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TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展|現代アートアワードを参加型で楽しむ

よしてる
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今回は天王洲にある寺田倉庫 G3にて開催した「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」の模様をご紹介します。

ギャラリー巡りとはまた違った、現代アートアワードのファイナリスト5組の作品を鑑賞でき、鑑賞者も参加型でアワード選考を楽しめる展覧会なのが特徴的でした。

TERRADA ART AWARD 2021とは?

TERRADA ART AWARD 2021(テラダアートアワード2021)とは、寺田倉庫が主催する新進アーティストの⽀援を目的とした、現代美術のアワードです。

寺⽥倉庫とは?

寺⽥倉庫は1950年創業の保存保管事業会社です。美術品保管を主軸に、美術品修復・梱包・輸配送・展示など、アーティストの情熱や美術品に込められた価値を未来に受け継ぐためのサポート事業を広く提供しています。また、拠点とする天王洲アイルでは芸術⽂化発信事業も展開し、アートの一大拠点にするための街づくりにも取り組んでいます。

世界のアートシーンでプレゼンスを発揮できる才能を見出すために設立されたアワードで、今回は展⽰発表歴が1年以上10年未満のアーティストを対象に、全ての媒体を含む現代美術作品(絵画、平⾯、彫刻、インスタレーション、映像、写真、パフォーマンス、⾳楽など)から広く応募されました。

国内外1346組の応募があった中から5組がファイナリストとして選出されました。(その倍率、なんと269.2倍!)

今回の展覧会はファイナリスト5組の作品を寺田倉庫に展示したものになります。

オーディエンス賞で投票ができる

今回の展覧会は作品を鑑賞できるだけではありません。鑑賞者自身も審査員となり作品へ投票ができるようになっていて、会期中に来場した全員からの投票結果からオーディエンス賞が決まります。

自分の投票が一組のアーティストの応援につながると思うと、これまでのアート作品の見方から変わってくるかもしれません。

ファイナリストの作品を鑑賞

それでは、ファイナリストの作品を観ていきましょう!あなただったら、どの作品に投票しますか?

川内理香子(寺瀬由紀賞)

川内理香子さんは1990年生まれ、東京都出身のアーティストです。2017年多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究領域を修了しています。

川内理香子さんは食への関心を起点としたドローイングやペインティング作品をはじめ、針金、ネオン管などのメディアも扱った作品を制作しています。
食の「自分ではないものが身体のなかに入ってくるということ」に興味をもち、食べること=異物を取り込む行為で自分をかたちづくるというちぐはぐな部分の相互関係の不明瞭さを主軸に作品制作をされています。

今回のアワードでは寺瀬由紀賞を受賞された作品群です。

他展示での川内理香子さん作品はこちら

rabbit’s play

《rabbit’s play》
2021、川内理香子、oil on canvas

油絵具で厚く塗られたキャンバスの上から、野球やラグビーなどのボール、バドミントンの羽根といった「スポーツ用具」と、心臓や脳といった「ヒトの臓器」が描かれた作品。また、タイトルの《rabbit’s play》は直訳すると「戯曲」という意味になります。

描くというよりは刻み込んでいるようで、台本のような英文も刻まれています。ボールがいないと試合が成り立たないのに主役は選手であるように、臓器もまたそれがないと生命活動が成り立たないのに主役は皮を被った自分自身である、そんなイメージを得ながら観ていました。

そして、作品の下方をよくみるとウサギが。状況を全く気にしていなさそうな、無邪気な印象があります。

touch of volume

《touch of volume》
2021、川内理香子、neon light,iron frame

ネオン管を額縁の上部に巻きつけ、髪の毛のように垂らしたような作品。ネオン管はガラス管のなかを水のような物質が流れてめぐることで光を放っていて、その赤色からも血管を連想させます。

血管は食という異物を栄養にして身体中に届ける役割を担っています。流れ続けなければ成り立たない様子から、身体と作品に共通点があるなと感じます。

walking

《walking》
2020、川内理香子、wire and pin on panel

パネルにワイヤーが配置された作品。筆で描く二次元な空間から、三次元的に空間も描いているようです。ひとつひとつのワイヤーを観ていると、ヒトの手や猫の手にも見えてきます。

この作品に限らず、作品には描くうえで最も原始的なものである「線」を強調したものが多いなと感じました。描くというよりは刻み込む印象を受けたのも、線による表現を感じたからかもしれません。

寺瀬由紀とは?

