ブルーピリオド×ArtSticker 第2会期|キャプションをヒントにアートを楽しむ
今回は渋谷にあるhotel koe tokyoにて開催した 小津航さん、倉敷安耶さん、平田尚也さん、藤川さきさんのグループ展覧会「ブルーピリオド×ArtSticker 第2会期」の模様をご紹介します。
今回の展示ではキャプションも活用するとアートの楽しみ方の幅が広がるので、そのこともご紹介していきます。
第1会期はこちらをご覧ください。
第3会期はこちらをご覧ください。
「ブルーピリオド×ArtSticker」とは?
「ブルーピリオド × ArtSticker」とは、TVアニメ「ブルーピリオド」と、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」がコラボした展覧会です。
ブルーピリオドとは、世渡り上手な努力型ヤンキー高校生が絵を描くよろこびに目覚め、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく物語を描いたコミックです。
そのアニメ版の各話を展示テーマとして制作された作品を、アニメ放送期間に合わせて段階的に展開していく構成となっていて、アニメと展示を連動しながら楽しめるようになっています。
現役美大生から美大を卒業し活動するアーティストまで参加しているので、出展作品も絵画から彫刻までさまざまな表現に触れることができます。
気になったアート作品はキャプションも観てみよう
作品の横に、作品タイトルや作家の名前が入った「キャプション」というものが添えられています。
今回の展覧会では、このキャプションも作品制作の背景を知るためのヒントとなってくれておすすめです。
もし、気になる作品があって、「この作品はどんなことを表現しているんだろう?」と思ったら、キャプション右下にあるQRコードを読み取ってみると、作品に対してのアーティストコメントをみることができます。
作品によってはコメントがないものもありますが、作家本人の想いが言語化されているので、コメントと併せて作品鑑賞をしてみると一見分かりにくい現代アートのイメージを和らげてくれるかもしれません。
第2会期作品を鑑賞
展覧会は3会期に分けて作品展示が続きます。今回は第2会期の展示作品を観ていきましょう!
小津航:画家・絵画・モチーフの関係性を探る
小津航(おづ わたる)さんは1991年生まれ、東京都出身のアーティストです。ニューヨークへの留学や、ロンドンでの滞在制作を経て、2017年に東京藝術大学大学院美術研究科 絵画専攻を修了しています。
作品には美術史上でよく用いられる「遠景と近景」などの構図や、絵画のモチーフによくみる「リンゴ」といったアイテムを東洋的な視点で再考し、画家・絵画・モチーフの関係性を模索した作品を制作しています。
Six Apples and Dots
白い背景に、色の異なる6つのリンゴと斑点が描かれた作品。
テーブルの上ではなくアトリエの床にリンゴを置き描くことで、キャンバス内の「上部と下部」を「遠景と近景」とした東洋的な絵画空間を再考しています。
西洋の静物画と比べて、東洋的な絵画空間はキャンバス上に占める地面や場所の割合が多く、その中にモチーフが描かれる傾向があるようです。
床に置いたリンゴや斑点状の落ち葉が自然のままに落ちているようで、高低差で奥行きを表現せず、平面上で自然を表現した枯山水と重ね合わせながらながらみていました。
Still Life with Rayfish
はらわたを取られたエイがフックに掛けられた静物画です。
フランスの画家ジャン・シメオン・シャルダンの「赤エイ」という西洋絵画を参照したようにも見えます。
シャルダンの「赤エイ」は正面から内部の解剖学的な構造をリアルに描いていて、エイの顔が非常に恐ろしく描かれています。
一方で、小津さんのエイは斜め横から描いていて、恐ろしさを緩和して表現しているようです。
フックから落ちると下にあるテーブルに乗らずに落下してしまいそうな緊張感を通して、静と動を共存させているように感じました。
倉敷安耶:他者との繋がりを考えさせる作品
倉敷安耶(くらしき あや)さんは1993 年生まれ、 兵庫県出身のアーティストです。
2020年に東京藝術大学大学院美術研究科 絵画専攻を修了しています。
平面作品、パフォーマンス、インスタレーションなど複数のメディアを取り扱い、他者との密接なコミュニケーションや共存の模索、融合などの試みを通して「他者との繋がり」についての作品制作をしています。
一見すると厚さ、キャンバスのサイズ、色それぞれが無秩序に並べられているようです
Grave #24
作品タイトルとなっている「Grave」は直訳すると「墓」という意味になります。
それぞれ、倉敷さんが撮影した数枚の写真をデジタル上で合成しているそうで、このプロセスによって瞬間を切り取る写真の具象性を失わせ、抽象化しています。
もしかしたらキャンバスの厚さは、重ね合わせた写真、つまり記憶の量に比例して厚くなっているのかもしれないとも感じ取れます。
土で埋めるように重ね合わせられた写真は記憶の墓をたてているようにも見えてきます。
Grave #27
抽象化された写真は全体で1つの幻想的な景色に見えますが、そこには個々の写真が含まれていて、この状態を倉敷さんは「個は他と結合された全体であるが、同時に、全体はそれぞれ個でもある」と表現しています。
生きるといプロセスでは、個の自立した時間の積み重ねが、他と協力し生存していくことにつながっているんだなと感じる作品でした。
平田尚也:仮像から現代的な彫刻のあり方を問いかける
平田尚也(ひらた なおや)さんは1991年生まれ、 長野県出身のアーティストです。2014年に武蔵野美術大学彫刻学科を卒業しています。
空間、時間、物理性をテーマに、仮想の彫刻作品を制作しています。
素材はネットから収集してきた既成の3Dモデルや画像などをつかい、主にアッサンブラージュ(寄せ集め)の手法でPCのバーチャルスペースに制作しており、今回の展示では布やクリアパネルを支持体として作品展示をしていました。
