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MADSAKI「ISLAND LOVE」|自然豊かなハワイのパーソナルな情景を描いたアート

よしてる

日常を取り戻しつつある昨今ですが、旅行や友人とのかけがえのない時間といった、“本当はしたいこと”ができていない人は、まだ多いのではないでしょうか。そんな不自由さを脱ぎ捨てることも大切であることを感じるアートを観てきました。

今回は広尾にあるKaikai Kiki Galleryにて開催した、MADSAKIさんの個展「ISLAND LOVE」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • MADSAKI(マサキ)さんは1974年生まれ、大阪出身のアーティストです。
  • ファインアートの媒体としてスプレーペイントを使用した独自のスタイルの作品を制作しています。
  • 今回の展示作品は、MADSAKIさんが長年夏の休暇の時期に通い続けてきた「Big island(ハワイ島の愛称)」をテーマに、現地で撮影した写真をベースに描いた新作のペインティング作品を展示しています。
  • 本記事では展示作品のうち11作品をピックアップしてご紹介します。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

MADSAKIとは?

MADSAKI(マサキ)さんは1974年生まれ、大阪出身のアーティストです。幼少期にニュージャージーへ渡米し、1996年にニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインでBFAを取得されています。

大学卒業後にアートの道から距離を置き、旅やメッセンジャーなどをして生活していたそうです。そんな中で、2001年にストリートアートの原点ともいわれているバーンストーマーズ(Barnstormer)という国際的なアーティスト集団と出会い、メンバーとしての活動を通じて美大では教わらなかった表現方法と出会ったそうです。そこから再び作品制作に取り組むようになり、2004年から日本に帰国し活動されています。

直近の主な個展に

  • 「HELLO DARKNESS, MY OLD FRIEND (I‘VE COME TO TALK WITH YOU AGAIN)」(2021、ペロタンギャラリー、アメリカ・ニューヨーク)
  • 「1984」(2020、Kaikai Kiki Gallery、東京)
  • 「If I Had a Dream」(2019、ペロタンギャラリー、香港)

などがあります。

村上隆との出会いのきっかけはInstagram

村上隆さんとの出会いのきっかけは、MADSAKIさんが描いた《WANNABIE’S(ワナビーズ)》シリーズの作品をInstagramに投稿したことから始まります。

村上隆さんとの交流のきっかけとなったInstagram投稿は、今も実際に見ることができます。コメントには村上隆さんからの「I love this !」「& I want this too !」というコメントが残っていて、当時の驚きや感動がそのままに残っています。

この作品は村上隆さんが実際に購入し、村上隆さんのコレクション展「村上隆のスーパーフラット・コレクション―蕭白、魯山人からキーファーまで―」(2016、横浜美術館、神奈川)で展示しています。

この出会いをきっかけにHidari ZingaroKaikai Kiki GalleryでのMADSAKIさんの個展が実現し、2017年から村上隆さんが率いるKaikai Kikiに所属し、作品を発表していくようになりました。

日米にまたがる複雑なアイデンティティから生まれる、多彩な作品

2021、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
HEALING × HEALING(2021、Kaikai Kiki Gallery、東京)にて撮影

MADSAKIさんは主に、日本とアメリカにまたがる複雑なアイデンティティから生まれるフラストレーションや疎外感を表現した、グラフィティの影響を受ける大胆なスプレーワークによる作品を制作しています。作品のシリーズも多様で、

  • 文字シリーズ:もう一人の自分と会話してるかのように、挑発的、風刺的な英語フレーズを描いた作品
  • WANNABIE’Sシリーズ:歴史上の名画をサイズや構図など全部同じに描き、表情を簡略した表情で表現した作品。“名画が買えないなら描いてみよう”というコンセプトから始まった作品。
    (WANNABIE’Sとは「なりたがり屋」という意味のスラングのワナビーと、世界的なオークションハウスの名を掛け合わせた造語。)
  • 嫁シリーズ:MADSAKIさんのお嫁さんを描いた私小説的でプライベートな作品。この世で最も好きな対象をモチーフに描いたもので、今ある愛や絆の強さとその先にある無常感や哀愁も感じる作品。

など、ファインアートの媒体としてスプレーペイントを使用した独自のスタイルの作品を制作しています。

また、Kaikai Kikiに所属する前にいくつもの作品を制作していく中で、「自分が楽しんで、ちゃんと自分の中から出たものじゃないと伝わらない」ということに気づくタイミングがあったそうです。今回の展示作品にもこうした、“自分にとっての至福のひととき”が描かれているように感じます。

