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森靖「Twister」アート鑑賞レポート|木材の持つ魅力を宿した彫刻作品の情報量とスケール感

よしてる
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圧巻のスケール感の木彫作品が特徴的な、森靖さんの作品。

今回はそのスケール感を存分に味わえる、東京・馬喰町のPARCELにて開催の森靖さん個展「Twister」をレポートします。

木材そのものが持つ魅力をそのまま宿した彫刻作品には、森靖さんの魂がこもった流線美が刻まれていて、いろんな角度から観るほどに美しさを体感できます。

そんな個展の模様を、累計120の展覧会レポートをまとめた経験と、2021年からアートコレクションをしている視点からまとめていきます。

森靖とは?

森靖(もり おさむ)さんは1983年生まれ、愛知県出身の作家です。

2009年に東京藝術大学 美術研究科 彫刻専攻を修了されています。

主な展覧会に

などがあります。

木材と完成形を決めていく圧巻の彫刻作品

森靖さんは通俗的なシンボルや神話から着想を得た、躍動感に満ちた彫刻作品を制作されています。

作品はとにかく圧巻のスケール感が印象的で、表面を観察すると木肌の艶かしさに緩急のある彫りが見られ、そんな制作の痕跡から細部までこだわり木と戦っている様子が感じられます。

モチーフはアメリカのポップアイコンから中世古典彫刻まで、その要素を縦横無尽に行き来しながら「美」などの根源的な要素や、記号論的な思い込みや意識に対して問いを投げかけています。

生乾きの木材に鑿(のみ)や彫刻刀を入れていき、時間経過とともに現れる彫りに沿ったクラック(ひび割れ)や剃りもそのままにしていることも。

近年は粘土を用いた塑像作品も制作されています。

森靖「Twister」展示作品の魅力

森靖さんの個展「Twister」展示作品を通じて、私が感じた魅力は、

  • とにかく圧倒的な重厚感とスケール感
  • 即興的に完成系へ近づける中で生まれる、緩急のある彫りの表面美
  • アートを通じて掻き立てられる探究心

です。

こうした見どころにも注目しながら、展示作品をご紹介します。

圧倒的な重厚感とスケール感

今回のメインとなる2体の大型彫刻作品の高さは、なんと272cmに迫る高さ

この272cmは人類の医学的な記録上現存する最長の高さとリンクしていて、それをヒトの最高齢記録である120年に近い樹齢の木で掘り出しているそう。

ヒトとして存在する最大スケールはとにかく圧巻で、そこに森靖さん独自の視点で美しさが反映されています。

こちらの作品はルーヴル美術館(フランス)に収蔵されている《ミロのヴィーナス》をモチーフに造形されているそうで、そこにマリリン・モンローさんが嵌め込まれています。

  • 《ミロのヴィーナス》は、古典彫刻の中でも特に有名な彫刻作品
  • マリリン・モンローさんは、女性の性的な魅力(セックスシンボル)の先駆けとして有名な女優

と言われていて、美しさの象徴がいびつな重なり方をし、共存しています。

木が成長し広がるように、人体の美も時代の変遷とともに広がっていく様子が示されているようです。

ちなみにこの作品は、オーストラリアのビクトリア国立美術館に収蔵予定が決まっている作品で、今後日本で観れる機会が少ない貴重な機会にもなりました。

こちらもルーヴル美術館に収蔵されている勝利の女神《サモトラケのニケ》をモチーフにした作品。

《サモトラケのニケ》は《ミロのヴィーナス》と共に、ルーヴル美術館至宝の双璧といわれる彫刻作品です。

そんなモチーフに森靖さんの緩急のある彫刻が加わり、木材そのものの迫力も残しながら、自信に満ちた笑顔をした立像となっています。

作品と並んでみると、デジタル上の画像では実感できない、リアルで作品を見るからこそ得られる情報量の違いに圧倒されます

ちなみに、同じ空間には極小サイズの自由の女神像も。

わずか数センチのサイズは、作品が意味を持って実在できる最小サイズなのかもしれません。

圧倒的なスケール感の作品と極小スケールの作品、その両方を鑑賞すると実物として具現化することの難しさを感じます。

即興的に完成系へ近づける中で生まれる、緩急のある彫りの美

森靖さん制作プロセスの特徴のひとつとして、即興性が挙げられます。

完成形は想定しつつも、制作を進めながら要素を追加したり、削ぎ落としたりを繰り返しながら最終形となります。

その即興性が良くわかるのが、こちらの作品。

この作品の制作プロセスは、新感覚アート番組「CoA」というアート系番組で紹介されていました(TVerで無料視聴できます)。

パイ投げをされた人物が彫られていて、足元には頭蓋骨があります。

この作品の制作過程をCoAでみるとよく分かりますが、

  • 木材の形から骸骨を連想
  • 骸骨は死や恐怖というモチーフの意味性が強いので、他に恐怖の形態を考えた時にパイ投げされた様子を連想
  • パイ投げから生まれる身体の流体はオギュースト・ロダンさん(1840 – 1917、フランス)の《バルサック》のように、顔以外が単純化されたイメージに
  • 立像の立ち姿が強過ぎたので10cmほどの板を噛ませ、少し浮いた軽やかさを追加
  • 彫刻の首を切り落とし頭の目線を傾ける

