美術館・博物館

ダミアンハースト「桜」|作品の桜が放つ儚さと無常の美(絵画に込められた意味も解説)

春の陽気の中で国立新美術館に咲き誇る桜たち。イギリスを代表する現代アーティスト、ダミアンハーストが桜を通して表現する「美と生と死」、「死の不可避性」と出会いに行ってきました。

今回は六本木(乃木坂)にある「国立新美術館」にて開催したダミアンハーストさんの大規模個展「桜」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

  • 「ダミアンハースト 桜」とは、国立新美術館で2022年3月2日(水)~5月23日(月)まで開催している展覧会です。
  • ダミアンハースト(Damien Hirst)とは、30年以上活躍しているイギリスを代表する現代アーティストです。
  • 《桜》シリーズは「美と生と死についての作品」で、本展覧会では合計107点の中から24点が展示されています(ブログでは7作品をピックアップしてご紹介)。

ダミアンハーストとは?

ダミアンハースト(Damien Hirst)さんは30年以上活躍している、イギリスを代表する現代アーティストです。

避けられない死をテーマにした動物とその死骸を用いた強烈な作品を制作していることで有名ですが、今回の展覧会は鮮やかなドットの桜を展示した個展なので怖い作品が苦手な方でも楽しめる内容となっています。

「ダミアンハーストってどんな人なの?」という方はこちらも参考にしてみてください。

【作家解説】ダミアン・ハーストとは?「生と死」を探究する作品7選も紹介こんにちは!よしてる(@uzuraism_)です。 ・ダミアン・ハーストってどんな人? ・なんですごいといわれているの? ...

美と生と死についての作品《桜》シリーズ

《桜》シリーズは2018年から2020年までの3年間で制作された、合計107点の連作です。今回の展覧会は日本初となる大規模な個展で、連作の中からハーストさん自身が選んだ24点の作品で構成されています。

《桜》シリーズは子供の頃に母親が描いた桜の絵の記憶が原点になっているそうで、ハーストさんは作品について「美と生と死についての作品なんだ」と話しています。19世紀のポスト印象派や20世紀のアクション・ペインティングといった西洋絵画史を独自に解釈した、色彩豊かな作品群です。

ドットを用いた作品は1980年後半初期の《スポット・ペインティング》シリーズ(異なる配色で同じ大きさの点を幾何学的に配置するシリーズ)でも描いていますが、《スポット・ペインティング》シリーズが無機質で機械的な点であるのに対して、《桜》シリーズの点は立体的で躍動感のある点となっています。

そんな「ドットの変化」をみていると、描き方次第で嘘もつける偽物の景色が嫌いだったから機械的な絵画を制作してきたのが、今生きているワクワク感を力強くキャンバスにぶつけて絵画と会話を楽しんでいるように感じます。

ハーストさんのコメントを読んでもそう思います。

…〈桜〉は快晴の空を背にして満開に咲き誇る一本の木だ。スタジオの中で色彩と絵具に没頭するのはとても気分がいい。〈桜〉はけばけばしく、とっ散らかっていて、儚い。そして、私がミニマリズムや想像上の機械仕掛けの画家であるというイメージから離れたことを示していて、とてもわくわくするものなんだ。
アーティストステートメントより引用

展示作品は、初期作品によくみられる桜の枝に近づいて描いたような作品から、後期作品にみられるようになった桜の幹まで描いた一本木の作品までが展示されているので、作品制作の変化も楽しむことができます。

展覧会場で上映されていたインタビュー動画から制作過程を知る

展示会場の奥休憩スペースに流れているインタビュー動画はYouTubeでも観ることができます(日本語版は国立新美術館サイトで見れます)。

作品制作の模様や《桜》シリーズ制作に至るまでの背景をハーストさん本人が語っていて、作品と同じく見ておきたい動画です。


2021年にパリのカルティエ現代美術財団で開催された展覧会「ダミアンハースト 桜」の際に作られたもの。

休憩スペースは混み合いやすいので、ゆったりと観たい方はこちらでチェックしてみるのがおすすめです。

展示作品を鑑賞

合計で24点の《桜》シリーズのうち、グッときた作品を7つピックアップしてご紹介します。

大型作品は特に、作品を目の前にするからこそ浸れる温度感があります。「なんか、ちょっといいかも」と少しでも感じたら、会場で生の作品にも触れに行ってみてください。

儚い桜(Fragility Blossom)

《儚い桜(Fragility Blossom)》
ダミアンハースト、2018、305 × 244cm、個人蔵

入口から入って右にある桜の作品です。桜といえばピンク色、白色をイメージしますが、作品の桜にはオレンジ、青、黄といった色もドットとして描かれています。

ハーストさんは当初花びらをピンク4種と白2種用意して描いていたそうですが、色に命がないと感じたそうです。そんなとき、街路樹の緑を見たときに「赤と青の光がチラつく」ことから「あらゆるあらゆる色が入っていないと人の目はそれが花だと認識しない」ことに気づきます。

その気づきを絵画にも反映し、多くの色彩を入れて桜を表現しています。

生命の桜(Sakura Life Blossom)

