解説

【用語解説】ミクストメディアとは何か?(美術用語の意味と関連作品をご紹介)

アート作品の制作には油彩、アクリル、キャンバスなど、様々な素材が用いられています。大半はイメージの湧く名前ですが、中には「何これ?」と思ってしまうものも。

そこで今回は、よく見るけど意外と分かりにくい美術用語「ミクストメディア(mixed media)」についてご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • ミクストメディア(mixed media)とは、複数の素材を使用して制作されたアート作品に対して用いられる美術用語。
  • 基本的には2種類以上の素材を組み合わせて構成したアート作品を指すのが一般的。
  • 似た用語にマルチメディアがあるが、ミクストメディアは絵画などのアート作品に用いられる一方で、マルチメディアは絵画の他に音楽や光、舞踊などの視覚以外の表現を組み合わせた総合的な芸術表現を指しており、広い領域を指している点で異なる。
  • ミクストメディアとみなされる最初の近代美術作品は、1912年にパブロ・ピカソさんが制作したコラージュ作品《Still Life with Chair Caning(籐椅子(とういす)のある静物画)》とされている。
  • ミクストメディアには「コラージュ」「デコパージュ」「アッサンブラージュ」「ファウンド・オブジェ」「オルタード・ブック」「ウェットメディアとドライメディア」といった表現技法がある。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

こんなキャプション、見たことありませんか?

アート鑑賞をしている際に、例えばこんなキャプションを見たことがありませんか?

「ミクストメディア(mixed media)って何だ?」

普段アートに馴染みがない人や、アート鑑賞によく行く人でも、意味を聞かれたら疑問を持つかもしれません。

この言葉には、こんな意味があります。

ミクストメディア(mixed media)とは?

ミクストメディア(mixed media)とは、複数の素材を使用して制作されたアート作品に対して用いられる美術用語です

基本的には2種類以上の素材を組み合わせて構成したアート作品を指すのが一般的で、性質・種類の異なる素材を組み合わせるので、素材に合わせて複数の表現技法を組み合わせる場合もあります。

例えば、

  • 油絵の具(素材がひとつ)のみで制作された作品の場合は油彩画
  • 油絵の具とアクリル絵の具(画材がふたつ)で制作された作品の場合はミクストメディア

という考え方になります。

素材を作品に結びつける技法が折り重なるため、作品の中にはそれぞれの素材の質感が盛り込まれ、表現の幅が広がる特徴があります

ミクストメディアとマルチメディアの違い

ミクストメディアと似た言葉に、マルチメディアという言葉もあります。マルチメディアは絵画の他に音楽や光、舞踊などの視覚以外の表現を組み合わせた、総合的な芸術表現を指す用語です

複数の表現形式、ジャンルを組み合わせた表現という意味で、広義では同様の意味を持つ言葉ですが、マルチメディアの方が広い領域を指している点で異なります。

初のミクストメディアは20世紀初頭のピカソの作品

《Still Life with Chair Caning(籐椅子のある静物画)》
Pablo Picasso、1912、oil on oil-cloth over canvas edged with rope、29 x 37 cm (Musée Picasso)、画像引用元:flickr:Simon Mu

ミクストメディアとみなされる最初の近代美術作品は、1912年にパブロ・ピカソさんが制作したコラージュ作品《Still Life with Chair Caning(籐椅子(とういす)のある静物画)》とされています

作品にはキャンバス上にオイルクロス、絵の具、縄といった、複数の素材が用いられています。

ピカソさんはこのコラージュを通じて、美術史における芸術作品が現実世界の模倣に過ぎないことを示唆したといわれています。

ちなみに、このような工業的に生産される素材を美術の領域に用いたのは当時としては珍しく、いわゆる「ハイ・アート(高級芸術:理解に一定の教養を要する芸術のこと)」に対する観客の認識を覆すような作品と位置付けられています。こうした作品を制作したのは、ピカソさんと、彼と共にキュビズムを生み出したジョルジュ・ブラックさんが初めてだったそうです。

その後も、美術史上でこの手法が用いられ続け、現代にも継承されています。

ミクストメディアの種類

ミクストメディアはいくつかの種類に分類することができます。ここでは、そのうちの6種類をご紹介します。

1. コラージュ(Collage)

コラージュとは、性質の異なる素材(新聞の切り抜き、印刷広告、写真、布、木など)を組み合わせることで、新たなイメージの造形作品を構成する表現技法です。コラージュは「接着する」という意味のフランス語「Collér」に由来し、パブロ・ピカソさんとジョルジュ・ブラックさんによって作られた造語といわれています。