展示作品を鑑賞

今回の展示作品は、MADSAKIさんが長年夏の休暇の時期に通い続けてきた「Big island(ハワイ島の愛称)」をテーマに、現地で撮影した写真をベースに描いた新作のペインティング作品を展示しています。観光地ではない、地元民に愛される自然豊かなハワイを想起させるダイナミックな作品を観ていきましょう。

靴を脱いで“第2の故郷 ハワイ島”の世界に飛び込むように

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

緑の上に脱ぎ置かれたスニーカーが、会場入口の近くに展示してあります。ほどほどに汚れがあるようで、履き慣れた靴のように見えます。

日本人の場合、靴を脱ぐのは家などの屋内に上がる、別の空間に入る時の行為です。そんなイメージのある靴がギャラリーの入口近くに置かれていると、「あなたが普段履いて生活をしている靴を脱ぎ捨ててハワイ島へ上がってきてください」と誘っているようです。

余談ですが、MADSAKIさんのInstagram投稿には、作品の上にこんな名言が添えられています。

The only way to deal with an unfree world is to become so absolutely free that your very existence is an act of rebellion.
(不自由な世界でやっていくための唯一の方法は、自分の存在そのものが反逆の行為であるといえるほど、絶対的に自由になることです。)

Albert Camus(アルベール・カミュ)

不自由な世の中で履き慣らした靴はある種の枷で、それを脱いで歩むことが自由への一歩と受け取ってみても面白いかもしれません。

MADSAKIとウミガメ

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ハワイでの生活はまず、「朝早く起きて、友人のニックさんと共に車で海に出かけて、人のいないビーチを堪能する」ところから始まるそうです。出かけ先の海は地元住民が愛し、MADSAKIさんにとっても“世界中で一番大好きな海”だそうで、画像を見ると透き通った海でとても気持ちよさそうです。

穏やかで透き通った海の中でウミガメと過ごすMADSAKIさんの姿には、海であらゆるわだかまりを流し、ただ生きていることへの喜びが表れているように見えます。

太陽光による海の輝きや、スプレーの細かいしぶきが海のツヤ感を強めているようで、現地の海の美しさを感じます。

友人とハワイ島の海

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

MADSAKIさんと20年以上前から交流がある友人で、ハワイ島に30年以上住み続けている日本人のニックさんが描かれています。友人の姿やこの後に登場する家の模様も描かれていくところに、かなりパーソナルな景色を選び絵画にしているのが分かります。

観光地ではないハワイ島の本当に味わうべき魅力が詰まった場所で、長年の友人と2人で過ごす心地よさは計り知れないものがあるように感じます。自分の心が満たされる場所や人の必要性が、この一枚に凝縮されているように感じる作品です。

車での移動

移動の車中

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ライムグリーンとホワイトのフォルクスワーゲンバンの車中のワンシーンを描いた作品。クラシックな車内には味があり、ボンネットの上にはその人を特徴づけているものが置かれているように感じます。奥にある本は「PLASTIC OCEAN」と書かれています。

車での移動は東京でもよくある光景だと思いますが、場所と人が違うことで得られる“日本では感じられない感覚”が、このワンシーンもかけがえのないものにしているのかもしれません。

ガソリンスタンド

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ガソリンスタンドで給油中のワンシーンを描いた作品も、精神的に満たされる瞬間が描かれていているように感じます。ただ給油をするだけなのに、友人のはしゃいでいる笑顔が画面上を明るく照らしているようです。

人工物であるガソリンスタンドの機械や屋根を観てみると、直線ではなくフリーハンドでによる“揺れ”があります。この線の揺れが画面上の柔らかく心ほぐれている状態を強調しているように映ります。

ハワイ島ヒロの家

車庫の前で

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

運転してきたフォルクスワーゲンバンの前での記念写真に見える一枚。目はMADSAKIさんの作品に見られる、簡略化された表情で描かれています。

今回の作品は2021年8月にMADSAKIさんがひとりで訪れたハワイ島で撮影したスナップショットをもとに制作された作品群が展示されています。MADSAKIさんのInstagramを見ると、引用したであろう写真がいくつか投稿されています。それを見ると分かりますが、実際の写真とは色味が異なるものもあります。

それは、スマホで撮影したスナップショットの色ではなく、MADSAKIさん自身が見て脳内に記憶している色で描いているからなのだそうです。スマホは明るさや色彩を自動調整する機能がついているものが多いので、誰でも綺麗に撮影できますが、それは自分の目で見た“ありのままの景色”とは若干異なります。記憶の中にある、そして、生で見てきたハワイ島の色をそのまま描く工程を入れているからこそ、温かさを感じるのかもしれません。

