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ホアン・コルネラ 「SEND YOURSELF NOWHERE BUT TOKYO」|ギャロウズ・ユーモア溢れるポップで過激なアート

「これSNSに載せていいの?」と言いたくなる過激な投稿が、アートの世界でも巻き起こっているのをご存知でしょうか。過激な内容でもなぜ「いいね」が数万も集まるのでしょうか。

今回は渋谷区神宮前にある「StandBy」にて開催したホアン・コルネラさんの個展「SEND YOURSELF NOWHERE BUT TOKYO」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)さんは、1981年生まれ、スペイン バルセロナ出身の漫画家・イラストレーターです。
  • 自身のInstagramやTwitterなどのSNS上での作品発表がきっかけで世界中に作品が届き、2022年9月時点でInstagramに336.8 万人ものフォロワーがいるほど人気を集めています。
  • 作品には乾いた笑顔のキャラクターがポップな色使いで描かれている一方で、ストーリーはギャロウズ・ユーモア溢れるダークな笑いを誘うものが多く登場します。
  • 本記事では展覧会の作品の中から点の6作品をピックアップしご紹介します。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

ホアン・コルネラとは?

ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)さんは、1981年生まれ、スペイン バルセロナ出身の漫画家・イラストレーターです。本来の発音は“ジョアン・コルネラさん”となるそうですが、日本ではホアン・コルネラさんで知られています。

美術学科を卒業後、スペインの出版社でイラストレーターとして働き、ニューヨーク・タイムズ紙でも連載を寄稿していたこともあるそうです。一方で、自身のInstagramやTwitterなどのSNS上でも作品の発表を続け、それがきっかけで世界中に作品が届き、今ではアジア、特に香港で人気を集めています。例えば、2014年から投稿を始めているInstagramには、2022年9月時点で336.8 万人ものフォロワーがおり、巨大なメディアとなっています。

主な展覧会に

「Joan Cornella Japan Solo Exhibition」(2017、寺田倉庫、東京)
「MY LIFE IS POINTLESS BY JOAN CORNELLÀ」(2020、サザビーズ香港、香港)
「Send Yourself Nowhere But Shanghai」(2021、HOW Art Museum、上海)

などがあります。

ポップな色使いで描かれたギャロウズ・ユーモア溢れる作品

ホアン・コルネラさんの作品には、特徴的な乾いた笑顔をしたキャラクターがポップな色使いで描かれています。その一方で、物語はギャロウズ・ユーモア溢れたダークな笑いを誘うものが多いのが特徴です。

「ギャロウズ・ユーモア」とは直訳すると“絞首台ユーモア”という意味で、深刻な危険や恐怖する状況下で発せられるユーモアで、深刻な事態をちゃかすような意味合いを持つ言葉です。

センシティブなテーマ(宗教、政治、人種問題、中絶、依存症、ジェンダー問題、SNSとの関係性など)を扱いながらも絵画・漫画だから微笑むことができる絶妙なバランスで、人間の中にある不条理さ、不適切さを示唆しています。

クリエイティブスタジオAllRightsReservedとタッグを組んで開催

今回の展示はAllRightsReserved(ARR)とタッグを組んだプロジェクトでした。

AllRightsReservedとは、2003年に設立された香港を拠点とするクリエイティブスタジオです。これまでにさまざまなアーティストとのコラボレーションによる作品展示を企画していて、一般参加も可能な形で展開されていることから、世界中で注目を集める大きなプロジェクトとなっています。

例えば、KAWSとは2010年から長年のコラボレーターとしてタッグを組んで活動していて、コンパニオンを宇宙の旅へ届けたのも、そのひとつです。

展示作品を鑑賞

※作品はセンシティブな表現も含まれていますので、苦手な方はご注意ください。

インスタレーション作品

vletesivions

《vletesivions》
2022、ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)、Wood and mixed media、H2500 × W1110 × D1050mm

ホアン・コルネラさんにとって初のインタラクティブなインスタレーション作品です。15 台のテレビが山積みとなっていて、一部火山のように火が噴き出しているように表現されています。

アニメーションはそれぞれ異なる地域がコロナによるロックダウンや外出規制に遭遇したときの生活様式を、風刺も交えて描かれています。

テレビの各ディスプレイには異なるアニメーションビデオが表示されていて、実際に流れているアニメーションの一部はYouTubeでも観ることができます。

例えば、理想の顔を手に入れるために医者にスマホで理想の顔を見せたら、顔ごとスマホにされた男性のアニメーション、なんとも極端な結末です。

美容医療の市場規模は年々増加傾向で、利用者も増えています。自然で調和のとれた若返りや見た目の健康状態の意識から受けることの多い美容整形ですが、それは画面上の誰かの顔を貼り付けたようなものであると言っているように感じてしまいます。不適切ながらちょっと受け取れてしまう意見もある、絶妙な内容です。

また、アニメーションが再生されながらも画面の外側のテレビが燃え上りいつテレビが壊れるか分からない状況が、パンデミックの様子を表しているようにも感じ取れる作品でした。

配送用のダンボール

配送用の段ボールにステッカーが貼られた作品

パンデミックの影響で思うように旅行へ行けない中、世界中を自由に行き来する配送ボックスを連想させるダンボールも展示していました。

「HANDLE WITH CARE(取扱注意)」、「DO NOT STEP(踏まない)」など、配送に関連したステッカーから「FREE HUGS」やミドルフィンガーなどのステッカーもあり、どことなく旅の思い出のステッカーを貼っているスーツケースと似た雰囲気も感じます。

