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LY「LUV STORIES」|色彩豊かなモノトーンのアートの背景を紐解く

よしてる
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今回は銀座にある蔦屋書店 GINZA ATRIUMにて開催したLY(リー)さんの個展「LUV STORIES」の模様をご紹介します。

この記事を読むとこんなことが分かります。

  • LY(リー)さんとその作品について知れる
  • 個展「LUV STORIES」作品の展示風景を知れる
  • モノトーンの作風に潜む意味やミューラル(壁画)、LUV(ルーヴ)について知れる

モノトーンの作品と、そこに描かれているLUVを通してどんなことを表現しているのか、作品鑑賞をしながら観ていきましょう!

LY(リー)とは?

LY(リー)さんは東京出身の女性アーティストです。海外で訪れた街並みや、幼い時から妄想していた風景をモノトーンで描く作風で作品制作をしています。

LYという名前の由来は、”L”と”Y”の並びの形が好きでつけたそうです。

7歳からアートスクールで絵を描いていましたが、一緒にスクールに通っていた友達に圧倒的な技術の差を見せつけられ挫折する経験をします。その後もスクールには通うものの、デッサンが下手なので美大には行けないと思い込み、美大への進学はやめたそうです。

そんな中、高校の時にハーモニー・コリン(アメリカの映画監督)の影響でコミュニケーションツールとして見る人に訴えかけるストリートアートに興味を持ち、ミューラルやグラフィティの魅力を知り壁画や絵画の制作をスタートします。

その後は東京を中心に日本、アメリカ、パリ、バンコク、マレーシアなど国内外でミューラルを残し、例えば、原宿のTHE NORTH FACEや渋谷のPORTAL POINTなどに作品を描いています。

モノトーンの作風に潜む意味

LYさんの描く作品には白と黒、そして30種類以上という多彩なグレーが用いられています。最初は白と黒のみで作品制作をしていて、そこにはLYさんの幼少期の環境が影響しているそうで、

  • 部屋の壁紙やランドセル、文房具までもが黒一色だったこと
  • 12色のクレヨンで描くことを嫌い、黒のペンでばかり絵を描いていたこと
  • 18歳の頃から黒い服しか着ていないこと

など、黒に親しみながら過ごしていたことが作風にも影響していることが分かります。

また、黒からは

  • 「絵が下手」というコンプレックス
  • 空想の世界は完璧なのに、技術が追いつかないというジレンマ

というネガティブな感情も表現されているようにも感じます。

2013年に開催された個展をきっかけにランドスケープ(風景)のある世界観を描き初め、その頃から白と黒をつなぐ「グレー」も用いた作品を制作しはじめます。

それまでに味わった挫折を経て「グレー」というターニングポイントになる色を使い始めるようになり、何種類も使い分けることができるグレーによって表現の幅も広がっていきました。

黒いモンスター“LUV(ルーヴ)”を通して自身の気持ちや想いを表現

《At The Skate Park》
2021、LY、1167 × 910cm、Acrylic on Canvas

LYさんの作品の中には、「LUV(ルーヴ)」という黒いモンスターが度々登場します。

このモンスターは2017年に作品の中に登場し始めたキャラクターで、黒で覆われた身体に横長の目をしていて、その見た目から優しい海坊主のようにも見えます。このモンスターは幼少期からLYさんの頭の中に住んでいた空想上のキャラクターなのだそうです。

モノトーンの中に描かれるモンスターにはLYさんの心境や感情が投影されていて、時に悲しそうに見えたり、友達のように寄り添ったりしているように見えます。

ネガティブな感情のときもポジティブな感情のときも、常にそばにいた黒いモンスターはある種最も親しい幼馴染のひとりなのかもしれません。

街を彩る「ミューラル(壁画)」作品を制作する理由

LYさんはミューラルアートを多く制作していることでも知られています。

ミューラル(mural)とは和訳すると大きな壁画という意味で、アートにおいては「壁面に描かれた絵画全般」のことを指します。LYさんの作品もミューラルで描かれることが多く、そこには

