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マイケル・ケーガン「To The Moon」|月面を歩く偉業と人類の限界への先進性を描いたアート

よしてる

人類史上最も大きな一歩となった偉業のひとつ、月面着陸。1972年にアポロ17号が月面着陸してから、2022年でちょうど50年を迎えます。半世紀を経てもなお色褪せることのない月面着陸をアートを通じて体感してきました。

今回は天王洲にあるMAKI Galleryにて開催したマイケル・ケーガンさんの個展「To The Moon」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • マイケル・ケーガン(Michael Kagan)さんは1980年生まれ、アメリカ・ヴァージニア州出身のアーティストです。
  • 宇宙飛行士やロケット、山頂やサーファーなど、人類の限界を超えた偉業を捉えた作品を太くて力強い幾何学的な筆跡で制作しています。
  • 本展覧会はマイケル・ケーガンさんにとって初となる日本での個展となり、宇宙飛行士やロケットをテーマにした作品を展示しています。
  • 本記事では展示作品のうち9作品をピックアップしてご紹介します。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

マイケル・ケーガンとは?

マイケル・ケーガン(Michael Kagan)さんは1980年生まれ、アメリカ・ヴァージニア州出身のアーティストです。2003年にジョージ・ワシントン大学を卒業後、2005年にNew York Academy of Artにて修士号を取得し、同大学院で特別研究員を務めました。

幼少期は父親の影響で模型ロケットを打ち上げたり、望遠鏡で月を眺めたり、スペースキャンプに参加したりと、宇宙への興味を持つような体験をしていたそうです。また、マイケル・ケーガンさんの故郷であるヴァージニアビーチは軍事拠点が多いことで知られていて、アメリカ海軍のオセアナ海軍航空基地の本拠地もあることから、上空に広がるジェット機の訓練を見るのが日常生活の一部だったそうです。

直近の主な個展に

  • 「There Is No End」 (2022、Bill Brady Gallery 、マイアミ)
  • 「It Lasts Forever」(2022、Almine Rech Gallery 、ロンドン)
  • 「IT GOES FAST」(2021、Kantor Gallery 、ビバリーヒルズ)

などがあります。また、2019年にはマイケル・ケーガンさんにとって初となる美術館での個展「I Was There When It Happened」がヴァージニア現代美術館で開催されました。

人類の限界を超える偉業を描いた作品

《Those Who Came Before Us》
2018、Oil on linen、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、243.8 × 182.9 cm
「L.A.」(2020、MAKI Gallery、東京・天王洲)より

マイケル・ケーガンさんは宇宙飛行士やロケット、山頂やサーファーなど、人類の限界を超えた偉業を捉えた作品を制作しています。背後にある歴史を踏まえ描かれる作品からは、不可能を実現する技術と、人類が追い求める先進性が力強く表現されています。

太くて力強い幾何学的な筆跡も特徴的です。リズミカルな筆跡がジグゾーパズルのように組み上げ制作される油彩画は、近くで観ると抽象的に映り、そこから一歩ずつ下がっていくと筆跡が合体していき、一つのイメージを形成していきます。

今回の個展では、最初と最後の有人月面着陸計画であるアポロ11号と17号のアイコニックな瞬間を表現した平面・立体作品が展示されました。2022年12月に、人類が最後に月面を歩いたアポロ17号から50年が経ちます。今もなお歴史上で特別な位置を占める月面着陸から引用されたモチーフには、トレンドや最新の流行にはない、時代を超越した存在感があります。

展示作品を鑑賞

今回の個展はマイケル・ケーガンさんにとって初となる、日本での展覧会になります。アポロ11号と17号の月面着陸をテーマにした作品を観ていきましょう!

立体作品

Apollo

《Apollo》
2021、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Polyresin, fiberglass, and steel、249.0 × 175.3 × 249.0 mm

アポロ11号の再突入カプセル(コマンドモジュール、司令船コロンビアとも呼ばれます)をマイケル・ケーガンさんが再解釈し制作した彫刻作品です。実際のアポロ11号の再突入カプセルよりは一回り小さく、3Dモデルを見ると各部品の位置などが再現されていることが分かります。

アポロ11号は再突入カプセルの他に、サービスモジュール(主推進系と消耗品が搭載されたパーツ)と月着陸船(月面に降り立つために使用した2人乗りの船)を加えた3つのパーツで構成されていました。宇宙船の中で再突入カプセルは、唯一地球に帰還する部分です。

