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萩原亮「プロセスとかたち」|デジタル技術を駆使した稜線造形の彫刻作品が生むシナジーを体感するアート

よしてる
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たった数本の線だけで、生命感溢れる彫刻作品を生み出す萩原亮さん。

作品制作に3DCGや3Dプリンタを活用しながら、最近では作品の要ともいえる原型データを公開し、アートの二次創作を可能にする取り組みもされています。

新作となる鉄線によるオリジナルの彫刻作品を発表する一方で、データの共有による作品の複製を可能にする取り組みが交差することで、新たなシナジーを体感できます。

今回はギャラリー自由が丘にて開催した萩原亮さんの個展「プロセスとかたち」の模様をご紹介しながら作家の取り組みにも着目し、累計130の展覧会レポートをまとめ、2021年からアートコレクションをしている視点からレポートしていきます。

萩原亮とは?

萩原亮(はぎわら りょう)さんは1985年生まれ、神奈川県出身の作家です。

2011年に東京藝術大学彫刻科を卒業、2013年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了し、2021年からは横浜美術大学非常勤講師もされています。

直近の展覧会に

  • グループ展「anima」(2023、ウサギノネドコ ギャラリー、東京都)
  • 「D-art,ART 2022」(2022、松坂屋名古屋店、愛知県)
  • 個展「Weekly Sculpture」(2021、いりや画廊、東京)

などがあります。

アートの特徴:デジタルツールを活用した稜線造形による彫刻作品

萩原亮さんは「人は対象の何を見てそのものらしさを感じるのか」をコンセプトに作品を制作しています。

現在は動物をモチーフに、対象の本質を捉えた最小限の稜線(ここでは面と面の境界線のこと)を造形表現に用いた、引き算の美を感じさせる作品が印象的です。

また、

  • 「3DCG」によるバーチャル上のxyz座標に頂点を配置し立体を構成する手法
  • 「3Dプリント」による多彩な素材や色による表現

といったデジタルツールを彫刻制作に用いているのも特徴的。

デジタル技術を取り入れた制作には、伝統的な彫刻の制作プロセスや、複製可能なデータと1点もののユニーク作品との関係性について考えさせる要素があります。

萩原亮個展「プロセスとかたち」展示作品をご紹介

萩原亮さんにとって2年ぶりとなる個展「プロセスとかたち」では、3Dプリントを制作に活用した鉄線による彫刻作品に加え、制作の過程で生れるマケット(模型)ドローイングなどを展示していました。

今回の展覧会に寄せた美術解説するぞーさんの批評文にある彫刻の「唯一性」と「複製性」にも注目しながら、展示作品を観ていきましょう。

Q
今回参考にした展覧会の批評文はこちら

…作家独自の視点による造形の「唯一性」を研ぎ澄ましながら、一方でその「複製性」についてもさらなる展開を図っている。…複製技術の発展に伴い、カタチの「唯一性」と「複製性」という相反する価値が併存し、度々衝突が繰り返されている現代社会。著作権を巡るトラブルが多発しているのがその顕著な例であろう。…それに対して、萩原のこのデータ作品によるリレーショナルな彫刻表現展開は、かつてベンヤミンが評した「アウラ」とは、少々異なる「唯一性」を生み出してはいないだろうか?
萩原は、この彫刻様式におけるパラダイムシフトについて、複製技術によるカタチの唯一性という「アウラ」の凋落と、複雑化するプロセスによる新たな「アウラ※」の価値について、多角的に問いかけているのだ。初音ミクのバーチャルライブが象徴するように、場所性に依存しない「今ここ」が体現されている昨今において、彫刻の「今ここ」は果たしてどこに存在しているのか。
彫刻の「唯一性」と「複製性」。萩原の造形は一見相反するような2面性を感じる。しかし、その矛盾は3DCGの出現による避けられないパラドックスであり、新たな「かたち」の在り方を示唆しているのである。
※かつて芸術作品が持っていた「いま」「ここ」にしか存在しないことで保つ一回性の価値のこと

美術解説するぞーさんによる展覧会の批評文「複製プロセスに生まれる彫刻概念の唯一性 ー 萩原亮の芸術」より抜粋し引用

鉄線を溶接し造形した新たな彫刻作品《Retopology》

今回の展示のメインとなる、ネコをモチーフにした《Retopology(リトポロジー)》シリーズ。

リトポロジーとは、モデルデータを元に3DCG上で単純化した面で貼り直し、シンプルな見た目のポリゴン(多角形を組み合わせた造形)として再構築する工程のこと。

本来はバーチャル上で行われるリトポロジーの工程を手作業に置き換えて、彫刻作品にしています。

稜線の間を鉄線で手作業で埋めて面を構築しているため、元データとは違ったその作品ならではの表情が生まれています。

稜線に導かれるように、360°ぐるりと周ると観えてくる溶接痕の凹凸や光沢は、アナログとデジタルを共存させることで生まれる新たな彫刻の姿を映し出しているようです。

また、光の当たる角度によって隣り合う面に明確な陰影ができるのも特徴的で、ネコならではのしなやかさを感じる稜線の美が強調されています。

3つのパターンでできたそれぞれの彫刻は美しく可愛らしい瞬間を映し出している中で、その作品の制作過程も知ると、デジタルツールを活用した造形であることを実感させられます。

