イベント
PR

丸の内ストリートギャラリーとは?(東京で楽しめるパブリックアートをご紹介)

よしてる
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

丸の内仲通りといえば、街路樹が美しい都市のオアシス。有名ブランドの路面店やハイセンスなレストランやカフェ、商業施設などが軒を連ねていますが、アートスポットでもあるということは意外と知られていません。

そこで今回は、丸の内仲通りのアートスポット「丸の内ストリートギャラリー」をご紹介します

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 丸の内ストリートギャラリーとは、1972年より三菱地所株式会社と公益財団法人彫刻の森芸術文化財団が、 芸術性豊かな街づくりを目指して取り組んでいるプロジェクトです。
  • 50周年を迎える2022年に4年ぶりとなる新作の設置や一部作品の入れ替えが行われました。
  • 丸の内仲通りは「丸の内アーバンテラス」といって、平日は11:00~15:00、土日祝は11:00~17:00の時間帯でテラス席が解放されるので、散策エリアとしてもおすすめ。

本記事では展示作品19点のご紹介と、展示作品の場所をGoogle マップ上でご紹介しています。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

丸の内ストリートギャラリーとは?

丸の内仲通り

丸の内ストリートギャラリーとは、1972年より三菱地所株式会社と公益財団法人彫刻の森芸術文化財団が、 芸術性豊かな街づくりを目指して取り組んでいるプロジェクトです

国内外アーティストの作品が丸の内仲通りに点在し、街中ならではの大型作品を楽しむことができます。また、街路樹の木漏れ日を浴びたアート作品はフォトジェニックな風景を生み出しているのも特徴。

展示作品は数年に一度入れ替えをしていて、50周年を迎える2022年に4年ぶりとなる新作の設置や一部作品の入れ替えが行われました(現代作家の新作5点、継続作品2点、入れ替え作品12点の、合計19点の展示)

【2022年版】作品展示スポットを地図でチェック!

作品の展示スポットは合計で19カ所ありますGoogle マップ上に示すと、以下の通りになります。

青線で示しているのは散策のモデルコース。日比谷線日比谷駅からスタートし、大手町駅をゴールとするコースです。止まらず歩けば30分程度、ゆっくりと散策を楽しみながら鑑賞しておよそ1時間30分程度で全てを巡れるコースです

また、丸の内仲通りは「丸の内アーバンテラス」といって、平日は11:00~15:00、土日祝は11:00~17:00の時間帯でテラス席が解放されます。散策の途中に自由に座れる場所があるのも、散策エリアとしておすすめできるポイントです。

鑑賞の参考にしてみてくださいね。

展示作品を鑑賞

それでは、日比谷駅から大手町駅へ向かうコースに沿って19点の展示作品を鑑賞していきながら、作品の鑑賞ポイントもチェックしていきましょう!

1. ルネッサンス(キム・ハムスキー)

《ルネッサンス》
キム・ハムスキー、1985、ブロンズ、ヴェトナムーフランス

どんな作品?

人間の顔の表皮を部分的にめくり、髪の毛を表現しているように見える作品です。細かなパーツを排除し、目、鼻、口のみで構成された顔はどこか能面のようにも見えます。

作品名のルネッサンスとはフランス語で「再生」を意味する言葉で、美術史においては一般に14世紀から16世紀にかけて興った古代ギリシャ・ローマ文化の復興運動を指します。ルネッサンスは芸術家が誕生した時代で、最盛期には《モナ・リザ》で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチも活躍しました。

そんなことを考慮して観ると、笑っているのか無表情なのか判別がつかない《モナ・リザ》の表情にも見えてきます。

どんなアーティストが制作したの?

キム・ハムスキー(Kim Hamsky)さんは1943年、北ベトナム生まれのアーティストです。

木彫を得意としているそうで、緻密で細やかな手技からは卓越した技術をうかがうことができます。

2. 展望台(ジム・ダイン)

《展望台》
ジム・ダイン、1990、ブロンズ,塗料、アメリカ

どんな作品?

