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24時間アートラジオ/テレビ2024|横浜からすべての場所へ届けるパフォーマンスアートのすべてを紹介

よしてる
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2024年末の横浜で、24時間アートを語り尽くすラジオ24時間アートラジオ/テレビ2024がすべての場所へ届けられました。

2023年開催に続き第2回となる今年は、現代アートを中心に据えつつ、
「哲学、銭湯、ポエトリーリーディング、コンテンポラリージュエリー、建築、写真、人文、近世思想、キュレーション、アートライティング、イマーシブ、ボランティア、パフォーマンス、展覧会」
と、前回以上に領域を横断したトークが配信されました。

「そこまでアートに含まれるの?」とツッコミたくなりますが、さまざまなトピックのトークがアートを介して自然につながり、多様な視点が交わる場となっているのが、24時間アートラジオ/テレビというパフォーマンスアートの聴きどころです。

本記事では24時間アートラジオ/テレビ2024のすべてを捉えつつ、24時間の中で何が起きたのかをピックアップしてまとめていきます

Q
タイムテーブルはこちら
タイトルゲストXスペースYouTube
プロジェクトとアナムネーシス長谷川祐輔00:11:55〜00:00:00〜
珠洲市の銭湯から公共へ:震災と芸術祭と。新谷健太01:46:52〜00:01:12〜
EBUNE航海録:南飛騨ArtDiscoveryを終えてEBUNE02:51:55〜01:05:20〜
展示紹介田中芙弥佳
AVA(柿崎大輔、小野まりえ、坂下剣盟、岡田竜之助)
04:08:25〜02:21:50〜
ポエトリーリーディング高口聖菜、浜崎祥多04:16:45〜02:31:22〜
コンテンポラリージュエリーの2024年寺嶋孝佳04:50:50〜03:04:10〜
建築の形式と現代性若林拓哉、小倉宏志郎05:49:43〜04:03:03〜
2024年のアートと写真と。村上由鶴06:50:53〜05:04:12〜
1990年代生まれと人文ウォッチ植田将暉08:08:47〜
08:55:47〜
06:22:04〜
07:21:33〜
パフォーマンス芳賀菜々花08:40:56〜06:54:15〜
偽史と教養主義石橋直樹09:17:18〜07:31:52〜
2024年の都市と建築新城一策10:49:17〜
00:00:01〜
09:03:50〜
夜の会(美大生カタリバ)現代抵抗(小門晃、平形颯良、三田航平
AVA(坂下剣盟、小野まりえ)
01:24:57〜00:10:47〜
キュレータートーク渡辺俊夫05:39:30〜04:25:19〜
アートライティングの交通整理:書くために読んだ30冊Yzm06:26:04〜05:11:54〜
レジリエンスとバイカルチュラリズム:展覧会ベストと映画ベストを通じて伊藤結希07:45:15〜06:31:02〜
没入談義:絵本、信仰、テーマパーク渡辺健一郎
今野恵菜
09:21:27〜08:07:16〜
アートボランティアとイマーシブ東孝彦[あづまっくす]10:45:15〜09:35:42〜
昨年のまとめはこちら
24時間アートラジオ2023|トークで共同制作し耳に届ける美術の集合知をご紹介
24時間アートラジオ2023|トークで共同制作し耳に届ける美術の集合知をご紹介

会場となったBankART KAIKOはクラウドファンディングを実施中です。
こうしたイベント開催を実現してくれる環境が今後も続くために、ご協力をお願いします。

[2025年3月31日まで] BankART継続のためのCFはこちら
BankARTの活動継続にご支援ください! 創造都市横浜20年間の「都市の経験」を未来につなぐために BankART is Movement !
BankARTの活動継続にご支援ください! 創造都市横浜20年間の「都市の経験」を未来につなぐために BankART is Movement !
Contents
  1. 24時間アートラジオ/テレビとは?
  2. 24時間アートラジオ/テレビのメイントーク紹介
  3. BankART KAIKOでの作品展示
  4. BankARTの活動継続のためのクラウドファンディング実施中
  5. まとめ

24時間アートラジオ/テレビとは?

「24時間アートラジオ/テレビ」は、横浜美術館学芸員のみなみしまさんが主催する、XのスペースとYouTube生配信を使ったイベントです。

2024年の振り返りを通じてアートの今を語り合う企画であり、配信を通してすべての場所へ届けるパフォーマンスアートでもあります。

みなみしま(南島興:みなみしま こう)

1994年生まれ。横浜美術館学芸員。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(西洋美術史)、博士課程途中退学(美学)。修士論文はジョルジョ・モランディについて。全国の常設展をレビューするプロジェクト「これぽーと」運営。時評番組「みなみしまの芸術時評」主宰。「美術批評を読む」共同主宰。旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』編集部。『坂口恭平の心学校』(晶文社、2023)刊行。

X:@muik99

2025年春の撤退で話題となった「BankArt KAIKO」を会場に、Xのラジオスペースを拠点にしながら、

  • YouTubeの映像生配信
  • リアル会場での展示・パフォーマンス
  • 15の多ジャンルのメイントーク

といった新たな取り組み満載の年末企画となりました。

24時間アートラジオ/テレビ最新情報!(みなみしまnote)
24時間アートラジオ/テレビ最新情報!(みなみしまnote)

1年分のキュレーションが生む「パフォーマンスアート」

24時間アートラジオ/テレビは開催を決めてから約1週間で有志が集まり、イベントが成り立っています。
みなみしまさんがX上で日々発信をすることで生まれる信頼感がキュレーションとして機能し、ゆるやかな秩序のもと、みんなで作り上げる空間が自然と広がっています。

そして、「モノローグ」かつ「決めきらない」ことで、約1週間で開催が決まるスピード感が生まれています。
アートかそうでないかにこだわらず、あらゆる分野を自由に出入りできる環境にする。
そうすることで生まれる流動性が、ボーダーレスに、近距離で、本音に近い部分でつながる楽しみを生んでいます。

こうした背景があり、24時間アートラジオ/テレビはみなみしまさんだから生み出せるパフォーマンスアートになっています。

24時間アートラジオ/テレビのメイントーク紹介

24時間アートラジオ/テレビでは、合計17のメイントーク/パフォーマンスが行われました。
ここでは、各回の内容をピックアップして紹介します。

各メイントーク/パフォーマンスの全編は、XスペースとYouTubeリンクからチェックしてみてください。

1.プロジェクトとアナムネーシス(長谷川祐輔)

前回の24時間アートラジオにも出演された長谷川祐輔さんが今年も出演。
今年はプロジェクトとアナムネーシスをテーマに「本気で振り返る」とは何かについて考えていきました。

長谷川祐輔(はせがわ ゆうすけ)

哲学者。支援員・介助員。一般社団法人哲学のテーブル代表。1993年生まれ。2022年に新潟大学大学院博士前期課程修了。修士(文学)。専攻は美学・フランス現代思想。
共同制作やアートプロジェクトの活動と福祉の仕事を通して、哲学が現代社会のなかで果たせる役割を探究することに関心がある。
2023年、一般社団法人哲学のテーブルを立ち上げ、その活動をまとめた書籍「哲学するアトリエ」を出版。

X:@table_philo

「プロジェクト」と「アナムネーシス」とは?

アナムネーシスとは「想起、思い出す、過去に目を向ける」意味を持つ、ギリシャ語の哲学用語です。
このアナムネーシスと未来に向けて物事を前進させるプロジェクトの言葉を対比させながら、自分にとって必要な振り返りとは何かが議論されました。

仕事を例にすると、プロジェクトとアナムネーシスは以下のように区別できます。

  • プロジェクト
    特定の目的達成に向けて予定を決めて人と関わりながら前進させていくこと
  • アナムネーシス
    プロジェクト全体を通して次に活かすための振り返りをすること

一見、よくある流れですが、次に活かすだけでは「本気で振り返る」ことが十分にできていないことに目が向けられました。
「本気で振り返る」とは、次に活かせること以外にも目を向けて、時間をかけてじっくり振り返ることを意味します。

前進するとは限らないこともまとめて振り返ることで、想像が広がり、自己の記憶と関連づけされ、新しいアイデアが生まれるきっかけになります。
自分の状況やタイミングによっても振り返った結果が変化し、得られることが変わるのも、時間をかけたアナムネーシスの特徴です。

現代で本気で振り返るために必要なのは「関心を逸らすこと」

普段の生活に意識的にアナムネーシスの時間を作るのは難しいかもしれません。
そうした中でキーワードに上がったのが「いかに関心を逸らすか」です。

現代の私たちは、スマホやパソコンなどの電子機器に多くの時間を奪われがちです。
その結果、本当に大事なことに意識を向ける余裕をなくしてしまっていることがあります。

そのため、「何もしない選択」を増やし、意識的に関心を逸らして時間を作っていくことから始めていく必要があります。
そうして考える余裕が生まれると、感受性を整えることができ、想像する準備ができます。

プロジェクトを1年かけて振り返る価値あるものにするには?

