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サトウリホミ「Friday Night Humanism」鑑賞レポート|コラージュで枷を解いた自分らしさを描いたアート

サトウリホミ個展「Friday Night Humanism」
よしてる
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生まれ育った文化の違いによって、人間のアイデンティティや価値観にはゆらぎがあります。そのゆらぎをコラージュという技法を用いながら表現している作品を観てきました。

今回は原宿にあるHIRO OKAMOTOにて開催したサトウリホミさんの個展「Friday Night Humanism」の模様をご紹介します。

サトウリホミとは?

サトウリホミ(Rihomi Sato)さんは東京都出身の作家です。2015年にニューヨーク(NY)へ移住しアブストラクトペインティング、ミクストメディアアートを学び、現在もNYを拠点に活動されています。

渡米先での生活で感じる多文化の混ざり合いや自身のアイデンティティの変化、違和感を、日本からの移⺠として、また、女性としてのアイデンティティを作品を通して探っています。

現在は作家の山口歴さんが2019年にNYにて設立したART STUDIO「GOLDWOOD ARTWORKS」のメンバーとしても活躍されながら、制作活動をされています。

国内外含め、サトウリホミさんにとって今回が初の個展となります。

個展タイトル「Friday Night Humanism」の意味

今回の個展タイトルである「Friday Night Humanism」は、

  • 人間らしい生活をしようという考え方を表す“Humanism(ヒューマニズム)”
  • 人間特有のイベントである“Friday Night(フライデーナイト、いわゆる華金のこと)”

を組み合わせた造語です。

ヒューマニズムとは16,7世紀頃のヨーロッパに広まったもので、宗教や権力などの束縛から解放され、人間が人間らしくあるべきであるという考え方です。一方のフライデーナイトは、仕事から解放された金曜日の夜のことで、世界共通で特別感がある時間です。

2つとも「しがらみから解放され自分という人間に戻る」共通のイメージがあり、自分らしさに戻れるというところで意味が繋がっています。今回の作品のほとんどが人間の生活を描いていたことから、こうした人間らしい生活と繋がるタイトルとなったそうです。

作品を観ながらサトウリホミの作品を観る

展覧会で展示されたサトウリホミさんの作品を観ながら、作家について知っていきましょう!

作家の多面性を感じる27点の作品展示

菱形状に綺麗に掛けられた作品、複数作品の壁掛けの参考にもなります

今回の展覧会で驚くのが27点もの展示作品数です。

時代の転換期を迎えた2021年から2023年までの2年間に、NYで生活を送りながら描きためた作品が展示されています。

世界的な変化、動きがある中で制作された色とりどりの作品群からは、サトウリホミさんの描く作品の多面性を味わうことができます。

まずは、額装された作品群から観ていきましょう。

Grapes

カラフルな背景の上に、緑や紫の楕円がたくさん描かれた作品。作品タイトルから3種類の“Grapes(ブドウ)”が描かれていることが分かります。

ブドウに注目してみると、濃い紫と緑の部分は絵の具で描かれている一方で、紫色の部分はキャンバス布が組み合わされています。絵の具の放つ透明感と、布の放つ熟れた印象が、ブドウの実の個性を出しているように映ります。

また、西洋美術の観点でみたとき、ブドウの房は十字架を担うキリストと結びつけられることが多いことから、「血や犠牲、生命」といった寓意に用いられる果物でもあります。

ブドウの軸が血管のように赤いことや、実の一部が食べられたかで無くなっているところに、多様性や生き続けていることの偶然性も感じ取れる作品です。

Dreaming about hometown

こちらも紙の上に布や紙などが組み合わされた作品。作品タイトルを直訳すると“ふるさとを夢見る”という意味になります。

作品中央で寝そべっている女性の開放感から、NYでの生活を通じて直に感じるのであろうジェンダーや女性らしさといった制約からの解放を感じ取れます。多様な模様と色の葉のようなものからも、風のままに舞う軽やかさが出ているように見えます。

その一方で、遠くには白とオレンジで描かれた街並みが見えます。解放的な感情は、ふるさとで育んだ価値観という比較対象があってこそ生まれていることを意識させる作品でもありました。

Can I get laaarge coffee?

