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タミー・キャンベル「Exactly Wrong」|名作をぼかしてみえるもの

こんにちは!よしてる(@uzuraism_)です。

今回は天王洲にある「MAKI Gallery 天王洲 I」にて開催したタミー・キャンベルさんの個展「Exactly Wrong」の模様をご紹介します。

この記事を読むとこんなことが分かります。

・タミー・キャンベルさんとその作品について知れる
・個展タイトル「Exactly Wrong」の意味について知れる
・モチーフとなっている名作についても知れる

今回展示している作品はどれも名作をモチーフとした作品となっています。

誰のどんな作品なのかも知って、梱包材やマスキングテープで名作をぼかす意味について考察していきましょう。

タミー・キャンベルさんとは

タミー・キャンベルさんはカナダ、アルバータ州生まれのアーティストです。

カナダを拠点に活動しており、今回の展覧会はアジアで初めての個展となります。

今回の展覧会は新作や過去の制作作品も展示されており、これまでの活動を振り返る展示となっています。

輸送中のような一時的な状態の名作

キャンベルさんの作品には、例えば以下のような名画を引用した作品が登場します。

  • フランク・ステラのストライプをモチーフとした「ブラック・ペインティング」シリーズ
  • エド・ルシェの「日常的な画像や単語を使用した作品」
  • ヨゼフ・アルバースの「正方形へのオマージュ」シリーズ

今回の展覧会ではアンディ・ウォーホルの代表作「フラワー」、「キャンベルスープの缶」などを再現した新作も展示しています。

抽象表現の名画を引用した作品ですが、ひとつひとつの作品をよく見ると、

気泡緩衝材や段ボールの梱包材
ポリエチレンシートの保護材
絵画の中に残ったマスキングテープ

が残されたままになっています。

実際にはアクリルポリマーを鋳込んで作ったハイパーリアルな偽の梱包材となっていて、包んだり覆ったりすることで、引用した名画をぼかす独自の表現をしています。

名作の再現度からは過去への敬意を感じる一方で、まるで輸送中のような一時的な状態は壁から外される直前のようにも見え、次世代にその空間を譲り渡す瞬間のようにも見えます。

個展タイトル「Exactly Wrong」に込められた意味

本展のタイトルは、アンディ・ウォーホルの言葉に由来しています。

When you do something exactly wrong, you always turn up something.
(何かを的確に間違えると、いつも何かしら発見がある)

キャンベルさんにとってこの言葉は「作品が完成した時」、つまり、「的確に間違っている」瞬間を意味しているそうです。

名作を覆う梱包材や保護剤、マスキングテープは、名作が本来持つ空気感を隠し、見慣れている作品を見知らぬものへと変化させています。

そんな「的確に間違っている」瞬間を体感することで、名作に対しての見え方の変化や、作品が外され輸送された後に、どんな作品がこの壁を飾るのかなど、異なる視点の思考が動き出します。

的確な間違いが、新たな発見へとつながることを、展覧会のタイトルに込めているようです。

個展「Exactly Wrong」の展示作品を鑑賞

展覧会はMAKI Gallery 天王洲 I と表参道の2会場同時開催となっていました。

今回は天王洲 I の作品展示の模様を観ていきます。

ポリエチレンシートで包まれた「キャンベル・スープ」|アンディ・ウォーホル

《Campbell’s Soup Cans Framed with Polyethylene Sheeting and Packing Tape》
2021、acrylic on canvas with wood frame、215.9 × 345.4cm

20世紀後半を代表するアメリカのポップアートアーティスト、アンディ・ウォーホル

《キャンベル・スープ》のような大量生産品やマスメディアによってもたらされる大衆好みのイメージを作品に取り入れた、機械的な作品が有名です。

32枚というキャンバスの数は、当時販売していたキャンベル・スープの種類と対応する数になっていて、作品をよく見ると味の表記が全て異なります。

作品はポリエチレンシートですべて包まれていて、倫理性や美術的価値で論争を起こした作品は、最前線で展示されるものから傷つかないよう保管されるものへ変化した時間の流れを感じます。

気泡緩衝材に包まれた「ダブル エルヴィス プレスリー」|アンディ・ウォーホル

《Double Elvis (Ferus Type) with Bubble Wrap and Packing Tape》
2021、acrylic on canvas、208.3 × 137.5cm

モチーフとなっているのは、当時アメリカで活躍した歌手であり俳優のエルヴィス・プレスリーです。

このイメージは映画『燃える平原児』(1960年)の宣伝用スチールをもととしています。

エルヴィスというイメージが大量に流通し、消費されることが「有名であること」という資本主義社会の一面を提示しているようです。

そんな作品が偽の気泡緩衝材に包まれていて、作品の細部を鑑賞できなくなっています。

作品の再現度が高い一方で、それを詳細に鑑賞できない状態になっていて、あえてぼかされた表現は作品を俯瞰して、どうして美術的価値が高いのかと再考するきっかけを与えているようにも見えます。

気泡緩衝材で包まれた「花」|アンディ・ウォーホル

ハイビスカスの花のシンプルな形、明るく彩度の高いデザインは、ウォーホルが1964年に発表した作品で、1,000点近く制作されたといわれています。

この作品は、既存の素材を意図的に取り込んで自らのアート作品として使用する「アプロプリエーション」と呼ばれる手法で制作されたものです。

作品のもととなったのは雑誌「モダン・フォトグラフィー」1964年6月号に掲載されたハイビスカスの写真をベースとしていて、写真を撮影した編集長パトリシア・コールフィールドから1966年に著作権侵害で訴えられたことでも話題となりました