アナムネーシスを考えていく一方で、プロジェクトを時間をかけて振り返る価値のあるもにできるかを考えていくことも重要です。

トークの中では、プロジェクトの中で「自然発生的なものを生み出す」ことの重要性が挙げられました。
例えば、24時間アートラジオ/テレビで考えてみましょう。

  • 最低限の準備
    ゲストとタイムテーブル、会場を用意し、イベントが高確率で成り立つ状態にする
  • あえて整え過ぎない
    すべてを完璧に整えず本番を迎えることで、さまざまなトラブルやトークの脱線が起き、準備していたら生まれない展開が生まれやすくなり、選択可能性が広がる

決めないことが失敗につながることもありますが、その分、選択可能性は広がっていきます。
こうして生まれる自然発生的な要素は、後からじっくり振り返ることで価値に気づけることがあるでしょう。
そして、その振り返りが、ほかの人にも参考になったり、影響を与えたりするかもしれません

安心安全を届ける必要があるプロジェクトでの実行は難しいですが、高確率で実行ができる状態に自然発生的な要素を加えると、アナムネーシスの重要性がより明確になります。

2.珠洲市の銭湯から公共へ:震災と芸術祭と。(新谷健太)

新谷健太さんは2017年に石川県珠洲市に移住してから、アーティストコレクティブ「仮( )-karikakko-」を始動し、「主体/客体が入り混じった場/状をケアする身体性としてのメディウム」をテーマに活動されています。

その活動のひとつに、継承した珠洲市の公衆浴場「海浜あみだ湯」の管理運営があります。
海浜あみだ湯の管理運営も、見方によってはアートプロジェクトと捉えられそうですが、海浜あみだ湯は社会に対して実行する考えが強いそうです。

石川県珠洲市といえば、能登半島地震(2024)や津波による被災が記憶に新しいです。
今もなお被害が大きいといわれ、新谷健太さん自身も被災している中で継いだ銭湯のお話を軸に「震災と銭湯と公共性」を考えるトークがなされました。

新谷健太(しんや けんた/通称しんけん)

1991年生まれ、北海道北見市出身。
2015年金沢美術工芸大学油画専攻卒業後、アーティストランスペース「芸宿」を運営。フリーターをしながら制作活動を行い、2017年珠洲市に移住し、アーティストコレクティブ「仮( )-karikakko-」始動。宿泊施設、飲食機能を持つコミュニティスペースなどを運営。1月の震災で全施設が被災。現在「海浜あみだ湯」で水を温め続ける。
現代社会におけるコミュニティのあり方の模索と、他者の介在による価値観の変換が促されるための「場所と状況を整え続けるケアのメディウムとしての身体」をテーマに制作活動をしている。

X:@SHINKEN1130@amidayu_suzu(あみだ湯)

複数のパーソナライズが市民の心身を温めている「海浜あみだ湯」

海浜あみだ湯は、珠洲市にとって欠かせない場所になっています。

2024年1月1日に被災してから19日後に営業再開、珠洲市民は無料で利用できるように解放し、断水でお風呂に入れなくなっていた人々にとって欠かせないインフラとなります。
無料開放してから8月まで、1日に最大およそ620人、平均450人を受け入れていたそうで、東京の平均銭湯利用者数約140人と比べるとその多さに驚きます。
こうした、インフラとしてだけとは思えない人の集まり方をする理由について、トークの中では「複数のパーソナライズが共存している」ことが挙げられました。

ここでいうパーソナライズとは、ある集団を個人化することです。
例えば、コンテンツのクオリティの良し悪しに関係なく「〇〇さんがやっているから面白そう」で選ぶことがあるように、海浜あみだ湯では新谷健太さんの存在が、人が集まる場所を作っている側面があると考えられます。

こうした場所づくりは、みなみしまさんの「趣味と公共」のスペースで話題になった「集団の個人化と見せ方」を参考にしているそうで、「みんなが平等に頑張るのではなく、ひとりの250%の頑張り」が、協力者含めて人が集まる場所たらしめているといいます。
それに加えて、例えば銭湯の番台の子が利用者の名前を覚えて声かけをするなど、別の人の頑張りによるパーソナライズも生まれているそうです。

こうして複数のパーソナライズが共存することで、海浜あみだ湯は市民にとってインフラ以上に欠かせない存在になっているのだと感じます。

日常が失われているとき「公共」の価値が再起動する

海浜あみだ湯の取り組みは、普段当たり前にあるものが特別な意味を持つことも教えてくれます。

例えば、海浜あみだ湯には市民や行政、解体業者など立場や世代の異なる人々が集まり、交流や情報交換をする場になっているそうです。
こうして公共空間である銭湯でコミュニケーションが自然と交わされ、助け合うことで精神的な安らぎや社会的なつながりを生む場所にもなっています。
公共がうまく機能しないときにこそ、こうした公共施設の価値が深く感じられるのだと思います。

また、新谷健太さんは制限がある中で、アーティストコレクティブとして宿泊や食など、生活に必要なものの提供にも取り組んでいます。
必要最低限の生活を支える取り組みに、規模間では測れない公共の価値が感じられます。

温度を感じるリアリティが生む「言葉以上の安心感」

新谷健太さんのトークを聞いていると、「温度を感じるリアリティ」の重要性も感じられます。

被災地で日々を生き抜くことに加えて、市民を勇気づけるように水を温めることで復興に向けた応答をし続けるのは、並大抵のことではありません。
その中で新谷健太さんの身体性が他者や環境と接することで、言葉以上の安心や共感の連鎖を生んでいるのだと思います。

ちなみに、こうした新谷健太さんの活動を紹介する展覧会も開催されました。

[2025/1/19-2/16] 北國銀行×金沢美術工芸大学連携事業 第15回コーポレートアート展 仮( )個展「仮(葬)」
[2025/1/19-2/16] 北國銀行×金沢美術工芸大学連携事業 第15回コーポレートアート展 仮( )個展「仮(葬)」

3.EBUNE航海録:南飛騨ArtDiscoveryを終えて(EBUNE)

船に住み、移動生活していた海民をモチーフにしたアートプロジェクト「EBUNE(家船)」

桃太郎に登場する鬼ヶ島で知られる瀬戸内海の島「女木島(めぎじま)」をスタート地点に、これまで佐賀、福岡、小豆島、淡路島、大阪に漂着し、滞在先の地元住民とも協働しながら、伝承や物語をもとにした作品を発表しています。

活動は独特なウェブサイト上で物語形式に変換し、アーカイブされているのも特徴です。

今回はEBUNE発起人のKOURYOU(こうりょう)さん、林業技術職員/サーベイヤーの伊藤允彦(いとう まさひこ)さん、画家の三毛あんり(みけ あんり)さんをゲストに、2024年の活動、みなとみらいとEBUNEについてトークが繰り広げられました。

EBUNE(えぶね)

移動する海民をモチーフとしたプロジェクト。
瀬戸内国際芸術祭2019 (女木島)に始まり、2020年より東へと航海を開始。これまで佐賀、福岡、小豆島、淡路島、大阪に漂着。2024年10月【EBUNE×あぐり】として南飛騨Art Discoveryに参加。全国各地の作家と共に、地元コミュニティと協働し、土地のリサーチを元にした展示・儀式・イベントなどを開催。ウェブサイト上でも物語を紡いでいる。

X:@EBUNE_koukai
ウェブサイト:https://ebune.net/

EBUNEの航路はどう決まるのか

EBUNEは女木島から出発し、ある場所を目指しながら日本各地に漂着し、作品を制作しています。
その航路がどう決まるのかというと、これまでの物語展開とのつながりを意識して漂着場所を選びながら航路を進んでいるとのこと。

2024年は、岐阜県で開催された芸術祭「南飛騨 Art Discovery」に漂着。
開催地の岐阜県下呂市には「不老不死の八百比丘尼(やおびくに)と浦島太郎」が混ざったような民話があり、そのあらすじをモチーフに、EBUNEのメンバーで物語を辿るように作品を制作しています。

EBUNE×あぐり:不死への船路【⊥界】/岐阜・下呂漂着|南飛騨 Art Discovery
EBUNE×あぐり:不死への船路【⊥界】/岐阜・下呂漂着|南飛騨 Art Discovery

ウェブサイト上の物語では、大阪・西成で人魚の肉を食べて不老不死になったお話から、岐阜・下呂漂着へつながっていきます。

滞在先の人との関係性がEBUNEの新たな物語を生む

EBUNEは漂着した場所で制作するにあたり、「滞在先で出会った人たちとの交流」が重要な要素になっているのは発見でした。

滞在先で出会った人によって物語の展開が変わったり、現地の人にも大きな影響を与える出会いにになっている感覚があるようです。
その感覚は作品展示のみではなかなか伝わりづらいそうですが、大阪・西成の滞在制作では、現地で受け入れてくれた人と過ごすうちに、現地の人が突然作品を制作し始めたそうです。
そして、最終的に、現地の人が制作した作品も展示されます。

いつの間にか滞在先にいる人と作っていくことで、面白いと感じるものが組み上がっていく。
そうしてできる展示だからこそ、人の心を動かせるのかもしれません。

そして、漂流・漂着の中で出会いを繰り返しながら、地域ごとに異なる生き方のルールによりEBUNE自身も形を変えていきます。
SNSで偶然つながるのとは違い、地続きでリアルにつながっていくところに、EBUNEの活動の核心がありそうです。

もしみなとみらいにEBUNEが漂着したら

みなとみらいは、伝統的な伝承があまりないため、一見するとEBUNEが漂着しにくい場所のように思えます。
しかし、実はかつて貸客船と桟橋をつなぐ「艀(はしけ)」という船が存在していた点で、何か共通点があるのではないかという話も印象的でした。

艀(はしけ)とは?

艀とは、箱型をした自走できない船のこと。未整備の港への漂着が困難だった時代に、貸客船と桟橋をつなぎ、沖から陸地へ荷物を運搬するインフラとなっていました。また、艀は家庭の場としても機能していて、水上生活者が暮らす家でもありました。
港の開発や海上貨物輸送のコンテナ化が進み、今では目にしなくなっています。

水上生活者の子どもたちは仕事の性格上、住所が定まらず生活リズムが陸と違うことから、通学することが困難なため、義務教育も受けられない状況だったそうです。
その問題を受け、寄宿舎つきの横浜にある水上学園に、子どもたちが通った歴史があります。
(EBUNEのメンバーで、居酒屋・西成グランマ号を経営しているアライさんがドンピシャで水上学園出身出身という偶然のつながりも!)

EBUNEが今後みなとみらいに漂着するかはわかりませんが、かつて時代を支えた艀の歴史を知ることで、忘れられがちな歴史の存在を改めて感じることができました。

4.ポエトリーリーディング(高口聖菜、浜崎祥多)

高口聖菜

2001年生まれ、神奈川県出身。
「声」や「語り」をテーマに、インスタレーション、音声作品、詩などを制作。個人が持つ痛みや脆弱性を起点に、ケアやフェミニズムの視点を通じて、非支配的な物語の可能性を探求している。

YouTube:https://www.youtube.com/@shenawalk

ポエトリーリーディングとは

ポエトリーリーディングとは、詩を読むのではなく、自分の声や体の動きを使って詩の感情やリズムを表現するパフォーマンスのことです。
声に出しながら舞台で演じるように身振りも加えて表現しているため、詩に隠れていた感情やリズムも表現されています。

今回のポエトリーリーディングも、床に座ったり、寝そべったり、部屋で過ごすように演じる行為をしながら、詩を語りかけるように読むパフォーマンスとなっていました。

谷中の話

谷中という人物(なのか地名なのか)に関する断片的なエピソードを読み上げながら、お話が進んでいきます。
随所に痛みや死を想起させる言葉が含まれていて、読み上げられた言葉をどう受け止めていくかで、怖く感じたり、濃密な時間を過ごした思い出に浸ることもできそうでした。

ポエトリーリーディングは映像を見てこその作品です。
YouTubeでの視聴をオススメします。

5.コンテンポラリージュエリーの2024年(寺嶋孝佳)

ジュエリーと聞いて思い浮かぶのは、宝石を組み合わせた高価な装身具だった私にとって、アートのひとつ「コンテンポラリージュエリー」を知る機会になった、装身具作家・寺嶋孝佳さんのトーク。

日本国内ではあまり広く認知されていないコンテンポラリージュエリーを、実際の作品紹介も交えて詳細に知る機会になりました。

寺嶋孝佳(てらしま たかよし)

装身具作家、CJST(コンテンポラリージュエリーシンポジウム東京) 運営企画。
2024年にCity of Munich prizes of jewelryとHerbert Hofmann Award(ともにドイツ)を受賞。近年はヨーロッパ諸国を中心に個展やグループ展に参加している。現在 作家としてミュンヘンと千葉を拠点に活動中。

X:@teradekka

「コンテンポラリージュエリー」とは?

