【2020年度版】データでみるアート・美術作品マーケット(数値で見るアート市場を解説)
今回はデータで観るアート・美術作品マーケットについて紹介していきます。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- データを通して客観的な目線でアートを知ることができる
- イメージ上のアートと、データでみるアートの違いがわかる
- 他の人たちがどんなふうにアートを観ているのかが分かる
データだけ出されても、論文みたいで読むにはハードルが高いと感じてしまいますよね。それでも、要所を知ってみるとアートを俯瞰的に楽しむことができると思います。なるべくかみ砕きながらご紹介していきます!
調査の概要
今回参照しているデータは、文化庁と一般社団法人アート東京が調査した「日本のアート産業に関する市場レポート 2020」です。
これまで国内において、アート産業の実態を示すデータはそこまでなく、信頼できるデータがありませんでした。そこで、おもに日本の美術品の購入動向の調査から客観的なデータを出していこう!という取り組みをしているのが、今回のデータとなります。
3つの視点でデータを紐解く
かなりのボリュームがあるデータなので、今回はこちらの3つの観点でみていきます。
- 世界からみた日本のアート・美術作品市場
- 国内で取り扱われているアート・美術作品と販売場所
- 国内のアート・美術作品への関心度はどのくらいか
客観的なデータからどんなことがみえてくるのか、順番に紐解いていきましょう。
1.世界からみた日本のアート・美術作品市場
日本のアート市場ってなんとなく小さいイメージがあるなぁ
そう感じる人が多いと思います。ではまず、世界とくらべてみた日本のアート・美術作品市場の規模についてみていきましょう。
世界の美術品市場の国別割合
世界のアート・美術作品市場のデータは、こんな感じです。
アート市場規模は大きい順に、アメリカ(44.0%)、イギリス(20.0%)、中国(18.0%)となり、上位3位だけでも82.0%を占めています。
中国はここ数年で存在感が増していて、特に上海が盛り上がりを見せている話は最近よく聞きます。以前ご紹介した松山智一さんも、上海で展覧会を開催しています。
一方で、世界の市場規模と比較したときの日本の市場規模はわずか3.2%の2,270億円でした。(ただ、昨年は2.8%だったので、増加傾向にはあります。)国内のオークションをみていると1つの現代アート作品に数千万円の額がつくこともあり、「こんな金額で作品が流通しているんだ!」と盛り上がりを感じることもありました。それでも3.2%にとどまっているとは、「日本のアート市場は小さい」というイメージはその通りのようです。
海外に目を向けると、圧倒的に日本のアート市場が小さいことが分かります。
2.国内で取り扱われているアート・美術作品と販売場所
次に国内へ目を向けてみましょう。現在国内では、どんなアート・美術作品が購入されているのでしょうか。
どんな作品形態の人気が高いのか
アート・美術作品別の市場規模データがこちらです。
データをみると、「洋画」が全体の22.0%、「陶芸」が16.4%、「日本画」が13.1%を占めていて、この3つで51.5%を占めていました。
僕自身が普段洋画や陶芸を観に行かないところがありつつも、個人的には現代美術が盛り上がっている印象でした。今後どのように伸びていくのか、気になるところです。
また、現代美術合計と美術関連品の市場規模がほぼ同じであることも以外でした。実際にアート購入には至らない場合でも、手に取りやすい著名な絵画・彫刻などをモチーフとしたグッズやポスター、ポストカード購入する人は多いのかもしれません。
アート作品をどこで購入するのか
それでは、洋画や陶芸をはじめとするアート・美術作品はどんな場所で購入されているのでしょうか。
国内の百貨店が28.5%、画廊・ギャラリーが28.4%を占めており、2つ合わせて56.9%と半数以上を占めていました。この点は、アートを鑑賞する場所や購入する場所を検討する際のイメージと一致していました。
また、国外関連の購入はどれも少なく、中国などのアート市場の盛り上がりをチェックしている人はいても、購入に足を運んでいる人は少ない様子がうかがえます。
3.国内のアート・芸術作品への関心度はどのくらいか
次に、より身近な鑑賞する側についてのデータをご紹介します。
- アート作品を購入したことのある人ってどれくらいいるの?
- アート作品のどんなところに関心を持って、鑑賞しているの?