この作品もある種のアプロプリエーションになると考えられますが、再現度から作品への敬意が感じ取れます。

また、2021年に「花」の作品が緩衝材に覆われた形で展示されることで、既に一定の評価を得ている作品に思考の余白が生んでいるようにも感じます。

額装された「ブリロ・ボックス」|アンディ・ウォーホル

《Brillo Soap Pads Box Flattened》
2021、acrylic paint with painted wood frame and plexiglass、139.7 × 177.8cm

引用元は「リブロ」というアメリカの食器洗いパッドで、ウォーホルは1960年代に木の板を用いて立体的に制作しています

当時のアメリカ人であれば誰もが知っている、スーパーマーケットに並ぶだけで価値を見出せないものです。

ウォーホルは作品から伝統的価値をなくして、大量生産のような機械的な手法で作品制作をし、当時の肥大化した美術市場に金銭以外の価値はないと訴えていました。

その「ブリロ・ボックス」を妙に薄い偽のダンボールで再現し、額装した状態で展示していました。

組み立てる前の状態で丁寧に額装された作品は、まるで標本のようです。

気泡緩衝材で包まれた「ストライプをモチーフとした作品」|フランク・ステラ

《Imagined study #2 for Frank Stella’s Sinjerli Variations c.1968 with Bubble Wrap and Packing Tape》
2021、acrylic on canvas、116.8 × 116.8cm

1958年に黒色の画面をストライプの反復で覆った作品「ブラック・ペインティング」シリーズを機に、大きな評判をよんだフランク・ステラ

ステラはシンプルなストライプの作品は装飾の可能性を展開していて、3Dプリンターを用いた作品制作もしていたそうです。

展示していた「分度器」シリーズに見られる装飾作品も、気泡緩衝材に包まれています。

ステラの作品には装飾が大切な要素として描かれていて、その背景には20世紀に誕生した抽象という表現形式をより豊かにしたいという想いが込められています

その想いを一旦覆い隠して作品を観る状況をつくっているようだなとも感じます。

マスキングテープが貼られた「日常的な画像や単語を使用した作品」|エド・ルシェ

《”JAPAN IS AMERICA” with Masking Tape》
2021、oil on canvas with wood frame、165.1 × 165.1cm
エド・ルシェ抽象表現主義は自説を表現できないからと、抽象主義と活版印刷を合体させた、日常的なものや風景を描いています

これまでの作品にあった梱包材はなく、その代わりにマスキングテープが貼られています。

制作時に貼っていたものを剝がし忘れているようになっていて、その不完全さにむしろ目が引かれてしまいます。

下半分もどこか塗りかけのような印象があり、引用したエド・ルシェ本人の作品と比較してみたくなります。

気泡緩衝材で包まれた「正方形へのオマージュ」|ヨゼフ・アルバース

(中央)《Homage to the Square with Bubble Wrap and Packing Tape》
2021、acrylic on board with metal frame、63.5 × 63.5cm
正方形を寸法と色を変えながら配置し、色との面が連続する無限のカラーバリエーションを生み出した作品を残しているヨゼフ・アルバース

そのシンプルな作風の抽象画が有名で、他にも色彩と形態の関係について研究を深め、教鞭をとっていたアーティストでもあります。

同じ正方形の大きさでも、配色によって小さく見えたり、奥行きを感じたりと、トリックアートをみているような感覚にもなります。

考察:梱包された抽象表現主義からポップアートへの変遷

今回の展覧会はキャンベルさんがこれまで制作してきた作品から新作までを含むものになっていました。

キャンベルは本展をきっかけに初めてウォーホルを題材として迎え入れましたが、これは彼女の芸術実践における美術史的な焦点がモダニズムからポップアートへと移った証拠です。
同時に、キャンベルによるʻ再現の手段と意味ʼについてのより深い考察の反映でもあり、ウォーホルや他のアーティストたちがそのテーマに取り組んできた歴史に対して彼女がどう応えているかを提示しています。
タミー・キャンベル Exactly Wrong プレスリリースより引用ー

名作の再現を積み重ねていく様子は、これまでの美術史を過去から順番に歩んでいるようでした。

美術史に残る名作を再現し、アーティスト自身が咀嚼して、何らかの答えが出たものを梱包して、次の歴史に歩みをすすめているのかなと感じました。

また、

  • 抽象表現主義の作品にはその背後に深い精神性を感じさせるものがある
  • ポップアートの作品は「ウォーホルのすべてを知りたければ、表面だけを見ればいい」というように、隠された意味はなにもなく、表面に見えるものが全て

という、美術史的な対比も改めて感じることができました。

まとめ|傷つかない代わりに、ぼやける名作

梱包はつつまれるものを傷つけないようにする一方で、つつまれるものが放つ本来の味を薄めることにもなるのかなと感じました。

名作は長きにわたり保存されることで、歴史的にも価値のあるものになっていきます。

直接観ることが少なくなった名作を梱包材やマスキングテープなどであえてぼかすことで、現代における新解釈も生まれ、次世代の歴史へとつながる何かが発見されるかもしれない、という実験的な印象を受ける個展でした。

展示会情報

展覧会名Exactly Wrong
会場MAKI Gallery 天王洲 I
東京都品川区東品川1丁目33−10 1F
会期2021年9月1日(水)~9月29日(水)
開廊時間火~木、土 11:00 – 18:00/金 12:30 – 20:00
定休日:日曜・月曜
サイトhttps://www.makigallery.com/exhibitions/5298/
観覧料無料
作家情報タミー・キャンベルさん|Instagram:@campbell.tammi
ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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