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松枝悠希「2.5 DIMENSIONAL」|平面と立体の良さを凝縮したアート

非常口の中にいるピクトさんが無邪気に飛び出した平面×立体作品は、新たな突破口を切り拓いているようです。このアートを制作している松枝悠希さんの作品たちを観たら、アートの楽しみ方も変わるかもしれません。

今回は南青山にある「新生堂」にて開催した松枝悠希さんの個展「2.5 DIMENSIONAL」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 松枝悠希(まつえだ ゆうき)さんは1980年生まれ、茨城県出身のアーティスト。
  • 作品は主にPET素材を用いた、「平面から飛び出している立体作品」を制作。
  • 身の回りにある日常的なものに命を吹き込んだかのような表現には、解放や脱出、そして今では「危険だったらいつでも逃げていいんだよ」というメッセージも込められているそうです。
  • 本展では絵画との掛け合わせや捻れといった、新たな試みをした作品も展示。
  • 本記事では展示作品のうち、9作品をピックアップしご紹介!

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

松枝悠希(まつえだ ゆうき)とは?

松枝悠希(まつえだ ゆうき)さんは1980年生まれ、茨城県出身のアーティストです。東京藝術大学大学院後期博士課程を修了されています。

作品は主にPET素材を用いた、平面から飛び出している立体作品を制作しています

卵や非常口のピクトグラム、漫画のワンシーンなど、身の回りにある日常的なものに命を吹き込んだかのような表現は、一歩飛び出す勇気や、時には逃げ出す勇気を与えてくれます。

国内では1年に1回ほど展覧会を開催しているほか、海外での出展もされています。

平面と立体を融合した作品が生まれた理由

平面と立体を融合した表現に至るまでに、大学時代に「平面の良さと立体の面白さが混ざったものができないか」と、模索していた時期があったようです。

そんな時に透明なカップを作る素材や製造工程で、たまたまロケットの先端のようなカタチのパーツを作ったときに、プラスチックを押し当てていた型がくっついてしまったことがありました。その見た目から、型が本来ある場所から逃げ出しているように見えたところから、現在の表現方法につながったのだそうです。

作品制作をしていくうちに気づいたこととして、松枝悠希さんの実家は印刷会社で、平面を生み出す環境で大きな立体物(印刷機械)に興味を持ったことが、作品表現のルーツになっていたことでした

作品が生まれた理由には生まれ育った環境と好きなことから培った経験・技術の掛け合わせがあったからこそなのかもしれません。

展示作品を鑑賞

今回の個展は「平面から飛び出している立体作品」「新たな試みをした作品」を展示した部屋に分かれていました。各展示ルームごとに、作品をピックアップしてご紹介します。

「この作品気になるな」と感じたら、あなたにとっての好きなアートと出会えたサインかもしれません。ぜひ直接鑑賞もしてみて、作品の世界観に触れてみてください!

さまざまな平面から飛び出している立体作品

松枝悠希さんの代表作でもある平面から飛び出す立体作品シリーズです。個展で鑑賞してみると、そのバリエーションの多さに気づきます。

非常口マークとピクトさん

《”This is EXIT square300” green》
松枝悠希、H32 × W32 × D26cm

非常口マークの中にいるピクトさんが飛び出している作品は、松枝悠希さんの代表作のひとつです

「平面に閉じ込められていることが非常事態」だと感じて立体の世界に脱出させたのが始まりの作品となっています。

多様化が進む社会となり、今では「危険だったらいつでも逃げていいんだよ」というメッセージも込められているそうです

ちなみに、「緑地ベースの非常口マーク」は非常口そのものを示したマークで、「白地ベースの非常口マーク」は非常口までの経路へ誘導するためのマークです。

本作品は「緑地ベースの非常口マーク」なので、非常口から外へ飛び出して、新たな世界に飛び出してみよう!という意味合いで取れるのも面白いですね。

うずらの卵と黄身

《”UZURA Force 49”》
松枝悠希、H35 × W35 × D20cm

合計49個のうずらの卵が整列する中で、中央のひとつの卵から黄身が飛び出している作品です。

このまま卵としていたら食べられてしまう、そんな危機感からか自ら殻を破って飛び出しているようです。

「これらの作品はどう制作をしているのだろう?」と疑問に思う人も多いと思います。この飛び出している透明部分は樹脂の板を熱で柔らかくして、ぐにゃぐにゃになった瞬間に飛び出すものを押し入れて固めています

作品をじっくりと観ればわかりますが、この樹脂には歪みや気泡ひとつなく制作されていて、その精巧さにも気づくことができます。

また、これらの卵たちは本物が使われていて、作家さんが美味しくいただいた後に作品として生まれ変わっているそうです。飛び出していない48個のうずらの卵も廃棄されずに生まれ変わったものであるといえます。

個人的にうずらが好きということもあり、興味深い作品です。

トランプ

《”スペードA”290》
松枝悠希、H40 × W30 × D20cm

トランプのマークが飛び出した作品も展示されていました。

トランプも平面の中では世界的に知られているもののひとつで、ゲームの元祖とも言われています。そのマークが平面上から飛び出すと、トランプ自体の存在感が一気に失われるように感じます。

ちなみに、他のマークと比べてスペードのエースだけが大きいんですが、疑問を持ったことはないでしょうか?そこには歴史的な背景があります。

18世紀のイギリスでトランプに税金がかけられることになった際に、一番上のカードにスタンプを押すように法令で定められ、そのカードにはマークに王冠装飾のデザインをほどこすことと、製造会社名を入れることが義務づけられたそうです。その結果、一番上のカードとしてスペードのエースが選ばれました。