「コンテンポラリージュエリー」とは、作家のオリジナリティを重視し、アートとして自由に素材を使ったジュエリーのこと。
私が思い浮かべた「宝石を組み合わせた高価な装身具」はファインジュエリーに分類されるようです。

そんなコンテンポラリージュエリーの中心地はドイツ南部の都市・ミュンヘンなのだそう。
その理由に、

  1. 毎年3月に大規模な企画展「ミュンヘンジュエリーウイーク」が開催されていること
  2. コンテンポラリージュエリー界で有名なオットー・クンツリが教授を務めた芸術アカデミーがある

ことが挙げられます。
ちなみに、オットー・ツンクリは親日家としても知られていて、2015年には東京都庭園美術館で展覧会を開催しています。

ミュンヘンを中心にヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどで盛り上がりを見せているコンテンポラリージュエリー。
日本では世間的な認知度が低く、マーケットも盛り上がっていないため、日本人作家は海外で作品発表をするのが基本的な動きになっています。

ミュンヘンの芸術アカデミーでオットー・クンツリから学んだ寺嶋孝佳さんは、コンテンポラリージュエリーの語り方や評価の仕方、文脈づくりをしていかないとどうにもならない危機感から、2019年にCJST(コンテンポラリージュエリーシンポジウム東京)を立ち上げています。
シンポジウムをプロジェクトに組み込んでいるのが特徴的で、立場や利害関係を超えてさまざまな人が意見を交わすことで、業界を活性化させる取り組みが行われています。

寺嶋孝佳のコンテンポラリージュエリー作品

トーク中で寺嶋孝佳さんのネックレス作品《Portrait series》が紹介され、コンテンポラリージュエリーがどんなものかを知る手がかりになりました。

ネックレス作品は、7枚の楕円形アルミ板で作られています。
アルミ板にはAI生成による寺嶋孝佳さんの自画像が印刷されていて、表面は伝統工芸である彫金技法で彫られています。
そして、裏面にはそれぞれの画像が生成された日付が刻印されています。

作品は文字情報とアイデンティティ」「作家のバックグラウンド」「デジタルとジュエリーの価値」といった重層的なテーマを内包しています。

寺嶋孝佳さんがミュンヘンで滞在許可申請を行った際、申請書に記載された個人情報の確認が本人より重視されるという経験から、「文字情報がアイデンティティを形成する」という感覚を抱いたそうです。
この考えをもとに、申請書の文字情報をAIに入力し、自分に似た自画像が生成されるか試した結果、毎回異なる画像が生成されていきます。
そのプロセスが《Portrait series》につながり、そっくりな自画像が生成されるまで続ける制作スタイルをとっているそうです。

また、作品には「作家のバックグラウンド」も反映されていて、寺嶋孝佳さんの実家が米農家であることから、彫金の窪みが米粒を連想させます。

さらに、AI技術を肯定的に捉えていることが、ジュエリー作品を通して表現されています。
ジュエリーが歴史的に価値があるものと認識されてきた点を利用し、画像生成AIをジュエリーという形態に載せることで、AI技術に対してもポジティブな価値を持たせる試みがされています。

書の歴史から考えるコンテンポラリージュエリーのこれから

彫りの技法を用いたコンテンポラリージュエリー作品を、工芸的な評価(技法や素材の凄さ)だけではなく、作家が作品に込めた思いや背景に目を向けていくことも大切です。

そこで挙がったのが「書」の考え方。
書の歴史的起源は甲骨文字で、彫って文字を書く工程を紙の上で再現したのが「書」なのだそうです。
例えば、墨の濃淡は甲骨文字の彫りの深さを再現しています。
書は単に紙に文字を書くだけではダメで、「バーチャルな彫り」をするように一筆入れる意識が重要なのだそうです。
書にそんな意味が込められていたのが驚きであり、面白さも感じます。

こうした書の持つ文脈のように、ジュエリー作品も工芸的な彫る技法を異なる分野の観点から解釈することで、これまでにない新たな評価が得られるかもしれません。

また、絵画や彫刻にはないジュエリーの特徴に「身につけることによる距離感の近さ」があります。
着用せずとも作品として成り立てば、ジュエリー作品は人との距離感が近い表現方法で、新たな価値を生む可能性があります。

この点は、寺嶋孝佳さんが「24時間アートラジオ/テレビを終えて(note)」でも補足的にまとめていたので、合わせてご覧ください。

6.建築の形式と現代性(若林拓哉、小倉宏志郎)

みなみしまさんとはXのスペース上などで対談したことのある、若林拓哉さんと、「住宅は、批評する(2024、モハマド・エイマール, 大塚優, 小倉宏志郎 著・編)」編集の一人、小倉宏志郎さんも交えたトークとなりました。

2024年の建築本2冊「建築を新しくする言葉(2024、市川紘司, 連勇太朗 著・編)」「住宅は、批評する」を元に、建築の「批評」や「言葉」について議論されました。

若林拓哉(わかばや したくや)

建築家/株式会社ウミネコアーキ代表取締役/千葉工業大学・関東学院大学非常勤講師。1991年神奈川県横浜市生まれ。2016年芝浦工業大学大学院修了。建築設計だけでなく企画・不動産・運営の視点からトータルデザインし、建築の社会的価値を再考する。主なPJに、「新横浜食料品センター」(2025年竣工予定/SDレビュー2022入選)、「mimoro」(2023年)、「ARUNŌ –Yokohama Shinohara-」(2022年)、「欅の音terrace」(2018年、つばめ舎建築設計と協同/2019年度グッドデザイン ベスト100等受賞)等、主著に『わたしのコミュニティスペースのつくりかた』(2023年、ユウブックス)等。

X:@takuya_wakaba

小倉宏志郎(おぐら こうしろう)

建築設計、建築意匠論、建築論。1997年生まれ。現在、東京科学大学技術支援員。現在の興味は建築家の表現、特に篠原一男の作品発表図面を題材に研究を行っている。主な仕事に「から傘の家移築再生計画」(調査、実測、設計協力)、『住宅は、批評する 現代建築家20人の言葉』(共編著、彰国社、2024年)など。

X:@17_L_

建築の「型」をいかに残すか

個人の住宅以上の規模の建築には基本的にクライアントがいて、複数の要望が入るため、建築は社会的な意見や事情を含む、いわば「不純さ」を持った存在といえます。
その中で、建築家が理想とする「型」通りに建てるのは難しいのだそうです。

また、現代建築は形式性や型の強さが抜け落ちていて、物の扱い方やディテールなどの具体的な側面に寄ってきていることも話題に挙がりました。

そうした状況で、建築家はいかに意図する「型」を残しているのでしょうか。
その一例として、建築家・田根剛さんの「場所の記憶」をテーマにした建築が挙げられました。
田根剛さんは「新しい建築を作るだけでは未来はなく、記憶の積み重ねが未来に繋がる」と考えており、その建物は用途を超えて長く価値を持ち続けるように設計されています。

最近の建築家は時代性を強く反映させる傾向があるそうですが、流行は時代と共に価値を失う可能性があり、建築ができた後も価値を持ち続けるかを考えなければいけません。
歴史に残るかどうかの観点からも「建築は社会的な産物であって、ファインアートではない」という考え方は重要といえるでしょう。

若手建築家の現状と可能性

住宅は、批評する」の核となる建築家・伊東豊雄さんのテキスト「脱近代的身体像―批評性のない住宅は可能か(1998年9月)」では、“1990年代の若手建築家たちにネガティブな内向性が見られる”と指摘されています。
現代の建築家はどうかというと、建築の可能性は信じている一方で、建築で社会を変えたり、社会と接続することを根本的に信じていない態度が見受けられるといいます。
その背景には、現代の建築は経済的な制約や機会の減少により、若手建築家が社会に積極的に関われるチャンスが限られていることが挙げられます。

一方で、建築を職能として取り組む難しさはありつつ、ひとりの個人として空間を作り出す力は発揮できるはずです。
それを地でやろうとしているのが建築家・坂口恭平さんで、人の命を救う空間づくりに取り組んでいる意味で、極めて「建築家的な行動」をしているといいます。
良い建築を生み出すだけでなく、建築家が社会と積極的に関わっていくことで、社会を変える可能性を秘めていることが分かります。

建築家が自分の考えを伝えるときの「批評性」

文章が上手い建築家は、その文体から自分の考えや作家としての個性が伝わってきます。
例えば、「住宅は、批評する」の文体を参照してみると、

  • 隈研吾さんの文体は歴史的でクリアに整理されている
  • 伊東豊雄さんは同じ言葉を説明なくずらしていく振る舞いをする

特徴が見て取れるといいます。

他方で、近年の若手建築家はコロナ禍を挟んだこともあり、言葉を語りすぎていると指摘されています。
そうした状況で「住宅は、批評する」がやりたかったことは、作家がやりたいことを説明する時に「批評性」をシンプルに示すことの大切さだといいます。

多くの建物は「今の時代に作られたから現代建築」と見なされがちですが、実際には近代の考え方の延長線上にあるものも多いです。
現代建築では、批評的な視点を持った新しい形式を提示することが重要なのかもしれません。

7.2024年のアートと写真と。(村上由鶴)

写真を中心とした現代アートと、フェミニズムをはじめとした人権が専門分野の村上由鶴さん

秋田公立大学でファインアートの分野(絵画、彫刻、写真など)にあたるビジュアルアーツ専攻の助教を務めながら、専門分野に関するテキストも執筆しています。
2024年は、日本で公開された映画「美と殺戮のすべて」に関連して、美術手帖ウェブ版に写真家ナン・ゴールディンのアートアクティヴィズムについてのテキスト執筆などをされています。

また、2023年に出版した「アートとフェミニズムは誰のもの?」では、高・大学生にも分かりやすくフェミニズムの反差別(すべての差別はないほうがいい)の考え方を共有し、それを身近なところで実践するツールとして、アート作品の見方を紹介しています。

そんな村上由鶴さんによるトークの中から、美大の講評会ハラスメント対策を取り上げます。

村上由鶴(むらかみ ゆず)

1991年生まれ。秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻助教。
単著に『アートとフェミニズムは誰のもの?』(光文社・2023年8月)
晶文社スクラップブック「わかった気になるー反差別の手立てとしてのアート鑑賞」、POPEYE「おとといまでのわたしのための写真論」などを連載中。

X:@yzpiiiiiiya

美術系大学の「講評会」特有のハラスメント

「ハラスメント 種類」で検索すると数十種類のハラスメント用語が並ぶようになり、さまざまな分野で“嫌と感じること”が増えているように思えます。
表現分野でもハラスメントは深刻な問題となっていて、例えば、表現の現場調査団による調査レポート「ハラスメント量的調査白書2024」によると、「ハラスメントを受けた経験があると回答した人の割合が、それ以外の場で働く人に比べて2倍以上」といわれています。

今回はハラスメントの中でも、美術系大学の授業で必須の「講評会」に焦点が当てられました。

講評会とは?

