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松山智一「IN AND OUT」|多様性のグラデーションを探るアート

よしてる
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今回は松山智一さんの展覧会《TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT》の模様をご紹介します。

この記事を読むとこんなことが分かります。

  • 松山智一さんの人物像を知ることができる
  • 作品のコンセプトやシリーズについて知れる
  • 作品を通して、古今東西の芸術や文化をあらゆる角度から感じることができる

では、観ていきましょう!

松山智一とは?

3つのキーワード「マイノリティ、セミプロ選手、独学で学ぶ」

松山智一(まつやま ともかず)さんは、岐阜県出身のアーティストです。

松山智一さんという人から想起されるキーワードとして、この3つが挙げられます。

  • マイノリティ
  • 元スノーボードのセミプロ選手
  • 独学で美術を学ぶ

松山智一さんは幼少期に家族でカリフォルニア州南部・オレンジカウンティに3年半移住生活をしています。西海岸の文化に順応しつつ、スケートボード三昧の日々を過ごしたとか。小学校6年生の時期に帰国し日本の学校に通いだすも、アメリカ文化に大きく影響を受けていたために、日本の学校文化になじめず、帰国子女というマイノリティな存在になっていました。

そんな中で、大学時代にはスポンサーがつくスノーボードのセミプロ選手になるというアスリートな一面が開花していきます。しかし、挑戦中に大怪我をしてしまい、プロへの道を断念。表現媒体をスノーボードから絵やデザインに変えて再起をしていきます。

2002年(25歳)で商業デザインを学ぶために渡米しましたが、問題解決を重視する表現順序が合わなかったようで、そこから芸術を志すようになります。そのため、渡米後に芸術の道を志すようになったこともあり、知識ゼロの状態からアーティスト活動をスタートをしています

驚いたのが、現代美術を一から学ぶために図書館で現代美術のDVDを片っ端から借りて、1年かけて独学をしていることです。

この背景には、

  • ストリートカルチャーや現代美術に興味があっても、業界の構造が分からない。
  • 自分の等身大の言語を体系化しなければ、ストリートカルチャー、アートの中で戦うことができない。

が、あったそうです。

アメリカでアーティストとして生きるためには、作品の良さはもちろん、表現を言語で伝えること、知名度をあげていく手段と実行など、想像できない量の障壁がったのではないでしょうか。

幼少期から今日までの大まかな来歴をみているだけでも、その日々の中にマイノリティというキーワードがあり、サバイバルのような日々を過ごしていたのではないだろうか、と感じます。

作品の特徴:多様性のグラデーション

代表作シリーズ《Fictional landscape》でいうと、松山智一さんの作品の特徴は多様性のグラデーションだなと感じています。

古今東西の美術表現や、アメリカや日本といった、各国の文化を織り交ぜ一つの絵画の中に配置をしています。過去の産物である古典美術や浮世絵から現在のネット広告や雑誌まで、本来は交わることのない要素が自然と配置されています。

必ず何かからサンプリングすることがルール化されていて、松山智一さん自身が創作した要素は入っていないようです。観る人によって要素をどう捉えるかが変化していく面白さと、多様性が混合しているがゆえの不自然さを感じる、不思議な作品です。

展覧会「TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT」を観る

それでは、展覧会の模様を観ていきましょう!

SunDanceシリーズ

千羽鶴をモチーフにした作品。

抽象的な表現で、円が目に見えてきたり、尖がりがくちばしに見えてきたりします。

西洋の抽象画とはまた違った、日本的な千羽鶴をモチーフに使うことで、「願掛け」のような俗信的な概念と、西洋の抽象画の歴史的文脈を接続を試みているそうです。

抽象化する対象が日本的なものであり、色使いもどことなく見慣れた印象があると、何を表現しているのか掴みづらい抽象画も進んで観やすくなる印象があります。

抽象画を日本語訳するとこんな感じになるんですね、新鮮な作品でした。

Fictional landscapeシリーズ

松山智一さんの作品と言えばこれっ!といわれる代表的な作品。古今東西の美術をはじめ、アメリカや日本の文化をひとつのキャンバスに組み合わせている作品です。

上部に配置されている松の木やすずめ、竹の葉などは、日本画を感じるところがあります。

一方で、黒背景にうっすらと描かれている装飾は日本とはまた違った文様みたいで、それが整然とそこにあるのが不思議です。右下の女性もどこかファッション誌のポージングのようで、洋服も現代的なものを着ています。

色の配置も突然青や赤が配置されているところに違和感を感じるところがあり、この色は何を表現しているのだろう、と、要素ごとに思考を巡らせてしまう作品です。

Runningシリーズ

馬に乗った男性を描いた作品です。国内外問わず、馬に乗った像というのは強者や支配者の象徴として描かれています。

たとえば、ナポレオンの有名な絵画《サン・ベルナール峠のナポレオ》でも、実際に乗っていたのはラバだったけれど、絵師に「沈着に荒馬にまたがった姿」を描かせています。

ただ、現代においては馬に乗る機会はほとんどなく、記号として残っている印象も受けます。

松山智一さんの作品を観ていると、権力の象徴であった馬を記号として利用しつつも、花を持った男性を乗せているところから穏やかさ、権力とは遠い存在というものも連想させます。そこに対立構造が潜んでいるように見えるのが面白いなと感じる作品でした。

会場空間で観るのも楽しい

今回の展示スペースは銀座 蔦屋書店で、天井が高く開放感のある空間でした。

書籍が周囲にある空間の中で展示されているところも、松山智一さんの作品とリンクするものを感じて面白いなと思いました。

松山智一さんの要素のサンプリングは膨大な量の情報収集をしているはずですし、その収集した情報が周囲にある書籍の量と比例している、と言っても過言じゃないのかなと妄想を膨らませていました。

オンライントークイベントも開催

今回の展覧会に合わせ、オンラインでのトークイベントも開催されました。

新宿東口にパブリックアートを作成した背景についてもお話されていて、チームで完成させるためコミュニケーションを大事にし、意識共有を広げていく大切さを感じることができます。

また、作品の中で多様性が生まれている一方で、両極の文化を組み合わせることで生まれるコンタクトゾーン(接触領域)というキーワードにも出会うことができます。

この、コンタクトゾーンがあることで、本来は文化同士のバトルが発生してしまうところを曖昧にする面白さが、作品には幾重にも潜んでいるんだなと感じました。

まとめ:多様性を感じ、文化に沿い敬う

昨年から松山智一さんの作品に触れる機会が増えて嬉しい機会となりました。

作品の中で表現されている多様性は、日本での暮らしが多い自分にとってはいずれ直面する問題になるものかもしれません。

日本とは異なる文化圏で実際に暮らして、郷に従い文化に沿い敬う体験はご時勢上しにくいですが、アートを通して体感するというのも、疑似的ではありますがありだなと感じます。

まだまだ松山智一さんワールドの氷山の一角しか感じ取れていないなぁと実感しつつ、まずは感じ取れる要素を受け取るところから楽しめたらいいなと思う展覧会となりました。

他展示での松山智一さん作品はこちら

展示会情報

展覧会名TOMOKAZU MATSUYAMA IN AND OUT
会場銀座 蔦屋書店
会期2021年5月15日(土)〜2021年5月26日(水)
開廊時間11:00~19:00
※当面の間、営業時間短縮
最新情報は銀座 蔦屋書店WEBサイトをチェック
サイトhttps://inandout.oil.bijutsutecho.com/
観覧料無料
作家情報松山智一さん
HP:https://matzu.net/
Instagram:@tomokazumatsuyama

関連書籍

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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