上半身裸体で下半身をマントで覆う美の女神アフロディデを彫刻した有名な作品《ミロのヴィーナス》をもとに制作した作品です実物の《ミロのヴィーナス》より小さく、頭部も失くして荒削りに面取りした2体が並んでいます。

一般的に広く知られた作品をモチーフに、感情の語彙を物にのせて表現しているようです。

また、岩のような質感をした台はブロンズでできています。

どんなアーティストが制作したの?

ジム・ダイン(Jim Dine)さんは1935年生まれ、アメリカ出身のアーティストです。60年代初期から活躍しており、ネオ・ダダ、抽象表現主義、ポップアートなど数々の芸術運動に関連する一方で、その分類を避けて活動をしています。

作品は極めて個人的なモチーフを用いた自伝的考察と自己への絶え間ない批評を核に、身近で個人的に重要なオブジェクトのイメージを自身の芸術に取り入れた作品を制作しています。

ジム・ダイン(Jim Dine)さん|Instagram:@jimdinestudio

3. 小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥(中谷ミチコ)

《小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥》
中谷ミチコ、2022、ブロンズ、塗料、日本

どんな作品?

まるでトリックアートのように、鑑賞者の移動に合わせて作品の女の子も動いているように感じる作品です。裏側には青い鳥も描かれています。

⿂が泳ぐ⽔がこぼれないようにスカートで運ぶ⼥の⼦の彫刻作品。この女の子は妊婦さんのイメージで、魚は赤ちゃんを表しているそうです。その女の子は凹んだ立体作品となっていて、実体のないものと捉えることができます。凹みで表現する不思議な立体作品には、この世に存在しない命が表現されているようでした。

また、裏面は金ピカな鏡面になっていて、左上にちょこんと青い鳥がいます。鏡面に映る自分も歪んで映る自分もある種の虚像となり、青い鳥と同じ世界線にいる感覚になりました。

一般的に立体作品や絵画は鑑賞者が一方的に「見る」対象ですが、本作は凹みによる目の錯覚で「見られている」ように感じ、彫刻と鑑賞者の関係が逆転する面白みがあります

ちなみに、作品がアーチ型になっているのは紙のような柔らかい雰囲気を表現しているそうです。

どんなアーティストが制作したの?

中谷ミチコ(なかたに みちこ)さんは1981年、東京都生まれのアーティストです。

一般的なレリーフ(浮彫り)とは異なり、粘土で作った原型を石膏で型取ると凹みが入れ替わることに注目した、モチーフの凹凸が逆転したレリーフ作品を制作しています。

凹凸が逆転した特徴的な彫刻作品を通して、物体の「不在性」と「実在性」を問い続けています

中谷ミチコさん|Instagram:@michi_n_aaa

4. われは南瓜(草間彌生)

《われは南瓜》
草間彌生、2013、黒御影、日本

どんな作品?

水玉模様をした南瓜(カボチャ)の作品です。

南瓜は、草間彌生さんがもっとも好んで使っているモチーフです。祖父の畑には南瓜が育てられていて、この南瓜が、幼少期に幻覚と幻聴に悩まされていた草間彌生さんを慰めてくれていたそうです。

また、本作は初めて石彫りで作られた作品。素材には黒御影(くろみかげ)という、硬く磨くほどに美しい艶がでる石が用いられています。

半永久的に残る丈夫な石からは制作テーマのひとつ「永遠(とこしえ)」を感じることができ、そこに作家自身の思い出深いモチーフである南瓜が重ね合わさることで、良い思い出が永遠に心を潤してくれますように、という願いが込められていそうだなと感じます。

どんなアーティストが制作したの?

