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多田圭佑「Traffic」|バーチャル上の知覚体験を絵の具で三次元に”描いた”絵画

よしてる
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バーチャル空間は現実世界では存在するはずもないですが、この作品を見たらまるで”存在する”バーチャル空間にダイブしたような感覚になるかもしれません。

今回は「日本橋三越本店 本館 コンテンポラリーギャラリー」にて開催した多田圭佑さんの個展「Traffic」の模様をご紹介します

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 多田圭佑(ただ けいすけ)さんは1986年生まれ、愛知県生まれのアーティストです。
  • 「存ることと無いことのせめぎ合い」というテーマで、現在は絵画を中心に作品を制作しています。
  • 作品のすべてが画材(アクリル絵具をはじめ、顔料、綿布、木製パネル)によって造形・着色された絵画作品というのが特徴的です。
  • 今回の個展では3つのシリーズ「残欠の絵画」「trace/dimension」「Heaven’s Door」の作品を展示しています。

本記事では各シリーズの作品をピックアップし、合計7作品をご紹介します。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

多田圭佑(ただ けいすけ)とは?

多田圭佑(ただ けいすけ)さんは1986年生まれ、愛知県生まれのアーティストです206年愛知県立芸術大学 美術学部油画専攻を卒業し、2012年に愛知県立芸術大学 美術研究科博士前期課程を修了しています。

「存ることと無いことのせめぎ合い」という創作テーマで、現在は絵画を中心に作品制作をされています。

大学入学前からアルバイトでしていた特殊造形(アトラクションや映画セットに使われるもの)の制作経験や、ゲームに用いられる3DCGへの興味から、「仮構された物質」から受ける知覚体験から得た、見た目の異なる作品シリーズを生み出しています

すべてを画材で造形・着色した絵画作品

多田さんの作品を観てまず驚くのが、作品のすべてが画材(アクリル絵具をはじめ、顔料、綿布、木製パネル)によって造形・着色された絵画作品ということです。

何も知らずに作品を観たら、劣化した絵画、使い込まれた木材やタイル、錆びた鎖、経年劣化した門扉そのものに見えてしまいます。

ところが、リアルな表層の中身が実は絵の具などの画材でできていて、現実世界に居ながらバーチャル空間の3DCG表現を観ているような感覚になります

「絵画=筆を使って絵の具で描く」という制作方法はある意味で2次元という「平面の広がり」の中でリアルな表現を生み出すことと言えますが、多田さんの作品はここに「立体的要素」を加えた3次元を絵の具で”描いている”ような印象を受けます。

制作方法を分解し、再構築した新しい絵画の追求が観てとれます

展示作品を鑑賞

今回の展覧会では3つのシリーズ作品が展示されていました。直接観てこそな作品ですが、写真を通して作品を観るのも、それはそれで不思議な感覚になると思います。

残欠の絵画:時間の経過を描いた作品

残欠の絵画 #71

《残欠の絵画 #71》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H18.5 × W14.3 × D5cm

完成した絵画にあえてひび割れや剥落(はくらく)を入れている作品です。近くで鑑賞してみると、ひび割れた部分は線の太さを変えて描かれていることが分かります。

また、描かれている景色はまるで西洋絵画で描かれるワンシーンのようで、そこからも古めかしい印象を受けてしまいます。この景色は多田さんがオープンワールドタイプのゲーム内を旅した出先で見つけた風景を描いているそうです。

小高い丘から見た海辺の街のようですが、もしかしたら「あのゲームかな?」と、ピンとくる人もいるかもしれません。

残欠の絵画 #68

《残欠の絵画 #68》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H18.5 × W14.3 × D5cm

神殿跡のような風景もゼルダの伝説などのゲームの世界でよくみる景色のひとつです。

バーチャルの景色にひび割れによる経年劣化を描くことで、ゲーム内の景色にもある種の有限さを生んでいるように映ります。こうすることで、リアルの世界と同じく、バーチャルの風景も有限の状態を共有しているようでした。

ただ、それはあくまでも表層上の話で、バーチャルの風景自体は(ゲーム自体が破壊されたりしない限り)無限に存在し続けます。そのため、画面の中と同じ時間軸で鑑賞者は生きていくことはできないと感じてしまいます。

残欠の絵画 #79

《残欠の絵画 #79》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H18.5 × W14.3 × D5cm

景色だけではなく、馬が描かれた作品も。ゲーム内の景色は時間が経過しても劣化することはないので、描かれている馬も年を取ることはありません。

ただ、逆の立場で考えるとバーチャルの景色にいる馬にとっては、人間の持つ有限のたそがれにダイブすることができて喜んでいるのかもしれません

trace/dimension:重力と経年劣化を三次元で映し出した作品

trace / dimension #23

《trace / dimension #23》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H227.5 × W300 × D10cm

trace/dimensionという作品シリーズは、バーチャル空間で地球の重力や時間の影響を受けない道具が持つ不確かなあり方を表現した作品です

汚れた木の床やタイルの壁、垂れ下がるチェーン、全てが絵の具によって作られた造形物となっています。

床と壁とチェーン、つまり水平と垂直と奥行きが一つの画面の中で並べられた形となり展示されることで、重力や表層の本物らしさの平衡感覚がゆがむような鑑賞体験に誘われます

trace / dimension #18

《trace / dimension #18》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H53 × W53 × D10cm