寺瀬由紀さんとはアートインテリジェンスグローバル、ファウンディングパートナー。2011年にサザビーズに転職し、18年にサザビーズ香港のコンテンポラリーアート部門アジア統括に就任。在任中にサザビーズ社のアジアにおけるオークション取扱高を3倍に拡大、8シーズン連続でトップマーケットシェアを実現します。
17年のニューヨークのオークションで前澤友作さんが約123億円で落札したバスキアの《Untitled》にも携わったことで知っている方も多いのでは。

久保ガエタン(真鍋大度 賞)

久保ガエタンさんは1988年生まれ、東京都出身のアーティストです。2013年東京藝術大学大学院美術研究科を修了しています。

超常現象や自然科学的に知覚できないもの、精神分析や社会科学の目に見えない関係性を「オカルト(隠された存在)」と総称し、鑑賞者の身体感覚に訴えかける奇怪なインスタレーションを制作しています。

今回のアワードでは真鍋大度賞を受賞された作品です。

会場内に入ると、正面に映像作品と、両端には波形のようなものが投影されていました。

来たるべきものの予感

《来たるべきものの予感》
2021、久保ガエタン、映像

映像作品は、会場である天王洲がまだ埋め立てられる前、海だったころの話が展開されます。天王洲の名前の由来となった話から、埋め立てられる天王洲の地にもクジラが打ち上げられたことがあったこと、それをまつるクジラ塚が現在も残っていることなど、歴史を観ているような感じになります。

クジラ呼び

《クジラ呼び》
2021、久保ガエタン

また、今回の作品では音を用いた作品も展示しています。これはスペクトログラムといって、

  • グラフで描かれた映像を音声変換したもの
  • 水中マイクで海の中の音を会場に転送

することで、音を流しているそうです。また、クジラの鳴き声を会場外にある浅橋に転送し、水中スピーカーによって音を流してもいます。会場外におよぶ大規模な展示となっています。

「天王洲の海で音楽を流してクジラを呼ぶ」作品を鑑賞していると、ひとつの場所には時代によって異なる音があり、現在も羽田空港新飛行ルートとして頭上450mを飛ぶ飛行機の音で満ちています。それぞれの音を重ねて天王洲の記憶を音声で集約しているように感じます。

真鍋大度とは?

真鍋大度さんとは、Rhizomatiks ファウンダー、アーティスト、DJ。東京理科大学理学部数学科、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業後、2006年にライゾマティクス設立、15年よりライゾマティクスリサーチ主宰をされています。石橋素さんとともに制作した《particles》で第15回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞とアルス・エレクトロニカ2011インタラクティブ・アート部門で準グランプリ、坂本龍一さんとのインスタレーション作品《Sensing Streams》で第18回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞するなど、受賞多数。

スクリプカリウ落合安奈(鷲田めるろ賞)

スクリプカリウ落合安奈さんは1992年生まれ、埼玉県出身のアーティストです。2016年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業(首席・総代)し、現在は同大学博士課程に在籍しています。

日本とルーマニアの二つの母国に根を下ろす方法の模索をきっかけに、「土地と人の結びつき」という一貫したテーマのもとさまざまな素材・手法の作品を国内外で発表しています。

今回のアワードでは鷲田めるろ賞を受賞された作品です。

骨を、うめる ー one’s final home

《骨を、うめる ー one’s final home》
2019-2021、スクリプカリウ落合安奈

展示作品は2019年にベトナムのホイアンから始まった3部作といえる一連のビデオインスタレーションの第3章にあたります。

展示内では波打ち際の映像で包まれ、人と人を分断しつつもつなぐ海という境界線を感じます。

その前にはスポットライトのようにひとつの映像が流れています。

映像は江戸時代に「鎖国政策」に翻弄されながら異国の地で永い眠りについた、ある1人の日本人の墓をめぐるストーリーが展開されています。「鎖国と国際結婚」、「隔たりを生むものと、それを超えてゆくもの」について考えさせられ、時代は違えど違う形で隔たりが生まれている今、普遍的な問いを立てている作品のように感じました。

鷲田めるろとは?