家からの景色

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ハワイ島のヒロという地域にある、友人の家からの景色を描いた作品。大きな窓には細い電柱と電線があるくらいで、ほとんどが緑と青空で占められています。柔らかで鮮やかな景色から、現地の空気感も伝わってくるようです。

その手前にはソファーとローテーブルが置かれています。ソファーに座り、空と緑を眺める空間があるというのは、都会にいると探す方が難しいような気もします。まさに、都会では味わえない景色だなと思います。

こうして写真を通じて作品を紹介していますが、スナップショットと同様に、“ありのままの景色の色”は完全に再現できていません。そういった意味で、描かれている本来の景色は実際の作品を観ることでしか味わえないところがあるなと感じます。

食事

料理中の一コマ

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

友人が昼食に豆腐野菜カレーを作っている様子を描いたという作品。これまでのハワイ島の景色が広く映ったものから、より人物に焦点を当てた作品となっています。

MADSAKIさんの作品の特徴的なイメージのひとつに、この簡略化された表情が挙げられるのではと思います。スプレーで描かれた目は涙を流しているかのように、一筋の水滴がしたたり落ちている描写もよく目にします。

笑い泣きするほど満たされたひと時と捉えることもできる一方で、楽しさの中にずっといることがきないもの悲しさからの涙とも捉えることができます。今回の作品は総じて前者の印象が強いですが、割り切れない感情の二面性としても捉えられる表情も奥深いです。

食事の様子

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

食事風景もプライベート感を感じるワンシーンのひとつです。お盆にはご飯と汁物、そして3つのおかずが並んでいるところから、日本らしい一汁三菜を感じます。ハワイ島という環境に住んでいても、日本文化の良さが映っている瞬間を捉えているようです。

庭仕事

乗用芝刈り機

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

“午後は庭仕事で汗を流し、身体中が土と汗にまみれ”になるそうで、その仕事で使っているのであろう、大きな芝刈り機にまたがる友人を描いた作品です。ダイナミックな草刈機も精密に描かれています。

庭仕事といえども楽しそうな様子が描かれ、仕事すらも心の癒しに必要なものであることが伺えます。本来の自由な状態の自分になるための仕事は楽しくなるはずであると訴えているようです。

休憩中

2022、MADSAKI、©2022 MADSAKI/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

こちらはMADSAKIさんの足元にチェンソーが置かれている作品。ズボンの膝あたりが茶色く汚れているところと、脇に飲みかけのジュースが置かれているところから、庭仕事がひと段落して休憩しているように見えます。

ここまで作品を見てきて気づくのが、人物が描かれた作品のほとんどが口を開けて笑っているという点です。ハワイ島での精神的に満足している状況が、この笑顔に現れているような気がします。

コロナ禍もあり、口を開けて笑うことも飛沫感染の観点からはばかられる状況が続いていた昨今。行動の制限も多かった中で、笑うという行為を自然とできることの大切さを感じる作品たちでした。

会場の雰囲気にも注目

会場の中心には陶器や浮きのようなものを器にした観葉植物のアレンジメントが飾られ、ギャラリー内ではMADSAKIさんセレクトのアイランドチューンが流れていました。それらが現地の雰囲気を醸し出していて、展示空間の中で絵画作品を鑑賞するからこそ得られるものがありました。

ギャラリー空間ごと、作品の世界観を楽しめるようになっていました。

まとめ

MADSAKIさんにとっての第2の故郷とも言える、ハワイ島でのよりパーソナルな日々をテーマにした作品を鑑賞してきました。

作品を通じて感じたのは、暮らしとしてのハワイの魅力と、口を開けて自然と笑うことの大切さでした。不自由なことからは靴を脱ぎ捨てるように距離を置き、笑いたい時に笑える環境に行くというのは、精神的に満ち足りた状態を取り戻すために大切なことだなと感じました。

「アートは乱れた者を慰め、安定してる者を乱す」という言葉を聞いたことがあります。不確かで不安定な世の中になっている今、乱れた状態を慰めるアートを鑑賞してみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名ISLAND LOVE
会場Kaikai Kiki Gallery(Instagram:@kaikaikikigallery
東京都港区元麻布2丁目3−30 クレストビル B1F
会期2022年10月28日(金)〜2022年11月26日(土)
※日曜・月曜・祝日
※11月2日(水)〜11月6日(日)のArt Week Tokyo期間中は毎日10:00-19:00までオープン。
開廊時間11:00 〜 19:00
サイトhttps://gallery-kaikaikiki.com/
観覧料無料
作家情報MADSAKIさん|Instagram:@madsaki
ABOUT ME
よしてる
よしてる
東京の展覧会をめぐりながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタートし、コレクション数は15点ほど(2022年11月時点)
好きな動物はうずら。
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