【作品紹介】阪本トクロウ《富士》|ありのままの景色を愉しむ

今回は日本の情景を淡く捉えている、阪本トクロウさんの作品《富士》をご紹介します。
今回ご紹介する作品

2021、阪本トクロウ、アクリル,高知麻紙、333 × 455mm
《Fuji》
2021、Tokuro Sakamoto、Acrylic paint on hemp paper、333 × 455mm
阪本トクロウとは?
阪本トクロウさんは山梨県生まれのアーティストです。
どこにでもありそうで、どこにもない風景をアクリル絵具で描いてます。
時には余白を大きくとり、空や山、道路、送電線、信号機、公園の遊具といった風景を切り取り、人間の不在を強く意識させている作品や、江戸期の浮世絵を連想させる構図も見出す作品を描いています。
奔放不羈に鑑賞してみる
作品名やアーティストさんの情報はまずは忘れて、純粋に作品と向き合ってみます。
作品は大きく青と白で分かれています。青い部分は、下の方に濃いめの青、上の両端に薄めの青が描かれています。
模様の部分にもしかしたら何かトリックアート的な模様があるのかもしれない!と思い観てみましたが、明確に何かが描かれているようではなさそうです。ただ、単に見たときに気づいたのは、
- 上から下にかけて、白いものが流れていっていること
- 下に行くほど青みの割合が増えていること
です。
ここで、見覚えのある景色がふと思い浮かびました。「多分これは富士山だ」と。富士山というキーワードを思い浮かべて、改めて作品を観てみると、不規則に散りばめられた白色が雪に見えてきます。
なぜ拡大した富士山を描いているのか
富士山ということが分かってから、一つの疑問が浮かびます。それは、「どうして、富士山と分かるか分からないかの狭間を切り取っているんだろう」ということです。
山頂までは描かれていないことからも、山であるということにも気づきにくいです。どんな気持ち、意図で描いたんだろうと。皆さんだったらどう考えますか?
私の想像では、雪と山肌の間で起こっている何かをメッセージとして強調しているのかなと思いました。富士山の雪は冬を越してもしばらく残り、真夏の直前まで見れることがあります。いずれは溶けてしまう儚い存在ではありますが、それでも富士山を見る人たちを魅了する存在でもある。
「粘り強くあれば、その頑張り、美しさに気づいてくれる人は増えていくよ」、そう教えてくれているようだな、と感じました。
アーティストさんのことも知って観てみる
阪本トクロウさんは山梨県生まれとのことで、富士山が生活の身近にあったのではないかなと思います。作品は日常で見かけることのある景色ですが、「人間の不在を強く意識させている」作品が多く、今回の個展にも人の描かれている作品はありませんでした。
また、富士山というモチーフを色も形も変えずそのままを描いているように見えるところも気になっていました。カタログを読んでみたところ、”自身の内側から湧き出たものを表現するのではなく、外側の世界を発見して制作する”というスタイルなのだそうです。
これを知ったとき、「茶道のありのままを愉しむ」ことと似ているなと感じました。目の前にあるものの良さを発見する、そんな大切さにも気づかせてくれる作品なんだなと思いました。
まとめ
1つの作品から、いろいろなことを想像してみました。予備知識なしで観る分にも楽しめる部分はありますし、アーティストさんのことを知った上で観ると、更なる発見があります。
ギャラリーで観ることの良さの一つは、作品のことをよく知っている方(運がいいときにはアーティストさんが在廊していることも!)とお話ができることです。話しかけるのにはちょっと勇気がいりますが、作品の中で気になったところを率直に聞いてみるのも良いと思います。
今後も素敵だな、と思った作品を紹介していきます。ギャラリーに足を運ぶきっかけにもなったら嬉しいです。
展示会情報
展覧会名 | gap |
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会場 | Art Front Gallery(Instagram:@art_front) 東京都渋谷区猿楽町29−18 ヒルサイドテラスA棟 |
会期 | 2021年2月5日(金)〜3月7日(日) |
開廊時間 | 水~金 12:00-19:00 / 土日 11:00 – 17:00 ※2月11日(木・祝)は12:00-19:00 |
サイト | https://www.artfrontgallery.com/exhibition/archive/2021_01/4372.html |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 阪本トクロウさん|Instagram:@tokuro_sakamoto |