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「池田晃将の螺鈿」|日本の伝統技術と現代をつなげる細密なアート

よしてる

今回は「銀座一穂堂サロン」にて開催した池田晃将さんの個展「池田晃将の螺鈿」の模様をご紹介します。

この記事を読むとこんなことが分かります。

  • 池田晃将とその作品について知れる
  • 日本の伝統技術「螺鈿(らでん)」について知れる
  • 伝統技術 螺鈿を新たな形で表現し、「守破離」で現代、未来へバトンをつなぐ姿を知れる

池田晃将さんの細密な螺鈿作品にはどんな魅力が秘められているのでしょうか。展示作品を観ながら体感していきましょう!

池田晃将とは?

池田晃将(いけだ てるまさ)さんは千葉県出身の工藝美術家です。

もともと漆塗りの家系ではなかったそうですが、芸術の世界には行こうと決めていたんだそうです。その理由のひとつとなったのは、高校時代に世界遺産カトマンズの街並みの一角にある工房へ、世界遺産の保存修復のボランティア団に推薦されたこと。

10歳ほどの少年が土産品の彫り物をしていたことに衝撃を受け、そして心奪われた経験が転機になったそうです。工業高校卒業後の4年間は東京での生活を謳歌する時間と決めて楽しんだ後、本格的に芸術の世界を目指されます。金沢美術工芸大学にて漆、木工技術を磨き、金沢卯辰山工芸工房への所属を経て、現在は金沢市内にて独立し制作活動をされています。

作品からは東京での生活が作品に反映されているようなサブカルチャーの面影がありながら、伝統を今いる人にも伝わりやすい形で継承しているように感じます。

螺鈿を用いた緻密で繊細な制作

作品には「螺鈿(らでん)」という伝統的な加飾技術が用いられています。

螺鈿(らでん)とは?
夜光貝

夜光貝などの内側にある真珠層を切り出し、漆地や木地などの表面に埋め込み、漆で仕上げる技法のこと。「螺」は螺旋状の殻をもつ貝類のこと、「鈿」は金属や貝による飾りを意味しています。

螺鈿に現代のレーザーカット技術を取り入れることで、一般的な貝の厚み0.2ミリから、池田晃将さんは0.08ミリほどの厚さの模様を生み出し制作に使用しています。

また、漆を塗る前の木材も相当な薄さにしており、これを手作業で掘り起こそうとしたら相当の練度がいります。制作には漆が乾くのに10時間以上、約30工程を踏むため、手のひらサイズでも完成まで3ヶ月近くかかることもあり、年間でもだいたい20作品ほどしか制作できないそうです。

そのため、最近は多くの作品を発信していくために、スタッフを雇うことで一部分業化し、制作体制の強化も図っているそうです。

また、ここまで緻密な作品ながら、下図は書かず頭の中でイメージを設計して、実際にやりながら模様の配置を考えているところにも驚きます。

「守破離」を感じる制作スタイル

作品制作の中で特に特徴的なのが、人の手で作る工芸手法から、レーザーカット技術や3Dプリンタなど、文明の利器も用いたハイブリットな制作をされていることだと思います。

これまで人の手で守ってきた漆や螺鈿という技法を今後も守るべきという意見も強いであろうに、池田晃将さんは継承するポイントはのこしながら、独自の色を出した作品を制作されています。そこには現代を生きているからこそできる形に再構築していくことで、工芸を保存していこうとしている様子がうかがえます。

技法を突き詰め継承した上で、その殻を破り、アートとして国内外に発信していく、「守破離」ともいえる過程を追いかけたくなります。

展示作品を鑑賞

感じたことを言語化してみましたが、百聞は一見に如かずです。実際の作品を観ていきましょう!

電脳城六角中棗

《電脳城六角中棗》
池田晃将

六角形の柱型をした棗(なつめ)の作品。棗(なつめ)とは茶道に使う道具のひとつで、お抹茶を入れる道具のことです。

個人的には茶道経験もありなじみ深い道具ではありますが、池田晃将さんの手によって作品化したものを観ると茶道のお点前の空間を飲み込んでしまいそうな、作品としての重力があるように感じます。

作品を観ていると、ふと、茶道の始祖ともいわれている珠光という方の言葉である、「茶湯者は無能なるが一能也。」という言葉を思い出します。これは、茶道をする者は無能力であることがひとつの能力、という意味です。

一見批判的にもみえる言葉ですが、その真意は「人生はいかに努力しても、思うようにならないことばかりだから、能力がないことをあれこれ気にせず、自分の在り方を大事にしなさい」ということを伝えています。

いくつもの螺鈿でできた幾何学模様の線形は、蓋の中央に近づくにつれて漆の綺麗な黒で収束しています。その様子が、あれこれ気になることをそぎ落とし、自身本来の在り方に集中することの大切さを教えてくれているようです。

夜光電探盤香合

《夜光電探盤香合》
池田晃将

薄い円盤の形をした作品。外側は数字が、円盤の上部は大きく3つの線が中央部に伸びた形をしています。漆の色合いと螺鈿の輝きの両方を楽しめる作品です。

香合(こうごう)も茶道に使う道具のひとつで、お香を入れる小さな容器です。

伝統的な道具という側面を持ちつつも、どこかUFOのような印象もあり、既存と未知を融合させたようです。古典的とも未来的ともいえそうな構成が、現代の不確定さと、そこに潜む未知への探求心を形にしているようでした。

百千碁盤目飾箱

《百千碁盤目飾箱》
池田晃将

これまで観た作品もそうですが、見た目で美しいと感じる理由はなんでなのでしょうか。そこには、プレグナンツの法則が働いているのかもしれないです。

プレグナンツの法則とは、「人は共通点やまとまりのない断片的な情報をみたとき、そこに秩序や調和、対称性、構造性を見出そうとする心理が働く」というものです。

整然とくみ上げられている模様の秩序、螺鈿という自然由来の素材、それをくみ上げている技巧、この3つの断片的な情報に調和が生まれ、「美」を感じさせているのかもしれません。

百華吹寄小香合

《百華吹寄小香合》
池田晃将

花吹雪を閉じ込めたような作品です。これまでは数字や幾何学模様のイメージがありましたが、新たな模様でも制作されているようで、螺鈿の幅を増やしているような印象を受けました。極小の螺鈿は顕微鏡で観たくなります。

黄金に輝く領域は日向にある照らされた花びら、緑色に輝く領域は木陰でゆらゆらと揺れている花々を連想できます。

今までよりも2021年は外出がしにくい状況が続いていますが、少しずつ日向が広がるように、日常を取り戻していくような光の動きを表現しているようにも感じる作品です。

箱の中身も螺鈿の輝きを放つ

作品の中身はどうなっているんですか?

そんな疑問を持った方のために、作品の蓋を開けた状態のものも展示されていました。

《電光異界文香合》
池田晃将

内側は螺鈿の輝きが濃く、外側は縁取りをしているようなつくりをしています。特に外側の縁取りの模様は触れたら折れてしまいそうです。

また、ただ模様を貼ればいいというわけではなく、その土台となる機材も平らに磨かなければいけないという話をお聞きしたことがあります。漆塗りの段階で少しでも凹凸ができてしまえば、模様を貼った後の磨きの中で凸部分の模様が消えてしまうそうです。

そのため、この模様が出ていること自体が実はすごいことで、「普通にやってのけているのがすごい」と感じます。

電光雲丹飾箱

《電光雲丹飾箱》
池田晃将

楕円の飾箱の作品です。この形で螺鈿の模様を施すのは相当難しそうだなと感じます。こちらも内側に模様がしっかりと入っていました。

「神は細部に宿る」という言葉がありますが、内と外で表現を変えているあたりに、作家のこだわりを感じます。

まとめ:日本の伝統技術である螺鈿を新たな形に再構築し、バトンをつなぐ

今回は池田晃将さんの螺鈿作品を観ていきました。

今回の伝統的な工芸を用いた作品を観ながら、「日々の生活を見渡してみたときに素材を用いて100%手作りで制作されたものって、どれくらいあるのだろう」、と思い探してみましたが、おばあちゃんの手編みのたわしくらいしか見当たりませんでした。

工芸に限らずですが、便利な生活をしているが故に、気づくと過去に置いたままにした価値あるものがあるような気がします。池田晃将さんの作品は、過去に置いたままにしていた大切な価値ある日本の工芸を、現代、そして未来へとつなぐバトンになっていくのかもしれません

写真では捉えきれない部分もあり、実物は言葉がでなくなるほど小さく、そして圧倒的な迫力を持っています。この記事が、次回の展示へ足を運ぶきっかけになれたら嬉しいです!

展示会情報

展覧会名池田晃将の螺鈿
会場銀座一穂堂サロン
東京都中央区銀座1-8-17 伊勢伊ビル3F
銀座一丁目駅9番出口徒歩1分
銀座駅A13番出口徒歩5分
JR有楽町駅から徒歩7分
会期2021年7月9日(金)〜7月17日(土)
月曜日 休廊
開廊時間11:00~18:00
サイトhttp://www.planup.co.jp/ginza_j.html
観覧料無料
作家情報池田晃将
HP|https://www.terumasa-ikeda.com/
Instagram|@terumasaikeda
facebook|https://www.facebook.com/tel0813
YouTube|Ikeda Terumasa

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ABOUT ME
よしてる
東京の展覧会をめぐりながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタートし、コレクション数は15点ほど(2022年11月時点)
好きな動物はうずら。
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