解説

【作家解説】ダミアン・ハーストとは?「生と死」を探究する作品7選も紹介

こんにちは!よしてる(@uzuraism_)です。

・ダミアン・ハーストってどんな人?
・なんですごいといわれているの?
・どんなコンセプトで作品を制作しているの?

そんな疑問に対して、今回はダミアン・ハースト(Damien Hirst)さんとその作品について解説していきます!

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ。ダミアン・ハーストさんが有名となったポイントは以下の通りです。

  • 「YBAs(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」の代表的な存在として活躍
    (YBAsとは90年代のイギリス若手作家たちのムーブメントのこと)
  • 動物とその死骸を用いた強烈な作品
    (ホルムアルデヒドで保存されたサメの作品を始めとした作品は物議を醸し、作品を介した議論を生強烈な印象を与えた)
  • 芸術とはかくあるべしという先入観を逆手にとった行動の数々
    (オークションでギャラリーを介さず直接作品218点を競売に出し約211億円で売却、購入した1年後に「物理的作品」と「デジタル作品(=NFTアート)」のどちらかを破棄しなければいけない販売方法など)

また、代表的な作品は以下の通りです。

  • 3mのイタチザメをホルマリン漬けにした《生者の心における死の物理的不可能性》
  • ハエの生と死のライフサイクルを作品化した《1000年》
  • ダイヤモンドで覆われた頭蓋骨《神の愛のために》

ダミアン・ハーストさんは1980年代後半に国際的なアートシーンに登場して以来、議論が生まれるようなアート作品制作を続け、30年以上のキャリアを積んでいます。その中から印象的な出来事をピックアップしてご紹介します。

ダミアン・ハーストが有名となったポイント3つ

ダミアン・ハースト(Damien Hirst)さん

ポイント1:「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」の代表的な存在

YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)とは、1990年代のイギリス若手作家たちによる一連の活動に参加したアーティストたちの総称です。この活動の中で、ダミアン・ハーストは展覧会のキュレーションをするなど代表的な存在として活動しました。

当時のイギリスは美術に対する政府の支援はなく、美術商は若手作家に関心を持たない状況でした。その中で、1988年に大学の友人や仲間の学生と「Freeze(フリーズ)」展を廃ビルで開催します。その展示作品は生と死、性表現、宗教といったタブーに触れる挑発的なものばかりでした。

これらの作品に目をつけたコレクター「チャールズ・サーチ(イギリスの大手広告代理店サーチ&サーチの創業者)」は作品を積極的にコレクションし、加えて作品制作の支援・協力もしました。こうしてコレクションしたYBAの作品を自身のギャラリーで展示し、その挑発的な作品が論争を呼び、1997年に「センセーション」展が開催された頃には論争は頂点に達していました(児童殺害犯の肖像画にインクや卵を投げつけられた出来事からも、論争の激しさが伺えます)。

こうした悪評が広がるにもかかわらず、挑発的なYBAsは作品の素材の本質を問う議論を生み、イギリス美術界の新たなムーブメントとして注目を浴びたことで、およそ10年で一躍有名となりました。

ポイント2:動物とその死骸を用いた強烈な作品


YBAの作品に見られるように、ダミアン・ハーストさんは動物とその死骸を用いた強烈な作品を制作しています。特に有名なのが、YBA時代の代表作でもある、ホルマリン漬けされたサメの作品《生者の心における死の物理的不可能性》です。この作品が芸術家としてのブレイクスルーに繋がったといわれています。

作品制作の背景にはダミアン・ハーストさん自身が幼少期から持っている「死」への関心があり、サメの作品も「死にながらも長く生き続ける」様子が表現されています。生きている人が望んでも手に入れられない「生」への欲望を浮き彫りにしているようです。

理論的には金魚のホルマリン漬けを使って同様の作品を表現することもできましたが、ダミアン・ハーストさんはあえて「あなたを食べてしまうほど大きなサメ」を選ぶことで、生きていれば恐ろしいものであり、死んでいても恐怖を感じさせる作品にしました。そんな物理的な恐怖が心理的な死への恐怖へ発展させるものとなり、表現方法に対する論争を生み、結果的に多くの人の目に触れ認知も拡大していきました。

1992年に初めて展示された作品ですが、1997年に開催されたロイヤルアカデミーYBA展「Sensation」で中心的な作品となり、さらに有名になりました。

ポイント3:芸術とはかくあるべしという先入観を逆手にとった行動の数々

ダミアンハーストさんは1990年代の芸術界の「enfant terrible(アンファン・テリブル:恐ろしいほど遠慮がなく、他人を困惑させる子供のこと)」といわれています。その言葉通り、芸術にある先入観を逆手にとった行動の数々を起こし度々話題となっています。

オークションで直接自身の作品を競売にかけ218点約211億円で売却


セールのメインピースだった作品《The Golden Calf(金の牛)》

オークションは通常、ギャラリーを介して購入された作品を再度競売に出すというのが常識となっています。このオークションでダミアン・ハーストさんは、自身の作品を直接オークションに出す行動を起こします。

この行為をした意図として、アートマーケットの民主化の実現を目指したといわれており、ダミアン・ハーストさんも「(直接オークションに出品したことが)非常に民主的なアートの販売方法であり、現代アートの自然な進化のように感じます。」とコメントしています。

歴史的なオークションとなったのは2008年9月15日と16日の2日間、ロンドンのサザビーズで開催されたソロオークション「Beautiful Inside My Head Forever(私の頭の中で永遠に美しく)」です。

2008年9月15日といえばリーマンショックが起きた日ですが、オークションでは223ロット中218点が1億1,100万ポンド(約211億円)で売却されました。この結果は、シングルアーティストオークションの新記録を打ち立て、サザビーズによると1993年に樹立されたピカソの88作品に対する記録の10倍の額となりました。