右手でコーヒーカップを持っている様子が描かれた作品。手の部分の一部がコラージュで制作されているようです。

コーヒーを覗き込むように観てみると、液面にゆらめく顔のようなものが写し出されているのが分かります。

こうした作品を観ていくと、食材や人間、日常で目の当たりにする情景など、人間の生活の中で遭遇するものをテーマに描いているのがよく分かります。

さまざまな素材を組み合わせペインティング、コラージュにて表現

ここまで観てきて分かるのが、サトウリホミさんの作品には描くだけではなく、布や紙などの素材も組み合わせた作品が多く登場するという点です。

次はより大きな作品を通じて、組み合わせによる表現を観ていきましょう。

Role

大きな紙の上に雑誌の切り抜きのようなものや、糸で縫われている部分も見て取れます。こうした性質の異なる素材の組み合わせでできる作品を、コラージュ作品といいます。

Q
コラージュとは?

コラージュ(Collage)とは、性質の異なる素材(新聞の切り抜き、印刷広告、写真、布、木など)を組み合わせることで、新たなイメージの造形作品を構成する表現技法です。コラージュは「接着する」という意味のフランス語「Collér」に由来し、パブロ・ピカソさんとジョルジュ・ブラックさんによって作られた造語といわれています。

詳しくはこちら
【用語解説】ミクストメディアとは何か?(美術用語の意味と関連作品をご紹介)
【用語解説】ミクストメディアとは何か?(美術用語の意味と関連作品をご紹介)

また、布を縫ったステッチ(縫い目)もドローイングだと考えているそうで、中央にいる女性の髪の毛や、背中に貼られたパイナップルの剥き方のステッチも、まるで画面上に溶け込んでいるようです。

作品タイトル《Role》は「役割、任務、役目」という意味。こうした手縫いのステッチが女性の仕事や役割を暗喩しているそうで、作品の下の方にも手縫いをしている手の描写があるように見えます。

ある種の固定概念が漂う日本の状況が変わってほしいと願う、女性たちの姿が映し出されているようでした。

Lisa

モチーフはソーシャルメディアでみたものや美術書、画集や昔の日本のマガジンなど、自分の生活の中で見たアイデアを組み合わせることが多いそうです。この作品の構図も、どこかで観たことがある人も多いはず。

タイトルの《Lisa》もヒントに考えてみると、「モナ・リザ(Mona Lisa)の絵画」と似ていると推察できます。

《フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、リーザ・ゲラルディーニの肖像(通称モナ・リザ)》
1503-1506、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ポプラ板に油彩、77.0 × 53.0cm、所蔵:ルーヴル美術館(フランス)

生活の中で触れたことのあるものが描かれていることで、作品との距離感が縮まるような感覚になります。

それと、モチーフのモナ・リザよりも、サトウリホミさんの《Lisa》の方が歯が見えるほどの笑顔にみえるところに、モナ・リザという女性像の“あるべき姿”から解放するという試みを感じます。

Stay home

住環境は、最も人間の個性が反映されたものがある場所のひとつではないでしょうか。

猫や熊の置き物、お香などその人を象徴しているであろうものが描かれています。

ヨガマットを敷いて、エクササイズをしているように見える女性、一見健康的な様子が映し出されているようでありながら、右側にある机の上にはクロワッサンといった高カロリーそうなものが。欲望にも忠実なのかもしれないと、作品の中の女性らしさが表れているようです。

鑑賞してきて気づくのが、四角いキャンバスに描かれた作品がひとつもないこと。時には枠をはみ出して素材をコラージュしているものが多くあります。

この背景には、NYで学校に通っている時に四角の木枠に張られたキャンバスを買って、それに絵を描いていくという行為に違和感や、自分と絵に距離を感じ、それから土台となるキャンバスから自分で作れないかと思ったのだそうです。

そこから、キャンバス布を布だと認識し、身近な衣類などの布と縫い合わせたり、紙や様々な素材をコラージュしたりしたことで作品を創造しているという意識が強くなったそう。

こ ういったものがここ最近の作品の原点になっているようです。

人間の生活、視点、感情、心模様などを描いた作品

最後は作品に描かれたテーマを中心に鑑賞していきましょう。

Room

サトウリホミさんの作品には「日本からの移⺠として、また、女性としてのアイデンティティという視点」が落とし込まれているそうです。描かれているのも女性が多く、風習に捉われない、自由な行動をとっているモチーフが多い印象を受けます。

個展のメインビジュアルにもなっているこの作品にも女性が大きく描かれていて、太陽のような明るい背景の中で布を敷いてゆったりしている姿が、まるでビーチでのひとときを描いているように見えます。

作品名の《Room》は部屋という意味のイメージが強いですが、「空間・余地・場所」という意味もある言葉です。そういった観点から、自分らしさを解放できる空間が表現されているようでした。