草間彌生(くさま やよい)さんは1929年、長野県松本市生まれの前衛芸術家です。1960年代にニューヨークの前衛芸術シーンで名声を高めたことから、「前衛の女王」とも呼ばれています

幼い頃から統合失調症に悩まされ、視界が水玉や網目に覆われたり、テーブルクロスの赤い花模様が部屋中に拡散して見えたり、動植物が人間の声で話しかけてきたりと、幻覚や幻聴が度々あったそうです。

そんな幻覚の恐怖から逃れるために幻覚のイメージを紙に描きとめるようになり、それが現在の作品にも反映されています。

草間彌生さん|Instagram:@kusama_archive
草間彌生さん他作品はこちら

あわせて読みたい
草間彌生「私のかいたことばに あなたのナミダをながしてほしい」|人生の先に注ぐ熱量を感じるアート
草間彌生「私のかいたことばに あなたのナミダをながしてほしい」|人生の先に注ぐ熱量を感じるアート

5. 白のマスク(澄川喜一)

《白のマスク》
澄川喜一、1969、ポリエステル樹脂,塗料、日本

何が表現された作品?

抽象的な彫刻で、不思議な形の台座に音符が乗っているようにも見える作品。

これは、60年代半ばから70年代半ばまでに制作された《MASK》シリーズの一つ。《MASK》シリーズとは、アフリカのドゴン族の仮面や日本の甲冑(かっちゅう)から「人間がいないのに、そこにいるように見える」と感じたことからテーマとなった作品群です

中央部分にはわずかな凹みとノミ跡があり、そこには「彫刻の量感の強さを追い求めず、仮面や甲冑が内側(空洞)のかたちを想起させるように、彫刻の内部の構造を表面に出したい」という作家の意図がこめられているそうです。

どんなアーティストが制作したの?

澄川喜一(すみかわ きいち)さんは1931年生まれ、島根県出身の彫刻家です。日本の近代彫刻を代表する彫刻家で、東京湾アクアラインの換気塔《風の塔》や東京スカイツリー®のデザイン監修を手がけたことでも有名です

澄川喜一さんは幼少期に、日本三名橋の木造橋「錦帯橋(きんたいきょう)」と出会い、木の心地よさと、反りと起り(そりとむくり)のある造形美に魅せられたそうです。

そこから、「耳を澄まし木という素材の声を聞き取り、耳に聞こえる音では無く視覚で聞く空間の音を感じたく、“目で見る空間の音作りの試み”」をライフワークとして、作品制作から数多くの環境造形も手がけています。

6. 恋人たち(バーナード・メドウズ)

《恋人たち》
バーナード・メドウズ、1981、ブロンズ、イギリス

どんな作品?

題名の《恋人たち》からも官能的なかたちの生き物を連想させる作品です。横から見ると小さなワニのような造形で、中央にあいた小さな穴が目のようにも見えます。

各部位が何を表しているかまでは分かりませんでしたが、戦後を生きたバーナード・メドウズさんが思う《恋人たち》とはなんだろうと考えた時に感じたのは、同じ空間で寄り添えられることの喜びでした。

住環境が脅かされる中で恋人同士が一緒にいれることは当たり前ではないこと、その喜びが、作品の鏡面による輝きにも現れているようです。

どんなアーティストが制作したの?

バーナード・メドウズ(Bernard Meadows)さんは1915年から2005年にかけて活躍した、イギリス出身の彫刻家です。

後に登場する彫刻家、ヘンリー・ムーアさんの初代助手を務めた人で、丸みを帯びたフォルムからは師の影響を思わせ、一方で角ばった箇所からは独自の表現を感じ取れます。

角ばった、尖りのある表現には戦後間もない時代の怒り、不安、罪悪感を反映していると言われています。作品制作の背景には、時代背景の影響を受けた表現もあることを教えてくれます。

7. 《羊の形(原型)》ヘンリー・ムーア

《羊の形(原型)》
ヘンリー・ムーア、1971、ブロンズ、イギリス

どんな作品?