講評会とは、授業で学生が制作した課題作品を並べて展示し、発表する会のこと。教員やゲスト講師などが、作品の良い点や良くなかった点を伝えるものです。

この講評会、作品によっては学生のパーソナルな問題を含むものを講評しなければならず、講師はあくまでも作品に対する批評をしたはずが、学生が人格に対しての言葉と受け取った場合、ハラスメントにつながる可能性があります。
また、講師にとっては高度な言語能力が求められる一方で、練習を積めないまま本番に臨む状況も起きているそうで、その結果、ハラスメントや人権問題につながる可能性があるそうです。

こうした背景から、講評会は「良い講評に出会えるのは稀で、ネガティブな授業のイメージが漂っている」のだそう。
最近読んだキュンチョメのテキスト「講評会や他者からの言葉と、どう付き合ってきたか(note)」からも、講評会を受ける側にとっての気の重さがよく分かります。

講評会で起こるハラスメントの傾きを緩くする3つの考案

学生、講師双方にとってのハラスメントリスクを下げるための対策をした上で、講評会が良い講評の場になり得るか。
トークの中では、講評する側の観点で主に3つの対策が考案されました。

  1. 学生主体で考える講評者のマッチング
    学生にとっては講評されたい人/されたくない人や、1対1/多人数で講評されたい人がいます。このマッチングがうまくいかない結果、講評をネガティブに受け取る可能性があります。
    学生主体で講評者を決める仕組み、もしくは講評会の専門業者を外注できれば、ハラスメントリスクを下げて良い講評会が作れるかもしれません。
  2. 観客がいる前提を共有して講評する
    1対1であること自体がハラスメントにつながることもあり、学生複数人がいることでハラスメントリスクを下げられることもあります。一方で、他の学生を前にして講評されるのが嫌と感じる人もいます。
    そのため、意味のあるダイアローグ(2人以上の対話)にするために観客が周りにいる前提を共有することで、観客に意識を向けた話を考えたり、ある程度の緊張感も生まれ、より良い対話ができるかもしれません。
  3. プライベート言語をパブリック言語に近づける
    みんなが話せないと思っていること(プライベート言語)は技術によって話せるはずで、伝え方を練習することで、みんなの前で話せる言葉(パブリック言語)に変えることができます。
    練習を積む必要があり短期的には難しい側面がありますが、プライベート言語とパブリック言語に分けすぎず、公で語れる言葉を使っていくことも必要かもしれません。

講評は受け流して自分の表現を磨くのも大事

講評する側の観点とは逆に、講評される側の観点で考えた時、「講評によって作品そのものが変わるとは限らない」「その話を聞いた周りの学生が変わることがある」話も挙がりました。

作品に対する感想や批評を受け入れて変えるのではなく、講評は適当に受け流しながら変えていき自立していくこと。
他人の言葉に縛られすぎずに、自身の表現を探究していくためには重要な考え方だと思います。
その流れを闇鍋とすまし汁に例えた話が印象的でした。

鍋に具材を投げていく闇鍋インプットをしている感覚で、そこから上品な清汁ができたりすることがある。その料理テクニックが作家の中にできていくのが嬉しい。

24時間アートラジオ/テレビ2024

作品制作は大なり小なり躁状態と鬱状態を繰り返していくことが多いといわれます。
この躁鬱を繰り返す中でいかに健やかに生きながらマネタイズしていくかの観点で、建築家・坂口恭平さんの活動も注目されました(坂口恭平さんは自らの躁鬱病を公言し、病を抱えながら上手に生きています)
自分自身をどう楽にする方法があるかを知っていくことが、長く表現活動をしていく上で大切な要素なのでしょう。

8.1990年代生まれと人文ウォッチ(植田将暉)

アートと人文系がコラボした、植田将暉さんとのゲスト会。

人文系とは哲学や人類学、文学などの分野のことで、いま人文系がホットとなりつつあるといわれています。
そうした中で、2024年に日本全国の人文系をウォッチするウェブサイト「人文ウォッチ」を開始した植田将暉さんによる、人文系ウォッチと批評の今についてトークが繰り広げられました。

人文ウォッチ|人文系の「いま」を伝えるニュースサイト
人文ウォッチ|人文系の「いま」を伝えるニュースサイト

植田将暉(うえた なおき)

1999年、香川県生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程。専門は憲法学(自然の権利)。また、株式会社ゲンロンで編集・企画などを担当。人文ウォッチャー。

X:@reRenaissancist

人文ウォッチとは?

植田将暉さんは2024年から「人文ウォッチ」をスタートし、日本全国の批評性がある人文系情報を発信しています。

人文ウォッチとは?

人文ウォッチとは、人文系の「いま」をとらえるウェブメディアです。
人文ウォッチャーによる、全国各地の人文系イベント情報や人文書情報、日々のニュースを発信しています。
毎週の人文系ニュースを届けるYouTube番組「今週の人文ウォッチ」では、ネット上で話題になったニュースなどを批評的な観点で取り上げています。

ちなみに、アートで考えた時に、似た活動として1995年に放送局をコンセプトにスタートした「artscape」があります。
美術館のオフィシャルサイトがなかった時代に、テレビ番組表のようにウェブ上で展覧会情報やレビューなどを集約していたそうで、artscapeを見えば網羅的に情報収集ができたそうです。
また、ネットが発達した現代における情報収集の観点でいうと、「Tokyo Art Beat」は網羅性を意識して情報発信していたり、アートライターのぷらいまり。さんがまとめている日本全国のアート関連トピックカレンダーは比較的近い活動に感じます。

一方で、日本全国の展覧会やイベントを網羅するのには量的な難しさがあります。
そのため、アートに関してはSNSで情報を追うケースが一般的です。

このように、誰でも情報を発信できる時代、見やすく整理して情報を集めたものが少ない中で、人文ウォッチは発信者と見る側(オーディエンス)をつなぐ場として革新的な活動といえます。

軽さや自由さを持ち合わせたウォッチャーの可能性

植田将暉さんは、自身に「ウォッチャー」という肩書きを使っています。

作家や批評家などの「プレイヤー」と呼ばれる人になると、自分の立場を明確にして論じる必要があります。
最近では新しいスタイルとして文芸評論家・三宅香帆さんや文芸に寄った書評で活躍するけんごさん、スケザネさんが現れたりと、批評シーンに新たなプレイヤーが増えてきています。

一方、ウォッチャーはプレイヤーから一歩引いた立場で物事を語れる自由さがあることから、軽さや自由さを持ち合わせた新たな可能性があります。

アートの世界にも、多くの展覧会に足を運び、鑑賞した作品をSNSに投稿する「アートウォッチャー」がいます。
アートウォッチャーはプレイヤーではないために、時にネガティブに捉えられますが、私の知る限り美術好きで信念を持って作品を観たり、蒐集したりする人が多い印象で、アートウォッチャーならではの情報発信が価値を生んでいるとも思います。

植田将暉さんの活動は人文系に限らず、広い意味でウォッチャーにポジティブな見方を与えていくかもしれません。

「アツいか、ヌルいか」がウォッチャーの判断基準

批評家とウォッチャーの違いは、評価の基準(軸)の数にある点も紹介されました。

  • 批評家は、どのように批評するかを複数の軸で考え、複雑にロジックを作り評価していく
  • ウォッチャーは、ウォッチするか、しないかのほぼ1つの軸で考え、広く見ていく

例えば、人文ウォッチの場合はイベントが「アツいかヌルいか」というシンプルな軸で判断しているそうです。
主張や判断、評価に凝り始めると批評家寄りになることから、基準はシンプルにしているのが分かります。

また、ウォッチャーはたくさんの情報を広く集める動き方になるため、ウォッチ対象をどこまでに定めるのかの全体性も気になるところです。
人文ウォッチでは人文系の情報集約をどこまで網羅するかの領域策定をしながら、基本的に「全部見る、全部読む」をスタンスにしているそうです。
例えば、あるキーワードでGoogle検索したときに、直接関係なさそうな情報も含めてすべてチェックするような全体性を重視しています。

情報をまとめた投稿がSNS上でバズりやすいように、スプレットシート的にまとめられた情報が世の中的に求められていることから、こうした現代のニーズに合った人文ウォッチの活動は今後も注目が集まるでしょう。

9.パフォーマンス(芳賀菜々花)

ゲストトークの合間に、芳賀菜々花さんによるパフォーマンスが行われました。

芳賀菜々花(はが ななは)

2000年生まれ、国分寺で過ごしている。2023年秋より即興パフォーマンスを始める。いま・ここに、なぜじぶんがいる必要があるのかを考えながらパフォーマンスをしています。

X:@hagachong

「今年あった一番苦しかったこと」を払い去るパフォーマンス

観客が紙に書いた合計108枚の「今年あった一番苦しかったこと」をBankArt KAIKOの壁中に貼り出し、それを読み上げ、墨汁をつけた針を自身に刺しながら紙にキスをするパフォーマンス。
108から連想される煩悩は「人間の心身を悩ませるものを意味する仏教用語」で、それを身体に刻みつつ、キスで苦しみを浄化しているようでした。

年末に行う意味で、除夜の鐘を108回鳴らすシーンとの重なりがあるのではと感じました。
108個ある苦しみを針でひとつ刺すごとに消して、来年は幸せな一年を過ごしたいという願いが、パフォーマンスにも込められているのかもしれません。