《生命の桜(Sakura Life Blossom)》
ダミアンハースト、2019、三連画、各305 × 244cm、個人蔵

キャンバスを3つ並べ、木の幹を入れて大きく描かれた桜の木。幹の部分をよくみるとわかりやすいですが、作品にはドットの他に、絵の具が飛び散ったような後も見られます。

これはキャンバスを壁に立てかけて、絵の具を投げつけるように描いたことでできた跡のようです。この描き方を通して「木が重力に反して伸びる緊張感」を出しているそうです。

立って絵の具を投げるエネルギーが桜の生命力に変換されることで、短い時間でも目一杯に花を咲き誇らせる美しさを宿しています。

神の桜(God’s Blossom)

《神の桜(God’s Blossom)》
ダミアンハースト、2018、274 × 183cm、個人蔵

快晴の下で満開の桜を眺めているようだなと感じた作品。

赤も混ざっていて、もはや梅の花なのでは、とも思ってしまうほど多様な色が混在しています。その色の豊富さは、過去に制作した《スポット・ペインティング》シリーズを彷彿とさせます

この桜より大きな愛はない(Greater Love Has No-One Than This Blossom)

《この桜より大きな愛はない(Greater Love Has No-One Than This Blossom)》
ダミアンハースト、2019、549 × 732cm、個人蔵

展示作品の中でも、最も大きな作品。鑑賞者と比較するとそのスケールの大きさが伝わってきます。縦横無尽に張り巡らされた枝はまるで重力から解放されているようです。

この作品は展示会場の一番奥に展示されていることから、枝がよく見えるということは鮮やかに満開の花を開かせ、潔く散っていく姿とも捉えることができます

「散る桜」は儚いものですが、一説では「桜は死によって再生をもたらすもの」と考えられているそうで、あの世とこの世を結ぶものとして捉えられています。言われてみれば、桜の木はお寺やお墓の近くに植えられていますね(個人的にはシャーマンキングの墓地が思い出されます)。

シャーマンキング展にて展示されていた墓地に咲く桜の木

潔く散っていき、来年の同じ時期に花を咲かせるサイクルが、再生をもたらすと捉えられているのでしょう。

花見桜(Hanami Blossom)

《花見桜(Hanami Blossom)》
ダミアンハースト、2018、366 × 274cm、個人蔵

他の作品と比べると、背景の青が独特だなと感じた作品。

桜も染まってしまいそうな青を背景に、ドットにも目立つように青いドットが描かれています。そんな描き方を見て、自然の持つ予測不可能なルールに従って描かれていったのかなと感じます。

神聖な日の桜(Spiritual Day Blossom)

《神聖な日の桜(Spiritual Day Blossom)》
ダミアンハースト、2018、二連画、各366 × 274cm、カルティエ現代美術財団コレクション

今回の展示は個人が所有している作品が多い中で唯一、今回の展覧会主催者であるカルティエ現代美術財団がコレクションしている作品です。

まるで絵画と絵画の間の空間に桜の幹があって、幹を中心に桜を見上げているような構図に見えます。

2種類のピンク色と白色の桜をメインに、木漏れ日をみているように赤、青、黄といったさまざまな色も織り交ぜて、良き日に見た思い出の桜を表現しているようです。

帝国の桜(Imperial Blossom)

《帝国の桜(Imperial Blossom)》
ダミアンハースト、2018、274 × 183cm、Courtesy of Pinchuk Art Centre(Kyiv,Ukraine)

この展覧会には偶然にも、ウクライナのキエフにある民間の現代アートセンターが所蔵している作品も展示されています。

展覧会には日本人だけでなく多くの外国人も来場していて、作品を鑑賞し、楽しんでいました。そんな時間を紡げるようになって欲しいです。

まとめ:短き生命の桜が持つ、無常な美しさ

3月5日には東京で春一番が吹き、いよいよ春到来を告げる時期にダミアンハーストさんの《桜》シリーズの展示を観に行く、いわば「現代アートの花見」に行くような感覚で楽しめる展覧会でした。

合計24点の桜を鑑賞して感じたのは、短き生命の桜が持つ儚さと常な美しさでした。

ハーストさんの描く桜は抽象的で多彩な色を用いたドットで捉えられているというシンプルなものなのに、短い生命にもかかわらず24点全て違う表情を映していました。

そこに常に同じ表情を見せない、「常が無い」桜の魅力を反映しているようで、桜はやはり美しいなと感じました。

自分の目で観て味わうとまた違った感じ方になると思うので、六本木に立ち寄った際には足を運んでみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名ダミアン・ハースト 桜
会場国立新美術館 企画展示室2E(Instagram:@thenationalartcentertokyo
東京都港区六本木7-22-2
会期2022年3月2日(水)~5月23日(月)
毎週火曜日休館
※ただし5月3日(火・祝)は開館
開廊時間10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
サイトhttps://www.nact.jp/exhibition_special/2022/damienhirst/
観覧料当日 1,500円(一般)、1,200円(大学生)、600円(高校生)
現地購入は混雑するので、事前購入がおすすめです。
オンラインチケット購入はこちらから
作家情報ダミアン・ハーストさん|Instagram:@damienhirst

余談ですが、同じ「桜」の展覧会について、日本版の画集は64ページに対して、海外版の画集は411ページ。なんと6.4倍もの違いがあります。

411ページもあると価格もそれなりになり、購買率も下がるのは予想できます。とはいえ、画集としてここまで差がないと日本人は画集を手に取らないと考えられているとしたら、アートへの関心の格差は広いんだなと感じてしまいますね。

ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA