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杉田万智個展「We can’t all become one」|光と言葉からレイシズムを考えるアートをご紹介

よしてる
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ネオンや街にある光を通じて、社会問題を捉えた作品を制作する、杉田万智さんの作品。

言葉を取り入れた作品が多いのも特徴的でありながら、文字情報だけではない表現の深度から、物事を考えるきっかけを受け取れます。

そんな杉田万智さんの作品の中でも、マイノリティや少数民族といった「人権」にまつわる作品をメインに展示した個展「We can’t all become one」の作品をご紹介します。

レイシズムなど、普段聞き馴染みのないものも考える良いきっかけとなる展示を、累計120の展覧会レポートをまとめた経験と、2021年からアートコレクションをしている視点をもとにまとめます。

杉田万智とは?

杉田万智(すぎた まち)さんは2000年生まれ、埼玉県出身の作家です。

2020年に女子美術短期大学部 美術コースを卒業し、2022年に女子美術短期大学部 研究生(学士)を修了されています。

主な展覧会に

  • 個展「Dignity and Light」(2023、Contemporary Tokyo、東京)
  • グループ展「grid2」(2023、biscuit gallery、東京)
  • 個展「First Light」(2022、ARTDYNE、東京)

などがあります。

アートの特徴:ネオンや街の「光」で社会問題を映し出す作品

杉田万智さんの作品は、人間の創り出すネオンや街にある「光」をモチーフに、社会問題への言説や警鐘を込めた作品を制作しています。

光と看板を組み合わせた作品をモチーフに選ぶ背景には、大学時代に香港で見かけた独特のネオンサインの風景に感銘を受けたことがあるそうです。

社会問題に関連するモチーフや言葉を描き、国籍・身分・性別を問わない人間の姿を表現することで、観る人に考えるきっかけを作り出しています。

杉田万智個展「We can’t all become one」展示作品をご紹介

今回の展示はマイノリティや少数民族といった「人権」にまつわる作品をメインに展示していました。

「我々は一つになることが出来ない」という杉田万智さんの言葉もヒントに、作品をご紹介します。

Q
今回参考にした展覧会ステートメントはこちら

…「We can’t all become one」では「人間」という存在そのものを捉えた「人権」に纏わる作品を中心に発表をします。同化政策による強制移住で文化や歴史を奪われた民族の人々が存在します。現代では肌色や性別、階級などの人種的規準で他者を判別し、マイノリティとしての権利を否定する事柄が見られます。
全ての物事に関わる切り離すことの出来ないこの問題が常時私たちに絡みついています。人権という言葉はどこか無縁で他人事の様に捉われがちですが、国内での差別問題にも大きく関連します。ひとつになることの出来ない私たちは目の前の相手と如何にして向き合えば良いのだろうか。
人間としての尊厳や権利について考える、ひとつの契機となりましたら幸いです。

ARTDYNE|アーティスト・ステートメントより引用

絵画作品①:人種主義としてのレイシズムを考えさせる作品

カラフルなネオンの輝きに「NO RACISM」の言葉が大きく浮かび上がるのを見て、「RACISM(レイシズム)とはなんだ?」と思う人もいると思います。

レイシズムとは、人種差別や人種主義を意味する言葉です。

Q
レイシズムとは?

レイシズム(racism)とは、人種差別や人種主義を意味する言葉です。人種差別を引き起こす力や権力を指すこともあります。

生物学上、遺伝的な意味で人類をサブカテゴリに区分できる人種は存在しないのが定説な中で、レイシズムはありもしない人種をつくりあげ、人間を分断する人種化を行うことがあります。そして、人口にとっての生物学的危険として劣等人種をつくりあげ、社会防衛を掲げてその人種を排除しようとする考えから、人種差別や暴力へと発展することがあります。

参考:レイシズムとは何か

日本にいると人種を意識する場面は少なく感じますが、例えばハンドエイドの色を「肌色」と表現する感覚があるように、日本人でないと伝わらない言葉を無意識に使っていたことを思い出します。

そして、青色の言葉は途中切れて見えないものの、「dignity and rights(尊厳と権利)」が描かれていると推測できます。

Q
世界人権宣言 第一条 条文はこちら

Article 1
All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and conscience and should act towards one another in a spirit of brotherhood.

