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小谷くるみ「Silver」|“時間、痕跡、気配”をテーマに描いたアート

よしてる
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生物は何かしらの痕跡を残しながら生きています。では、生物による痕跡ではなさそうなものと対峙したとき、人はどう知覚するのでしょうか。そんな“人だからこそ感じてしまうもの”への興味から生まれるアート作品を鑑賞してきました。

今回は西武渋谷店にある「美術画廊・オルタナティブスペース」にて開催した小谷くるみさんの個展「Silver」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 小谷くるみさんは1994年生まれ、大阪出身のアーティストです(京都造形芸術大学油画コースを卒業後、京都造形芸術大学修士課程を修了)。
  • “時間や痕跡、気配”をテーマに作品を制作しています。
  • 本展では、銀箔にいぶし液を付着させて硫化させる化学反応を応用した《Silver》シリーズと、画面全体を窓と想定し、結露したガラスの表面に何者かが触れた痕跡を表現した《21g》シリーズを展示。
  • 本記事では展示作品のうち8作品をピックアップし、作品への考察も交えてご紹介します。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

小谷くるみとは?

小谷くるみさんは1994年生まれ、大阪出身のアーティストです。2017年に京都造形芸術大学油画コースを卒業した後、2019年に京都造形芸術大学修士課程を修了されています。

主な個展に

  • 「ヘーパイストス Ἥφαιστος」(2022、Gallery Nomart、大阪)
  • 「S・SENSE」(2021、西武渋谷店、東京)
  • 「MESSAGE」(2019、SUNDAY CAFE ART RESTAURANT、東京)

などがあります。

時間や痕跡、気配をテーマにした作品

小谷くるみさんは“時間や痕跡、気配”をテーマに作品を制作しています。

作品は結露した窓をモチーフにした作品や、素材に錆を用いた作品など、いくつかのシリーズ作品を展開しています。

今回の展示にも2つのシリーズが展示されていますが、これらには共通して作家が興味関心のある“人類”や“文化”というテーマが含まれているそうです。

  • 脳が発達したヒトだからこそ感じてしまうもの
  • ヒトの脳だからこそつくり出してしまうイメージ

といった、人類の積み上げてきた技術や生物としての進化をしてもなお解明できないものへの興味が、作品上にも反映されています。こうした制作背景には子供時代のボーイスカウト経験や、オカルトやホラーへの興味が影響しているそうです。

展示作品を鑑賞

西武渋谷では小谷くるみさんにとって3回目の個展となるそうです。今回の展示作品を見ていきましょう!

《Silver》シリーズ

[Silber] Fake Flowers – 飾る

《 [Silber] Fake Flowers – 飾る》
小谷くるみ、木パネル,布,銀箔,いぶし銀、900 × 1400mm

本展の紹介冊子表紙を飾っている作品です。

草花の柄布の上に貼った銀箔の上からいぶし液(銀箔を硫化させる液体)で描き、描いた部分がいぶし銀となっています。銀に硫黄を付着させて硫化させる化学反応を応用したもので、いぶし液を塗った部分の色は金や茶、赤などを経て黒へと変化するため、作品の花も硫化による黒色で描かれています。また、銀箔が剥がれたところからは柄布が見えるようになっています。

モチーフに注目すると、画面上には一輪の草花が大きく描かれています。日本画や屏風などに用いられる銀箔のイメージから、茶室にある一輪の茶花のような趣があります。華やかに彩るのではなく、野にあるように自然にあった痕跡を残しているようだなと感じました。

[Silber] Bamboo – 境界

《 [Silber] Bamboo – 境界》
小谷くるみ、木パネル,布,銀箔,いぶし銀、606 × 500mm

竹といえば縁起物のイメージで、成長がとても早く、厳しい寒さでも真っ直ぐ伸びることから、生命の象徴、未来への希望という意味合いがあります。

そんな竹(Bamboo)を描いた作品のタイトルには“境界”という言葉が添えられています。竹と境界で連想されるものの一例として「竹林」が挙げられます。竹は横並びに群生していると柵のように見え、人の居住領域と自然の領域の境界線のように感じることがあります。

縁起物としての意味が付与される竹ですが、それだけではなく、自然の中にある竹として見ることを伝えているようでした。

[Silber] Fence – 有刺鉄線と壁

《 [Silber] Fence – 有刺鉄線と壁》
小谷くるみ、木パネル,布,銀箔,いぶし銀、1620 × 1300mm

モチーフには自然由来のものだけではなく、人工物も描かれていました。

先の竹による境界と役割は似ているものの、感じる印象には違いがあります。柄布の赤みが血痕を連想させるところも攻撃的に感じ取れます。

日本画では、銀箔を硫化させることを銀箔を“焼く”と表現するそうです。実際には火で炙ることはないものの、人の生み出した構造物をひとつの歴史として焼き付けているようでもありました。