なんの形なのか当てるのが難しいほど抽象的に感じてしまう作品は、羊を表しています

ヘンリー・ムーアさんの作品は、人物や動植物など自然の形態からアイディアを得ていて、本作は風景の中に彫刻を置くことを想定しながら制作された中間サイズの「原型」です。この原型から、高さ5m70cmに拡大された野外作品が制作されていて、実物はイギリスのヘンリー・ムーア財団が所蔵しています。

また、ヘンリー・ムーアさんのつくる作品は穴や空洞を含んでいるのが特徴です本作にも股の下のような空洞部分があり、その空間が曲線美を強調しているようにも見えます。

どんなアーティストが制作したの?

ヘンリー・ムーア(Henry Spencer Moore)さんは1898年から1986年にかけて活躍した、イギリス出身の芸術家・彫刻家です。20世紀のイギリスを代表する存在で、第一次世界大戦(1914年–1918年)、第二次世界大戦(1939年–1945年)の両方を経験している時代背景があります。

激動の時代を生きている一方で、制作は「自然と人間の調和」をテーマとしていて、人間愛に満ちた柔らかな印象を与える彫刻を残しています

彫刻を好んで野外に展示していることでも有名で、「彫刻の置かれる背景として空以上にふさわしいものはない」と語るほどでした。

8. 拡散する水(アギュスタン・カルデナス)

《拡散する水》
アギュスタン・カルデナス、1977、カラーラ産白大理石、キューバーフランス

どんな作品?

広がる水を有機的に表現した作品です流線的な見た目からはどことなく、生き物のような生命力も感じさせます。

自然発生したかのような印象を与える起伏に富んだフォルムが特徴的で、この抽象化された造形はアフロ・キューバン(Afro-Cuban)と呼ばれるアフリカの原始美術の造形志向を取り入れているそうで、「トーテム構造(totem morphology)」と呼ばれています。

シュルレアリスム的なテーマと有機的なフォルムを追求し続け、独自の表現となっています

どんなアーティストが制作したの?

アギュスタン・カルデナス(Agustín Cárdenas Alfonso)さんは1927年から2001年にかけて活躍した、キューバ出身の彫刻家です。1955年にパリに移住し、パリのシュルレアリスム運動に参加し活躍しました。

アギュスタン・カルデナスさんはさまざまな素材を用いて彫刻を制作しましたが、その作品は基本的に3つの段階に分けられるそうです。第1期は、ハバナで制作を始めてからパリに到着し滞在するまでの期間で、この期間では木を使った作品が目立ちます。第2期では、大理石、花崗岩、玄武岩を扱ったより抽象的な作品となり、カラーラ産白大理石が決定的な役割を果たすようになります。そして第3期はブロンズによる作品へ移り変わります。

そのため、本作は第2段階の作品であることが分かります。

9. Matching Thoughts(H&P.シャギャーン)

《Matching Thoughts》
H&P.シャギャーン、2022、ブロンズ,塗料、日本

どんな作品?

一見すると指と指を合わせようとしているように見える、謎めいた作品。これは、ひとりひとつ単独の頭みたいなモチーフを描いた絵をペアにして並べたものを彫刻作品にしています。よく見ると、鼻が突き出た顔と強調された髪型が見えてきます。

僕がこだわったところは、秘めた怒りを持つ人と聖人のような二者の関係です。若いツッパリ(リーゼント)と色々場数を踏んできた経験者(アフロ)の対比というか。モチーフやディテール以上に、この二者のコミュニケーションが伝わるようなものになればいいかな。

H&P.シャギャーンインタビューより引用

立場の違う2者が面と向かって対立するような構図ですが、若いツッパリ(リーゼント)が煉瓦の台に立ってちょっとだけ身長で勝つような見た目になっているところに反骨精神を感じます

また、素材に時間経過によって段階ごとに対応が変わっていくモルタルを使い、思考の痕跡が彫刻の至る所に残っています。

どんなアーティストが制作したの?

