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【2021年度版】データでみるアート・美術作品マーケット(数値で見るアート市場を解説)

よしてる
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アートって感覚的で分かりにくい印象がありますよね。そんなアートを統計という数値的なデータから見ると、俯瞰してアートの世界をみることができます。

今回は2021年度の日本のアート産業に関する市場調査をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 2020年における世界と比較した日本のアート市場規模は3.7%(1,929億円)。
  • コロナ前(2019年)と比較すると10万円以上の作品購入者が12%増加している。
  • アートに関心があっても、購入に至るのは2割。
  • 日本人はアートを家に飾ったりコレクションしたりするのを楽しむ人が多い。
  • 初めて購入するアートのジャンルは洋画(17%)、陶芸(17%)、日本画(14%)、現代美術(平面)(14%)の順で多い。
  • 今回から試作版アート指数による調査が追加され、金融市場の遅行指標としての傾向があることが考察された。

調査データが膨大なので、「アート市場」「人」「作品」「資産」の4つの観点でピックアップしデータをご紹介します。

昨年の結果はこちらをご覧ください。

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市場レポートから4つの観点でデータを厳選しご紹介

今回参照した調査は、文化庁と一般社団法人アート東京が主体となり実施している日本のアート産業に関する市場レポート2021です。

2016年から毎年実施している調査であり、主に国内のアート市場規模と内訳を経年でチェックできるデータになります。近年はコロナ禍も考慮した調査内容も含まれ、時代を反映したデータをとっています。

調査結果をみると分かりますが情報量がとても膨大です。なので、今回は4つの観点でデータをピックアップしご紹介していきます

データを読み解く4つの観点
  • 世界と日本の「アート市場」
  • アート購入する「人」
  • 購入される「作品」の種類
  • 「資産」としてのアート

世界と日本の「アート市場」

まずは世界と日本のアート市場規模から見ていきましょう。

世界のアート市場の中で日本の割合は3.7%

世界の美術品市場の国別割合(2020年)
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

アート・バーゼルとUBSによる世界美術品市場を分析するレポートによると、2020年の世界の市場規模は5.2兆円。トップ3はアメリカの42%、中華圏の20%、イギリスの20%となっています。トップ3だけでなんと82%を占めている状態です。ルーヴル美術館やオルセー美術館などがあり、フランスは6%であり、もしかしたら意外と思われる方も多いかもしれません。

今回の調査結果である国内アート市場規模の1,929億円と照らし合わせると、日本の割合は3.7%と推計されます。2019年の日本の割合3.2%から増加する結果となりました。

アート購入する「人」

世界と比較すると日本はアート市場は大きくありませんが、国内ではどのような人がアートを購入しているのでしょうか。その割合と属性を見ていきましょう。

コロナ前(2019年)と比較すると10万円以上の作品購入者が12%増加している

過去3年間における美術品購入金額別の人数割合と金額
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

コロナ前(2019年)と比較すると、2021年は高額購入者の割合が高くなっています。特に10万円以上のアート購入をする人の割合が12%増えており、アートに関心を持って作品購入をする割合が増えてきていると考えられます

アートに関心があっても、購入に至るのは2割

一方で、アートに関心があっても実際の行動にはほぼつながっていないことも調査で明らかになっています。

美術品・複製品購入への関心と購入状況​
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

美術品購入に関心があっても、過去3年間に実際に購入している人は2割という結果となっています。(グラフでは”2”と表示されていますが、割合表記であることを考慮すると”20”だと思われます。)また、ポスターなどの副製品についても同様の結果が出ています。

アートに興味はあっても購入しない点は価格面から多少理解はできますが、ポスターなどについても同様に過去3年間で一度も購入しないものなのかなとも感じます。

その背景には、日本特有の事情があるのかもしれません。

アート購入目的はコレクションより「飾る」思考が強い

高額購入者(3年間で100万円以上)と比較した美術品購入の目的 ※複数回答可
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

一般的な購入目的は「居住空間に飾る」、「気に入って衝動的に購入」、「実用品として使う」の順に多い結果となりました。一方で、高額購入者(3年間で100万円以上)については「コレクションする」、「作家を支援する」が高い傾向となりました。

一般的な購入目的の上位となった「居住空間に飾る」はリモートワークによる影響も考えられる一方で、日本は家が狭く飾る場所の制限が発生しやすいことが購買意欲を削いでいるとも考察できます。その結果、「アートに関心があっても、購入に至るのは2割」という結果に繋がっていくのかもしれません。

また、高額購入者の購入目的の上位である「コレクションする」については、家の狭さはさほど問題にならないものの、日本は倉庫問題という作品を保管する場所がなくなっている状況に置かれていると言われています。アートが好きなコレクターにおいても、保管場所の問題が購買意欲に影響を与えているのかもしれません。

ポスターなどアート関連商品の購入目的は「好きな作品を飾りたいから」

複製品購入への関心の理由
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

ポスターなどアート関連商品の購入目的は「好きな作品を飾りたいから」が圧倒的に多い結果となっています。ここでも、居住空間に飾るという前提が背景にあるように感じます。

このことから、日本人の多くは美術品を純粋に楽しむために購入しているともいえるし、場合によっては、好きな作品であれば本物の美術品かどうかのこだわりは強くはないことが分かります。気軽にアートを愉しむ社会の実現とアートマーケットの拡大は必ずしも、同軸上の概念でないのかもしれません。​

購入される「作品」の種類

初めて購入されるアートは洋画、陶芸、日本画、現代美術(平面)が多い

アート購入する人がどんなジャンルの作品を購入しているのか、気になる方も多いのではないでしょうか。以下は2020年4月以降に初めて作品購入した人をジャンル別に集計した結果です。