また、ダンボールは人が入れるほどの大きさで、本展のメインビジュアル《SEND YOURSELF NOWHERE》に登場するダンボールとの繋がりも連想させます。

本展のメインビジュアルとなっていた《SEND YOURSELF NOWHERE》のキャラクター

「SEND YOURSELF NOWHERE」だけだと“どこにも行かない”という意味になり、自分自身を配送するという手段をとってでも旅行をしたいのに行けない、パンデミックを通じた心情が現れているようです。

一方、「SEND YOURSELF NOWHERE BUT TOKYO」だと“東京に身を置く”という意味になり、特定の地域への旅行が実現した喜びが表現されているようです。それでも、段ボールによる配送で実現した感がありますが。隔離期間や感染などを気にせずに、もちろんダンボールに入ることなく、いつでも旅行を楽しめるような世の中に早くなってほしいですね。

絵画作品

絵画作品は頭上より高い位置に飾られていました。

Idiot

《Idiot》
2022、ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)、Acrylic on Canvas、H1450 × W2000mm

コロナ禍で新たにできた習慣のひとつ、体温測定の様子を皮肉っぽく描いています。

非接触式の検温器の画面には「IDIOT(まぬけ)」の文字が浮かび上がっています。多くの人が陰性証明を求められるようになった日常に対して「みんなそうしているから」という理由で今後も続けていくことへの疑問を投げかけているようで、陰性証明はどこまで必要となっていくのかを、このタイミングに改めて考えるきっかけを提示しているみたいでした。

gelbru

《gelbru》
2022、ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)、Acrylic on Canvas、H2000 × W1450mm

オレンジ色に汚染された雲や、異常気象の影響か車や人が流されている風景をバックにポーズをとるビキニの女性。二酸化炭素の排出や異常気象による環境問題はニュースでも頻繁に目にするようになりましたが、それを度外視してバカンスを楽しんでいる様子は場違いだと感じてしまいます。

「自分の地域は大丈夫」という楽観的な態度が、いざというときに備え不足となり、自身を滅ぼす一番の原因であることを、ポップな色彩で深刻になり過ぎないように語りかけている印象がありました。

polinimuri

《polinimuri》
2022、ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)、Acrylic on Canvas、H2000 × W1450mm

ジムウェアを着た女性が掃除機で清掃をしている様子が描かれた作品。背景には工場の煙突から大気汚染に繋がりそうなピンク色の排気ガスがモクモクと浮かんでいて、女性の立っている大地も排気ガスと同じピンク色をしています。

汚染の影響が大地のひび割れから伝わってくるようで、環境汚染は着実に進んでいること、そして、そもそも掃除機を作るための工場が地球を汚しているかもしれません。掃除をして自分の居場所を綺麗にしているように見せかけて、実は環境汚染に加担していることを示唆しているように感じます。

また、ジムウェアは健康的な活動の象徴のようにも映り、それがピンク色の汚染状態を際立たせているようにも見えます。日常生活の快適さを振り返るためのメッセージが潜んでいるようにみえる作品でした。

evolk

《evolk》
2022、ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)、Acrylic on Canvas、H1450 × W2000mm

韓国発の指で作ったハートを描いています。しかし、その指はミドルフィンガーを立てていて、ボロボロの服を来ている男性に向けられています。

どんな人に対しても差別せずに、愛や平和を持って暮らせたら一番なのかもしれませんが、人間社会では競争により格差が生まれているのが現実です。

だからこそ努力する価値があると思えるとは思いつつ、人の持つ不条理さや矛盾が作品の中で現れているようでした。

まとめ

ホアン・コルネラさんの作品を鑑賞していきました。SNS上で目にする機会はあったものの、リアルの場で作品を鑑賞したのは今回が初となりました。

フィクションな漫画・作品で明るい色調と笑みの人物像が多少緩和してくれているとはいえ、ブラックのさらに黒めな表現は批判的な見方をする人も一定数いるのだろうなと感じました。自分の中で作品をどう捉えるのか、そして、他の人は作品を観てどう思うのか、こうした議論を巻き起こすような表現だなと。

そして、現実で起きたら笑えない作品のストーリーでも、SNS上の「いいね」は数万を獲得しているのも事実。

“不幸を笑う “というのは感情的には認めづらい部分ですが、そこを ホアン・コルネラさんならではのギャロウズ・ユーモアと滑らかな絵画表現による最小限の視覚的手がかりによって、自身の残酷な一面も咀嚼しやすくなり、自分の中の不条理さはあってもいいんだなと認められた時、共感が集まり作品の魅力に繋がっていくのかなと考察しました。

とはいえ、全ての作品を咀嚼する必要はないと思うので、作風が見慣れない方は、まずは受け入れられそうなテーマから選んで鑑賞してみてください。

展示会情報

展覧会名SEND YOURSELF NOWHERE BUT TOKYO
会場StandBy(Instagram:@s_tandby
東京都渋谷区神宮前5丁目11−1
会期2022年8月25日(火)~9月6日(火)[終了]
開廊時間11:00~19:00
サイトhttps://www.instagram.com/p/ChWtP7gPaqw/
観覧料無料
作家情報ホアン・コルネラ(Joan Cornellà)さん|Instagram:@sirjoancornella
AllRightsReservedさん|Instagram:@ARR.AllRightsReserved

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よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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