  • 昔から大きい絵が好きだったこと
  • 頭の中にいる黒いモンスターをなるべく実寸で描きたい

という想いが表れています。

ミューラルはストリートアーティストが無断で制作することが多い一方で、LYさんは壁の持ち主に許可を得てから制作をするスタイルをとっています。そのため時間をかけた丁寧な制作が可能となり、通行人に見られながら制作が進みます。

こうしてアートがストリートを通したコミュニケーションツールにもなり、ミューラルが街に溶け込み、ローカルに根付くような作品になっています。

個展「LUV STORIES」について

今回の個展では、「本のある景色」がテーマとなっています。黒いモンスター「LUV」と本にまつわる様々な情景を描いた15作品と15の短文が互いにリンクし合った、独自の世界観をつくり上げます。

15の短文からなる「ステートメント」

展示会場にはLYさんの見解が表現された15の短文からなるステートメントが添えられています。

深い深いグレーの森に迷い込んだ、
読書とスケートは最⾼だ、
待っている間に読む本を家に忘れてきた、
この前読んだ物語みたいな景⾊だ、
本屋はまだ開かない、
僕たちはいつもこの結末を議論する、
続きが気になって眠れなかった、
また道に迷った、
この写真について話したい⼈に随分と会っていない、
パークで続きを読んで君を待った、
20時の読書会、
君のおすすめはいつも退屈、
もう50分も外で待っている、
森の奥にある本屋で1⼈1冊づつ好きな本を買った、
僕は眠る前に読んでもらうこの物語がとても好きだ。

アーティストステートメントより引用

まるで絵本に添えられた言葉のような短文と作品を重ねながら、本を読むようにして鑑賞を楽しめる展示方法となっています。

個展「LUV STORIES」展示作品を鑑賞

今回は15作品の中から作品をピックアップしてご紹介していきます。

They Wandered Into The Story:グレーの森とLUV

《They Wandered Into The Story》
2021、LY、1620 × 1300cm、Acrylic on Canvas

ステートメントの隣にある作品です。

左のLUVは地図を、右のLUVはスケートボードをもち、グレーの森にたたずんでいます。

ステートメントのはじまり「深い深いグレーの森に迷い込んだ」と照らし合わせると、おそらくこの作品から物語が始まっていくのかなと感じます。

白と黒、グレーのみで表現されているとはいえ、グレーの多彩な配色を観ていると青色や緑色にも見えてくるのが不思議です

First Art Book:スケートボードと本の示すもの

《First Art Book》
2021、LY、1167 × 910cm、Acrylic on Canvas

2つめの短文「読書とスケートは最⾼だ」とリンクしているように感じる作品。

スケートボードとARTと書かれた本を持って街を歩いているLUVが描かれています。背景にはLUVの顔で隠れているものの「SKATE & BOOK」のお店があるようです。LUVの目がローマ字の”O”のようにも見えるのが面白いです。

スケートボードはストリートを彷彿とさせるアイテムで、ストリートアートから歩んできた作品の流れを表現しているようです。また、本は数多くの芸術家によって描かれたアイテムであり、読み進めれば空想の世界へ旅立て新たな出会いにつながるアイテムです。

この両方が最高だということは、ストリートアートもこれまでの美術と同じく魅力的なアートであるということを発信しているようでした。

In My Story:たたずむLUVと犬

《In My Story》
2021、LY、Φ1500cm、Acrylic on Canvas

3つめの短文「待っている間に読む本を家に忘れてきた」と重なるなと感じた作品。

お店の並ぶ街のような場所の左下にLUVと犬がいます。周りにあるお店のどこかに入っていてもよさそうなものを、ただたたずんでいる様子から、誰かと待ち合わせをしていて、お店に入ってしまうと合流できないかもしれないから待っているように見えます。

