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仲衿香「Not Found」|意味を保存した現代の風景画

よしてる
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今回は原宿にあるSH GALLERYにて開催した仲衿香さんの個展「Not Found」の模様をご紹介します。

この記事を読むとこんなことが分かります。

  • 仲衿香さんとその作品について知れる
  • 個展「Not Found」で展示された新作を鑑賞できる
  • 「現代の風景画」という解釈で楽しめる

仲衿香さんの作品はシンワアートミュージアムにて開催したグループ展「3人10」以来の鑑賞となりました。作品の持つ意味も考察しながら、個展の模様をご紹介していきます。

仲衿香とは?

仲衿香(なか えりか)さんは長野県出身のアーティストです。

「絵具にしかできない表現を目指して」制作をされています。作品は断片的なロゴや街並みの風景、身近な日常生活の物事をモチーフとしていて、絵具を支持体に厚塗りする表現を用いています。

絵の具を支持体に厚塗りにのせると絵の具が自分の予想を超えた動きをする瞬間があり、支持体と自分の間に”ズレ”が生まれる
思い通りにならないその”ズレ”こそ、人の手でしか作り出せない魅力があると考えて制作している

仲 衿香 erika nakaより引用

キャンバスなどの支持体ではなく絵の具が主役となり、流動的に可変する質感を通して絵画の可能性を探求し続け、伝統的な絵画形式を打ち破っています。

「今目の前にある物事」を保存した作品

Group Exhibition展示作品
2021年6月4日~2021年6月20日、SH GALLERY

作品のモチーフは流行のものや建築物、技術といった今目の前にある物事で、それらを日記のように切り取り、絵画に落とし込んでいます。

例えば、ガラケーからスマホに進化していくように、今目の前にある景色は10年後も同じ状態とは限らず、衰退していずれ無くなってしまう物事も存在します

物事の価値は失ってから気づく場合もあるだろうし、完全に忘れ去られてしまうかもしれません。数十年後、数百年後、「今」を切り取った自分の作品はどういう見え方の変化をしているのか、仲衿香さんの作品は風景を化石のように保存し、未来に残った時にどういう見え方をするのかをためす実験のようです。

個展「Not Found」について

仲衿香さんにとって、今回の個展はSH GALLERYでは2年ぶりとなります。個展では企業のロゴやウェブサイトのソースコードをモチーフに描いた新作14点を発表しています。

個展タイトル「Not Found」は、存在しないウェブページへアクセスしたときに表示される「404 not found(404エラー)」から引用しているようにみえます。

新作のモチーフも時間の経過とともに、本来の意味として人に認知されなくなってしまうかもしれません。そんな、はかない未来予測をタイトルに込めているように感じます。

個展「Not Found」の作品を鑑賞

それでは、展示作品を観ていきましょう!

404 Not Found

《Not Found #4》
仲衿香

展覧会タイトルにもなっている作品です。404とは、存在しないウェブページへアクセスしたときに表示される「404 not found(404エラー)」のことです。404に沿って描かれた波紋の下には、多彩な色が潜んでいます。

この多彩な色は、まるで何かを発信していた頃のウェブページの情報量を表しているようです。しかし、いまとなっては彩りはあっても何の情報なのかは分かりません。そもそも、掘り返しもしなければ、一番表層の白色のように白紙のページだけが表示されてしまいます。

これから観ていくロゴの作品なども、情報自体が削除されてしまえば継承することもできなくなります。そんな情報の風化について、考えさせられる作品でした。

ちなみに、これは砂浜に描いたものから作品化しているようです。

ソースコードシリーズ

一見すると英文の羅列のような作品、IT系に詳しいひとであれば、これがソースコードであるとすぐにわかるのではないでしょうか。

この作品は、Google検索画面のソースコードをスマホで表示したものを作品化しているそうです。(作品をよく見ると、「google」という文字が潜んでいます。)

今はスマホでも簡単にソースコードを表示できるようになっていて、その文字列を「現代の風景画」として表現されています。

また、作品の配色を見ると下地には光沢のある蛍光色となっていて、この光沢がまるでスマホ画面のガラスのようです。

このソースコードの作品は、アートユニットexonemo(エキソニモ)Googleのトップページを絵画化した 《A Web Page》を「インターネットの風景画」 と表現したその言葉を拝借して作品化しているそうです。

西洋美術の風景画は風景画と認識できますが、World Wide Webが誕生したのは1990年代なので、もし100年前の人が見たら、この絵はどう見えるのでしょう。

アイコン・ロゴシリーズ

某青い鳥のアイコンや、Wi-Fiのアイコンをモチーフとした作品も展示していました。現代では見慣れたアイコンですが、このアイコンがもし江戸時代にあったならWi-Fiマークは扇子に見えているのかもしれません。

今見ているアイコンも、数十年後には風化し「昔はそうだったよね」と言われてしまうのかもしれません。作品がサビついているような表現になっているのも、未来への暗示なのかもしれません

数十年後にこの作品を観たときにどう感じるのか、時間を置いても観たくなる作品でした。

また、企業ロゴをモチーフとした作品も展示していました。

よく見ると、この3つの作品のロゴは現在使われていない、ひとつ前のデザインになっています。

あえてひとつ前のロゴデザインをモチーフにしているところが、今目の前にある景色が移ろいゆく模様を映し出しているようです。世代によって「この企業といえばこのロゴデザイン!」というものが変化していくのが分かります。

印象的なロゴデザインも、時代に合わせて自然淘汰されてしまうんだなと感じます。

動画配信サービスモチーフの大型作品

最後に、今回の展示で最も大きなサイズの作品です。

2021年を生きているものであれば目にしたことがあるであろう、言わずもがなの動画配信サービスロゴが用いられています。このサービスで生計を立てている人もいるくらいのインパクトある存在となっていて、その急成長ぶりをキャンバスサイズでも伝えているのかなと感じました。

また、大型サイズだからこそのサビついたような模様の粒度が繊細に表現されていて、赤、白、黒の3色だけでもここまで存在感を持つことに驚きを感じます。まさに、絵の具が主役となっている作品でした。

制作過程の動画も

展示会場には制作過程も動画で流していました。そのフルバージョンは前半と後半に分けて、YouTubeにも投稿されています。

まとめ:モチーフの持つ意味合いと風景の狭間を描いた作品

仲衿香さんの作品についてご紹介してきました。

今はモチーフの意味合いが強い作品ばかりですが、数十年後、数百年後にはモチーフの持つ意味合いが衰退し、「風景画」として観られる時代がくるかもしれません未来に向けた実験ともいえる作品は、長く保存されるに従って強い意味をなしていくのだと思います。

モチーフの意味合いではなく「現代の風景画」として描いている作者の実証実験に参加する感覚で、鑑賞を楽しむのも面白いかもしれません。

展示会情報

展覧会名Not Found
会場SH GALLERY
東京都渋谷区神宮前3丁目20−9 WAVEビル 3F
会期2021年9月3日(金)~9月18日(土)
※月曜日休廊
開廊時間12:00~19:00
サイトhttps://www.shartproject.com/news/exhibition_not-found-nakaerika_2109/
観覧料無料
作家情報仲衿香 さん|Instagram:@u_n_b

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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