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西祐佳里「INDEX #5」|デジタルコラージュから生まれる奇妙なおとぎ話

デジタルコラージュから生まれる一見奇妙な作風には、ユーモラスなストーリーが描かれています。まるでオズの魔法使いの世界に迷い込んだような世界観に浸れる、西祐佳里さんの個展に行ってきました。

今回は原宿(神宮前)にある「The Mass」にて開催した西祐佳里さんの個展「INDEX #5」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ。

  • 西祐佳里さんは、京都芸術大学(元・京都造形芸術大学)デザイン学科を卒業後、独学で絵画技法を学び作品制作をしているアーティストです。
  • コラージュ技法を用いながら、ノスタルジックでありながら奇妙で幻想的な世界観を、ユーモア溢れる表現で描かれています。
  • 「INDEX #5」は西さんにとって約10年ぶりとなる東京での大型個展。
  • 主観で作品から、オズの魔法使いのキャラクターたちのような「欲しいけど今は違うものを手にしている日常の歪み」を感じました。
    (今回は展示作品のうち10点をピックアップしてご紹介します!)

西祐佳里とは?

西祐佳里(にし ゆかり)さんは1978年生まれ、香川県出身のアーティストです。

京都芸術大学(元・京都造形芸術大学)デザイン学科を卒業後、独学で絵画技法を学び、2004年から国内外のギャラリーやアートフェアで絵画やミクストメディア作品を発表しています。

今回の個展「INDEX #5」は東京では約10年ぶりとなる、西さんにとって初の大型個展となりました。

また、個展終了後にはGallery COMMONへの所属も発表されました。

奇妙なモチーフが登場するユーモラスな絵画作品

西さんはノスタルジックでありながら奇妙で幻想的な世界観を描いた作品を制作されています。

撮りためた写真や雑誌の切り抜きをデジタルコラージュしたものを下絵として、アクリル絵の具を用いてイメージを描き起こしていきます。このコラージュ技法が持つ心理療法的な側面とシュルレアリスティックな表現を組み合わせ、独特の雰囲気を放つ世界観を表現しています。

作品に登場する奇妙なモチーフたちは、80年代のSFやホラー映画に登場するモンスター、原始的なクリーチャー達の印象が源流となっているそうで、絵画の中で展開されている不穏でありながらユーモラスなストーリーは、西さんの原体験が反映されているといえます。

(参考:The Mass 展覧会情報

展示作品を鑑賞

作品展示は3つの部屋に分けられた展示となっていました。絵画、インスタレーション、立体と幅広い作品を鑑賞できる場となっていました。

今回はその中から作品を10点ピックアップしてご紹介します。

Overlay: A

《Overlay: A》
西祐佳里、2021、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、734 x 734 x 40 mm (Framed)

The Mass Room 01に入って最初に目にしたのがこの作品です。

椅子に座り、プレゼントを嬉しそうに抱えているヒト。その喜びは、口を大きく描くことで誇張されているようです。一方で、顔や胴体は透けていて内心は空っぽで、実は満たされていないようにも見えます。
まるで、モノだけでは本当の喜びは得られないと訴えかけているようです

モノでは変えられない喜びは、足元に眠っている犬と過ごす時間なのではと気づかせてくれます。

Overlay: B

《Overlay: B》
西祐佳里、2021、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、734 x 734 x 40 mm (Framed)

《Overlay: A》の隣に並んでいた作品。こちらも椅子の上にヒトがいるという意味で似た構図で描かれた作品のようです。

椅子の上には顔が透けていて誰かまではわかりませんが、仲睦まじいふたりが記念撮影をしているようで、現像した写真のように四角く切り取られています。

また、日常と非日常が背景のフローリングと夜景から見て取れ、長年寄り添い生きる美しさを感じます

この2作品は隣同士で展示されていました。

モノで得る幸せか、時間で得る幸せか、その対局を描いているようでした

Untitled Scene: F

《Untitled Scene: F》
西祐佳里、2021、Acrylic and Inkjet on Canvas、1620 x 1303 x 40 mm

展示作品の中で最も大型の作品。今回の個展では初の大型キャンバス作品を発表したそうで、この作品もそのひとつになります。

親子のワンシーンのようで、貫禄のある鹿の顔をした男性と、洒落た格好をした女性と少女が獣の皮を被っています。西さんの描くシュールな世界観が大きなキャンバス上でも描かれています。

一点違和感を覚えたのは鹿の頭部です。角のシワを見れば明らかですが、剥製ではなく人形のようです。大人の世界に人形という純粋だった幼少期の思い出を重ねて描いているようで、そこに絵画中でのコラージュ技法の試みを感じます。

Similar: A

《Similar: A》
西祐佳里、2021、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、1036 x 734 x 40 mm(Framed)

少女と動物の被り物をした二人が描かれた作品。こちらともうひとつ、似た構図の《Similar: B》という作品と比較されるように並べられています。

主に異なるのは女性の姿とテーブルの上です。今回は少女に焦点を当てて観ていきます。

《Similar: A》で特徴的なのは緑色のスライムを顔にべったりくっつけ、それを手に受けきれず、テーブルの上にもこぼしています。髪の毛もボサボサにしたままです。

Similar: B

《Similar: B》
西祐佳里、2021、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、1036 x 734 x 40 mm(Framed)