はじめて購入したジャンル
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

洋画(17%)、陶芸(17%)、日本画(14%)、現代美術(平面)(14%)の順で多い結果となりました。

日本はフェルメールやゴッホ、モネ、北斎、東山魁夷といった国内外から作品を集めた美術館企画展に足を運ぶ人が多いといわれ、日本の展覧会混雑ぶりは世界レベルともいわれています。来場者が多い分、洋画や日本画に触れる機会も多いことが初めての購入ジャンルにも影響しているのではと感じます。

リモートワーク普及も購入のきっかけとなっている

2020年4月以降にアート作品を購入した人のうち、きっかけとなった要素・理由をみると、リモートワークによる影響も見て取れます。

購入のきっかけ
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株)、(一社)芸術と創造​

「たまたま気に入った作品を見つけたから」が全体の54%と圧倒的に多い中で、次に多い回答が「新型コロナ感染症の拡大に伴い自宅にいる時間が増えたから」の18%という結果となっています。

リモートワークの広がりが、少なからずアート購入の後押しになっていることが伺えます。

「資産」としてのアート

ここまでの調査結果から、日本人はアートを家に飾ったりコレクションしたりするのを楽しむ人が多いということがわかってきました。

一方で、欧米を中心にアートを株や不動産などの「資産」として扱うケースもあります。アートは伝統的な金融資産とは異なる値動きをする実物資産なので、分散投資の対象と捉えて購入する人も一定数います。

ここではアートを資産と捉えるためのデータとして、今年から新たに試作版アート指数という調査が追加となっていたのでご紹介します。

試作版アート指数とは?

試作版アート指数とは、簡単にいうと株価指数のようにアート市場の状況を把握できる国内版の指標のことです。オークションで一定の取引がある作家の売上価格を指数化しのある

オークションで取引されている作品群のうち、売上代金が上位50%の作家=流動性のあるアート作品のみを対象にして指標化しています。

アート作品にはさまざまなジャンルがあるので、今回は以下の3つに分類して指標化しています。

  • 国内流通がメインの作家(Domestic Art)
  • 国内外で流通する現代アートの作家群(Contemporary Art)
  • 国内外で流通する現代アート以外の作家群(​​Foreign Art)

試作版アート指数アート指数は金融市場の遅行指標

各作品群のアート指数
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株) 、(株)QUICK​

各指数は2006年を1000として各年の数値を変換しています。

Domestic Artについては流動性が低い一方で、Contemporary ArtとForeign Artについては2009年以降の流動性が高く、上昇傾向となっています。

2008年といえばリーマンショックのあった年です。2008年後半のオークションよりも2009年のオークションの方が低調だったことから、金融市場より遅れてリーマンショックの影響が出ていると考えられます。

つまり、アート指数は金融市場の遅行指標として捉えられると考察できます。

既存株価指数「S&P500」との比較:「Contemporary Art」と強い正の相関

既存株価指数「S&P500」との比較 ※S&P500も2006年を1000としてスコア化
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株) 、(株)QUICK​

S&P500(米国の代表的な株価指数で、GAFAを中心としたアメリカの代表的な500銘柄を時価総額で加重平均し指数化した指数)と比較すると、「Contemporary Art」がS&P500を追うように遅行して推移する特徴が見られました。二つの相関係数を見ても0.76と強い正の相関があり、チャートから読み取れたように強い関連性があることが分かります。

既存アート指数「Artprice Indexes」との比較:流動性の差

既存アート指数「Artprice Indexes」との比較 ※試作版を100として変換
出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株) 、(株)QUICK​

今回比較しているArtprice Indexesは、フランスの美術品価格情報提供会社 ArtMarket.com およびその部門であArtprice.com が提供している指数で、Artprice.com が収集したアンティークや家具を除いた取引データとなっています。

各指数の示す意味は以下の通りです。

Global Index:国際的に利用されているアートの総合指数
Old Masters:18世紀以前のヨーロッパ作品群の指数
19th Century:19世紀を代表する作品群の指数
Modern Art:1860年代から1970年代の近代美術作品群の指数
Post-War:戦後の作品群の指数
Contemporary:現代アートの作品群

試作版アート指数(Comtemporary、Foreign、Domestic)と比較すると、総合指数であるGlobal Indexとは数値に差は見られませんでしたが、作品分類ごとの指数や時代別に分類したPost-WarやContemporaryとは大きな差が見られます。

特に、試作版アート指数とArtprice IndexesのContemporaryを比較すると経年とともに差が開いており、資産としての流動性の違いが見て取れます

アート作品は長期保有される傾向があるため、今後の継続的な統計によって、試作版アート指数の精度、日本のアートマーケットや日本出身の作家を新たな角度から捉えることが期待されます。

客観的な数値データでアートの世界を知ってみよう!

「日本のアート産業に関する市場レポート2021」をアート市場、人、作品、資産の観点から紐解いていきました。

日本のアート市場規模は3.7%(1,929億円)と、世界と比較するとまだ小さく、アートに関心があっても実際に購入に至る人は2割という結果から、興味はあっても購入に至るまでのハードル(例えばどの作品がいいのか、どこで購入すればいいのか、相場観がわからないなど)が高い傾向にあるのかもしれません

このハードルをひとつずつ解消していけるようなコンテンツを今後増やしていけると良さそうだなとも思いました。

また、「居住空間に飾る」目的でアートやポスターなどを購入する人が多いこともわかりました。どんなアート作品を選べばいいのか分からない…という人は、まずは家の中で飾る場所を決め、その場所にあったら元気になれるモチーフ・色から探してみるのもいいかもしれません

統計データから「そうやってみんなアートを楽しんでいるんだ」と気づくきっかけになれば嬉しいです!

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よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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