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岡﨑乾二郎「TOPICA PICTUS Revisited:Forty Red, White, And Blue Shoestrings And A Thousand Telephone」|思考回路を開くアート

よしてる

アート作品を鑑賞していると、時に論文を読んでいるような気持ちになることがあります。その中でも、小さなサイズの作品ながら情報量は学術論文のようだと感じた作品についてまとめていきます。

今回は原宿にあるBLUM&POEにて開催した岡﨑乾二郎さんの個展「TOPICA PICTUS:Revisited Forty Red, White, And Blue Shoestrings And A Thousand Telephone」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 岡﨑乾二郎(おかざき けんじろう)さんは1955年生まれ、東京出身の造形作家です。(武蔵野美術大学および東京大学の客員教授もされています。)
  • 今回の展覧会で展示していた《TOPICA PICTUS》シリーズとは、小さな抽象画と共に、制作中に考えたことをエッセイにまとめタイトルにした作品。絵画、想起、そして場所の相互作用が探求されているそうです。
  • 本記事では展示作品のうち8作品をピックアップし、作品への考察も交えてご紹介します。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

岡﨑乾二郎とは?

岡﨑乾二郎(おかざき けんじろう)さんは1955年生まれ、東京出身の造形作家です。現在は、武蔵野美術大学および東京大学の客員教授もされています。

批評家としても既存の美術のジャンルも階層も超えた幅広い活動を展開しています。2019 年には「抽象の力 近代芸術の解析」で、芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)を受賞しています。

直近の主な展覧会に

  • 「TOPICA PICTUS / Rue de Turenne」(2021、galerie frank elbaz、フランス・パリ)
  • 「TOPICA PICTUS たけばし」(2021、東京国立近代美術館、東京)
  • 「視覚のカイソウ」(2020、豊田市美術館、愛知)
  • 「ART TODAY 2002」(2002、セゾン現代美術館、長野)

などがあります。

また、1982年のパリ・ビエンナーレに招聘されて以来、数多くの国際展にも作品を出品しています。

《TOPICA PICTUS》シリーズとは?

(左)《The Feast of Saint Nicholas / Je hebt het goed gedaan dit jaar. Ik kreeg cadeautjes, waaronder een pop》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.4 × 3 cm(framed)
(右)《The Merry Family / Soo de ouden songen, so pijpen de jongen》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.4 × 3 cm(framed)

今回の展覧会で展示していた《TOPICA PICTUS》シリーズとは、2020年から制作されている作品で、小さな抽象画と共に、制作中に考えたことを短いエッセイにまとめタイトルに反映しています。

作品を通じて、絵画、想起、そして場所の相互作用が探求されているそうです。

展示作品を鑑賞

本くらいの小さなサイズの作品

Close Your Eyes! Look! / βλέμμα 刑天 / No Head, Nipples as Eyes, Belly Button as a Mouth

《Close Your Eyes! Look! / βλέμμα 刑天 / No Head, Nipples as Eyes, Belly Button as a Mouth》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、18.2 × 25.3 × 3 cm(framed)

青やオレンジなどの色が階層的に重なり合っている抽象画。タイトルには英語やギリシャ語が含まれています。書籍ほどのサイズで、実際に鑑賞すると写真で見るよりも小さく感じると思います。

タイトルは直訳すると「目を閉じて! 見て!/ 目 刑天 / 頭なし、乳首が目、へそが口」という意味になります。俳句の上の句、中の句、下の句のような、相互に関連し合う構成にも見えます。

この中で見慣れない刑天(けいてん)とは中国神話に登場する巨人で、闘いの末に力及ばず首を切られてもなお、両乳を目にへそを口に変え、盾と斧を手にしたままに闘志剥き出しの舞を続けたといわれています。頭が知性の中枢ではなくて、身体のパーツも中枢的ではない知性が存在していることを示しているのかもしれません。

The Law of Dislocation / 綱が解けた綱渡り / Some Place in Mexico, Noted for Coke Factory

《The Law of Dislocation / 綱が解けた綱渡り / Some Place in Mexico, Noted for Coke Factory》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、25 × 18.5 × 3.6 cm(framed)

青、黄、緑、黒などのアクリル絵の具が波のようにうねり重なり合っている、色鮮やかな色彩の作品。タイトルは直訳すると「転位の法則 / 綱が解けた綱渡り / コーラ工場で有名なメキシコの某所」となります。

2つの作品を見て分かるように、今回展示している作品はどれも本くらいの小さな作品であることが特徴的です。まるで、目で捉えやすいサイズの中に情報を圧縮しているようです。作品が機能する適切なサイズ感が本くらいの大きさだから、情報過多にならないように、あえてこの大きさにしているのかもしれません。

2つの作品を対にした展示方法

作品の中には、2対ごとに展示されているようなものもありました。

《Hunzahúa / They Made a Raft of Rushes/ Either Side of the Sacred Waterfall》&《Goranchacha / The Birth after Receiving Sunbeams / Son of the Sun》

《Hunzahúa / They Made a Raft of Rushes/ Either Side of the Sacred Waterfall》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.4 × 2.9 cm(framed)
《Goranchacha / The Birth after Receiving Sunbeams / Son of the Sun》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.5 × 2.9 cm(framed)