どうせ待っているなら本でも読んで待っていようかと思ったところで、本を家に忘れたことに気づき、「あっ・・・」となっている瞬間を切り取っているようです。

LUV’S BOOKS:待ちきれない気持ちを表現しているような作品

《LUV’S BOOKS》
2021、LY、1167 × 1167cm、Acrylic on Canvas

「LUV’S BOOKS」と書かれた本屋の前で、背を向けて体育座りをしているLUVが描かれた作品。

ステートメントでいうところの最後から3つめの短文「もう50分も外で待っている」のワンシーンでしょうか。

発売を楽しみにしているのにお店は時間通りにならないと開かないもどかしさを表現しているように見え、こういう経験あるなぁと共感しながら鑑賞していました。

ミューラルを感じる作品展示も

今回の展示には壁面もペインティングされたミューラルのような展示をしている箇所もありました。

掛けられている作品は丸形キャンバスに描かれたLUVのポートレイト作品《Our Eyes Met》のようです。

壁面に描かれた模様に合わせて展示作品に模様が被って描かれていて、雲に浮かんでいるようです。屋内でミューラルのような作品展示も楽しめる展示手法でした。

Our Eyes Met:エディション作品の抽選販売も

《Our Eyes Met》
2021、LY、Φ1500cm、Acrylic on Canvas

今回は公開初日に鑑賞しましたが、作品全てがお迎え先が決まっている状態でした。

そんな中、丸形キャンバスのエディション作品《Our Eyes Met》は展覧会記念で抽選販売となっていました。展示作品のサイズは大きかったですが、抽選販売作品は額装サイズΦ500mmと小柄のようです。

個展へ足を運んで、作品を生で観て、作品の魅力とともに生活を送りたい、そんな感情が芽生えた方は、作品コレクションを検討してみても面白いかもしれません。

※申し込み期間は2021年10月22日(金)までで終了しています。

考察:タギングのような要素もちりばめられている作品

《Can you read me this story?》
2021、LY、1167 × 1167cm、Acrylic on Canvas

ここまでの作品を見てきて、お店の看板や本に筆記体の白い文字でLYと描かれているように見えるところが気になりました。

誰かの所有物に自身のサインを描くところは、まるで自分のサインを描き自身の存在をアピールするストリートアートの手法「タギング」を彷彿とさせます。

タギングといえば、前回観に行ったKAWS TOKYO FIRSTを鑑賞したときにも、KAWSもタギングを用いていました。KAWSはストリート仲間とのコミュニケーション手段でタギングを用いていたようですが、LYさんの作品からも絵画を通した鑑賞者とのコミュニケーションをはかるために描いているのでしょうか。

こういった表現からも、絵画作品なのにどこかストリートアート感が漂っていました

まとめ:LYさんのモノトーン作品とLUVワールドを楽しむ

LYさんの空想の中で生きるLUVと本の景色をテーマとした作品を鑑賞していきました。

モノトーンの作品と聞くとどこか暗い印象の作品なのだろうかと感じますが、LYさんのモノトーン作品は丸みを帯びたモンスター「LUV」がいるからか、物腰柔らかで不思議と明るく感じる作品でした。

短文と作品の景色が絵本のように緩やかなつながりをもっているのも、作品の世界観をより広く想像できるようにしているようで、LUVワールドを楽しみやすくしているようでした。

また、多彩なグレーの配置が白と黒の境界線をつなげる役割をしているようで、グレーの重なりから不思議と緑や青などの色味を感じることができました。

黒は「ネガティブな感情の象徴」として描かれていると仮定すると、グレーはネガティブな感情を緩和していく過程を表現しているようで、また、グレーから色味を感じるところから「ネガティブな感情も長所になりうる」ということを意味しているのかもしれないと感じました。

展示会情報

展覧会名LUV STORIES
会場銀座 蔦屋書店内中央イベントスペース GINZA ATRIUM(GINZA SIX 6F)
会期2021年10⽉16⽇(⼟)〜10⽉26⽇(⽕)
※終了⽇は変更になる場合があります。
開廊時間11:00~20:00
サイトhttps://store.tsite.jp/ginza/blog/art/22572-1003371001.html
観覧料無料
作家情報LY(リー)さん|Instagram:@ly_painter

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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