アート探究
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理解できないアートがなぜあるのだろうか(感性ではない3つの観点でアートを探究)

よしてる
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アート鑑賞をしていると、訳がわからないものがアート作品と呼ばれる場面によく遭遇します。

感性で楽しめばいいといわれることが多いですが、本当にそうなのでしょうか。

今回はこの疑問について、ギャラリー巡りやアート購入を通した体験をもとに探究していきます。

  • アートをこれから楽しみたいけど、どんな観点で鑑賞していけばいいのか分からない
  • 「アートは感性で楽しむもの」という意見も分かるが、疑問もある

そんな方の参考になるようにまとめてみました。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点

探究テーマ:理解できないアートがなぜあるのだろうか

テーマに対して今回出した考究は以下の通りです。

  • アートを観た数・経験が少ないから
    →解釈案:たくさんのアートに触れることで“観る解像度を上げていく”ことに繋がっていき、作品から受け取れる情報も増えていく。
  • アートは表面的な美しさだけでは評価できなくなっている
    →解釈案:表面的な美しさ・上手さをゴールに制作するだけがアート作品ではなく、例えば「作品が今までの美術史の文脈とどういう関係があるのか」を考慮したアート作品もある。そのため、表面的な美だけではない、芸術そのものを問うコンセプチュアルなアートが多く生まれていることを前提に鑑賞してみる。
  • アーティストの価値観が反映されている
    →解釈案:アート作品は、アーティストの分身。アーティストがどんな人で、どんな想いで作品を制作しているのかが分かってくれば、“この人の作品”ならではの魅力を感じ取れる可能性がある。

これからアートを知りたいという人にはこちらのマンガ・書籍もおすすめです。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

探究テーマ:理解できないアートがなぜあるのだろうか

《Trans-Double Yana(Mirror)》
名和晃平、2012、アルミニウム、日本

今回探究する問いは、“理解できないアートがなぜあるのだろうか”についてです。

アートは感性で楽しむという考え方がある一方で、「この作品を観て、何を感じたらいいのだろう…」という壁に直面することがあります。

特に、現代アートを鑑賞していると、見た目の美しさ、上手さといった比較的分かりやすいものさしでは測れない場合が多くあります。

仮に、よく分からない作品もアートといってしまっても良いならば、何でもありの無法地帯となるのではないかと捉えることもできてしまいます。

そこで、今回は理解が難しいアートが作品として目の前に現れたときに、どう解釈すれば、感性だけではない、一歩進んだ楽しみ方ができるのかについて探究してみようと思います。

※本記事ではこれからアート鑑賞をする際にこれを知っていたら、もっと気軽にアートを楽しめたのになと思った実体験を出発点にまとめます。もちろん、私自身認知できていない領域もあるはずなので、現時点で見えている景色として参考にしてもらえたら嬉しいです。

①アートを観た数・経験が少ない

アートフェア東京2021 開催風景

特にアート鑑賞を始めたばかりのときは、作品を観た数・経験が少ないために、理解が難しく感じるシーンとよく遭遇します。

これはアートに限らず、どの分野でも初めての経験は理解が追いつかないことが多いのと同じ現象ではないかと思います。

そのため、たくさんのアートに触れることが“観る解像度”を上げることに繋がると考えれば、気が楽になると思います。

例えば、電波が通じない異国に行って生活するときの感覚に似ているように思います。

電波が通じないのでスマホで調べものができず、言語が違うので現地の人とコミュニケーションもうまく取れません。

そのため、どこで食事をしたり宿泊したりすればいいのか、何も分からない状態からスタートしなければなりません。

そんな環境でも、ご飯の買い方を覚えたり、宿泊先の選び方を知ったりしていきながら、時間をかけてなんとか住み慣れてくると、最初の頃と比べて、次第にそこが居心地よく思えるようになっていきます。

そして、気づけば第二の故郷と思えるほど大切な場所に変化していくかもしれません。

このように、アートも鑑賞する数が多くなり観る解像度が上がっていくにつれて、作品から受け取れる情報量(表現技法、色彩、絵肌、モチーフ、コンセプトなど)が増えていき、自分なりに理解できるポイントが徐々に増えていきます。

そうすると、ただ一言で“観る”といっても分かる情報が増えていくので、「この表現は面白いな」、「こういうコンセプトをもとにした作品なんだ」など、多角的に作品から情報を受け取れるようになっていきます。

アート作品を観る数・経験は一朝一夕とは行かないところではありますが、その過程も面白く味わい深かったりします。

アートを観る数・経験が増えていけば、作品から受け取れる情報量も増えていき、自分なりの理解を深めていくことに繋げられる可能性があります。

②表面的な美しさだけでは評価できなくなっている

Group Exhibition「Youth(仮)」 展示風景(2021、Yutaka Kikutake Gallery、東京)

本物そっくりに描く写実的な表現のように、表面的な絵の美しさ、上手さといった「表面的な美」だけがアートの評価軸ではなくなっていることも、アートが理解できなくなる理由になっていると感じます。

例えば、2021年にTBSで放送されたドキュメンタリー番組「解放区 日本のアート業界の現在地」で紹介された内容を参照すると、“アートの評価は市場価格と美術史の2軸の評価基準がある”といわれています。