作品をよく観ると、絵の具を飛ばした模様に発見があったりもするので、写真もじっくり観てみてください。

Girl on Fire

「好きなものを見ている人は輝いているし、燃えるように輝いている」という言葉がしっくりくる作品。

真っ赤な背景は炎、中央にいる青を基調としたコラージュは人、その中央部分には猫が描かれています。猫を愛でている瞬間の燃え上がるような輝きが好きのバロメーターを表しているようで、一方の猫の我が道ゆく表情の温度差も印象的です。

そして、周りに入れている赤と青の太い紐も立体感があり目を惹きます。紐は日本的な素材という位置付けなのだそうで、女性の固定的な役割に縛る、という意味も感じ取れます。

素材自体にも物語を感じながらも、全体を見た時に温度感の高い作品でした。

ちなみに、作品タイトルはアリシア・キーズ(Alicia Keys)さんの楽曲「Girl on Fire」からの影響があるようで、普通の女の子だけど輝くように燃えているという歌詞と作品が重なっているようです。

Handful

中央にある小さなサラダボールのような器からサラダが飛び出しているように見えながら、一歩ずつ遠くから俯瞰していくと、布でできた線で横向きになって大の字で寝ている様子の女性が描かれていることにも気づけます。

青から紫、紺と、順番に画面を拡げているようでありながら、それでも女性の全体像は収まりきっていません。そういった点で、対象を捉えきれないほどの解放感を感じます。

また、描かれているものの関連性を掴みきれていない感覚も残る部分があります。だからこそ、頭の中で意味を再構成する楽しさがあり、鑑賞者の思考を固定概念の外に誘う要素もあるのかもしれません。

Sign

最後はこちらの作品。南国にありそうは葉っぱが枠を飛び出してコラージュされています。

中央に描かれた白いキャラクターがパッと見た感じで何なのか疑問が湧いてきます。2本立っているものが耳のようで、うさぎが描かれているように見えます。

さらに観察すると、だんだんと女性が描かれているように見えてきます。左脚を正座するように曲げて、右脚を左脚にかけるように立てる、そして、両腕をクロスさせピースサインを出しているようなポーズをしている、そんな風に観えていきます。

独特なポーズを読み解くのに頭を使った後に、金魚のブランケットが敷かれているのを見て、形を認識できることへの安心感を得ます。そこから目線を上にやると、鉢に入った赤い物体が金魚に見えてきます。ただ、抽象度が高すぎて分からないのを、頭がなんとか理解したい衝動で、ブランケットと関連づけて金魚と思わせているのかも、と感じてきます。

こうした、日常にあるモノと描画が混ざり合う様子を観ていると、固定的な認識に何かを掛け合わせることで新たな視点を見出そうとしているようにも見える作品でした。

トークセッションも視聴可能

今回はサトウリホミさんの来日が叶わなかったため、トークセッションという形で作家による制作背景や展示作品についての話を聞けるようにイベントが開催されました。

トークの様子はアーカイブされています。作品を観た後にトークセッションを聞くと、新たな発見もできるはず。

まとめ

今回はサトウリホミさんの初個展を観ていきました。

それぞれの作品がとてもカラフルで、展示数が多い分、ある種回顧展的にサトウリホミさんの作品を鑑賞することができました。

ひとつの作品にさまざまな要素が潜んでいる作品は、視点が変わるごとに捉え方もどんどん変化していくので、観るのにエネルギーを使っている感覚がありました。そんな過程を通じて“観えた”とき、自分の中で思考の枷が解けた感覚があり、心地よいものがありました。

また、コラージュ作品を観て、平面なのに立体的に感じる瞬間がありました。コラージュしている素材同士が溶け合い、奥行きをなしているからかもしれません。

こうした立体感は画像ではなかなか伝えきれない部分ですが、作品を何度も観て、発見による思考の解放を味わってみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名Friday Night Humanism
会期2023年2月18日(土)〜 2023年3月5日(日)
開廊時間11:00 〜 19:00
定休日なし
サイトhttps://www.hirookamoto.jp/events/friday-night-humanism
観覧料無料
作家情報サトウリホミ(Rihomi Sato)さん|Instagram:@rihomisato
会場HIRO OKAMOTO(Instagram:@hiro_okamoto_gallery
東京都渋谷区神宮前3丁目32-2 K’s Apartment 103
※入口は施錠されているので、正面玄関インターホンで「103」を呼び出すとギャラリーの方が開けてくれます。

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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