また、トランプシリーズは額装された小型作品も展示されていて、こちらはスペード、ハート、ダイヤ、クラブそれぞれのカード全てと、ジョーカーの合計54枚分が展示されていました

《The Cards -white/gold-》
松枝悠希、H17 × W12 × D8cm

絵柄のカードであるジャック、クイーン、キングは服を残して飛び出していて、現代風の見た目をしたキャラクターが現れています。

それぞれのキングやクイーンにはモデルがいたらしいですが、現代に脱出してきて、現代の生活を楽しんでいるようで微笑ましいです。

ジョーカーは勢いが強すぎたのか、樹脂の板が破裂しています。

ジョーカーは日本で生まれ世界に浸透したカードと言われている背景を考えると、ジョーカー自身も作品の中に留まることなく世界に向けて走り出した結果が表現されているのかもしれません。

トランプの作品を通して、長年親しまれているデザインを脱ぎ捨ててみて、今やってみたいことへと自分を解放する勇気を届けてくれているように感じます

新たな試みをした作品

もうひとつの部屋には絵画との掛け合わせや捻れといった、新たな試みをした作品が展示されていました。こちらも一部作品をピックアップしてご紹介します。

絵画と立体を掛け合わせた作品

《”This is EXIT” paint》
松枝悠希、H30 × W30 × D22cm

先ほど観てきた平面から飛び出している立体作品の平面が絵画となっている作品です。ピクトさんもそれに合わせたものになっています。

アナログで描かれることでほのかな温かさが生まれています

これまでの作品は一般的に広く使われている均一なデザインを用いていたので、現代で描かれたものから飛び出す点に、作品の新たな広がりを感じます。

《”Super egg” drawing》
松枝悠希、H29.6 × W29.6 × D27cm

卵の黄身が飛び出す元が、ドローイングで描かれた卵になっています。

鉛筆で描いたものから解放され飛び出してくる様子は、描いたものに色をつけるように、ドローイングに生を与えているようにも見えます

《”Be Ready To Run !” paint》
松枝悠希、H62.7 × W47.3 × D28cm

「Be Ready To Run ! NO HESITATION(走る準備を!ためらわずに)」と描かれた缶のパッケージを残して、缶が飛び出している作品。

パッケージがどことなく、走った先で待っているゴールテープのようにも見えます。

中央に描かれたシンボルはおそらく、松枝悠希さんの実家である印刷会社が描かれているのかもしれません。

平面の原点と立体の興味が重ね合わさっていて、アーティストのルーツも表現されているように感じます。

捻れを入れた作品

《”Swirl” MAZIORA》
松枝悠希、H47.6 × W47.6 × D6cm

飛び出す作品とは対照的に、樹脂をねじ込んだ作品も展示していました。

捻れには社会の変化に伴うわだかまりや歪みの感情が現れているようで、まるでブラックホールに飲み込まれているようにも見えます。また、歪みの部分にはきらきらとした光沢があり、暗がりの中の美しさを感じます。

観る角度によって色味が変わるところと、作品名から、表面はMAZIORA(マジョーラ)と呼ばれる、見る角度や光の当たり方によって様々な色に変化する分光性塗料が用いられていそうです。

そして、捻れの中央にある宝石のように見えるものは樹脂を磨き上げたものだそうで、観る角度によって光を反射し輝きを放っていました

わだかまりに捉えられてしまう状態が表現されているように見えつつ、わだかまりも見方によっては魔法のような原動力を与えてくれる試練となることが現れているようです。

トゲトゲ

《Thorns White pearl》
松枝悠希、H50 × W60 × D20cm

何かが飛び出すのではなく、突起として飛び出す作品もありました。

見た目がマットで艶のない表面ですが、他の作品と同じく樹脂からできているようで、表現の幅広さを感じます。

卵のイメージがあるせいか、紙の卵パックにも見えてしまいました。

平面と立体の良さが凝縮された2.5次元のアート作品を楽しもう!

平面と立体を掛け合わせたアート作品を鑑賞していきました。

個展タイトル「2.5 DIMENSIONAL」にもある通り、平面と立体それぞれの良さが掛け合わさることで生まれる作品は、両方があって成り立つ2.5次元の魅力を生み出していました

平面の持つ良さと立体だからできる良さの両方を凝縮している作品を個展で楽しんでみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名松枝悠希 展 -2.5 DIMENSIONAL-
会場新生堂
東京都港区南青山5丁目4−30 ハタナカビル
会期2022年6月2日(木)〜17日(金)
開廊時間11:00~18:00(最終日~17:00)
休廊:日曜・祝日
サイトhttps://shinseido.com/exhibition/archive/12516/
観覧料無料
作家情報松枝悠希さん|Instagram:@yuki_matsueda

ファンコミュニティもチェック!

松枝悠希さんは展覧会での作品発表のほかに、ファンコミュニティの場も作っています。

コミュニティ内では公開制作を見れたり、オンラインでのデッサン教室(中学生〜大人が対象)、そして限定作品のリターンも用意されています。

ゆるりとコミュニケーションが取りたい人や、オンラインデッサンは初心者からアドバイスを貰いながら取り組めるものになっているので、興味のある方はこちらも覗いてみてくださいね。

松枝悠希さんのファンコミュニティ(CAMPFIRE)はこちらicon

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よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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