もう一方の作品の少女は防護服で顔を覆っているようで、笑顔でこちらを見つめています。髪の毛も三つ編みで綺麗にまとめています。

これらふたつの作品を比較して観た時に感じるのは、コロナ禍により変わった生活様式の姿です

  • 《Similar: A》は感染症流行前の得体のしれないものにも触れ楽しめる生活
  • 《Similar: B》は感染症流行後のウィルス感染対策をして初めて安心できる生活

を表現しているようです。

片方の生活様式から見ると、もう片方の生活は非日常に見えてきます。比較の思考もこの状況に影響を受けていることを体感する展示方法でした。

Records

《Records》
西祐佳里、2021、Acrylic on Canvas、1303 x 1303 x 40 mm

レコードプレーヤーがホットプレートに見えたのか、ホットケーキを焼き始めている純粋な目をしたクマ。その背後には、映えを取り逃すまいとスマホを向けているヒトが立っています。

背景にはレコードが並べられていることから、場所はレコード屋さんに見えます。ここまで過激なものは現実では見ないですが、現実でも欲のために似た香りのする行動をした投稿がSNS上で飛び交っているようにも感じます

なさそうに見えて、実は起きている景色を誇張して表現しているようです。後ろのレコードの顔をしたヒトは、何を思いながら現場を収録しているのでしょう。

インスタレーション作品

The Mass Room 02 では、西さんの作品世界を等身大のスケールで再現した空間インスタレーションと映像作品が展示されていました。

《展示風景》

左から順に《Untitled Small Scene: A》,《Untitled Small Scene: B》,《Untitled Small Scene: C》,《Untitled Small Scene: D》
西祐佳里、2022、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、300 x 300 x 24 mm (Framed)

この壁紙はまさに、Room 01でみた《Untitled Scene: F》の世界観と似ています。作品の中の世界観を等身大で見ると、より非日常感が漂ってきます。

《Untitled》
西祐佳里、2022、Film

白黒テレビは映像がしっかりと流れていて、私が見た時のシーンでは毛むくじゃらのモンスターが手を繋いで歩いていました。こちらもRoom 01にあった作品《Untitled Scene: I》の映像作品版のようです。

《Untitled Scene: I》
西祐佳里、2021、Acrylic on Canvas、1,120 x 1,620 x 37mm

ここまで展示作品を見ていてわかったのは、この映像作品の元となっているのは「Untitled Scene:○○」というタイトルがついている絵画作品で、それぞれの絵画作品を繋げてひとつの映像作品にしているのではということです。

答えはアーティストのみぞ知るですが、こうした発見から作品の世界観を解釈していくのも面白いですね。

Untitled(ブロンズ像)

《Untitled》
西祐佳里、2021、Bronze、245 × 150 x 100 mm

The Mass Room 03にはブロンズの立体作品が展示されていました。

頭が卵のような見た目で、蝶ネクタイをして服を着こなしています。そして、左手にはアンティークのような柱を抱えています。

仮にこのモチーフの正体が卵だとするならば、「柱のように頑丈に支える存在になりたいけど、ちょっとした衝撃ですぐに割れてしまうモンスター」になりそうです。

このモンスターは会場内に複数個展示されていました。

こうして並ぶと、この部屋を勇敢にも守ろうとしている騎士のようです。

Untitled Scene: K

《Untitled Scene: K》
西祐佳里、2021、Acrylic on Fabric Mounted Wood Panel in Artist’s Frame、734 x 1036 x 40 mm(Framed)

ブロンズ像にもなっている卵のような見た目のモチーフが絵画の世界にも登場しています。暗雲立ち込めている世界の中で、このモチーフに光が差しているのは、ストーリーの鍵を握っているからなのでしょうか。

青い服を着た女性が、電話をかけている少女を緑のカップの中に入れているように見えます。一見やさしく接しているようですが、背後のチェーンソーが少女に向けられているところから、何か攻撃的な意志で少女に接しているようにも見えてきます

この世界で少女を救うのはむしろ、光の当たっている奇妙なモチーフたちなのかもしれません。

まとめ|日常の歪みをユーモアと掛け合わせ魅せるおとぎ話のような世界へ

西さんの作品は独特な登場人物が奇妙な行動をとっているように見えて、その中にはユーモアを感じるおとぎ話のようなストーリーが描かれていると感じました。インスタレーション作品や映像作品があったのも、ストーリーへの理解を深めてくれます。

そして、作品中には「本当に欲しいものが、今は手元にない」という描写も感じることができ、この世界観がおとぎ話の「オズの魔法使い」のようだとも感じました

オズの魔法使いには(知恵が欲しい)知恵がないカカシ、(心が欲しい)心を持たないブリキ男、(勇気が欲しい)臆病なライオンといった不思議なキャラクターが登場します。

オズの魔法使いのキャラクターたちのように、作品から「欲しいけど今は違うものを手にしている日常の歪み」を感じ取っていました。一見不条理ではありますが、そこにユーモアが加わっていて明るく捉えられました。

人によって見え方が変わると思うので、気になった方は実際の作品も観てみてください!

展示会情報

展覧会名INDEX #5
会場The Mass
東京都渋谷区神宮前5-11-1

※初見だとRoom01の入口が分かりにくいですが、階段を降りた木彫の自動扉が入口です
会期2022年2月5(土)〜2月27日(日)
※閉館日:月曜日・火曜日
開廊時間12:00~19:00
サイトhttp://themass.jp/gallery1/
観覧料無料
作家情報西祐佳里さん|Instagram:@yukari_ferriswheel
ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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