[Silber] Fake Flowers – 手に持つ

《 [Silber] Fake Flowers – 手に持つ》
小谷くるみ、木パネル,布,銀箔,いぶし銀、1000 × 500mm

《Silber》シリーズは花と手をメインモチーフに描いているそうです。
花については、「人骨が埋まるお墓に花が添えられているかどうかで文化レベルを知ることができる」という話があるらしく、なくなる時に花を添えるという世界的に共通している行動に何かあるのではないかという考えから制作しているそうです。
手は「作り手の手」という意味で用いていて、名画から手を抽出して描いているそうです。

そうした制作背景を知って作品を観ると、単に花を掲げているだけではなく、お墓に花を添えている瞬間を切り取っているように見えてきます。

価値基準のひとつとしても用いられる銀が素材として用いられていることからも、花を添えるという行動の価値が強調されているようでした。

《21g》シリーズ

作家の中で絵画ということを突き詰めて制作している《21g》シリーズも展示していました。

21g

《21g》
小谷くるみ、木パネル,綿布,アクリル、1167 × 910mm

《21g》シリーズの作品は、“魂の重さを量ろうとした学者が死にゆく人の体重を量ったところ21g減った”という話を基にした作品です。

画面全体を窓と想定し、結露したガラスの表面に何者かが触れた痕跡を表現することで、“そこには見えないものの何かがいるような、不確かな存在の気配”を鑑賞者に感じさせます。

参考:亡くなると体から21g失われるってどんな話?

「人が死ぬと体から21g失われる」という話は、1901年にマサチューセッツ州の医師であるダンカン・マクドゥーガルさんが行なった研究発表によるものです。「人の体には魂が宿っており、ある程度の重量を持つはずだ」との説を唱え、死期が近い被験者の死亡前後の体重を計測することで証明しようとしました。一部の被験者は体重の増減に時間差が生じましたが、これは人によって魂が体を離れるタイミングが遅いからではないかと考察し、物議を醸しました。
ー参考:Discovery

Virginia

《Virginia》
小谷くるみ、木パネル,綿布,アクリル、900 × 1400mm

バージニアというタイトルは、ホラー映画「Virginia/ヴァージニア」を参考にしているとのことで、白黒の色も映画から引用しているようです。

窓越しに映る景色は森なのか山なのか、はっきりと分からないですが、じめっとした肌寒い感覚を感じます。焦点は窓の方に合っているところから、目を向けるべきは気配の痕跡が残る窓の方であることを訴えているように見えます。

North Peak

《North Peak》
小谷くるみ、木パネル,綿布,アクリル、900 × 2700mm

横に長く何者かが線を描いた痕跡。その奥には大きな山が見えます。

小谷くるみさんはオカルトを「人間特有の脳のバグ」と定義しています。技術が発展して怪奇現象の解明が進んでも、人間の脳が勝手にイメージしてしまう知覚の歪みは無くなる気配がありません。そんな幽霊を生み出してしまう脳の作用を表現しているようです。

Rainbow

《Rainbow》
小谷くるみ、木パネル,綿布,アクリル、910 × 727mm

これまでの線を描いたものとは異なり、こちらは子供が描いた落書きのような模様が描かれています。水滴の表現が光の反射含めてリアルに表現されていて、どのように描いているのかが気になります。

写真だと見づらいですが、雲と雲の間に虹が描かれていて、その周りにキラキラと星が描かれています。そんな表現から察するに、作品の焦点はホラー映画の“怖さ”を引用しているのではなく幽霊を生み出す“脳の働き”に向けられているのでしょう。

まとめ

小谷くるみさんの《Silver》シリーズと《21g》シリーズを観ていきました。

《Silver》シリーズの硫化は経年劣化を人為的に起こしていて、銀としての美しい状態と比べたら綺麗とはいえないかもしれません。しかし、経年劣化を作品上に引用することで「そのまま、ありのままでいい」という日本人的なわび・さびの美的感覚と繋げているような印象がありました。

《21g》シリーズはパッと見た感じで分かりやすく、色彩も綺麗なので心地よい印象を受ける一方で、ホラーや脳の知覚といった要素が含まれていることを知ると、より面白く感じることのできる作品だなと感じました。

それぞれ用いる素材やモチーフは異なりますが、個人的には自然の中で起きている現象を作品に落とし込んでいるようだなとも思いました。技術が進歩しても、土台である地球=自然とともに歩んでいく人類共通の前提は変わらないと思います。その前提で歩んできた人類の痕跡を抽出して表現しているようでした。

展示会情報

展覧会名Silver
会場西武渋谷店B館8階 美術画廊・オルタナティブスペース(Instagram:@shibusei_seibu_shibuya
東京都渋谷区道玄坂2丁目24−1 B館8階
会期2022年10月13日(木)~10月30日(日)
開廊時間10:00~20:00
※2022年10月時点。西武渋谷店の営業時間に準ずるため、詳細は西武渋谷店ホームページをチェックしてください
サイトhttps://www.sogo-seibu.jp/shibuya/artmeetslife/
観覧料無料
作家情報小谷くるみさん|Instagram:@kurumi_kotani

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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