第一条
すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である。人間は理性と良心とを授けられており互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

このように、言葉が持つ意味に気が取られがちですが、杉田万智さんの作品は言葉だけが一人歩きせずにネオンの光へと意識が向きます

日本の民族モチーフとしての千島アイヌ民族から連想されるオオワシや、「尊厳」を意味するユリの花などが描かれ、青く浮き上がる人間は人種を意識させないシルエットになっている所にも、性別や国籍などを意識させない丁寧な表現が伺えます。

ちなみに、今回の展示には制作時のエスキースも展示されていました。

《NO RACISM》制作時のエスキース

ひとつひとつの要素に対する、杉田万智さんの制作過程から考えを深めていけるのが面白いです。

絵画作品②:ひとつになることが出来ない人間に目を向けた作品

英文は世界人権宣言の文章で、歯抜けで光っているところに掲げる宣言とは逆方向の争いが起きてしまう人間模様が表されているようです。

Q
世界人権宣言 第六条 条文はこちら

Article 6
Everyone has the right to recognition everywhere as a person before the law.

第六条
すべて人はいかなる場所においても法の下において人として認められる権利を有する。

また、左の人物は縄文人、中央は弥生人がモデルとなっているそうです。

DNA解析上、日本人の起源は縄文人と渡来してきた弥生人の混血といわれていて、生物としては自然淘汰を繰り返しながらひとつに近づいている一方で、世界には尊厳を侵害される人もいる現実が対比されているようでした。

絵画作品③:輝く看板のある光の風景が考えるきっかけを生む

日本の街並みに「WE ARE ALL HUMAN」と輝く看板のある光の風景は、日常生活でレイシズムについて考えるきっかけを生み出しているようです。

杉田万智さんの過去作品には「WE ARE THE SAME」という言葉がよく登場しますが、「同化」がレイシズムとしての「人種化」にも繋がることから、光の点滅を減らし不完全さを表現していたそうです。

そこからしっくりと当てはると考えたのが、「WE ARE ALL HUMAN」だったそう。

言葉の放つ意味を慎重に扱い、ブラッシュアップした表現を取り入れていく過程が垣間見える作品でもありました。

絵画作品④:言葉を入れずネオンや街の光で表現した作品も

言葉を取りれた作品が多い中で、イメージにフォーカスを当てた作品も展示していました。

タイトルにある《spirit of brotherhood》は世界人権宣言第一条にある言葉で、「同胞の精神」という意味。

Q
世界人権宣言 第一条 条文はこちら

Article 1
All human beings are born free and equal in dignity and rights. They are endowed with reason and conscience and should act towards one another in a spirit of brotherhood.

第一条
すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である。人間は理性と良心とを授けられており互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

このbrotherhood(ブラザーフット)は兄弟愛の意味を含んでいて、男性主体の時代から現在まで使われてきた歴史に目を向けさせます。

そのことも踏まえると、作品に描かれた線の崩れた人間が今あるべき「同胞の精神」を映し出しているようでした。

言葉を使わない選択にも意味を感じる作品でした。

まとめ:光の表現を通して日常で考えるきっかけを生む

杉田万智さんの作品を観て感じたのは、ネオンの独特な輝きを風景に溶け込ませることで「日常から社会問題を考えるきっかけを生んでいる」ということでした。

レイシズムという言葉もあまり聞き馴染みのない言葉でしたが、今回をきっかけに一歩踏み込んで知るきっかけになりました。

人の心を動かす絵画をきっかけに、日常で触れてこなかった情報を知ってみてはいかがでしょうか。

杉田万智「We can’t all become one」個展情報

展覧会名「We can’t all become one」
会期2023年7月22日(火) 〜 8月6日(日)
開廊時間12:00 – 19:00
定休日月・火・水
サイトhttps://www.art-dyne.com/
観覧料無料
作家情報杉田万智さん|Instagram:@machi3021
会場ARTDYNE(Instagram:@galleryartdyne
東京都中央区日本橋茅場町1-1-6 小浦第一ビル2C

参考書籍

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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