鷲田めるろさんとは、十和田市現代美術館館長。1999年から2018年まで金沢21世紀美術館キュレーターを務め、2017年には「第57回ヴェネチア・ビエンナーレ」日本館キュレーターとして岩崎貴宏さんの個展を企画されています。あいちトリエンナーレ2019にも携わり、2020年4月からは十和田市現代美術館館長を務めています。

持田敦子(片岡真実賞)

持田敦子さんは1989年生まれ、東京都出身のアーティストです。2018年東京藝術大学大学院先端芸術表現学科、バウハウス大学大学院Public Art and New Artistic Strategiesを修了しています。

プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し、空間の意味や質を変容させる作品を制作されています。

今回のアワードでは片岡真実賞を受賞された作品です。

Steps

《Steps》
2021、持田敦子

空間をめいっぱい、突き破るくらいの勢いで乱立する仮設階段が設置されていました。本来の”登るための手段”である階段を”空間を埋め尽くすための要素”としているあたりに超芸術トマソン的な香りも感じます。

仮設階段も社会的には安全第一で作成されるものですが、こちらの作品についても安全性は考慮されています。その中でいかに無謀な目標を立てて、未知の物事に挑戦できるのかが表現されています。

ある種空間をキャンバスのようにして、そこを無秩序に埋め尽くすことで空間の捉え方を奔放に変換してくれる作品でした。

片岡真実とは?

片岡真実さんとは、森美術館 館長、国際美術館会議(CIMAM)会長、国際芸術祭「あいち2022」 芸術監督。森美術館では「アイ・ウェイウェイ展」(2009)、「会田誠展」(2012)、N・S・ハルシャ展(2017)、「塩田千春展」(2019)などの個展をキュレーションしています。また、京都造形芸術大学大学院教授も務めています。

山内祥太(金島隆弘賞)

山内祥太さんは1992年生まれ、岐阜県出身のアーティストです。2016年東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻を修了しています。

VRや3DCGなどの映像技術と自身の身体イメージ、粘土彫刻を組み合わせることで制作を進め、今回は人間とテクノロジーの恋愛模様をパフォーマンス・インスタレーションとして描き出しています。

今回のアワードでは金島隆弘賞を受賞された作品です。

舞姫

《舞姫》
2021、山内祥太

大画面に3Dのゴリラのような生き物が映し出され、中央部にへその緒のようなピンク色の管が伸び、その先には「皮膚の服」が置かれています。

この作品は「3Dのゴリラ=テクノロジー」「皮膚の服=人間」の恋愛模様を描いているようで、「テクノロジーは人間の持つ有限のたそがれに、人間はテクノロジーの持つ無限の銀河に想いを馳せて」います。

画面を観ていると、3Dのゴリラが自身の皮を脱ぎ、老いていく描写が映し出されていました。

老いることを知らなかったテクノロジーが老いを獲得して、喜びを感じているように見えます。人間にとっては喜ばしくない老いも快楽に変わる瞬間がなんだか新鮮でした。

また、この皮膚の服は着た人の動きに連動して3Dのゴリラも動くようになっていて、パフォーマンスも会期中に何度か実施されています。

金島隆弘とは?

金島隆弘さんとは、ACK(Art Collaboration Kyoto)プログラムディレクター、京都芸術大学客員教授。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、ノキア社、株式会社東芝、東京画廊+BTAP、ART iTを経て2007年にFECを設立。現代美術や工芸の展覧会企画、交流事業のコーディネーション、アーティストの制作支援、東アジアの現代美術の調査研究などを手がけています。2021年より国立京都国際会館で開催される新しい形のアートフェア、ACK(Art Collaboration Kyoto)のプログラムディレクターを務めています。

まとめ:現代アートアワードを参加型で楽しもう

TERRADA ART AWARD 2021ファイナリストの作品を鑑賞していきました。一つ一つの作品が大規模で迫力があり、新たな表現に出会える良いきっかけにもなりました。

また、本展では投票によるオーディエンス賞の決定という要素もあるのが特徴的でした。「鑑賞して楽しむ」から「どのアーティストの作品を今後も応援したいか」という視点で、実際に1組を選ぶという経験もできました。そういう意味で、コレクターの視点と似ているかもとも感じました。

オフラインだからこそ体感できる刺激的な体験になりました。言語化できていない情報量なので、新たな表現の出会いや参加型を楽しみに会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展
会場寺田倉庫 G3-6F
東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号
会期2021年12月10日(金)~12月23日(木)
※会期中無休
※予約制、予約はこちらから
開廊時間11:00~19:00(最終入館 18:30)
サイトhttps://www.terradaartaward.com/finalist#exhibition
観覧料無料
作家情報川内理香子さん|Instagram:@rikakokawauchi
久保ガエタンさん|Instagram:@gaetankubo
スクリプカリウ落合安奈さん|Instagram:@ana_scripcariu_ochiai
持田敦子さん|HP:https://atsukomochida.jp/
山内祥太さん|Instagram:@shota__yamauchi

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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