H&P.シャギャーンとはアンリ・シャギャーン(Henri Chaguin)さんとピエール・シャギャーン(Pierre Chaguin)さんから成る新人アートユニットです。2004年にヨーロッパの古都ウィーンに滞在制作中だったアンリが、古くからの友人であるピエールを呼び寄せたことをきっかけに始まったアートユニットです。

シャギャーンの共通のエスプリ(精神、特にフランス人の国民性を反映した精神)は、近代美術へのリスペクト。それはロダンのような近代までの彫刻の伝統が持つ造形美やセザンヌ的立体のひとつである球体への関心と解釈することもできるかもしれません。

ちなみに、新人というコンセプトで結成したユニットですが、その正体はアンリが1959年生まれ、青森県出身の奈良美智(なら よしとも)さん、ピエールが1970年生まれ、愛知県出身の杉戸洋(すぎと ひろし)さんです。おふたり共に、現代アートでは名のしれたアーティストです。

10. 私は街を飛ぶ(舟越桂)

《私は街を飛ぶ》
舟越桂、2022、ブロンズ,塗料、日本

どんな作品?

静かに佇む人物の彫刻作品。右半身は青みがかっていて、左半身は温かみのある肌をしていて、人の持つ感情を対比して表現しているように感じます。

頭部には、教会、本、並木道がちょこんと置かれていて、それぞれ「人が信じていること」、「言葉」、「自然」を象徴しているものなのだそう人によって象徴するモノは異なるかもしれませんが、丸の内仲通りを歩く人それぞれが持つ感動や喜びの記憶や想いを持ち続ける美しさが表現されているようでした。

パブリック作品としての希少さもさることながら、着彩されたブロンズ作品としては舟越桂さんの初作品となるそうです。

どんなアーティストが制作したの?

舟越桂(ふなこし かつら)さんは1951年生まれ、岩手県出身の彫刻家です。木彫を基軸に神秘的で性別を感じさせない半身の人物像を制作しています。2005年からは動物の耳をした、人間と動物との混交像《スフィンクス・シリーズ》を手がけています。

舟越桂さんが追求する異形表現は、「人間とはどんな存在か」という本質的な問いから生まれているそうです。そのため、制作は自身と向き合う事から始まり、「記憶」や「想像」を呼び起こし、具体的なモティーフとして頭部に表現しています。

その背後には「ある個人を特定して語っていくこと、それが普遍的に人間について語ることになっていく」という思いがあるそうです。

11. Trans-Double Yana(Mirror)(名和晃平)

《Trans-Double Yana(Mirror)》
名和晃平、2012、アルミニウム、日本

どんな作品?

女性の身体にモヤが重なっているような彫刻作品。この作品は《TRANS》シリーズと呼ばれる、3Dスキャンなどで得たデータを元に彫刻化するものです本作はその初期の作品にあたります。

作品はリアルに存在する身体と、情報として存在する身体性が重なるようになっています。

存在の面影をすくい出すように人体モデルから読み取った情報(ボクセルデータ:コンピュータで立体を表現するデータの最小単位)を流動性のある物質に還元し、情報データという表皮をまとった立像が形作られていきます。影と実体、現実とヴァーチャルの境をさまよう《TRANS》は、虚ろなエネルギー体となって、現代における存在のリアリティーを問いかけています

どんなアーティストが制作したの?

名和晃平(なわ こうへい)さんは1975年生まれ、大阪府出身のアーティストです。

名和晃平さんは感覚に接続するインターフェイスとして、彫刻の「表皮」に着目した作品を制作しています

これまでの彫刻作品に対する定義を柔軟に解釈した、まるで科学研究とアートを融合したような作品が特徴的です。

名和晃平さん|Instagram:@nawa_kohei
他展示での名和晃平さん作品はこちら

あわせて読みたい
【解説】ギンザシックスの名和晃平アートを観る(代表作のPixCellシリーズも紹介)
【解説】ギンザシックスの名和晃平アートを観る(代表作のPixCellシリーズも紹介)

12. ニケ 1989(パヴェル・クルバレク)

《ニケ 1989》
パヴェル・クルバレク、1991、鉄,塗料、スイス

どんな作品?