その中のひとつである「美術史」の移り変わりについて知っていくと、表面的な美だけが評価される時代ではないことのイメージができていきます。

そのため、美術史の文脈をざっくりでも知っていると、理解できないアートに直面しても比較的心穏やかに対峙しやすくなります。

いわゆる一般的な美術史と呼ばれている西洋美術史の移り変わりを大まかに振り返ると、以下のようになります。

超ざっくり西洋美術史の変遷

「宗教画」

文字を読める人が少ない時代に宗教を広く浸透させていくために、神話や聖書の場面=神様を描いた。

「肖像画」

王様や権力者が中心の時代になり、自身の権力を表現するために描いた。

「風景画」

絵画が市民にとって身近となり、庶民の生活を描いたり、チューブ絵の具が登場により外で描けるようになり、外で景色を描くようになった。

「印象派」や「キュビズム」の登場

“カメラ”の登場で、これまでの写実表現から美術の在り方が変わり、画家の感じた印象を作品として表現し描くようになった。

「コンセプチュアルアート」

作品自体の見た目ではなく、対象に美を見出すプロセス自体を美術とみなした作品が登場する。

現在に至る

美術史はこうした歩みを経て書き換えられてきたこともあり、例えば「作品が今までの美術史の文脈とどういう関係があるのか」を考慮したアートは、表面的な美だけではない、芸術そのものを問うコンセプチュアルなアートであることがあります。

そのため、理解できないアートというのは、作品自体の見た目だけでは判断できないものを含んでいる可能性があると考えることができます。

ちなみに、美術史として語り継がれるようになるアート作品は作家の意図だけでなく、ギャラリーや美術館、その他関係者などが相互に関連し合って形成されていきます。

アート、特に現代アートは制作の目的によって表現も変わるので、表面的な美しさ・上手さをゴールに制作されるだけがアート作品ではないことを知ると、訳がわからないと感じているアートの見方も変わっていくと思います。

③アーティストの価値観が反映されている

理解できないアート作品に直面した時のもうひとつの捉え方として、作品にはアーティストの価値観が反映されていると考えてみる点が挙げられます。

作品を通じてアーティストの価値観に触れたとき、その価値観を鑑賞者が知らないために、作品だけを見ても何もわからない場合もある、というイメージです。

この点は、アーティストの価値観を知っていくことで、作品の理解にもつながっていくことがあります。

例えば、こちらの作品を観てみましょう。

《見えないナイフ》
2020、FACE、Acrylic on canvas、1120 × 1455 mm

この作品は、FACEさんの個展「Taking Peace for Granted」(2021、GALLERY TARGET、東京)で展示されていた作品です。

今回はこの作品が展示されていた展覧会のテーマをもとに、ひとつの捉え方を考えてみようと思います。

展覧会開催についてのインタビューの中でFACEさんが、「作品制作の原点には、アメリカ史上最悪の自爆テロ攻撃といわれている9.11がある」と話しているものがありました。

グランド・ゼロを実際に目の当たりにしたFACEさんは“日本人はあまりに危機意識がなさすぎるんじゃないか”と感じたそうです。

こうした作家自身の体験からくる価値観を知って作品を観ると、作品に登場するモチーフの笑顔にはまるで、“銃を突きつけられてもニコニコしている日本人への皮肉”が表れていると感じ取ることができるかもしれません。

このように、アーティストという人が制作している以上、その人自身の価値観や哲学が多かれ少なかれ反映されていると考えると、新たな解釈にもつなげることができます。

そして、アート作品はアーティストの分身といわれます。そういう意味では、アート作品の鑑賞は「多様な価値観を持った人との出会いを楽しむこと」とも言い換えられるのかもしれません。

アーティストがどんな価値観を持っていて、どんな想いで作品を制作しているのかを知っていけば、“この人の作品”ならではの魅力を感じ取れるかもしれません。

こうした鑑賞体験を通じて、擬似的に「多様な価値観を持った人との出会いを楽しむ」こともできるのではないかと思います。

まとめ:感性だけで終わらせないアート鑑賞を楽しもう

ロッカクアヤコ展(2022、T&Y Projects、東京)

今回は“理解できないアートがなぜあるのだろうか”について探究してみました。

今回は一例を提示してみましたが、まずは「アートは理解できない部分もあって当たり前」と思いながら、アート作品を鑑賞してみるのが良いかなと思います。

そして、鑑賞の中で生まれた疑問は、ギャラリーにいる方や学芸員、在廊していればアーティストに聞いてみると新たな発見にもつながるかもしれません。余裕があれば、コミュニケーションをとってみるのもおすすめです。

日本人にとってアート、特に現代アートは“訳がわからないもので、値段が高いもの”というイメージが多いという話を聞いたことがあります。

私も分からないなりにアート鑑賞やコレクションも体験してみた結果、アートの世界もスポーツと同じようにある程度のルールはありながらも、アートを観て楽しむことがシンプルに大切だなと思います。

こうした体験のシェアが、アートをこれから楽しんでいきたいけどよく分からない人にとっての道標のひとつとして、参考になれば嬉しいです。

参考書籍

とにかく手軽にアートの世界を知りたい!と言う方はマンガから入るのがおすすめ。芸大受験を志す物語から、芸術を生み出す人のリアルを知れます。

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今回の探究で言うところの「③アーティストの価値観が反映されている」部分が簡潔に紹介されているなと思う書籍です。

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アートとお金の関係性を論考していて、こちらもアートの見方の参考になります。

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※サムネイル画像はCanvaで編集したものを使用しています。

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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