【前編】初めてのアートコレクションをする方法(前提・場所編)


アートコレクションをしてみたいけど、初めてでまず何から手をつけていいのか分からない…
そんな方向けに、アート作品のコレクションを始める前に知っておきたい前提~作品を購入する場所編をQ&A形式でご紹介します。
この記事は美術手帖が特別編集した小冊子「The Beginner’sGuide to Collecting Art」を参考にまとめていきます。アートコレクションをしていく上で浮かぶ疑問が簡潔にまとめられていたので、実際にコレクションをした経験も交えてご紹介していきます。
前提編:そもそもコレクションをする意味

疑問1:作品を買う目的とは?
作品を買う目的は人によって変わってくると思いますが、大きく3つに分類できます。
- 作家の応援・将来的な社会貢献
- 資産としての投資
- インテリアとして飾りたい
この3つは相互に重なり合う部分があり、どこに重きをおくかでコレクションするアートも変化していきます。
特に、「作家の応援・将来的な社会貢献」については、現代アートのように作家が現存する作品を購入することは、作家や取り扱い画廊の活動への最大の支援になります。たとえ作家の作品が後世に残る価値があったとしても、作品を所有し“一時的に預かる人”がいなければ作品は埋もれ、場合によっては所在が分からなくなってしまうためです。
歴史に残る芸術は世代を超えて受け継がれていきます。例えば、国立西洋美術館(東京都)や大原美術館(岡山県)はもともと個人のコレクションだったものが公の財産となっています。個人の好みで始めたコレクションが、最後には社会の財産になることもあります。その成長を一緒にサポートできると考えると、ロマンがあります。
また、コレクションをすることは作家が人生をかけてつくってきた価値に対して、自分のお金を差し出し等価交換することでもあります。その代わりにコレクターは作品と一緒に過ごす時間と権利、作家の新しい発想や知性、完成を受け取ることができます。
疑問2:アートマーケットにはどんな人が関わっているの?
アートマーケットは大きく7種類のプレイヤーが関わり、マーケットを動かしています。
- アーティスト(作家):作品を制作する人
- 美術評論家:作品を評価する人
- コレクター:作品を購入し支援する人
- 美術館:作品収集や展覧会を通じてアートの価値を問う場所
- アートディーラー:プライマリーやセカンダリーのギャラリー
- アートコンサルタント:アート情報と作品を斡旋する人
- オークションハウス:セカンダリーマーケットで作品を競売にかけ流通させ、取引価格を決定する場所
プライマリーマーケットの現場では、アーティストとアートディーラーが顔の見える継続した信頼関係の場で活動し、他方でセカンダリーマーケットのオークションハウスのように短期的な取り引きで活動するプレイヤーもいます。アーティストとコレクター以外にもさまざまな立場のプレイヤーがいて、アートマーケットを回しています。
疑問3:いいコレクションを築くための心得とは?
コレクションの方針は人それぞれです。例えば、以下のような方針でコレクションをする人がいます。
- 特定の作家を生涯買い続ける人
- 特定の年代の作家の作品を買う人
アートは既成概念をくつがえすような新しい価値観を与えてくれ、ともに成長していく喜びももたらしてくれます。大切なのは、コレクションの主体はコレクター本人であるということ。まずは自分の好みを知るためにギャラリー巡りやアートフェアに行ってみるのがおすすめです。
また、購入する場所による違いも押さえておきましょう。
- ギャラリーでは作家の個展を開催したり新作も販売している
- ギャラリーで購入すると、作家の最新情報をギャラリーから得やすい
- 作家によってはウェイティングリストがありすぐに購入できない場合がある
- ギャラリーでは扱っていない、既に流通している作品を購入できる
- 最高値を提示した人が落札する平等なルールがあるため、競り合いによる価格変動が起きる
- オークションハウスからは作家の新しい情報は提供されない
特徴を押さえて、自分にあった場所で作品コレクションを検討してみましょう。
場所編:作品購入する場所ってどこにある

2020、田村琢郎、MAKI Gallery
疑問4:作品はどこで買えるの?
作品はプライマリーマーケットである「ギャラリー」、「アートフェア」「ネット・ギャラリー」か、セカンダリーマーケットである「オークション」で購入ができます。
この中で初めてのコレクションでおすすめな場所は「ギャラリー」または「アートフェア」です。
ギャラリーには2つの形態があり、作家から直接作品を預かるプライマリーギャラリーと、一度人手に渡った作品を再度販売するセカンダリーギャラリーがあります。特定の作家を応援していきたい場合は、プライマリーギャラリーでの購入がおすすめです。プライマリーギャラリーは作家の活動を長期的にバックアップしていて、数年に一度個展も行なわれるため作家情報も得やすくなります。
アートフェアはアートシーンを俯瞰できるお祭り的な見本市です。複数のギャラリーやアートディーラーが集まり、取り扱い作品を展示販売するため、一度にたくさんの作品と出会うことができ、好みの作品を発見しやすいです。作品の新たな出会いから、その作家の所属ギャラリーに足を運んでみると作家情報をより深く知れます。
都内では毎年3月ごろに開催される「アートフェア東京」、関西では毎年2月下旬~3月初旬に開催される「アートフェア京都」などがあります。

また、貸画廊という日本独自のシステムもあり、まだ所属画廊のない新人の発掘ができる場所もあります。一方で、作家が所属しているわけではないので、貸画廊からの継続的なサポートや情報提供はあまり期待できない点は考慮しておきましょう。
疑問5:国内に取り扱いギャラリーがない作品を買うにはどうしたらいいか?
海外の取り扱いギャラリーとすでに取引があり、水面下の情報にも詳しいアートコンサルタントに一任するやり方があります。信頼関係が大切な要素になってくるので、本当にほしい作品を手に入れるには長期戦になりますが、その後に作品を手にした喜びはひとしおです。
他にも、
- 日本から海外の取扱ギャラリーに根気強くアプローチし信頼関係を気づいていく
- 予算を決めてオークションに参加する
という手段もあります。
まとめ:アートコレクションの疑問を解消してアートを楽しもう!

美術手帖特別編集、OIL by 美術手帖ギャラリーにて配布(現在は終了)
今回は初めてアートコレクションを検討するときに出てくる、前提と作品購入をする場所についてのよくある疑問をご紹介しました。コレクションはコレクターの人生が反映されます。その最初の1ページになる初コレクションが良いものになれば嬉しいです!
次回は「作品の価格はどう決まっているの?」、「作品はどうやって飾ればいいの?」といった、作品編~所有編をご紹介します。
今回参考にした小冊子「The Beginner’s Guide to Collecting Art」のように、美術手帖では便利なアート情報を提供しています。OIL by 美術手帖ギャラリー(渋谷)では今回の小冊子のように、過去の美術手帖も見れるので、本記事から「もっとアートのことを知りたい!」と感じた方は、ギャラリーにも足を運んでみてください。
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(参考)アイキャッチ画像:マイケル・ケーガンさんの作品