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川内理香子「Colours in summer」|絵の具の質感に刻まれた神話の動物たち

食への関心を起点とした作品を制作している川内理香子さん。絵の具の心地よい質感の中に刻まれた”線”には力強さと鮮やかさが折り重なっています。

今回は「銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM」にて開催した川内理香子さんの個展「Colours in summer」の模様をご紹介します。

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まずは要点をピックアップ!

要点
  • 川内理香子さんは1990年生まれ、東京都出身のアーティストです。
  • 「食への関心」を起点としたドローイングやペインティング作品をはじめ、針金、ネオン管などのメディアも扱った作品を制作しています。
  • 本展では「神話論理」の神話の世界に出てくる動物たちの躍動をモチーフにした作品が展示されています。
  • 本記事では展示作品のうち、11作品をピックアップしご紹介!

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

川内理香子とは?

川内理香子(かわうち りかこ)さんは1990年生まれ、東京都出身のアーティストです。2017年に多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究領域を修了しています。

直近だと2022年『VOCA展2022 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―』にてVOCA賞を受賞したほか、「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」ではファイナリスト5組に選出され、寺瀬由紀賞を受賞されています。

作品制作のテーマは「食への関心」

川内理香子さんは「食への関心」を起点としたドローイングやペインティング作品をはじめ、針金、ネオン管などのメディアも扱った作品を制作しています。

食の「自分ではないものが身体のなかに入ってくるということ」に興味をもち、「食べること=異物を取り込む行為」で自分の身体を形成するという、自分と他者のちぐはぐな相互関係の不明瞭さを主軸に作品制作をされています。

本展で引用されている「神話論理」とは?

本展に展示している作品には、「神話論理」の神話の世界に出てくる動物たちの躍動がモチーフとして描かれています。では、この「神話論理」とは一体どんなものなのでしょうか?そこについて少し触れてみましょう。

神話論理とは全巻合わせて800以上、数え方によってはその倍もの南北アメリカ大陸先住民の神話が収録された書籍で、10年以上の年月をかけておよそ2000ページものボリュームで編まれた大著です。

神話論理では、個々の神話の変形関係を分析するためのひとつのトピックとして、神話の中で動物たちの多様な姿(行動、形態、鳴き声、捕食行動など)が描かれています。神話の中でのみ確認できる動物の形象の変形関係から、人間の思考を触発し、自然と文化の関係性など他の存在や現象を理解するためのひとつの手段となっています

今回の個展ではこの神話論理に登場する動物たち(アビ、エリマキライチョウ、エイ、リス、ジャガーなど)がモチーフとなったペインティングが展示されています。中にはトウモロコシなど植物のペインティングもありますが、これも神話論理のなかに登場しています。

と、神話論理がいかに難解な書籍であるかは伝わったかと思いますが、そんな難解さも、アート作品になることで触れやすいものになっています。川内理香子さんの作品から、自分の見えている世界とは異なる世界観を「知る」楽しさを味わう体験ができるかもしれません

ちなみに、神話論理の著者であるクロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)さんは、1908年から2009年にかけて活躍したフランスの社会人類学者、民族学者です。レヴィ=ストロースさんは「神話論理」を通して神話研究において大きな業績を残した人で、「人間の文化の始まりは料理にある」と説いた人でもあります。“食”というキーワードに関連することから、川内理香子さんの制作テーマに通づるところがありますね。

展示作品を鑑賞

今回の展覧会は川内理香子さんにとって2冊目となる作品集『Rikako Kawauchi: Works 2014–2022』の刊行を記念し開催されました。ちなみに、本展のタイトル「Colours in summer」は、直訳すると「夏を彩る色たち」という意味になります。