水平と垂直と奥行きの要素がひとつずつの、小型作品も展示してありました。

気になる作品制作の過程ですが、まずは絵の具を型取りして制作しているそうです。木の床を例に挙げると、実際の木を型取りしてそこに絵の具を流し込み、木の質感をしたリアルな絵の具を制作します。これに汚れを描く行為をすることで絵画作品にしています

カラフルな絵の具が飛び散った床やタイル、チェーンを観ていると、この場所を使っていたのは画家だったのかなと、そんな想像も広がります。

trace / dimension #25

《trace / dimension #25》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H227.5 × W181.8 × D10cm

キャビネットで奥行きが表現されたものも展示していました。キャビネットは引き出すものという思い込みがあるので、見た目以上に奥行きを感じられるようになっています。

また、キャビネットが新品同様に描かれているので、タイルとチェーンの汚れがより一層目立ってみえます。新品なものと描画によって刻まれている痕跡が対比されているように見えます。

例えば、キャビネットは現代の職場にあるものを表現していると仮定します。

2020年以降の感染症拡大によりリモートワークが普及した結果、職場に行く機会が減り使われなくなった分道具の劣化速度も遅くなっている現代の状況を表現していると考えることができます。

一方、タイルやチェーンについては人や環境の影響で汚れや使用による劣化が起きやすいものとして表現されています。

この2つが同じ時間経過後の状態を表現しているとしたら、現代社会も直接行けない場所が増えたことにより、ある種バーチャル空間と同じような扱いになる空間ができていることを示唆しているようでした。

Heaven’s Door:物質のどこまでが本物かを問うような作品

Heaven’s Door #5

《Heaven’s Door #5》
2022、多田圭佑、アクリル絵具,顔料,綿布,木製パネル、H180 × W135 × D5cm

バーチャル空間に魅入られながらも、絶対に触れ合うことはできない、でもリアルとは別の場所に行きたいという欲望と暴力、辿り着けないことを理解している自身の関係を表現した作品です

17 世紀フランスで実際に使用されていた門扉がモチーフとなっているそうで、こちらも全て絵の具で制作されています。完成した門扉そのものは木材のひび割れや金具の塗装剥がれまで精巧に制作されています。

それを斧で壊すことで、表面の精巧さとは裏腹に黄色い絵の具が姿を表します。

現実の世界に現れた別世界の扉を叩けば、観たことのない景色に繋がっているのではないかと思ってしまいます。しかし、内部には絵の具が詰まっていて、ドラえもんのどこでもドアのようには行かない現実を映し出しているようでした。

作品の隣には作家が斧で門扉を攻撃している動画が流れています。その映像を観ているとバーチャル世界で門扉を破壊しているキャラクターのようにも見えて、ゲーム画面の中のものが画面から飛び出し、目の前に飾られているようで知覚の歪みを感じてしまいます。

また、よく観ると動画の中で壊れているはずの部分が、目の前にある作品では修復されている部分も見受けられます(例えば、右上の金具部分に大きな欠損があったはずなのに、作品にはそれが観られません)。

そんな修復作業から、絵画を描くように一部の欠片をはめ直していることが観えてきます。こうした制作過程を発見すると、やはり「絵画」なんだなと感じます。

バーチャル上の知覚体験とリアルの関係を探る鑑賞体験を

多田圭佑さんの3つの作品シリーズを一同に鑑賞できる展覧会は特に初めて鑑賞する人にとって良い機会だったのではないかなと思います。バーチャル空間、特にゲームの世界は画質やメモリー容量が増強される度に現実以上に幻想的で、美しい風景を再現しているなと感じます。

そんな中で、バーチャル上の知覚体験とリアルの関係を時間、重力、物質といった切り口で考察するような作品は、視覚と触覚で捉えることの違いを教えてくれているようでした視覚によって捉えた情報がリアルであればあるほど現実のものと信じてしまいますが、それは素材や重みといった触覚を置いてきぼりにしている状況とも言えます。

今後、メタバースの発達によって視覚でできる体験はさらに高度になっていくでしょう。そうした中で触覚はどうなっていくのかということにも想いを馳せた鑑賞体験となりました。

写真もまたバーチャル情報なので、気になった方はぜひ実際の作品も鑑賞してみてください!

展示会情報

展覧会名多田圭佑展「Traffic」
会場日本橋三越本店 本館6階 コンテンポラリーギャラリー
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1丁目4−1 本館6階 日本橋三越本店
会期2022年5月25日(水) ~ 2022年6月6日(月)
開廊時間12:00~19:30
※最終日は17:00まで
サイトhttps://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews035.html
観覧料無料
作家情報多田圭佑さん|Instagram:@vilkeisuke

※サムネイル画像は撮影画像を元にCanvaで編集したものを使用しています。

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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