この作品は、ルーヴル美術館(フランス)で所蔵されている《サモトラケのニケ》(勝利の女神像、紀元前190年頃)のオマージュ作品です

《サモトラケのニケ》
紀元前190年頃、ギリシャ サモトラキ島出土、ルーヴル美術館(フランス)、2013年撮影

《サモトラケのニケ》は、実際の海戦を表現したかのような臨場感あふれる戦闘場面に、羽を広げた女神ニケが船上に舞い降りている様子が著されています。このニケをオマージュした本作は、近代的な優勝トロフィーのような印象を受けます

高さが7メートルにも及び、現代によみがえった勝利の女神といえるかもしれません。

どんなアーティストが制作したの?

パヴェル・クルバレクさんは1928年生まれ、チェコスロバキア出身のアーティストです。

7代にわたる鍛冶屋の家に生まれたからこそできる、古典的で抽象的な彫刻を制作することができると、生前にインタビューで答えています。

アーティストとしてだけではなく、鍛造の宝飾クリエーターとしても活躍した後、1980年以降は公共の環境芸術のために活動しました。

13. Animal 2017-01-B2(三沢厚彦)

《Animal 2017-01-B2》
三沢厚彦、2017-2019、ブロンズ,塗料、日本

どんな作品?

巨大なクマのブロンズ像です。存在感のある作品を近くで見ると掘り込みによる毛並みが表現されています。

「クマ」と言われて連想するものといえば、クマをモチーフにした可愛らしいキャラクターや、野生のクマは生態系のトップに君臨するどう猛な動物と、相反するイメージが共存している動物です

この作品では、両極化するイメージの中間的な表現となっています。 二足で威嚇するポーズは人間のようなクマらしい象徴的な行動ですが、威嚇をしているというよりは、落ち着いた表情をしています。さまざまな目的で大都会を行き交う人々を俯瞰して眺めているようです。

そんなクマの目をよく見ると、目の角膜が緑色と青色で異なる色であることに気づきます。大地の緑から空の青までを見渡し、見守っているようにも見えますね。

どんなアーティストが制作したの?

三沢厚彦(みさわ あつひこ)さんは1961年生まれ、京都府出身のアーティストです。

2000年から動物をモチーフに木彫作品の制作を始め、クスノキを主材とする動物の彫刻《アニマルズ(Animals)》シリーズで知られています。ほぼ実物大の動物は特徴的な見た目をしていますが、これは三沢厚彦さんの中にある動物のイメージを造形化しているのだそうです

彩色をした動物たちは圧倒的な存在感を放ち、見るものの記憶やイメージを喚起します。

他展示での三沢厚彦さん作品はこちら

14. 眠れる頭像(イゴール・ミトライ)

《眠れる頭像》
イゴール・ミトライ、1983、大理石、ポーランド

どんな作品?

大きな頭が横たわっている作品。ギリシャ彫刻のような顔は包帯で覆われ、端正な唇だけが剥き出しになっています。魅惑的な完璧さと、覆い隠すことによる不完全さの対立するふたつが共存していて、まるで二律背反を表しているようです

ちなみに、イゴール・ミトライさんの彫刻作品の特徴のひとつに、彫刻の唇は自身の唇の形をしていることがあるようです。本当であるならば、ギリシャ・ローマ彫刻のように端正なもので羨ましい限り。この唇が作品にとっての、ある種署名的な役割を果たしているみたいでした。

どんなアーティストが制作したの?

