した物事の意味や本質が存在しています。…

タカ・イシイギャラリー|EXHIBITIONSより引用

「線とストローク」がアート作品への没入感を誘う

まずは、山田康平さんの作品中に見られる、黒い線に注目してみます。

絵画を構成する要素のひとつとして、画面上を区切ったり、抽象度の高い作品の中で輪郭を思わせる存在にも感じます。

左の青色を基調とした作品は刺々しい印象を、右の赤色を基調とした作品は丸みがかった印象を生み出しているように見えます。

また、山田康平さんの大きな刷毛も使い「ストローク」を重ねていく制作方法を大きく捉えると、太い線によって作品の色彩空間を生み出しているとも捉えられます。

太い線によるストロークの重なりが、フラットな画面に見えつつも、その奥にまるで海のような深い印象を生んでいるようです。

鮮やかな色の「面」からアート作品の筆致のやりとりを観る

およそ300号の迫力のある作品には主に赤と青の色が用いられていますが、作品に近づいていくと、筆致のやりとりの多さに圧倒されます。

黄色や緑、ピンクといった色が混ざり合いながら赤と青で覆われる画面は飲み込まれそうな深さである一方、筆致同士のぶつかり合いの狭間はとても滑らかで、色の面を組み合わせているような、不思議な感覚になります。

こうした筆致のやりとりに山田康平さんの身体的な動きを見ているようでもあり、丁寧でありながら大胆に画面を覆っていく様子が伺えます。

描かれているモチーフが何かまでは示されていませんが、余白の多さから雄大さを感じたためか、印象としては波風が立つ日の出の景色に見えました。

青い空間が風を受けてうねる波で、黒い線が波の輪郭を映し、2つの大きな波の隙間から黄色い陽光が差し込んでいるようです。

海や太陽のような雄大さを感じさせるストロークが、作品への没入を誘います。

派手な「色」が生み出すアート作品の引力と斥力

展示空間全体を見渡すと、山田康平さんの作品には多くの派手な色が用いられていることに気づきます。

例えば、《Green road》(2023)の左中央にある赤い小さい点は近くにあるように見え、視線を誘う引力がありながら、その周りには緑や黒が色彩世界の聖域のような一種の斥力(せきりょく:しりぞけあうようにはたらく力)を生んでいるようにも見えます。

引き寄せる色と一定の距離をはかる色が心地よいバランスで共存し、巨大な色面に圧倒されるのと同時に、緑と黒による暗いトーンの後退色に吸い寄せられそうになる色彩に対して、距離を保とうとする認識から、斥力を感じるのかもしれません。

こちらの作品も、黄色い差し色に惹かれた後、それを覆うように刷毛で描かれた茶色へ視線が流れていきます。

青や緑、紫、赤といった色が茶色によって覆い隠されているようで、刷毛で引かれた色面が大きければ大きいほど抽象度が上がる分、裏側にいる存在を意識させます

また、こうした色の重なりから、キャンバス自体の裏側にどんな物語が染み込んでいるのかも観てみたくなる作品でした。

「紙」のアート作品にも注目

メインであるキャンバス作品の他に、「紙の作品」も展示していました。

油彩用のアルシュ紙というものに描いているそうで、キャンバスとは違った色面の広がり方、刷毛の流れを楽しめます。

展示作品の中ではサイズは小さいものの、同じ展示空間でキャンバス作品と同様に存在感を放っていました。

まとめ:目だから入れる奥行きのある色彩空間

線、面、色を通じて山田康平さんの作品を鑑賞して感じたのは、目だから入れる奥行きのある色面の空間です。

「派手な色が生み出すアート作品の引力と斥力」という表現をしましたが、色やストロークなどで構成される画面上は「目では入れるが歩いては入れない空間」であり、そういう意味で完全に踏み込めない聖域が生まれ、程よい距離感が生まれるのかなと感じました。

丁寧な描き込みの中で、火花が散るようなせめぎ合いが起き、色の世界の弱肉強食を見ているような、印象深い作品でした。

また、抽象度の高い作品だからこそ、無意識のうちに不十分な情報を頭の中で再構成して認識しようとする面白さもありました。

山田康平さんの生む作品の中には筆致による物語がたくさん潜んでいて、それを遠近両方から味わうとより面白いので、直にアート作品を鑑賞して、抽象度の高い作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

展覧会名Strikethrough
会期2023年7月1日(土) 〜 7月29日(土)
開廊時間12:00 – 19:00
定休日日月祝
サイトhttps://www.takaishiigallery.com/jp/archives/29958/
観覧料無料
作家情報山田康平さん|Instagram:@kumakuma0523
会場タカ・イシイギャラリー(Instagram:@takaishiigallery
東京都港区六本木6-5-24 complex665 3F

関連リンク

  • タカ・イシイギャラリーでの他展示の模様はこちら
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よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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