月面着陸は人類が達成した偉業の一つですが、宇宙船の活躍なしにはこの偉業は語れません。3人の宇宙飛行士と一緒に帰還した再突入カプセルを4人目の帰還者として敬意を持って迎えているようです。

限界への挑戦の裏には、広範な科学的知識を集約した道具の存在があることを意識させる作品です。

Astronaut

《Astronaut》
2021、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Lacquered, mirror-polished, and glass bead-blasted bronze cast、205.0 × 120.0 × 113.0 mm

“月面を最後に歩いた人物”として知られるアポロ17号の船長、ジーン・サーナン(Gene Cernan)さんをモチーフとしたブロンズ像です。月面歩行中のジーン・サーナンさんを写した有名な写真を参照し描かれたペインティングを元に、立体化されています。

作品の表面には絵画作品の表現で見られる太く幾何学的な筆致が再現されていて、宇宙服の重厚な印象をさらに強めています。月面で歩行している瞬間に立ち会っているような感覚になると同時に、目の前に立っている宇宙飛行士が背負う人類の挑戦への重みを感じます。

ヘルメット部分のバイザーが鏡面仕上げとなっているのも印象的です。

バイザーには鑑賞者の姿が映し出されます

バイザーは魚眼レンズのように景色を反射し、鑑賞者の姿が映し出されるようになっています。そうすることで、“月面着陸した瞬間を撮影した宇宙飛行士=鑑賞者”という視点でも作品を観ることができます。ブロンズ像の前に立ち、写真を撮る行動を通じて、鑑賞者も歴史的瞬間の一部となるような楽しみ方ができるのも面白いです。

絵画作品:宇宙飛行士

Aldrin

《Aldrin》
2021、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Oil on linen、61.0 × 61.0 cm

マイケル・ケーガンさんの代表的な太く幾何学的な筆致で描かれた、宇宙飛行士の油彩画です。作品タイトルの《Aldrin》とは、アポロ11号の月着陸船パイロットとして搭乗し、月面歩行を行った史上2番目の人類となったバズ・オルドリン(Buzz Aldrin)さんのことです。

近くで観ると筆致がいくつも重ねられた抽象画に見える一方で、遠目で観ると、筆致が融合していき、一つのはっきりとした宇宙飛行士の絵となって浮かび上がります。

宇宙飛行士のバイザーに注目すると、反射の真ん中には小さな白い人物が描かれていて、それが写真をとっている宇宙飛行士であるニール・アームストロング(Neil Armstrong)さんであることが分かります。また、その右側には黄色い線が描かれていて、それが月着陸船を描いているようにも見えてきます。

月面への第一歩をどちらが踏み出すかについて、バズ・オルドリンさん自身相当な葛藤があったそうです。二人とも偉業を達成していることは間違いないですが、月へ足を着いた一人目を見つめる姿には、いろんな感情が重なり合っているようにも感じます。

Cernan

《Cernan》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Oil on linen、101.6 × 76.2 cm

宇宙飛行士を斜め横から捉えた作品です。作品タイトルの《Aldrin》とは、先ほどのブロンズ像でもモチーフになっていたジーン・サーナンさんのことです。

1950年代半ばにあったソ連とアメリカの宇宙開発競争という歴史的背景もあり、巨費と膨大な研究者を投じたアポロ計画は、1969年のアポロ11号打ち上げから1972年のアポロ17号打ち上げまでの3年間で、合計6回の有人月面着陸を実現しました。その後、宇宙飛行に対する関心や投資意欲は減退し、人類最後となったジーン・サーナンさんの月面着陸から50年が経過しています。

宇宙飛行士は命を危険にさらしてアポロ計画のミッションを完了し、人類に別の世界から見た地球の景色を提供してくれました。宇宙飛行士が引き受けるリスクと、彼らのミッションにより得た広範な科学的知識のおかげで、私たちは自分自身と自分が住んでいる地球についてより多くのことを知ることができました。

時代の流れによって減退するものはあっても、命をかけた偉業というものは時代を超えて驚きと好奇心を植え付け、新しい挑戦や発見を後押ししてくれます。当時の感動を呼び起こし、今を生きる人へインスピレーションを与えているようです。

Astronaut

《Astronaut》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Oil on linen、101.6 × 76.2 cm