パフォーマンスの最後には自身の腹に針を突き立てており、切腹を想起させます。
自らの真心と潔白を示す意味合いで捉えた場合に、自身に針を刺して蓄えた「今年あった一番苦しかったこと」を残らず払い去る表現に見て取れました。

10.偽史と教養主義(石橋直樹)

第一回の24時間アートラジオでは民俗学について話していた石橋直樹さん、最近は国学者・平田篤胤(ひらた あつたね、1776 – 1843)に転向し、近世思想史や文学について研究しているそうです。
直近のテキストでは「批評の歩き方」の柳田國男論や、「近代体操」に右翼論(切腹から話が始まる、独自の主張を含めた論考)を執筆しています。

今回はコロナ禍以後の切断からどう文脈を復活させるかとして、教養主義について話しました。

石橋直樹(いしばし なおき)

2001年神奈川県生まれ。近世思想史、民俗学。
論考「ザシキワラシ考」で2020年度佐々木喜善賞奨励賞を受賞、および論考「〈残存〉の彼方へ―折口信夫の『あたゐずむ』から―」で第29回三田文學新人賞評論部門を受賞。その他、論考「『二重写し』と創造への問い―『君たちはどう生きるか』の引用の思考」(『現代思想』10月臨時増刊号所収)、論考「看取され逃れ去る『神代』―平田篤胤の世界記述を読む」(『現代思想』12月臨時増刊号所収)など。

X:@1484_naoki

偽史の全体性 ― 教養主義が生み出す新たな歴史観

実際にはなかった歴史を事実のように述べる「偽史」には、大衆を引きつける力があります。
例えば、江戸時代に人々が傘を傾ける傘かしげの習慣があった話は有名ですが実際の歴史的証拠はなく、たとえ事実でなくても多くの人々の興味を引く力を持っています。

このように、偽史には誤解が真実のように受け取られる危うさがある一方で、偽史を考えていく思考には人々を動かす革命性があるともいえます。
そうした偽史の可能性と、それが陰謀論で片付けられないために全体性を捉えるための教養主義の考え方について語られました。
具体的には、世界中の思想・芸術・哲学・宗教の「知」が集まった「岩波文庫 青」などを参考にしながら正統的、教科書的な正史を学んだ上で、偽史を含めた全体性を捉えていくイメージ。
世界を変えてきた知識を獲得した上で叙述される偽史は、複雑なものを単純化しようとする発想の中で生まれてくる陰謀論とは異なる革命性をおびていくかもしれません。

ちなみに、偽史を美術的に捉えた「アートが提示する2つのモデル」の話も印象的でした。

  1. ありえるかもしれない未来をアートによって先取りして提示するモデル
  2. ありえたものの潰えた未来をアートを通じて提示するモデル

2つ目がいわゆる「偽史」の考え方で、「本当の歴史はこうあってほしい」の願望が含まれ、現代の固定概念に対抗する力を持っています。
こうしたアート作品が多くの人に支持されることで、アートを通じた社会の変革が起こる可能性があります。

コロナ禍後の断絶から文脈をどう復活させるか

トーク終盤では、コロナ禍を挟んだことによる世代間の文脈の断絶が話題になりました。

文脈の断絶とは、トークの中で話題となった内容でいうと、

  • (登校しないために)構内の図書館の本の貸し出し履歴がコロナ禍以後は更新されておらず、学生が本の借りなくなっている(借り方が分からなくなっている)
  • (大学内の書店で)コロナ禍以前は大学内の信頼されているXアカウントが推薦する本が売れたが、以後はどの本が売れるのか見えなくなった

になります。

このように、みんなで共有していた文脈が失われると、学校や世代間で受け継いできた文化が「焼け野原」のように何もない状態になってしまいます。
そこで、昔からの知識や文化といった教養主義的な要素を参照しながら、再び文脈を取り戻していく点が、難易度はありつつも意欲的だと感じました。
文脈があることによる歩きやすさがある反面、ある種の想像力の限界が生じている1990年代と、文脈がない中で奮起し進んでいく2000年代の間に、文脈の分岐点が生まれていることが分かります。

ちなみに、椹木野衣さんの「震美術論(2017)」のテーマである大地と震災の話題から、美術分野でよく引用される鴨長明の「方丈記」の無常感が取り上げられました。
この無常感は震災と結びつけて考えられることが多く、2025年に向けて日本文化がどのように変わるのか、今後の課題として挙がりました。

11.2024年の都市と建築(新城一策)

中国・西安に滞在中の新城一策さんとのトークでは、「2024年の都市と建築」をテーマに、都市化が生活に及ぼす影響と、世界と日本の建築の違いを中心にトークが広がりました。

新城一策(しんじょう いっさく)

1990年代生まれの都市計画、建築設計、現代美術、演劇批評等に携わる実践者、研究者たちによる連名集団。
代表の興味は都市再生、再開発の時間、空間と身体、住宅と精神分析、身体の都市など多岐に渡る。定期的に議論を交わし、その議論の様子が『地下演劇第七号』に納められ、今年春刊行された。

X:@00ur0b0r0s

都市は誰のものか

都市の再開発が進むと、もともと誰でも使える公共の場所が、タワーマンションや商業施設といった私的・商業的な空間に変わってしまいます
その変化は、例えば、東京で歩き疲れて休もうとしても、公共空間のベンチではなくカフェに入ってお金を払う状況からも体感できます。

新城一策さんとのトークでは、暮らすだけでなく、過ごすためにもお金を使わないといけなくなっている都市の状況に対して、建築家ができることを考えていく議論がなされました。

新城一策さんは建築の中でも、現在は公共施設や都市計画メインに建築設計をしています。
都市計画に関わる建築は複数の立場の人の圧力や要請で揉まれる中で設計が決定していくそうで、その中でいかにエッジの効いた建築家の批評性を残せるかが重要といいます。

たとえば、都心では規制が緩和されてタワーマンションが乱立しましたが、少子高齢化や人口減少といった社会の変化によって、これらの建物が本来の役割を果たせなくなってきています。
こうした中で、時代の変化に取り残されない建築を生み出すことで、都市が「みんなのもの」として機能する可能性があります

公共建築の批評性と実現の難しさ

暮らしの幸せを考えた時に、現代の都市生活で家庭を築くことにはハードルがあります。

東京で結婚し世帯を持とうとしても、借りるための家賃は高価で、家を購入する場合もローンを組んで返済するのが当たり前の状況で、居住ができたとしても部屋は狭くなりがちで、結果的に結婚する気も起きないケースがあります。
実際に、住居とお金の問題は結婚の大きなハードルになっていると思います。

住宅が狭くなっている状況下で、公共空間を広く使えるようになれば、家庭環境の問題もある程度は改善される可能性があり、暮らしに豊かさが生まれるかもしれません
そこには予算の都合や商業化の影響による公共空間の縮小という課題もあります。
この課題をいかにクリアしていくかによって、姿を変えつつある公共空間の存在意義が増すのではと感じるトークでした。

都市の魅力を決めるものー日本と海外の違い

海外の公共施設を参考に「良い公共施設とは何か」を考えると、国ごとの建築に対する制約の違いが、公共空間のあり方にも大きな影響を与えていることが分かります。

日本では多くの規制の上に公共施設がつくられるのに対し、海外では「場所を最大限に活用する」精神があり、柔軟な活用がされているのが特徴です。

例えば、《台中国立歌劇院》(台湾、伊東豊雄設計)は、洞窟のような特殊な構造の通路を使ったプロジェクションマッピングの新作展示をするアーティスト・イン・レジデンスが行われています。
ここではオペラを見に来る人とアートを楽しむ人が交わり、公共施設の多様な使い方が実現しています。

一方で、日本ではこうした取り組みをあまり見かけません。
施設利用上の制約にもよりますが、台湾では「テック」という言葉を使って物理的な場所を占拠することなく公共施設の通路を使うことで、公共空間の用途を広げる工夫がされています。

また、2024年に完成した麻布台ヒルズの建築を手がけたトーマス・ヘザウィックが設計した《萬象城 生命之樹》(中国・西安)は、兵馬俑で知られる西安の新たなランドマークになっています。
古観音禅寺の一本のイチョウの巨木「千年銀杏樹」からインスピレーションを得たという建築の中央には「生命之樹」と呼ばれるシンボルがあり、それだけを見に訪れても楽しめる空間になっています。
シンボルを見にいくだけで満足できる点に、都市における公共空間の在り方を考えるヒントがありそうです。

一方の日本はというと、例えば、2025年の大阪万博のシンボルは「リング」とされています。
「リング」の直径は675メートル、これは東京スカイツリー(634メートル)を横にしたくらいの長さで、1970年の大阪万博のシンボル「太陽の塔」や「生命之樹」のように全体像を写真に収めにくいことがわかります。
「観にいきたい」「写真を撮りたい」の欲求が生まれるシンボルかは、特定の人だけでなく、みんなが集まる魅力的な都市を作る上で大切な要素になるでしょう。

12.夜の会(美大生カタリバ)

夜の会では、2024年に発足したアートユニット「現代抵抗」の小門晃さん、平形颯良さん、三田航平さんを中心に、昨年の24時間アートラジオでトークをしたAVAの坂下剣盟さん、小野まりえさんも途中参加しました。
制作の話からアートアクティビズム、パブリックとプライベート、美術の高尚性など、幅広い話題について議論が繰り広げられました。

議論は話題を慎重に扱いながら一個ずつ詰めていく、真面目な雰囲気がありました。

現代抵抗@gendaiteikou

2024年9月に結成した東京造形絵画専攻3人からなるアートユニット。社会に対して等身大で行うプロテストを目指し、実践している。
トーク参加メンバー:小門晃、平形颯良(@hirakataso_love)、三田航平(@huminkaichan_mk

AVA@space_ava_ars

美術大学に在籍する学生や若手作家を中心として立ち上げられた団体で、『人や情報が出会い交わり、新たな表現をつくること』を目標とした研究をする場。
トーク参加メンバー:坂下剣盟(@b8ucir)、小野まりえ(@pomoapi

「現代抵抗」発足のきっかけとなった展覧会

「現代抵抗」はガザ問題に抵抗するアートユニットです。
SNSから流れてくるガザ問題に対して、抗議への参加表明を半ば脅迫的にイェス/ノーで答えさせる風潮に、私的な判断が侵略されている感触への違和感を感じたそうです。
そうした背景から、考えている人と考えていない人がいる事実を踏まえた上で、ガザ問題に対しどう干渉していけるかを模索した作品を制作しています。