ちなみに、売却による収益の一部は、ダミアン・ハーストさんが選んだ慈善団体に寄付されたそうです。

(参考:REUTERS

NFTプロジェクト「The Currency(通貨)」を通じたデジタル作品の価値を問う社会実験

2021年にダミアン・ハーストさんは《The Currency(通貨)》という1万個のNFTと現物が存在する作品を販売しました。カラフルなドットで覆われた1万枚の手描きのA4サイズの作品で、どれも似たようなデザインであることから、作品間に優劣のない「貨幣」のような作品になっています。機能的には交換手段としての通貨と似たアートです。


《The Currency(通貨)》
2021

この作品が注目されたのは、NFTの購入した所有者が1年以内にNFTを保有するか、物理的な作品と交換するかを選択しなければならない点にあります。

これまでの物理的な作品に価値を見出す人にNFTの価値を問いかけるような試みで、1年後にコレクターがどちらの所有を選択するのか、その行動から芸術の捉え方や価値観を可視化しようとしている、コンセプチュアルな取り組みです。

(参考:CNBC

【注意】以下センシティブな作品も含みますので注意を

最後に、ダミアン・ハーストさんの作品を抜粋してご紹介します。作品のテーマに「生と死」を取り入れているため、中には過激な作品も含まれています。苦手な方は特にご注意ください。

ダミアン・ハーストの作品7選

ホルマリン漬けされたサメの作品《生者の心における死の物理的不可能性》


《生者の心における死の物理的不可能性(The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living)》
1991

YBA時代の代表的な作品で、「ダミアン・ハーストといえばこれ!」とまず思いつく作品です。「死にながらも長く生き続ける」様子が表現され、また、芸術と科学の間のギャップを埋めるというダミアン・ハーストさんの関心を例証するものにもなっています。

ターナー賞を受賞した作品《母と子、分断されて》

《Mother and Child (Divided)(母と子、分断されて)》※一部
1995(引用:flickr:Isabell Schulz
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

1995年に受賞したイギリスの権威ある「ターナー賞」を受賞した時の作品です。真ん中で2つに切断された牛の親子をホルマリン漬けにした作品は、2008年に森美術館「英国美術の現代史:ターナー賞の歩み」にも展示されていました。

ハエのライフサイクルを提示した《1000年》


《1000 Years(1000年)》
1990(動画は2021年の展覧会から引用)

大きなガラスケースの中に死んだ牛の頭が設置されており、周囲にウジムシが群がっている作品です。鑑賞するのも億劫になるほど拒絶反応が出そうな作品ですが、ハエが牛の頭部を栄養に寿命をまっとうするか、電撃殺虫機に当たって死ぬような仕組みになっています。「死から逃れられない生命の宿命」を表現した、YBA時代の過激な作品のひとつです。

死への関心をリアルに感じる《死体の頭部と》


《死体の頭部と(With Dead Head)》
1991

10代の頃に斬首された遺体と写真を撮影した時のもので、ダミアン・ハーストさんが幼少期から死に関心を抱いていたのがわかる作品です。少年の笑顔を気味悪く感じる人もいるかもしれません。

ちなみに、彼の母親曰く、幼少時代うまくしつけできなかったと話していて、ダミアン・ハースト少年は子どものころ万引きで2回逮捕されたことがあるそうです。

万能薬としての薬に対する社会の信仰と向き合った《薬局》


《Pharmacy(薬局)》
1992

イギリスにあるレストランを薬局のように装飾したインスタレーション作品です。薬品が効く部位を身体に連動させて上から下に並べることによって人体が表現されています。芸術と科学が混ざり合ったピルキャビネットは、人間の信念の限界を検証し、万能薬としての薬に対する社会の信仰と向き合っています。

作品についてダミアン・ハーストさんは「ほとんどの人が医学を信じるのに芸術を信じないのは、どちらも疑うことなく理解できない」とコメントしています。

ダイヤモンドで覆われた頭蓋骨の作品《神の愛のために》


《神の愛のために(For the Love of God)》
2007

人間の骸骨がプラチナでかたどられた作品の表面には8,601個、合計1,106.18カラットもの量のダイヤモンドがあしらわれています。その制作費は約1500万ポンドだったそうですが、売り値価格はその3倍以上の5000万ポンドでした。

なお、頭蓋骨は18世紀のものをモデルにプラチナで作られていますが、歯の部分だけは本物の人間の歯が使われています。

桜の花を無数の点で描いた《桜》シリーズ


《桜》シリーズ
2020

西洋絵画史の成果を独自に解釈し、「自然に湧き起こる絵画の楽しさを見直したもの」をテーマに制作された風景画です。桜の花を無数の点で描いていて、大小さまざまな大きさのキャンバスに渡って制作しています。

これらの作品は 2022年3月に国立新美術館で開催される個展「桜」で鑑賞できます。

まとめ

ダミアン・ハーストさんがなぜ有名なアーティストなのかを解説していきました。過激な作品を発表していながらも、そこには意図的な戦略も感じられます。

今回ご紹介した作品はほんの一部です。他にも蝶々の羽を用いた作品や人体模型のような作品、スピンペインティング、薬をケースに飾る作品、スポットペインティングなどの作品が存在します。

そして、最新作である《桜》シリーズについては国立新美術館で2022年3月2日(水)~5月23日(月)の会期で実際に鑑賞することができます。生の作品を国内で体感したい方はこちらもチェック!

参考資料

  • めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード
  • 世界アート鑑賞図鑑 大型本 – 2015/2/9
  • 西洋美術史(美術出版ライブラリー 歴史編) 単行本 – 2021/12/21

※アイキャッチ画像:Isabell Schulzを使用
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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