デジタルとアナログを行き来する制作過程が分かる展示も

《Retopology》シリーズはデジタルとアナログを行き来しながら制作されています。

その制作プロセスは、

  1. 粘土で作ったマケット(模型)を3Dスキャン(アナログ→デジタル)
  2. そのデータを元にリトポロジーでポリゴンを貼り直す(デジタル)
  3. 拡大して樹脂で3Dプリント(デジタル)
  4. 3Dプリントした立体を石膏で覆う(アナログ)
  5. その上に鉄線をはわせてフレームを作る(アナログ)
  6. 間を埋めるように鉄線で面を構築し仕上げていく(アナログ)

という流れで完成しています。

制作過程も表現の一部であることが分かる展示となっていて、複製可能な3Dデータや出力した立体に対して、作家がどのように手を加えたら「唯一性のある彫刻作品」といえるのかへの慎重な探究も伺えます。

彫刻の制作過程が垣間見える陶によるマケット作品

《Maquette:Cat》シリーズ
萩原亮、ceramics

今回は手のひらサイズのマケット(模型)の展示も。

制作の過程にある思考を垣間見ることができます。

釉薬により黒く光沢のある仕上がりとなっていて、それぞれの仕草が最少数の稜線で可愛らしく表現されています。

また、鉄線による彫刻作品と同じ形状でも、大きさや用いる素材によって見え方が変化する点にも注目。

実際の作品を対比しながら作品の「唯一性」と「複製性」を考え味わえるような仕掛けの展示にもなっているのかもしれません。

平面上で対象をどう捉えているかが見て取れるドローイング作品

《Untitled》
萩原亮、oil pastel、297 × 210 mm

彫刻作品をメインに制作する作家が、モチーフとなるネコを平面上でどう捉えているのかを知れるドローイングも興味深いです。

オイルパステルで描かれたドローイングは、柔らかな描き味が印象的ですね。

鉄線による作品《Retopology》シリーズのドローイングもあり、立体作品と比較してみることもできます。

身体のパーツを少ない線で表現するところは立体作品と通ずるところがある中で、ネコの表情があるところが新鮮です。

カプセルトイや3Dデータでアートと人を繋ぐ展開も

萩原亮さんの作品は1点もののアートだけでなく、年齢や性別を問わず楽しめるかたちでの展開をしている点も特徴的です。

例えば、イヌをモチーフにした作品のカプセルトイ「The Dogs」の展開。

近年ガチャガチャは専門店ができるほど広く展開していて、ふとした出会いからアートに触れるきっかけになりそうです。

そして驚きなのが、鉄線による作品《Retopology:Cat01》の元となった3Dプリント用のデータも手頃な価格帯で販売していること。

萩原亮さんにとって制作の要といっても過言ではない作品の3Dデータを公開する取り組みは、購入者が作品を複製できることを意味し、彫刻作品の希少性や価値をどう担保していくのかを考えさせます。

一方で、購入者による多彩な二次創作という複製性の広がりは、アートを制作する楽しみを身近で体感できる手段にもなり得そうです。

ファッションやグッズ販売など、アートを身近に感じれる取り組みはこれまでもありましたが、データを通じて立体作品が多くの人の手に流通し、アートをつくる楽しみまで共有する取り組みは、アートと人を繋ぐ新しい展開になるのではないでしょうか。

まとめ:3Dデータ共有とオリジナル作品が交差し生まれるシナジーを味わおう

萩原亮さんの作品には、技術の発達を受け入れて積極的に活用する柔軟さと、実物としての彫刻作品が持ち得る美の追求が現れていました。

1826年にカメラが登場して「今日を限りに絵画は死んだ」というセリフから絵画表現が発展したように、3Dプリンタの登場が彫刻作品の新たな発展を促進していくかもしれません。

そんな只中で立体を複製できる良さと、アート作品の唯一無二の良さの両方を取り入れることで、新たなシナジーが生まれているところが、萩原亮さんの作品の魅力のひとつに感じました。

作品の原型データを公開することで複製による「アート制作の共有」をしたり、「作家固有の概念を含んだオリジナル作品」が唯一性をより感じたりと、複製性と唯一性をうまく共存させているようでした。

キース・へリングさんがいった「1億円のアートを世界の少数のコレクターに売るのではなく、1ドルのアートを1億人に流通させたい」という言葉を想起させる活動を、今回の個展で目の当たりにしてみてはいかがでしょうか。

萩原亮「プロセスとかたち」個展情報

展覧会名プロセスとかたち
会期2023年10月20日­(金) 〜 10月26日(木)
開廊時間12:00 – 19:00(最終日は17:00まで)
定休日なし
サイトhttps://www.gallery-jiyugaoka.com/
観覧料無料
作家情報萩原亮さん|Instagram:@rrrhagi
会場ギャラリー自由が丘|Instagram:@galleryjiyugaoka
東京都世田谷区奥沢5-41-2 アトラス自由が丘ビル1階

参考記事

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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