現代抵抗の発足のきっかけとなった、東京造形大学の芸術祭展示企画「目を見開く。暗闇を見続ける。」(2024)がトークの中で紹介されました。

「目を見開く。暗闇を見続ける。」はイスラエルによるパレスチナへのジェノサイドに対抗するために企画された展覧会です。
展示空間にはステートメントの書かれたプラカードと2つのくじ引きが置かれ、その周りは黒く塗りつぶされた新聞紙で囲まれています。

2つのくじ引きの作品《確率》は、性別の書かれたくじが置かれていて、それを引いても引かなくても良い、というもの。
くじには150枚のくじが入っていて、そのうち他と異なる1枚(もしくは2枚)のくじを引く確率が、ガザで戦死した人の割合と同じになるように設定されています。
「生まれた場所が違えば、私にもありえたかもしれない」ことを疑似体験するような作品です。

また、黒く塗られた《黒い新聞紙》は、日本の戦後の転換点を物語る、黒塗り教科書の文脈から引用しているそうです。ただ、作品はよく見ると文字は完全に消えていません。

展示作品は、確率による疑似体験や、隠された情報をどう受け取るかによって、ガザ問題に対する認識の変化を促しているようです。

トークの中では確率と偶然の違いについて触れられていて、予知可能なものの上で選ばれているか、作為されていないものの上で起きているかの議論も興味深かったです。

「プロテスタント」の強い言葉を柔らかく変換した作品

ガザ問題への触れにくさを生んでいる要因に、「プロテスタント」という言葉の持つ強さについての観点が挙がりました。
そこで、現代抵抗の小門晃さんは「作品を通して優しい形に変換できないか」を試みたといいます。

作品は、サムライマックの手作りレシピを漫画でまとめたZINEです。
制作背景には、マクドナルドなどの米国企業がイスラエル軍を支援しているとの疑いから、中東諸国で同社をボイコット(不買)する動きと関係しています。
小門晃さんはガザのプロテスタントとしてマクドナルドを食べないようにしていた一方で、サムライマックが好きで食べたくなる自分もいたそうです。
そのため、サムライマックの味を思い出しながら8回の試行錯誤を経て、レシピを漫画にまとめた30ページほどのZINEを制作、無料配布しました。

プロテスタントを感じさせない形にうまく変換された作品は、親しみやすくも考えるきっかけを与えてくれる良い例に感じました。

志を持つ人同士が、同じ地平で物事を考える空間

夜の会は他にも、「パブリックとプライベート」「アートとアクティビスト」「みんなと公共性」「美術における選民意識」などについて、白熱した議論が深夜・4時間に渡り繰り広げられました。

どの議題に対しても、トークメンバー同士で意見を交わし、答えではなく、より良い方向を見つけていくように議論を進めていく場となっていました。
そうした、皆が同じ地平で物事を考える空間自体に、美しさを感じました

現代では「2024年のアートと写真と。(村上由鶴さん)」でも語られたように、ハラスメントへの配慮から、適度な距離感を保つコミュニケーションが主流になりがちです。
しかし、夜の会は、程よくパブリックな場でありながら、お互いを尊重しつつも、自分の意志をのせた言葉が飛び交う空間となっていました。

また、トーク中でも引用されていたBゼミ- 新しい表現の学習の歴史(2005)の「パブリックとプライベート」の項目には、「個人は社会に決められる存在ではなく、自分の意志で関わっていける場があれば、その個人を育てることとして美術教育を発展させるべき」という趣旨の文章があるそうです。
24時間アートラジオ/テレビの美大生カタリバは、「自分の意思で関わっていける場」としても機能しているようでした。

13.キュレータートーク(渡辺俊夫)

朝5時からはキュレーターの渡辺俊夫さんをゲストに、地方から見たアートシーンについての突発キュレータートークが開催されました。

渡辺俊夫(わたなべ としお)

学芸員、キュレーター。

X:@watanabetoshiwo

都市部に集中する年間のベスト展覧会

美術系メディアによる2024年ベスト展覧会を都道府県別にマッピングしてみると、話題の展示の多くは東京などの都市部に集中しているのが分かります。

2024年ベスト展覧会で取り上げられた都道府県と数(有識者編)
  • 美術手帖:有識者が選ぶ2024年の展覧会ベスト3(14名)
    • 東京(23個)、神奈川(5個)、京都(4個)、千葉(2個)
      栃木(1個)、大阪(1個)、兵庫(1個)、奈良(1個)、鳥取(1個)、福岡(1個)、熊本(1個)、大分(1個)
      韓国(3個)、イタリア(2個)、香港(1個)、リトアニア(1個)、批評同人誌(1個)
  • ぴあテン アート:ぴあ執筆陣が選ぶ2024年のマイベスト
    ※〈これも良かった!〉は除く
    • 東京(15個)、埼玉(2個)、岐阜(2個)
      青森(1個)、大阪(1個)、京都(1個)、奈良(1個)、兵庫(1個)、岡山(1個)、イタリア(1個)、映画(1個)
2024年ベスト展覧会で取り上げられた都道府県と数(読者編)

秋田公立美術大学の村上由鶴さんもトークの中で「秋田にいると作品を生で見る機会が少ない」と話している通り、美術館/ギャラリー数、展覧会の開催数が多く話題性のある展示が都市部に集中しているのが主な理由と推測できます。

他方で、見逃されている地方の展覧会もあるのでは、とも見て取れる結果です。

地方の展覧会を取り上げる書き手の必要性

キュレータートークではベスト展覧会に地方が取り上げられていない理由に「地方の展覧会に足を運び、取り上げる書き手が少ない」ことが挙げられていました。

展覧会はその場で決められた期間しか観れないものです。
地方に足を運べる書き手がいないと、面白い展覧会だったとしても第三者による記録がされることなく、過ぎ去ってしまいます。
そうなると、鑑賞者も展覧会の情報をキャッチできずに、認知される機会がないまま見逃されることにつながります。
また、都市部を拠点とするメディアでは、各地の細かいリサーチをする予算も時間も人員も足りず、フォローアップできていない現状があるとも聞きます。

そのため、地方に足を運べる書き手とメディアの連携が、地方の展覧会を盛り上げていく手段の一つになりそうです。

こうした地方の展覧会を取り上げる書き手の少なさを聞いて思い出すのが、47都道府県にひとり、ローカルアートライターを置くことを目指すプロジェクトLocal Art Writer’s School(LAWS)の取り組みです。
地域に根ざすアートライターを置くことで、大手/各地方メディアとライターが連携し、各地方の情報をフォローアップしやすくなる考えのもと、ちょうど2025年からスタートしたプロジェクトです。
こうした取り組みをきっかけに、ベスト展覧会のマッピングが色づいていくといいなと思います。

14.アートライティングの交通整理:書くために読んだ30冊(Yzm)

大学で専門的な教育を受けていない人に向けて、展覧会や生活の中で文章を書きたいと思ったときにどんな本に助けを求めたら良いか、30冊+αのYzmさん独自のマッピングをもとに紹介されました。

「暗黙知ゼロで、誰も置いていかずに独学できる」ようにまとめられた1時間は、駆け足ながらも要点を凝縮された情報が詰まっています。

Yzm(Yズミ)

写真を用いた制作を行う傍ら、ネットプリントで「写真について」という小冊子を制作・配布。その他、展覧会レビューや、未邦訳文献の一部邦訳と解説、映画の紹介・上映会などを勝手に発表中。

X:@Wassionate

アートライティングを独学で学ぶための30冊+α

独自マッピングされたアートライティング関連書籍を、紹介コメントを含めてまとめました。

アートを学んでいる人からそうでない人まで、独学でアートライティングをしていくために読みたい本が紹介されています。
気になる一冊から手に取ってみても良いでしょう。

  1. 独学する心構えに
    1. 独学大全(2020、読書猿):学ぶ機会も条件も与えられないうちに自らの学びの中に飛び込み、継続するための本。
  2. ライティングのジャンルを把握する
    2. 誰よりも、うまく書く(2021、ウィリアム・ジンサー 著, 染田屋茂 訳):ノンフィクション・ライティングの不朽の名著の邦訳。ジャンルの把握が大事。英語版もおすすめ。
  3. アカデミック・ライティング(論文)の世界
    論文の書き方が分かると、2つのことがわかります。
    ・仕事や生活の中で論証を書く能力が日常の中で役立つ
    ・謎に包まれたアカデミックの世界を覗き見ができる

    論文はもう一段階「人文学」と「社会科学」に分けられます。
    ・人文学:美学、言語学、倫理学、哲学、思想・民俗学など
    ・社会科学:法学、政治学、経済学、経営学、社会学、心理学など
    分野が違うと、論文の形式や研究方法、題材へのアプローチが異なり、著者のアカデミックなバックグラウンドによっても書き方が変わってきます。
  4. 書くための言葉を扱う技術本
  5. アートライティングと批評の本
  6. 翻訳の本
    単語レベルで訳していくのとは違う、翻訳の世界があることが語られている本た血です。
  7. アートライティング導入本
  8. 番外編

15.レジリエンスとバイカルチュラリズム:展覧会ベストと映画ベストを通じて(伊藤結希)

第一回の24時間アートラジオ出演に続き、イギリス・バーミンガムから中継で、伊藤結希さんイギリスの展覧会、映画ベストを振り返りました。

伊藤結希さんは直近で芸術新潮に「多様性時代のみんなのターナー賞」と題したテキストを寄稿しています。

伊藤結希(いとう ゆうき)

執筆/企画。東京都出身。多摩美術大学芸術学科卒業後、東京藝術大学大学院芸術学専攻美学研究分野修了。草間彌生美術館の学芸員を経て、現在はフリーランスで執筆や企画を行う。20世紀イギリス絵画を中心とした近現代美術を研究。

X:@itohhhhh02

「レジリエンス/バイカルチュラリズム」とは?

2024年の映画と展覧会を考えていく中で、キーワードとして「レジリエンスとバイカルチュラリズム」が湧き上がってきたそうです。

レジリエンス/バイカルチュラリズムとは?
  • レジリエンス
    脆弱性の逆、回復力、復元力、再起力のこと。変化する環境に合わせて自分自身が変化する柔軟性(適応力)のニュアンスも。
  • バイカルチュラリズム
    二文化併存のこと。一人の人間の中に二つの文化が息づいている、もしくは、一人の人間が二つの文化の中で生きている。

この2つの言葉を手元に置きつつ、ベスト映画/展覧会をチェックしていきましょう。

2024年のベスト映画

  1. The Outrun
    29歳の大学院生の女性がアルコール依存症から、他者や自然との交流を通じて回復するお話。スコットランドの・オークニー諸島にあるセルキー伝説(アザラシが人間になる伝説)と重ねるように、主人公が海に入るごとに回復していく、自然とエネルギーを交換するレジリエンスとしての映画。
  2. 貴公子
    韓国/フィリピンミックスの男たち(コピノ)が有害な男らしさに一矢報いる意欲作。経済的、社会的、文化的に差別されてきたコピノが家父長制度の解体に向かうお話。
  3. 異人たち
    異人たちとの夏(1991、山田太一 著)」を原作にした映画で、舞台をロンドンに、主人公をゲイにする変更を加えている。メイントピックが「孤独」で、両親との時代的な価値観の違い、ゲイ同士の異なる価値観による溝が描かれている。孤独と対話という大人なテーマ。
    孤独を受け入れる、現状を耐えうる適応としてのレジリエンスが描かれている。
  4. アーガイル
    男性性/女性性の両方を併せ持った自分をそのものとして認める強さが、ある種のレジリエンスが描かれているといえる。
  5. Paddington In Peru
    パディントンシリーズの完結編と言える内容で、日本では2025年5月に公開予定の作品。イギリスのパディントン駅でブラウンファミリーに助けられ居候する物語で、シリーズ中では植民地主義的な描写も描かれつつ、今回は故郷のペルーに帰るお話。
    パディントンにとってのホーム(家)がイギリスのブラウン家か、故郷のペルーのどちらかが描かれていて、移民にとってのホーム(家)について考えさせるお話。

2024年のベスト展覧会

  1. Donald Rodney「Visceral Canker」(Nottingham Contemporary、Nottingham)
    1980年代のイギリスのブラックアートムーブメントで活躍した黒人男性作家、Donald Rodney(ドナルド・ロドニー)。鎌状赤血球貧血を患っていたため、制作も生活も難しくなっていった。展覧会名「Visceral Canker」は“心や身体の奥底で感じる病”のようなニュアンスで、作家自身の病気と80年代のサッチャー政権にあった“激しい人種差別という一種の病気”のダブルミーニング。病と人種差別が共存した作品を制作している。冷静な作品制作をしていて、怒りとは別の淡々とした手法で告発し、批判するような作品が印象的。
  2. Unravel「The Power and Politics of Textiles in Art」(Barbican Centre、London)
    現代美術や美術史で過小評価されているテキスタイル(布)に焦点を当てた展示。現代でテキスタイルの展示というと、大体が女性の手仕事に注目したフェミニズムの方向につながるが、本展は国、時代、作家に対する幅広くレベルの高いリサーチをもとにした展示がされていた。例えば、地図の境界が線で表現される点に焦点を当てた「フィリピンの植民地化された歴史を刺繍で表現した作品」や、政治の中でテキスタイルがどのように使われてきたかを紹介する作品を展示。破れても縫えば回復する、小さくまとめてどこにでも持ち運べるところに、テキスタイルの新規性があった。
  3. Kim Lim「Space, Rhythm & Light」(The Hepworth Wakefield、Wakefield)
    ロンドンを拠点に活動した、シンガポール生まれの中国系アーティストKim Lim(キム・リム)の回顧展。キム・リムはアンソニー・カロの教え子で、工業的で一色に塗り潰した無機質な彫刻を制作していた。前半はイギリスの美術に影響を受け暗中模索をした時期がありつつ、後半になるとアジアの自然を参照して石を素材とした彫刻を中心に、リトグラフによる版画制作。単に立体作品を平面に落とし込むのではなく、2者が共存している。そこに、シンガポール生まれとイギリスの長い生活の狭間で自分の表現に悩んでいた変遷を感じることができる。
  4. Lygia Clark & Sonia Boyce(White Chapel Gallery、London)
    ブラジル人アーティストのLygia Clark(リジア・クラーク)と、カリブ系黒人アーティストのSonia Boyce(ソニア・ボイス)による展示。ソニア・ボイスがリジア・クラークの参加型作品からインスパイアを受け開催された企画展。企画展にはリジア・クラークの幾何学模様の絵画が展示されている。その絵画に見られる「ネガティブ/ポジティブの関係」が一体になる視覚的な要素と、《動物》シリーズに触れられる参加型アートの「参加者と触れられる対象」が一体になっていくことの関係性の一致を発見できる展示。細分化された他者との関係性を元に戻していくことへの関心があるように感じられる。ブラジルアートシーンは今後重要になっていく意味でも、重要なアーティスト。
    リジア・クラークは日本だと金沢21世紀美術館に収蔵されている《動物》シリーズで知られている。
  5. Dion Kitson「Rue Britannia」(Ikon gallery、Birmingham)
    Dion Kitson(ディオン・キットソン)は労働者階級出身のバーミンガムの作家。労働者階級だからこそ馴染みがあるものを会場で表現していて、見えていなかったものが見える構成の展示に。例えば、機械いじりをする人物の展示や、掃除モップをビリヤードのキューに用いたりしている。労働者階級を批判しているわけではなく、プロテストではない健やかさが含まれ、その中で生きていくたくましさが描かれている。

16.没入談義:絵本、信仰、テーマパーク(渡辺健一郎、今野恵菜)

2022年に閉館したお台場のヴィーナスフォート跡地に誕生した「イマーシブ・フォート東京」、ポケモンカードを手軽にコレクションできるアプリPokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)に初登場したポケモンカードの新しい表現「イマーシブカード」。
2024年は「イマーシブ(没入)」が一般用語として広まった年だったと思います。

リアル/バーチャルで没入体験が流通し始めた今、演劇の観点でイマーシブについて考えるトークが俳優・批評家の渡辺健一郎さんと元山口情報芸術センター(YCAM)でエクスペリエンスデザインを担当していた今野恵菜さんと共に繰り広げられました。

渡辺健一郎(わたなべ けんいちろう)

俳優、批評家。1987年生、横浜市出身、高槻市在住。早稲田大学大学院文学研究科表象・メディア論コース修了。ロームシアター京都リサーチプログラム「子どもと舞台芸術」2019-2020年度リサーチャー。演劇教育の実践経験と、哲学的思索とを往還した文章「演劇教育の時代」で第65回群像新人評論賞受賞。著書に『自由が上演される』(講談社)。追手門学院大学非常勤講師(2023年~)。

X:@w_kenichiro

今野恵菜(こんの けいな)

慶應義塾大学環境情報学部環境情報学卒。同級生たちと「乙女電芸部」を立ち上げ、自分の欲しいものを自分で作ることをテーマにしたワークショップ・イベントを多数開催。 2013年4月から2024年9月まで、山口情報芸術センター[YCAM]にて、映像エンジニア/デバイス・エンジニア、およびプログラム/エクスペリエンスデザイン担当として勤務。展示制作やパブリックプログラムの企画に携わる。

没入を意味する「イマーシブ」とは?

没入にはimmersion(イマージョン)とabsorption(アブソープション)の2つの言葉に大別されます。

  • immersion(イマージョン):観客の存在はある状態で作品世界に入り込んでいくこと。原型は残した状態で沈んでいくイメージ。
  • absorption(アブソープション):観客の意識が作品世界に吸い込まれること。同化して渾然一体となるようなイメージ。

この2つの言葉のうち、前者のイマージョン(以後、イマーシブと表記)の没入を考えていきました。

イマーシブは元々、制作側が作品制作に没頭する意味で使われていたところから、2000年代にイギリス演劇の文脈でイマーシブシアター(観客参加型の演劇)が流行り始め、次第に幅広い分野で使われるようになります。

トークの中では、絵本「しろくまちゃんのほっとけーき」を子どもに読み聞かせるとき、ホットケーキを作るシーンで子どもが何度も同じページを読みたがるのは、絵本の世界に夢中になっている(意識ごと没入している)状態だと考えられます。
また、ポケポケの「イマーシブカード」も、イラストの世界に飛び込んでいるような感覚を体験できる意味で、観客を世界観に誘う表現が用いられています。

つまり、普段私たちが体験している「夢中になる感覚」も、イマーシブな体験といえます。

現代において「イマーシブ」は価値の高い体験に

現代は注意を逸らされる誘惑が多く、例えばNetflixで映画を見ているときにスマホに気を取られて集中できないことが日常的にあります。
そんな中、ひとつのこと集中して没入できる「イマーシブ」は、非常に価値のある体験です。

ディズニーランドのアトラクション「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、イマーシブが高いレベルで生み出されている良い例として挙げられました。
「踊るように動くカップに乗って、真実の愛を描いたものがたりの世界へ」入るアトラクションで、中でも注目されたのが「パーティー会場で踊る」場面。
踊るように動くカップに乗ると、まるで自分が本当に踊っているかのような感覚になり、音楽や視覚効果で、作品の世界に深く入り込ませたといいます。

美女と野獣は幅広い世代に作品の文脈が共有されていることから、世界観に入るハードルの低さがありつつ、専門家目線でもイマーシブを生み出す工夫が凝らされていたようです。
作品の世界観に入る恥ずかしさ・戸惑いを感じる人が多い中で、周りを気にせずにノリやす区なっている点も、イマーシブ体験として美女と野獣のアトラクションはよくできています。

他にも、「イマーシブ・フォート東京」の演出のひとつにあった筋トレは、肉体的な疲労がイマーシブにつながっていく発見があったそうです。

良いイマーシブ体験を得るために必要なこと

良いイマーシブ体験を作るには、以下の2点が必要である点として挙げられました。

  • 個人に与えられる役割(どの立場に置かれているか)が明確なこと
    参加者が自分の役割や立場を理解できれば、どのように行動すれば良いかがわかり、より自然に作品の世界に入ることができます。
  • 個人が求めているインタラクション(相互のやり取りや掛け合い)の合致
    参加する人それぞれが求める体験は違います。もし、情報ややり取りの強さをうまく調整できれば、どの人にとっても心地よい没入体験ができるでしょう。

長尺でのイマーシブを実現するノウハウが蓄積していった先で、良いイマーシブ体験が身近になっていくかもしれません。

イマーシブ・フォート東京は2025年3月によりディープな世界観でリニューアルオープンしたり、美術分野でも「動き出す浮世絵展 TOKYO」や「モネ イマーシブ・ジャーニー 僕が見た光」など、2025年も注目の分野となりそうです。

17.アートボランティアとイマーシブ(東孝彦[あづまっくす])