そんな疑問が解消できるかと思います。
国内アート購入経験者の割合
私自身、今年に入って初めてアート作品を購入しましたが、世間にはどれほどアートを購入したことのある人がいるのでしょうか。
アート購入をしたことのある人は全体の16.0%と、意外と購入経験のある人がいるんだなと感じました。身の回りでは「私もアートを購入したことあるよ」という話をほとんど聞かないんですけどね。聞いてみたら、実はアート作品を持っている人がいるのでしょうか。
ちなみに、アート関連商品の購入経験は18.0%と、アート作品購入経験とあまり変わらないようでした。
アート作品を購入するのにかけている費用はどのくらいか
アート作品=“高額で手が出せないもの”
というイメージが強いと思いますが、実際に購入したことのある人は、どれくらいの金額をだしているのかも、気になるポイントではないでしょうか。アート作品を購入したことがあるという人が、どのくらいの金額で購入しているのかをみてみましょう。
なんと、アート購入している人のうち10万円未満が81%という結果でした。
この数字だけ見ても、数十万を使わないとアートは購入できないんじゃないか…という疑問は減るのではないでしょうか。作品の大きさや作家の知名度にもよりますが、アート作品は決して手が出せないものでもありません。
なんとなく高額というイメージは取り外しやすくなるデータですね。
どんな情報から展覧会に興味関心を持つのか
実際にアートを観に行くとして、人はアートのどんなところに注目して鑑賞をしているのでしょうか。まずは、展覧会についてみてみましょう。
フェルメール展やダリ展など、作品を集めて開催する企画展に長蛇の列ができるところを思い出すと、その関心度もうなずける気がします。
また、もう少し細かくした年齢層別のデータもみてみましょう。
年齢層が低いほど、SNS経由で興味を持ったものを観に行ったり、写真撮影ができる展覧会に関心を持つようで、発信できる展覧会や発信された情報を掴んでアートに触れに行くサイクルがあるようです。
とはいえ、作家や美術館の知名度が高い展覧会の人気は年齢問わず高い傾向があり、特に年齢層が高い人ほど50%を超えていくようになります。
この点については、メディアと美術館の関係性を紐解いている「美術展の不都合な真実(新潮新書)」を読むと、この順位の羅列になっている理由がもう一歩踏み込んだ理解ができます。
話題性と魅せ方は影響力が強いなと感じます。
アート・美術作品のどこに興味関心を持つのか
最後に、鑑賞を楽しむ人にとって、アート・美術作品のどんな観点に興味関心を持つのかをみていきましょう。
作品そのものの美しさが71%と、圧倒的に突き抜けています。それに続いて作品のテーマやコンセプト、時代背景、ストーリーと続いていきます。
視覚的な分かりやすさや共感を呼ぶ作品かどうかが、アート・美術作品の鑑賞を楽しむポイントになっているようです。
次に、もう少し細かく分けたデータもみてみましょう。
どの世代でも、作品そのものの美しさに興味関心を持つ割合が50%を超えていることが分かります。また、低年齢層にとっては、作品の持つストーリーやテーマ・コンセプトへの関心が高い傾向もあるようです。
アート・美術作品を観ただけでも楽しめる要素があることは、アートに興味を持つ上では大切な要素であることが、客観的なデータからも伺えました。
まとめ:アート・美術作品のデータからアートとの距離感を縮めてみる
今回は、アート・美術作品市場をデータを通してみていきました。
日本のアート市場規模は決して大きいとは言えませんが、アート作品の購入経験割合は16.0%と、以外にもアート人口はいることが分かりました。
また、作品そのものの美しさや作品のテーマ・コンセプトを重視した観方で楽しんでいること、購入金額も10万円未満が多いことも、アートをより身近に感じることのできるデータなのではないかと感じます。
小難しいことは考えず、まずは周りと同じく「綺麗だなぁこれ!」「このテーマは面白い!」という、自分にとってハードルの低い入口からはいればいいんだと思います。
それは必ずしも美術館やギャラリーである必要はなく、例えば屋外にあるパブリックアートからでも全然OKだと思います。作品を深く楽しむのは興味が湧いてきてからでも全然遅くありません。
客観的なデータを通して、アートの世界をより身近に感じてもらえたら嬉しいです。