展示作品を鑑賞:大型作品

まずは大型作品を中心に展示している内周の展示作品を観ていきましょう!展覧会タイトルにもある通り、どの作品も色合いが特徴的な作品です。

Smack

《Smack》
川内理香子、2021、oil on canvas、410 × 318mm

まずは小さなキャンバスに描かれた作品からスタート。

作品タイトルの《Smack》とは、直訳すると「味、風味、香り、持ち味、少しばかり」といった意味です。

見た目はバナナのようですが、その先端には半月型の何かが置かれています。

今回の神話論理とは関係ないかもしれませんが、バナナをみて連想されるもののひとつに、バナナと石が登場するインドネシアの「バナナ型」神話というものがあります。石は不老不死の代わりに家族は持てず、バナナは生者必滅の代わりに家族を成せ、どちらかを選ばなければならないというお話です。最近だと、鬼滅の刃(作者:吾峠呼世晴さん)の人間と鬼の関係をイメージしたほうが分かりやすいかもしれません。

バナナから作品展示が始まっていくところに、子孫のように脈々と続く物語が始まることを暗示しているようでした。

IMMORTAL

《IMMORTAL》
川内理香子、2021、oil on canvas、1303 × 970mm

次に展示しているのが、ヘラジカのように見える動物の角の上に、インコのような鳥と多様な道具が積み重ねられた作品です。

作品タイトルの《IMMORTAL》とは、直訳すると「不死の、不滅の、永続する、永久の」といった意味です。

角の上に乗る鳥のうち、一番左にいる鳥と弓矢が描かれたものは、神話論理に登場するハミングバードに矢を射る霊たちのワンシーンを連想させます。そう考えると、それぞれの角に乗っているものたちは、神話論理に登場する物語が描かれているのかもしれません

Coyote

《Coyote》
川内理香子、2021、oil on canvas、1167 × 910mm

一匹のコヨーテが描かれている作品。脚が長く描かれていて、背中の毛並みが逆立っているところから、どことなく威嚇している姿に見えます。

展示作品のテーマの他にも、何層にも塗り込んだ絵具の層に引っ掻いたような力強いタッチでモチーフを描くのが特徴的です。

引っ掻いて描く方法はおそらく一発勝負、それを流れるように描き切っているように見え流ところからも、動物の野生っぽい力強さが現れているように感じます。

VASE,BREAKFAST,LUNCH,DINNER,STOMACH,UTERUS,HUMAN,GROUND,LINE

《VASE,BREAKFAST,LUNCH,DINNER,STOMACH,UTERUS,HUMAN,GROUND,LINE》
川内理香子、2022、oil on canvas、1620 × 1303mm

タイトルの英単語が作品中央にも並べて描かれています。それぞれ直訳すると「花瓶、朝食、昼食、夕食、胃袋、子宮、人間、地面、線」となり、まるでそれらが花瓶に入っているような見え方をしています。

食や身体といった川内理香子さんのテーマとしているものが、花瓶に入れられて飾られているようにも見えます。

また、全体の色合いも赤や黄色が用いられていて、食事をするための火を連想させる作品でした。

Sun’s trip

《Sun’s trip》
川内理香子、2021、oil on canvas、1940 × 2590mm

本展覧会の中で、最も大きな作品がこちらでした。蛍光色を多用するペインティングとなっていて、線の奥に多様な色彩が現れているのが分かります。

自然の中で寝て起きてを繰り返し生活している様子を表しているように見える作品です。よく見ると「EATING is TRIPING(食べることは旅すること)」という表記もあり、動物たちは食べることで毎日旅をしているという考え方も面白いなと感じました。

そして、この作品の中で気になるのが、右上に小さく描かれた青い点です。おそらく星か宇宙を表しているのではと思いますが、同じ青でヤシの木や動物たちに×印が描かれています

食事という旅を重ねた先に、動植物は星のように自然の一部となっていく、そんなストーリーが作品の中で表現されているのかもしれませんね。

YOU CAN FLY

《YOU CAN FLY》
川内理香子、2020、oil on canvas、1620 × 1303mm

色合いの中では、この青と赤を入れた作品が印象的でした。

曲がりくねった蛇が大きく描かれ、上部には「YOU CAN FLY(君も飛べるよ)」と描かれています。蛇の上に乗っている白鳥のような鳥が応援しているようで、可愛らしいです。