世界で最初のアートプラクティショナー(美術系の職種ではないけど、鑑賞者より踏み込んだ活動をするアート実践者)として活躍されている東孝彦(あづまっくす)さん

「終わりなき記憶の旅 デ・キリコ展(2001、bunkamura ザ・ミュージアム)」の形而上絵画と、「細江英公の写真 1950-2000(2001、松濤美術館)」の写真作品をきっかけに、アート鑑賞にハマったそうです。
そこから、会社員を続けながら2005年に横浜トリエンナーレでのボランティア、2007年に東京都現代美術館の常設展示ガイド、2008年には有資格者200 – 300人程度といわれる美術検定1級を取得されます。

そんな、専門家と鑑賞者の中間的な立場で活躍するあずまっくすさんから見たアートの20年を振り返りました。

東孝彦(あずま たかひこ/あづまっくす)

2001年より美術展通いをはじめ、2005年横浜トリエンナーレで初ボランティア。そこで味をしめ、翌年から東京都写真美術館、東京都現代美術館で活動開始。銀座の画廊やアートフェアでのガイドや、最近では、自主企画として森美術館でのツアーも行っている。ガイドのみならず、美術検定1級アートナビゲーターとしてヨックモックミュージアムでのSNS広報アンバサダーなど、幅広い活動を行っている。
2024年4月に美術館に関するネタや調査研究をする、ABC美術館研究所をスタート。

X:@Az_Takahiko

アートボランティアで作られる「新たな居場所」

ひとりでアート巡りをする人にとって、ガイドツアーをはじめとしたアートボランティアは関わる機会が少ないと思います(私もその一人です)。
そんな私にとって、20年近くアートボランティアをされているあずまっくすさんのお話は、ボランティアやガイドツアーの魅力を知ることのできる内容でした。

まず、一言にガイドといってもその対象はさまざまで、例えばで以下のボランティアが挙げられました。

  1. 東京都現代美術館ガイドスタッフ
    現代美術を紹介するコレクション展の解説をして、作品鑑賞の楽しさを伝えていくボランティア活動。あずまっくすさんは2007年から継続して参加。
  2. 画廊の夜会」ギャラリーツアー(銀座ギャラリーズ主催)
    基本は画廊巡りをして、ギャラリースタッフや美術作家とお話するイベントですが、移動中に銀座の成り立ちや周辺のアートスポットの紹介もされるそうです。
  3. 対話型鑑賞
  4. 芸術祭ガイドツアー
    あずまっくすさんは高井戸芸術祭2024でガイドツアーを実施。
  5. Tokyo Gendai ツアーガイド
    現代アートに特化した国際アートフェアのツアーガイドでは、作品購入にも興味が湧くようにガイドを実施したそう。

参加者の目的、興味に合わせて話す内容を変えるためには、深い知識と良いコミュニケーションが必要になると思われます。
あずまっくすさんは、社会人になってからアートを学んでいった経験があるから、観客に共感できるポイントが多いそうで、それがガイドツアーのコミュニケーションにも反映されてうまくバランスのとれたガイドにつながっているように感じ感じます。

一方で、こうしたガイドは常に情報をインプットしなければいけない大変さもあるといいます。
その中で、20年近く継続できているのは「100人に1人でも、次の世代の人たちが美術に興味を持ってくれたらという期待感」を持っているからなのだそうです。
実際に、あずまっくすさんのガイドツアーをきっかけに美術系の職種についた人がいたそうです。
アートガイドは次世代が美術に触れる大切な「居場所」を作る役割も果たしているのが分かります。

美術におけるイマーシブ体験の可能性

没入談義:絵本、信仰、テーマパーク(渡辺健一郎さん、今野恵菜さん)」の中でもキーワードとなっていた「イマーシブ」を美術系の視点でみるとどうなるかも話されました。

例えば、「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」(2024、ヒカリエホール)を鑑賞したとき、後方からの鑑賞は面白くないけれど、スクリーンから3メートルくらいの距離に立って鑑賞すると、時間を忘れて作品世界に浸ることができたそうです。
こうしたイマーシブ体験は絵画を観た時の「ずっと観ていられる」没入体験とも通ずるところがあります。

こうしたイマーシブ・ミュージアムでの体験は、子供向けに美術への興味を育むファーストコンタクトとして効果があるかもしれません
その体験が記憶に残れば、将来も美術に興味を持ち続ける可能性があると期待されています。

もし、このような美術館での初体験を導くツアーが作られれば、美術好きな人がさらに増えるかもしれません。

コロナ禍前後の展覧会の変化

コロナ禍前後で、各地の展覧会の内容が変化している点は、興味深い話題でした。

コロナ禍になる前の美術館企画展は海外から取り寄せた作品の巡回展や〇〇美術館展が多く、主要都市を中心に開催されていたため、日本全国である程度の情報共有がされていました。

ところが、コロナ禍となってからはこれまでの巡回展開催が難しくなり、都心や地方の美術館では現代美術展やコレクション展が増えているそうです。
その結果、日本全国で現代美術展が増え、現代美術の分野で観にいくべき展覧会が地方にも増えたそうです。
青い日記帳が毎年あげている「プロが選ぶ ベスト展覧会」の2024年版を見ても、識者が選ぶランキングの多くが現代美術となっているのが分かります。

その結果、アートウォッチャーとしては現代美術の展覧会やイベントが増えすぎている状況で、すべてを観て巡るのが不可能に近くなっています。
展覧会に行くかを選ぶ必要が出てきたのは、興味深い変化といえるでしょう。

BankART KAIKOでの作品展示

24時間アートラジオ/テレビを開催した会場・BankART KAIKOでは2つの企画展が開催されました。

水墨画「あめつち」(田中芙弥佳)

田中芙弥佳(たなか ふみか)

屋号 水墨画あめつち。異なる価値観・文化の交差と調和をテーマに水墨画の技法をベースに制作。2008年イタリア、アメリカ、フランス、インドネシア、UAEなど国内外問わず幅広い地域で活動

X:@fumikaya

水墨画の技法を用いて、そこから立ち上がってくる線の美しさや身体性が表現されています。
今回の作品はUAアラブ首長国連邦の文化と日本の鷹狩り文化などをミックスしたシリーズとのこと。

アラビックな伝統紋様と日本の伝統的な波紋が重なり合っているのも特徴的です。
金箔もアラブと日本にある共通の文化なのだそうで、両国をつなげる架け橋的な役割も果たしています。

ライブペインティングも実施されていました。
鳳凰と古木が描かれた作品は、新世界と旧世界を表現しているそうです。

AVA(柿崎大輔、小野まりえ、坂下剣盟、岡田竜之助)

AVA@space_ava_ars

台東区根津にあるアーティスト・ラン・スペース「AVA」。2020年からの新型コロナウィルスの感染拡大以降、大学での教授・生徒間、生徒同士のコミュニケーションが不足しており、大学がこれからの芸術を担っていくアーティストの妖精の場として機能しづらくなっていることに危機感を覚えた学生の提唱で、2023年4月に結成。
定期的にメンバー内で勉強会を開き、自主ゼミを行い、展示会を企画・開催し、新たな芸術の寺子屋を創造し、精力的に活動している。

柿崎大輔:@di0spyros
小野まりえ:@pomoapi
坂下剣盟:@b8ucir
岡田竜之助:@Okada_Dere

柿崎大輔

異なるプラレールの線路を走る列車の距離感によってサウンドが変化する作品。
音声は柿崎大輔さんのオフィシャルサイトからもチェックできます。

小野まりえ

踏切や河岸など、いろんなところで日の丸弁当の前で土下座をする映像作品。
食文化や身体的なジェスチャーに流れる国家や天皇への礼拝的な要素を感じつつ、それを野外のさまざまな場所で行うことで、それが「自発的な行為」か「強いられた行為」なのか、という疑問を投げかけているようです。

絵画作品は「動物と一緒に見れる絵画とは何か」を考えて制作しているそうです。
前回の24時間アートラジオ「夜の会」で話していた「人間中心から離れるために動物に注目する」ことが反映されているようでした。

制作途中までしか観れませんでしたが、100号以上はあるキャンバスを使った滞在制作もダイナミックで、熱量を感じるものがありました。

坂下剣盟

坂下剣盟さんの作品は、裏側から描画行為を続けるモノクロームの絵画作品。
何が描かれているのかはまったく分からないようになっていて、描画の軌跡だけを見て想像を促されます。

岡田竜之助

岡田竜之助さんのペインティング作品。
繊細な表現の中には星を思わす光や顔が描かれています。

リンゴや人の顔など、日常的なモチーフを少し曖昧に描くことで、記憶やイメージがぼんやりと立ち上がる瞬間を表現しているように感じられます。

BankARTの活動継続のためのクラウドファンディング実施中

24時間アートラジオ/テレビの会場となった「BankART KAIKO」は横浜市からの補助金が採択されず、2025年3月末で終了することになっています。

24時間アートラジオ/テレビが新たな取り組みを携えて完遂できたのは、BankARTがあってこそでした。
横浜でBankARTという運動体が歩んできた20年分の経験を絶やさないために、クラウドファウンディングにご協力をお願いします!

[2025年3月31日まで] BankART継続のためのCFはこちら
BankARTの活動継続にご支援ください! 創造都市横浜20年間の「都市の経験」を未来につなぐために BankART is Movement !
BankARTの活動継続にご支援ください! 創造都市横浜20年間の「都市の経験」を未来につなぐために BankART is Movement !

[2025.3.1追記]一次目標を達成したそうで、とてもめでたい!おめでとうございます。
支援は引き続き募集中です。

まとめ

幅広く、濃密にアートを語り尽くす24時間。

すべてを決めずに現場で作り上げていく、みなみしまさんならではのキュレーションが、ゲストの本音に近い言葉を自然と引き出していたのが印象的でした。
そうして紡がれた言葉がラジオに乗ることで、立場を超えてつながる、親密な距離感を生んでいるのでしょう。

また、今年はリアル会場があることでよりカオスでありながら、ないようである秩序の中で心地よい空気が流れていました。

また、アートという領域に限定しない点は前回以上に拡張され、建築やテクノロジー、社会問題から個人的な生き方まで、さまざまなトピックが自然につながり、多様な視点が交わる場になっていました。
こうした、アートを超えた広がりを肌で感じていくと、私たちの生活にアートがより近づき、そして考えるきっかけになっていくのだと思います。

文字だけでは伝わらない臨場感があるので、気になるトークは音声/映像でもチェックしてみてください。

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は27点ほど(2025年3月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2025年3月時点)。
好きな動物はうずら。
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