といった流れで変貌を遂げていきます。

もし、骸骨がメインになっていたら恐怖が強められる彫刻になっていたかもしれないし、立像の足元10cmの浮かしがなかったら圧力を感じる作品になっていたかもしれません。

そして、ノミと彫刻刀により生まれる表面の流体が軽やかさを強めています。

即興性により生まれたこうした要素が重なったことで恐怖だけでなく、軽やかなおかしみも調和していました。

他にも、奇形樹を用いた彫刻作品も展示していました。

耳のような形をした奇形樹にマウスを彫り、バカンティマウス(背中にヒトの耳が生えているかのように見えるマウス)のようにしています。

こちらの作品も木材の形からプランを練り上げながら制作をしているそうです。

奇形樹の形を残した部分が多いので、材そのものが宿す力も感じ取れるようになっています。

こちらも奇形樹を用いた作品で、大小異なる大きさの頭蓋骨が掘り出されています。

大きさは異なるものの、ひとつの命として互いに拮抗しているのが印象的です。

アートを通じて掻き立てられる探究心

ここまで観てきた作品はもちろん、森靖さんの作品を観ているとモチーフや美についての探究心を一層掻き立てられます

会場入口に展示していた自由の女神像の作品も、そのひとつです。

作品を鑑賞していると、こんなことに気づけます。

  • 左手の松明部分にわざわざ穴を開けている!
    →近くに照明があることから、松明が周囲を照らすようなイメージに見える
  • 松明を掲げる腕が逆
    →モチーフとなっている自由の女神像が持つ右手の松明は自由の象徴
  • モロそうな粘土
    →見た目はモロそうでも、その形は数百年と残り続ける素材

作品から受け取れる情報から探究を進めると、

  • 見た目の不完全さは「材そのものの力とモチーフの力」の両方を尊重し残しているように感じたり
  • モチーフの持つ本来の意味とは違い、狭く不自由な場所にありつつも、木材や粘土といった長年形を維持し続ける素材で制作されることで、その場所を長く、しっかりと照らす道標として周囲を支える意味を持つ

と、考えを巡らせるのも面白いですね。

続く奇形樹の作品も探究していくと新たな気づきを得られます。

作品を観ていると、奇形樹の形からモチーフが浮かび上がっているという言葉がしっくりくる感覚に。

こうした材そのものと作家の意図が共存する作品を観ていると、中庸な立場で物事を捉える必要性について考えさせられます。

モチーフとなっている中指を立てるハンドサインは、一般的にしてはいけないものという認知だと思いますが、そこにはアメリカ映画やドラマの影響があるのだろうなと感じます。

抽象度を上げて、人類として見たときにハンドサインを考えると、もっと違う捉え方、自然な感覚で理解していけるのかもしれません。

探究:作品と対峙し得られる情報量の濃さ

今回の森靖さんの個展「Twister」を鑑賞して感じたのは、作品と対峙し得られる情報量の濃さです。

特に、樹齢120年近くの木材を大胆に用いたり、奇形樹を用いたりする様子からは、材が紡いできた生命の形を彫刻として、次世代に繋げているようです。

そして、材に刻まれた森靖さんの手仕事が新たな意味を加えて、美しく、時に泥臭さも含めた魅力を宿していました。

こうした情報量は作品と対峙するからこそ得られるんだよなと。

自分で撮影した写真を振り返っても、120年分のスケール感であったり、彫り跡の耳や流線美、油分を含んだ香りまでは捉えきれていません。

目で観るだけではない、五感をもって体感し得る情報の密度が詰まった個展鑑賞となりました。

まとめ

森靖さんの個展「Twister」を通じて、彫刻の魅力を再認識できました。

人の手で彫る木彫作品は体力も、時間も多大に使います。

2m超えの作品展示もそう簡単ではないはずですし、場所も限られます。

今この時だから観れる作品をぜひ現地で体感してみてください。

展覧会情報

展覧会名Twister
会期2023年5月27日(土) 〜 7月11日(火)
開廊時間14:00 – 19:00
定休日月火祝
サイトhttps://parceltokyo.jp/exhibition/twister/
観覧料無料
作家情報森靖さん|Instagram:@osamu_mori_
会場PARCEL(Instagram:@parceltokyo
東京都中央区日本橋馬喰町2丁目2−1

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よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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