ここまで観てきて感じるのは、基本的には絵の具が固まってしまう前に、全ての線をワンチャンスで描いているのだろうなというところです。

修正がしづらい中で描く線を観ていると、半紙に書道を描くところにも通づるところがあるなと感じる部分があり、そこも親近感を持てる理由なのかもしれないと感じました。

展示作品を鑑賞:小型作品

展示会場の外周では、小さめの作品を中心に展示していました。

tasting

《tasting》
川内理香子、2021、oil on canvas、455 × 530mm

展示の中では珍しく、かなり上の方に展示されていた作品です。イタチのような動物が口を開けて舌を伸ばしているように見えます。

上から獲物を狙っているようにも見える展示方法でした。爪が過度に伸びているところからも、やや攻撃的な印象もあります。

banana boat

《banana boat》
川内理香子、2021、oil on canvas、455 × 380mm

バナナの上にパイナップルが乗っているように見える不思議な作品。海で見るバナナボートとは一線を画す見た目です。

キャンバスの端を見ると、手前が緑色のグラデーションで、線の奥が別の色となっている理由が見えてきます。さまざまな色が敷かれた上に、緑色ベースの色を厚塗りしていることが分かります。

そこに引っ掻くように線を引くことで、最初に敷かれた色が現れています。それが分かると、より心地よい色合いを魅せるのが素敵だと感じます。

coyote’s eye

《coyote’s eye》
川内理香子、2020、oil on canvas、318 × 410mm

目の断面図を描いているような作品。コヨーテの目のようです。

コヨーテとはオオカミを小さくした見た目の動物で、北アメリカの大部分から中央アメリカのパナマ西部辺りに広く分布し、主に森林や開けた草原、茂みが点在するところなどに生息しています。

こうして観ると、瞳孔の形含め、人間とコヨーテの目はよく似ているんだなと感じます。

色のグラデーションにもさまざまなパターンがあり、灰色も綺麗な彩りです。

展示作品を鑑賞:マルチプル作品

展覧会開催に合わせて、マルチプル作品も制作されていました。こちらは抽選販売もされていました(現在は終了しています)。

Moon carrier

《Moon carrier》
川内理香子、2022、oil on canvas、140 × 180mm

アリクイのような見た目の作品、青色の色彩が綺麗で、絵画の中の小さなストーリーの断片のようです。手のひらに乗るほどのサイズで、可愛らしいですね。

Sky walker

《Sky walker》
川内理香子、2022、oil on canvas、140 × 180mm

まとめ

川内理香子さんの作品を鑑賞していきました。絵の具の質感や立体感、そして描かれた動植物たちの躍動を通して作品を楽しむことができました。

もしかしたら、神話論理という難しい書籍を読めば、作品に描かれた背景もより深くわかるのだと思います。ただ、読破するにはかなり難しい書籍だなとも思います。

私自身もあらすじ程度しか読めていません。それでも作品の解釈の助けになる内容と出会えたので、今回は神話論理のさわりの部分についてもまとめてみています。

まずは、作品を観て楽しんでみて、より深く知りたい場合は作品集にも手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。そして、好奇心がもっとある人は神話論理にもチャレンジしてみても面白いかもしれませんね。

展示会情報

展覧会名「Colours in summer」
会場銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
東京都中央区銀座6丁目10−1 SIX6階
会期2022年月7日2日(土)~7月13日(水)
開廊時間11:00-20:00
※最終日のみ、18時閉場
サイトhttps://store.tsite.jp/ginza/blog/art/27159-1511320610.html
観覧料無料
作家情報川内理香子さん|Instagram:@rikakokawauchi

関連書籍

参考リンク

ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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