イゴール・ミトライ(Igor Mitoraj)さんは1944年から2014年にかけて活躍した、ドイツ出身の美術家です。

イゴール・ミトライさんの彫刻はギリシャやローマの神話といった古典的な伝統に根ざしています。作品からは古典彫刻の美しさと完璧なプロポーションを想起させつつも、彫像の表面に故意に損傷を与えたり、ひびを入れたりしています。そうすることで、人間性の不完全さを視覚化しています。

端正なものを断片化させた作品を通して、人間の身体の美しさともろさ、そして時間の経過とともに変質していく人間の本質的な側面について問いかけています

15. 日光浴をする女(ティモ・ソリン)

《日光浴をする女》
ティモ・ソリン、1995、ステンレス・スティール,塗料、フィンランド

どんな作品?

本作は「陽光の中で人生を積極的に生きる情熱と活力を感じながら座っている女性」を表現しています平面的に身体のパーツを描き、それを組み合わせひとりの女性にしたような作品は、金属プレートを折り曲げて制作されており、力強い色彩で存在感を放っています。

また、芝生の上に作品があるのも粋な展示方法だなと感じます。

本作を手がけたティモ・ソリンさんは、ヘンリー・ムーアさんの作品を観たことをきっかけに彫刻家となった経緯を持っています。だからこそ、芝生の上にある作品は、ヘンリー・ムーアさんの「自然と人間の調和」のテーマに沿ったものとなっています。

どんなアーティストが制作したの?

ティモ・ソリン(Timo Solin)さんは1947年生まれ、フィンランド出身の彫刻家、画家です。

1970年代初頭にヘンリー・ムーアさんの作品《母と子》を見て感銘を受け、1982年より独学で彫刻の制作を始めました。それ以外にも美術史、文学や哲学、心理学を学んでいます。

作品は人体、特に女性にインスピレーションを受け、ヘンリー・ムーアの精神を受け継ぎ、木やブロンズで作品を制作しています

16. 無題(ジュゼッペ ・スパニューロ)

《無題》
ジュゼッペ ・スパニューロ、1995、ブロンズ、イタリア

どんな作品?

ブロンズの柱に切り込みを入れたような作品。この作品にはタイトルがなく、作品の形も何とも言えない抽象的なものなので、どう解釈していいのか悩んでしまいます。

ブロックの塊にも見えれば、規格化された工業製品のように無機質な作品にも見え、自然物から切り出したような有機体のように見ることもできます。 ようするにこの作品は、永遠に満足感を得ることができない、人間の中にある欲望のジレンマを表しているのかもしれません。

また、素材を原始的に扱うことで、もとあった大地へ作品を還元する試みをしているようにも見えます

どんなアーティストが制作したの?

ジュゼッペ ・スパニューロ(Giuseppe Spagnulo)さんは1936年から2016年にかけて活躍した、イタリア出身の彫刻家です。陶芸家の父の影響で陶芸に慣れ親しみ、作品の素材は陶、テラコッタ、砂、ブロンズなど多岐にわたります。

抽象的で概念的な芸術作品を残していて、芸術の観念的、実行的プロセスへの関心を強調するコンセプチュアルな側面が強く表れています

17. 凹凸のブロンズ(レナーテ・ホフライト)

《凹凸のブロンズ》
レナーテ・ホフライト、1989、ブロンズ、ドイツ

どんな作品?

この作品は、丹念に磨かれたブロンズの表面が周りの風景を映しこんでいます。

凹面は丸の内テラス側の風景を光学的に縮小した反転画像として反映し、凸面は車側の風景を吸収するように見え、その曲率の最高点で最も深い錯覚を示しています。太陽光を受けて光り輝き、作品の中に空間が取り込まれ、一体になることを意識して制作されているそうです。

景色の縮小と吸収の見え方の違いが面白い作品です

どんなアーティストが制作したの?

レナーテ・ホフライトさんは1950年生まれ、ドイツのシュトゥットガルト出身のアーティストです。

彼女の野外作品は、特性、距離感、地質条件、光や植物などその土地に焦点をあてて制作しています

18. 巨大な町(ルイジ・マイノルフィ)

《巨大な町》
ルイジ・マイノルフィ、1987、ブロンズ、イタリア

どんな作品?