白と黒を基調とした、宇宙飛行士を正面から捉えた絵画作品です。宇宙飛行士を保護するためのバイザーは現代の戦士の象徴としても捉えることができ、大胆さと強さを表すものとして写ります。

画面全体を見ていると堂々とした出立ちの宇宙飛行士と対峙する形になり、同じ宇宙空間で時間を共有しているようですが、作品に近づくにつれて宇宙飛行士は太い線の筆致の羅列に変化していきます。

近づけば近づくほど実像を失っていく表現から、ほとんどの人は月面を歩いたりはできないことに気付かされます。偉業というのは並大抵のことでは近づけない境地だから、後世へも影響を与え続けるものとなっていると感じます。

絵画作品:フットポイント

油絵具とエナメルを用いて月面に残した足跡を描いた《Footprint》シリーズ

Footprint I

《Footprint I》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Oil and enamel on linen、61.0 × 61.0 cm

月面に初めて残された足跡という、全世界で6億人以上の人々が目撃した歴史的瞬間を象徴するモチーフがいくつもの模様が重なるように描かれています。この足跡は月面の土の特徴を調べる実験の一環として地面につけられたものです。

この足跡を観ると、ニール・アームストロングさんが月面に降り立った際に放った第一声を思い出します。

That’s one small step for [a] man, one giant leap for mankind.
これは一人の人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。

この足跡は今も月に残されていると言われています。月には大気はなく、風もなく、水もないため、足跡は吹き飛ばされることもなく、流されることもなく、踏みにじられることもありません。何千万年も残る一歩という点でも印象深い作品です。

絵画作品:アポロ11号

アポロ11号の打ち上げを連続的に表現した連作

Apollo 11

《Apollo 11(Rocket I)》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Enamel on paper、76.2 × 50.8 cm

アポロ計画による6度の着陸で月面を歩行した宇宙飛行士計12人にちなんで描かれたという、12枚のロケットの連作です。アポロ11号の打ち上げを連続的に表現していて、次第にオレンジ色の模様が画面いっぱいに広がり、ロケット自体を覆い隠していきます。

《Apollo 11(Rocket VI)》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Enamel on paper、76.2 × 50.8 cm
《Apollo 11(Rocket XII)》
2022、マイケル・ケーガン(Michael Kagan)、Enamel on paper、76.2 × 50.8 cm

地球上にあるものから、“宇宙空間に向かって限界に挑戦する存在=自分達とは次元の違うチャレンジをするもの”との距離感が、ジェット噴射による勢いで表現されているようです。

ロケットは宇宙船を月に届けた後は、地球に帰ることなく消えてしまいます。最初で最後のロケットの最大出力による有志を感じます。

まとめ

マイケル・ケーガンさんの代表的な宇宙飛行士とロケットをテーマにした作品群を観てきました。誰でもできるものではない限界への挑戦は、最後の月面での歩行から半世紀経った今でも心揺さぶるものがあります。

特徴的な筆跡は月面を最後に歩いてから今までの半世紀分の期間を埋めるように組み上げられているように感じ、最終的な作品の完成へと繋げているようでした。そんな工程を思い浮かべると、何度も繰り返し検証して課題をクリアし、最終的な月面着陸へと繋げたアポロ計画のように、着実に一歩を積み重ねる大切さも教わっているようでもありました。

今では民間人が宇宙へ行くことも可能となっています。こうした進歩も、宇宙飛行士はもちろん、宇宙船の作製に費やされた技術、地上から宇宙飛行士を支える仲間とのトライアンドエラーといった土台があってこそ成り立つものだな感じました。

展示会情報

展覧会名To The Moon
会場MAKI Gallery 天王洲IIギャラリースペース(Instagram:@maki_gallery_tokyo
東京都品川区東品川1丁目32−8 TERRADA ART COMPLEX II 1階
会期[終了] 2022年10月29日(土).〜 2022年11月23日(祝・水)
※休館日:月曜日、日曜日
時間11:30 〜 19:00
サイトhttps://www.makigallery.com/exhibitions/7432/
観覧料無料
作家情報マイケル・ケーガン(Michael Kagan)さん|Instagram:@mrkagan

関連書籍

作品集はMAKI Galleryへメールオーダーする形でも入手可能です(日本国内のみ)

関連リンク

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よしてる
東京の展覧会をめぐりながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタートし、コレクション数は15点ほど(2022年11月時点)
好きな動物はうずら。
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