先ほどご紹介した《Still Life with Chair Caning(籐椅子(とういす)のある静物画)》にも、このコラージュ技法が用いられています。

また、例えば、Backside works.さんの作品《FLOWERS》 では、キャンバス上に描かれた女性の上に、幾つものステッカーが貼られています。絵画とステッカーという、性質の異なるもの同士を組み合わせ、新たなイメージの造形作品を構成しているところから、コラージュの一種といえるでしょう。

2. デコパージュ(Découpage)

デコパージュとは、布や紙を切り抜いたものを対象物に糊付けし、ニスなどを塗って全体を密閉し絵を描いたように見せる表現技法です。デコパージュは「切り取る」という意味のフランス語「Découpage」に由来します。

デコパージュはDIYとしても知られている身近な技法でもあります。

家庭用品を装飾したり、古いものに新しい装飾を施してアップサイクルする際にも用いられる方法で、デコパージュするためのデコパージュ液も販売されています。

3. アッサンブラージュ(Assemblage)

アッサンブラージュとは立体的なものを寄せ集め、積み上げる、貼り付ける、結び付けるなどの方法により制作する表現技法です。コラージュに似ていますが、立体的な要素を使って作品のストーリーを表現する点が大きく異なります。アッサンブラージュは「集積、寄せ集め」という意味のフランス語「Assemblage」に由来します。

アサンブラージュは日常を取り巻く社会環境を、素材の直接的な呈示によって作品に反映させているため、場合によっては廃品を素材に用いることもあります。その際は「ジャンク・アート(廃物美術、廃品美術)」とも捉えられることがあります。

例えば、Chim↑Pomの作品《ビルバーガー》 は作品にビルの廃棄物を用いており、廃材を積み重ねるように作品を制作している点から、アッサンブラージュを用いているといえます。

4. ファウンド・オブジェ(Found object)

ファウンド・オブジェとは、既に何らかの目的の下に使用されているものを、アート作品を構成する要素として流用・転用して、それ自体が芸術作品として新たな価値をを見出す表現技法です

ありふれたものに芸術的な価値づけをするという考え方は、何が芸術とみなされ、何が芸術でないかの区別を曖昧にし、その曖昧さを受け入れることに対する挑戦といえます。

例えば、名和晃平さんの作品《PixCell-Deer#48》は、鹿の剥製をビーズで覆い芸術作品として転用していることから、見方によってはファウンド・オブジェと捉えることができます。

5. オルタード・ブック(Altered books)

オルタード・ブックとは「改造し再利用した本」という意味で、本を元の形から別の形に変え、その外観や意味を変化させるミクストメディアの一種です。本を解体したり、物理的に改造してコラージュや絵画を制作する表現技法といわれています。

本のページをキャンバスと捉えて、アクリル、水彩、または油彩などの素材でいくつかの作品を作成するものから、ページを折り込んだり切り込みを入れたりして本を彫刻のようにするものまであります。

もしかしたら、オルタード・ブックの一種で、本のページを折って立体的な作品を作る「ブックフォールディング(Book Folding)」に馴染みがある人も多いかもしれません。作品はD.Hinklayさんの《Imagine》です。ページを切ることなく、折ることで文字や模様を浮かび上がらせています。

また、本を用いた作品に限定するならば、岩崎貴宏さんの《テクトニックモデル(パスカル・コーサル『これからの微生物学』)》を思い出しますが、こちらは本自体を改造していないので、オルタード・ブックには該当しなさそうです。

6. ウェットメディアとドライメディア(Wet and Dry Media)

ウェットメディアとドライメディアとは、ウェットメディア(油絵の具、アクリル絵の具、水彩、インク、などの液体の素材)とドライメディア(鉛筆、木炭、パステル、グラファイト、クレヨンなどの流動性のない素材)を組み合わせる表現技法です。2種類の異なる素材を用いるという意味で、こちらもミクストメディアに該当します。

絵画の上に鉛筆画を重ねて描くなどが該当します。

例えば、井上七海さんのドローイング作品《A drawing of 60 cubes》は、アクリル絵の具(ウェットメディア)と鉛筆や色鉛筆(ドライメディア)を用いているので、ウェットメディアとドライメディアによる作品と捉えることができます。

まとめ

今回はよく目にするものの、意外と知らないミクストメディア(mixed media)についてご紹介しました。

一言にミクストメディアといっても、それを生み出したのはパブロ・ピカソさんであったり、さまざまな技法があったりと、新たな発見に繋がるのが面白いですよね。

どんな素材や技法が用いられているかを知ると、「この素材を組み合わせているということは、こんな意図が込められているのかも」といった角度からも作品を鑑賞することができます。

ひとつひとつの用語についても知識を得ながら、アート作品鑑賞の参考にしてみてください!

参考リンク

TATE|ART TERMS
skillsuccess|What is Mixed Media Art: The Common Types
Artscape|Artwords®

ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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