第5回ヘンリー・ムーア大賞展(1987年、美ヶ原高原美術館)で優秀賞を受賞したこの作品は、古代イタリアからアイディアを得て制作されているそうです

遠くからは青銅色のふくよかな人の形にみえますが、近くでて見ると、窓状の隙間が空いた建物が幾重にも積み重なってできているように見えます。まるで可動式の要塞のようです。

夜には作品の内側から光を照らし、窓から漏れるあたたかい街明かりを楽しむことができます

どんなアーティストが制作したの?

ルイジ・マイノルフィ(Luigi Mainolfi)さんは1948年生まれ、イタリアのロトンディ出身の彫刻家です。

自然に近い耐久性の低い素材(紙、テラコッタ、凝灰岩、ブロンズ、木、鉄など)を用いて作品制作をしていて、各素材でしかできないことを探求する姿勢があらわれています。

「最大の芸術家は自然で、人は地球上の小さな微生物にすぎない」とインタビューで答えてることから、自然に比べたら人の創造するものは小さく儚いものという考えを表現しているのかもしれません。

19. Prism “Dahlia + Peony”(松尾高弘)

《Prism “Dahlia + Peony”》
松尾高弘、2022、プリズム光学樹脂,アクリル,スチール、日本

どんな作品?

太陽の光を浴びて輝く花のプリズムが美しいインスタレーションです。窓ガラスの前にアクリル板を並べて立て、そこに片面ずつ、ピオニーとダリアの花のプリズムを配置しています

ピオニーは、花の形も丸く女性らしい柔らかな雰囲気があり空間を包み込む「エレガント」な雰囲気があります。一方のダリアは、もっとエッジが利いていて、空間に「シャープ」な刺激を与えているような雰囲気があります。

背景の風景と交錯しながら、一日の太陽光の変化や、人の往来の移り変わりなどを取り込み、都市とアートが「インタラクティブ(双方向性)」に溶けあいながらも、鮮やかな輝きを放ち続け、見慣れた都市の景色に刺激を与える作品となっています

どんなアーティストが制作したの?

松尾高弘(まつお たかひろ)さんは1979年生まれ、福岡県出身のアーティストです。映像、照明、オブジェクト、インタラクションと、美的表現による光のインスタレーションを中心に、多彩な表現やテクノロジーによるアートワークを一貫して手がけています。

自然界の現象と法則性、イマジネーションによる繊細な光の表現とエモーショナルな作品群が特徴で、都市や商業空間のパブリックアート、世界各国のエキシビション、ラグジュアリーブランドのためのアートワークなどを、国際的に幅広く展開しています。

丸の内でアートを楽しもう!

丸の内仲通りにある19点のパブリックアート作品を観ていきました。野外にあるパブリックアートは美術館やギャラリー展示とは違った想いや技術を集約して展示されています。

最後に、ヘンリー・ムーアさんの野外展示への想いを綴った一文をご紹介します。

…ひとたび野外に出て陽を浴び、雨に打たれ、雲の移りゆきを感ずるときには、彫刻も生活の一部であるということがよくわかる…

ヘンリー・ムーア 国際公募展「ヘンリー・ムーア大賞展(彫刻の森美術館、1979年)」に寄せたメッセージより引用

作品に込められた想いにも触れながら、四季と共に時間を刻むアートを丸の内でチェックしてみてください。

展示情報

展覧会名MARUNOUCHI STREET GALLERY
丸の内ストリートギャラリー
会場丸の内仲通り周辺
東京都千代田区丸の内
会期常設
※今回の展示は2022年〜2025年までを予定
※数年に一度展示入れ替えあり
開廊時間24時間営業
サイトhttps://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/index.html
観覧料無料
関連情報彫刻の森美術館さん|Instagram:@thehakoneopenairmuseum

※サムネイル画像は撮影画像を元にCanvaで編集したものを使用しています。

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
記事URLをコピーしました