アート作品のエディションとは何か(ED、AP表記の意味やオープン・エディション、作品例をご紹介)
アート作品にはエディション(Edition)というものがあります。
今回は聞き馴染みのない方向けに、エディションとは何かから、ED、APといった略称表記の意味、近年登場したオープンエディションの意味や作品例、そして、作品のコレクションについて解説していきます。
エディションとは“限定数の決まった作品”
エディションとは、限定数が決まった作品のことです。
エディションナンバー、シリアルナンバーとも呼ばれ、種類は版画などの平面作品から、立体作品も存在します。
これに対して、油彩画や木彫作品など1点ものの作品はユニーク作品(原画)と呼ばれます。
複製との違いは一定のルールを守り制作されていること
エディション作品はひとつの作品を複数制作する点で、ポストカードやポスター、複製画といった、複製した商品と似ているのではと考える人もいるかもしれません。
しかし、複製とエディション作品では作家のこだわりはもちろん、制作数管理、価格統制といったアート業界のルールを守って制作されている点で大きく異なります。
例えば、以下の違いがあります。
項目 | 複製(ポスターなど) | エディション作品(版画など) |
---|---|---|
こだわり | 予算の範囲内でのこだわり | 作家自らが吟味し美術品としての クオリティを追求 |
制作数 | 決まっていない | 予め決めて管理 |
制作方法 | オフセットプリントなどの生産方法 | リトグラフ/シルクスクリーン/ジクレー/木版など 作品に合った技法で制作 |
取り扱い | ショップ | ギャラリー・画商 |
価値 | 定価販売のため比較的安価で手にしやすい 作品としての価値は低い | 価格統制をした上で販売 作品としての価値が担保されている |
アート作品は作家の積み上げてきた力はもちろん、作品を取り扱うギャラリー・画商や関係者による価格統制、エディション管理といったルールを守ることで価値が生まれています。
複製とは異なり、エディション作品はこうしたルールの下で制作されるため、作品としての価値が保持されています。
エディションの記号・表記の見方
エディションの中にもさまざまな種類があり、記号などによる表記の仕方で見分けられるようになっています。
ここでは、代表的な表記をご紹介します。
通常のエディションは分数表記と作家のサイン
基本的にエディション作品は限定数の証跡としての分数表記と、作家のサインがあります。
分母が限定総部数、分子が通し番号を表し、例えば、「25/100」であれば「限定100部制作のうちの、25番目の作品」という意味になります。
この分数表記以外に、以下のような英語表記がある場合もあります。
EDは「通常のエディション(Edition)」の略称
EDは通常のエディション(Edition)を表しています。
エディション作品の中で一番見るのがこのタイプです。
EDの表記は省略され、分数表記のみの場合が多いです。
見れたらラッキー?な番外表記
他にも、通常のエディション数とは別に用途によって以下のような表記も存在します。
見かけるタイミングは少ないものの、発見したらラッキーな特別なエディション作品です。
APは「作家保有」
AP(Artist’s Proofs:アーティスト・プルーフ)は作家保有を意味するエディション作品です。
作家自身が手元に置いておいたり、贈答用に使うことがあるそうです。
HCは「非売/見本」
HC(オル・コメルス:Hors Commerce)は非売作品または見本を意味するエディション作品です。
商談や見本として見せる際に使うもので、販売用ではありません。
PPは「刷り師・制作関係者保存用」
PP(プリンターズ・プルーフ:Printer’s Proof)は刷り師・制作関係者保存用を意味するエディション作品です。
版画制作に携わった刷り師や制作関係者への贈呈用・資料保存用で、版画制作業界の慣習として作られることがあるようです。
近年見られるオープン・エディション
エディション作品は限定数を予め決めた上で販売されるのが一般的ですが、近年ではオープン・エディション(Open Edition)という新たな形でのエディション作品も見受けられます。
オープン・エディションとは、数量ではなく時間に基づいて希少性を生み出している作品です。
この動きはNFTアートの流れから来ているようで、NFTアーティストのパクさんが提案した、NFTの販売を特定の時間のみ無制限にNFTを購入できるコンセプトが知られています。
このオープン・エディションによる作品販売の例を見てみましょう。
① ロッカクアヤコ:24時間制でエディション数が決まる作品
ひとつ目が、2022年にロッカクアヤコさんがAVANT ARTEとコラボし制作した、24時間制でエディション数が決まる作品です。
ライブペインティングをロンドンから生中継し描き下ろした新作のプリント作品を、24時間限定のオープンエディションで販売しました。
プライマリーでは縁がなければ手にするのが難しいロッカクアヤコさんの作品を、エディション作品として手にできる貴重な機会になったのではないでしょうか。
作品の最終的なエディション数は3,591点となり、誰でもコレクションできる新たな楽しみが提供されました。
② ダミアン・ハースト:11日間限定で購入者が作品を生成しAIが仕上げる作品
ふたつ目が、2023年にダミアン・ハーストさんがHENIとコラボし制作した、11日間限定で購入者自身が作品のサイズや形状、配色、媒体の組み合わせを自由に選択し、AIが仕上げるユニーク作品です。
ダミアン・ハーストさんの代表作《Spin Painting》シリーズの新作《The Beautiful Paintings》で、購入者が自由に選択できる部分と、AIによるランダムな要素が組み合わさり作品が仕上がります。
期限内のオープン・エディションですが、何パターンもの作品を生成できるためひとつひとつがユニーク作品でもあるという、同時代性も反映された作品に感じます。
作品はキャンバス作品(正方形または円形、4種のサイズ)、デジタルアート作品(NFT)のどちらか、もしくは両方を選択できました。
最終的なエディション数はキャンバス作品が5,109点(正方形:1,235点、円形:3,874点)、NFTが399点(正方形:182点、円形:217点)となりました。
エディション作品・版画はリーズナブルに作品を楽しみたい人におすすめ
アートコレクションの視点で見た時、エディション作品(版画など)は原画よりも比較的リーズナブルに購入が可能です。
そのため、予算を抑えつつアート作品を購入してみたいと考えている人におすすめです。
例えば、著名な作家の場合、原画は予算的に手が届かなかったり、そもそもプライマリーでの購入が困難な場合があります。
そんな時でも、エディション作品であればプライマリーから購入できるチャンスがあったりします。
たとえ版画でも、自分の好みの作品や、作家の代表的なモチーフの作品を家に飾れたらテンションが上がるものです。
まずは身近で作品を楽しんでみたい人は、エディション作品・版画も視野に入れてみると面白いかもしれません。
まとめ
今回はアート作品のエディション(Edition)についてご紹介しました。
一言にプリント作品といっても、そこには作家はじめギャラリー、制作関係者の技術や想いが込められた、ひとつの作品です。
願わくは原画が一番ですが、エディション作品について知った上で、両方の作品を楽しんでみてください。