描かれている作品それぞれには独自の個性がありながら、2つの作品が意味を持って並んでいるように見えます。フレームの形は共通していて、作品リストを観ても、2つの作品を一緒に紹介していることが分かります。

本の見開きページのように見やすい情報量でありながら、絵の具の厚塗りやキャンバスの端まで流れ出ている様子から、描かれている情報の重さを感じます。

自然の荘厳さを感じる緑色の作品と、太陽のようなエネルギーの源を感じるオレンジ色の作品と、受け取る個性の違いが作品にありながらも、両者共に生命力を感じるところに、独立した存在だけど関係し合っている様子が伺えます。

《Morpheus / I have gret wonder, be this lyght, How that I live, for day ne nyght, I may nat slepe wel nigh noght》&《Phantasos / And yit she sit so in myn herte, That, by my trouthe, I nolde noghte, For al this worlde, out of my thoght》

《Morpheus / I have gret wonder, be this lyght, How that I live, for day ne nyght, I may nat slepe wel nigh noght》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.5 × 2.9 cm(framed)
《Phantasos / And yit she sit so in myn herte, That, by my trouthe, I nolde noghte, For al this worlde, out of my thoght》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、16.5 × 19.5 × 3 cm(framed)

縦長と横長で対となっている作品も展示していました。

例えば、キャンバスを縦長に使った作品は肖像画など人を主体とした作品が描かれているイメージ、キャンバスを横長に使った作品は風景画など景色・自然を主体とした作品が描かれるイメージをもって観てみます。

縦長の作品は筆致にばらつきがあり、個々の色が人の持つ自我によって飛び散っているように見えます。

一方、横長の作品は筆致の間隔がある程度規則的に並んでいて、個々の色が動物、植物など人以外の持つ本能的な生の欲求だけで独立して存在しているように見えます。

以上のことから、人が自我で動けば動くほど色が混ざり合い混沌としていき落ち着かない状態になるけれど、自我にこだわり過ぎず、生存というシンプルな衝動で、頭以外で考えるようにするとシンプルに整理できることがあることを示しているようでした。

フレーム部分にあるノッチ

《Χρυσόμαλλο δέρας / まだ牛しか羊は見ていません、金の羊の夢を見ました。》&《Planta Tartarica Barometz / 地面に種えた羊の ヘソ 水をそそぐとメエと鳴く。》

《Χρυσόμαλλο δέρας / まだ牛しか羊は見ていません、金の羊の夢を見ました。》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.5 × 3.3 cm(framed)
《Planta Tartarica Barometz / 地面に種えた羊の ヘソ 水をそそぐとメエと鳴く。》
2022、岡﨑乾二郎、Acrylic on canvas、20.5 × 16.5 × 3.7 cm(framed)

ここまで作品を観て、作品の周りを覆うフレームも特徴的だなと感じます。通常はフレームといえば4方を覆い、作品を保護するためのものというイメージがありますが、岡﨑乾二郎さんの作品にはノッチ(歯抜け)部分があり、額としてどんな意味があるのだろうと考えさせられます。

そこは、“絵画空間の自律性よりも物体としての絵画を重視したシェイプド・キャンバスの歴史にも通じている”そうで、フレーム自体も作品のひとつとして存在しているようです。そう考えると、欠けたような見た目のフレームもまるで窓のように、視線の通り道を作っているようでした。

まとめ

岡﨑乾二郎さんの展覧会を観て、絵画を描くこと、エッセイを書くこと、フレームを作ることのマルチタスクを通じて、まるで3つの重力が干渉し合って予測不可能な作品が制作されているようだなと感じました。

作品自体のサイズはそこまで大きくないのに、情報量は学術論文を読んでいるような感覚になり、その全てを読み取れた訳ではないですが、多くのことを論じているようでした。アート鑑賞を通じて“新たな思考回路を開いていく楽しみ”を知ることができました。

鑑賞後に、岡﨑乾二郎さんによるリハビリテーション、シュールレアリスム、フロイトの理論など、さまざまな観点から新作を紹介した動画も観たところ、精神分析学者のフロイトが考えたエスという概念(人間の精神は「エス」「自我」「超自我」の3つの相互作用の結果であると捉えた考え方のこと)の説明があり、エスから作品の価値観を解釈していくのも面白いなと感じました。

また、岡﨑乾二郎さんは病に倒れ作品制作が困難となる状況から、リハビリにより再び作品制作ができるようになった経験をしています。そんな作家が語っていた、“リハビリとは古い自我を壊して新しい自我を作ること”という言葉が印象的でもありました。そんな話からも、知性だけではコントロールできない部分の働きを探求しているようだなと感じました。

展示会情報

展覧会名TOPICA PICTUS Revisited Forty Red, White, And Blue Shoestrings And A Thousand Telephone
会場BLUM&POE(Instagram:@blumandpoe
東京都渋谷区神宮前1-14-34 5F
会期2022年9月24日(土)~11月6日(日)
開廊時間12:00 〜 18:00
サイトhttps://www.blumandpoe.com/exhibitions/topica_pictus_revisited
観覧料無料
作家情報岡﨑乾二郎さん|Instagram:@kenjirookazaki

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東京の展覧会をめぐりながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタートし、コレクション数は15点ほど(2022年11月時点)
好きな動物はうずら。
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