ooo
「オブジェクト指向存在論が好き」と説明書きのある作品です。
展覧会の中では唯一の布を用いた作品で、店内の風に揺れて軽快な印象を受けます。
タイトルの《ooo》は、おそらく作品中の茶色い看板に描かれた文字から取っているのでしょう。
プラスチックのような質感の青い親子の犬がいて、子犬の方が枝に刺さったお菓子で遊んでいるようです。
Mystery shopper
説明書きには「豪華なデスク、男性と女性のマネキン、菓子箱」と記された作品。
いくつか展示している作品の中でも、個人的にはこの作品が渋谷の街を仮想的に表現しているように見えました。
豪華なものから安価なものまで、なんでも揃う渋谷で何かを探す人たちをマネキンという何物でもない誰かで表現しているように見えました。
右にいるトゲトゲした身体のマネキンは、なんでも揃うからといって消費をもてあそぶと周りからこういう姿で見えてしまうかもという戒めも含まれていそうです。
スクランブル交差点をバックに作品を観て、ふとそんなことを考えていました。
藤川さき:選択の痕跡が印象的な作品
藤川さき(ふじかわ さき)さんは1990 年生まれ、東京都出身のアーティストです。2013年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業しています。
身の回りの環境や対話から生まれた興味や疑問をもとに作品制作をされていて、主に人の意思に通じた 絵画表現を多く発表しています。
今回の作品は 一筆ごとの「選択の痕跡」が強く残した油絵具を使った作品を展示していました。
余白とは何かとの何かの間にある
静かに目をつむる女性の姿が描かれています。
筆跡ひとつひとつが太く残され立体感があり、顔に鮮やかな暖色系が入っているためか存在感があります。
まるで嵐の前の静けさのようなワンシーンで、動き始める前の一時を切り取っているようです。
野生の一刻
ひとつ前の《余白とは何かとの何かの間にある》とは対照的に、野心的な瞳が見て取れる作品です。
背景が黒っぽくなっているところからも、周りが見えなくなるほど何かに没頭してゾーンに入った状態のようで、首から顔にかけて血液を通わし紅潮していようにも見えます。
自分が注目されるまで順番待ちしている余裕はなく、細胞ひとつひとつがエネルギーを生産し今できる一番のパフォーマンスを発揮しているような凄みがありました。
この作品から感じた感情とリンクするような、藤川さんのコメントも印象的でした。
あの日、三鷹駅にある校舎の白い蛍光灯の下で、何十時間も何百時間も筆を動かしていたことを覚えています。
ー開催にあたってのコメントより引用
受験絵画やジンクスなんて言葉は今思えば懐かしく感じますが、当時は必死でした。
沢山の人が上手く美しく見えてしまう中でも、大切なのは自分が信じる圧倒的な「美」だけであること、それは今も変わっていません。
目標以前に今、何かを作りたかった、ここじゃないどこかへ行きたかった、その想いがまだうまく調理できないままに受験戦争にねじ込まれ、八虎たちももがき苦しみながらあの門を目指したのでしょう。
他人のストーリーとして読めませんでした。
あの頃の気持ちを思い出しながら、私も当事者として、作品で応えようと思います。
まとめ:非言語と言語の両面で現代アートを楽しもう
ブルーピリオド×ArtSticker 第2会期の模様をご紹介しました。
キャプションからみれるアーティストのコメントを併せて読んでみると制作背景も見え、作品から得たことを自分の言葉にして楽しむ体験ができる魅力もある展覧会だなと感じました。
足が止まった作品があれば作家コメントも参照してみながら、現代アート鑑賞を楽しんでみてください。
展示会情報
展覧会名 | ブルーピリオド × ArtSticker |
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会場 | hotel koe tokyo 2F「koe渋谷」POPUPスペース 東京都渋谷区宇田川町3-7 |
会期 | 2021年10月22日(金) ~2021年1月14日(金) 第1会期:2021年10月22日(金)〜2021年11月18日(木) 第2会期:2021年11月19日(金)〜12月16日(木) 第3会期:2021年12月17日(金)〜1月14日(金) |
開廊時間 | 11:00〜20:00 ※ 新型コロナウイルスの影響により、変更となる場合があります。詳しくはhotel koe tokyoの公式Instagramをご確認ください。 |
サイト | https://artsticker.app/share/events/783 |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 第1会期:2021年10月22日(金)〜2021年11月18日(木) 第1話 梅沢和木さん|Instagram:@umelabo 第2話 瀬戸優さん|Instagram:@yu_seto1222 第3話 須永有さん|Instagram:@aru_sunaga 第4話 國分莉佐子さん|twitter:@petrichor__xx第2会期:2021年11月19日(金)〜12月16日(木) 第5話 小津航さん|Instagram:@ozzzz0429 第6話 倉敷安耶さん|Instagram:@ayakurashiki 第7話 平田尚也さん|Instagram:@_naoya___h__/ 第8話 藤川さきさん|Instagram:@fjkw第3会期:2021年12月17日(金)〜1月14日(金) 第9話 岸裕真さん|Instagram:@obake_ai 第10話 川田龍さん|Instagram:@ryokawada_0817 第11話 島田萌さん|Instagram:@moe.shimada.23 第12話 松浦美桜香さん|Instagram:@______nnnn5※展示時期・展示順につきましては、都合により⼀部変更になる可能性があります。 |