ギャラリー

森本啓太「After Dark」|何気ない日常に特別な光を当てる

こんにちは!よしてる(@uzuraism_)です。

今回は天王洲にある「KOTARO NUKAGA」にて開催した森本啓太さんの個展「After Dark」の模様をご紹介します。

森本啓太さんとは?

森本啓太(もりもと けいた)さんは1990年生まれ、大阪出身のアーティストです。センテニアル中等学校(カナダ・オンタリオ州ベルビル)を卒業後、2012年にオンタリオ芸術大学(現在のOCAD大学)で美術学士号を取得しています。16歳の時にカナダのトロントへ移住して2006年から20年までの14年間を過ごし、2021年から東京に拠点を移し活動しています。

森本啓太さんはクラシカルな技法を現代に持ち込み日常的な風景を非日常的なものへと変換し、作品を通して「見えている現実世界の構造的な脆弱さと人が生きていく上で必要とする本来の豊かさの獲得」についての問題を浮かび上がらせています。

また、2022年にはARTnews JAPANによる「アート界がいま注目する35歳以下のアーティスト30人」にも選出されました。

(参考:KOTARO NUKAGA|ARTISTS

作品の特徴:光と影をコントロールした新鮮な日常風景

今回の展覧会では日常生活の中にある「光」をクローズアップした作品が展開されています。

  • バロック期の絵画のように完璧にコントロールされた明暗の表現
  • 現代社会の日常的な風景

を折衷的に組み合わせることにより森本さん独自のリアリズムを感じることができます。

バロックとは?

《夜警(フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊)》
1642、レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン、アムステルダム国立美術館 所蔵

16世紀末から18世紀初頭にかけてヨーロッパ各国に広まった絵画や彫刻などの美術のこと。ポルトガル語の「バロッコ」が語源といわれており、「ゆがんだ真珠」という意味を持ちます。ルネサンス期の均整のとれた美術に対して、バロックは豪華さ、派手さ、劇的さが増しているのが特徴です。バロックが広まった背景には、当時の絶対君主制による王様の権力誇示がありました。
また、光と影を対比させる明暗法「キアロスクーロ」を用いたドラマチックな演出をしているのも特徴です。

私たちが普段見ているありきたりな景色に特別な光を描くことで、風景の中に美しさや神秘性を生み出し、誰でもない誰かが主人公になる独自の物語性が浮かび上がってきます。このような手法は、エドワード・ホッパーやピーター・ドイグなどに代表される「マジックリアリズム(日常にあるものが日常にないものと融合した作品に対して使われる芸術表現技法のこと)」の系譜に位置づけられつつも、現代社会を見つめる冷静な眼差しによって鑑賞者に新鮮な視座をもたらします。

「After Dark」作品を鑑賞

アーティストのことを知ったところで、日常風景の光の捉え方が印象的な「After Dark」作品群を観ていきましょう!

幻想的な光の世界観に没入

《Bathing Light》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、194.0 × 162.0cm

コインパーキングの看板を境に、女性と男性、そして猫が描かれています。明暗をはっきりと描いているところに、現代版のキアロスクーロを感じます。自販機の明かりが強調されていることで女性がドラマチックに見え、視線も自然と誘導されます。

右側にいる男性と猫の暗さが目立つ中で、男性の足元にいる猫が気になってきます。

猫の表情をみると、尻尾を上げ一点をみつめて警戒しているようです。ちょうどコインパーキングなので、車が入ろうとしているのかもしれません。西洋絵画では「悪魔の化身」などネガティブな象徴である猫ですが、現代の猫はどんなシンボルになるのだろうとも考えながら観ていました。

《After Light》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、162.0 × 194.0cm

どこかの丘の上で夕暮れ時の街を眺めている女性が描かれています。どこかで見たことがあるような、懐かしい情景に誘い込まれます。上半分の夕焼けが温かさを醸し出し、下半分の草原がそれを受けて光っている様子が分かります。

女性は日の当たる場所の近くに立っていて、まるで誰でもない誰かがスポットライトの真下に移動し、主人公になる瞬間をとらえているようでした。

現実世界から逃げ込める場所「ヘテロトピア」を生み出す

森本さんの作品の中には、どこかで見た風景のようではあるがどこでもない場所「ヘテロトピア」が描写されています。

ヘテロトピアとは?

20世紀のフランスの思想家、ミシェル・フーコーが唱えた概念。「ヘテロ=ちがう」と「トピア(トポス)=場所」からなる概念で、「他なる場所」を意味します。

フーコーは「生きづらさ」やそれを生み出す権力などについて考えた人で、“生き苦しさを生み出す現実に対して異議申し立てをし、それに抵抗するためには架空の世界ではなく、現実世界のその内部にヘテロトピアを構築し、そこにそれとは全く別の現実世界を作り出すことが必要”だとしています。

(参考:KOTARO NUKAGA|After Dark

例えば、こちらの作品から「ヘテロトピア」を感じます。

《Scarching For Home》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、194.0 × 162.0cm

路地にいる男女を描いた作品です。スマホの出す光が女性の顔を照らし、スポットライトを当てているようになっています。一方の男性は葉を介した街灯の光に淡く照らされています。

また、階段を降りた先は赤く照らされていて、もしかしたら繁華街の明かりが差し込んできているのかもしれません。

作品を観ていると、街灯がついているところから夕方というのが分かりますが、太陽も出ていないのに女性が日傘をさしているのが不思議だなと感じました。まるで街灯の明かりを避けているようです。傘を使って街の光を避け、自分の好きなスマホの世界に没入しているのかもしれません。そうして、現実世界から逸脱し、ひとりの世界に逃げ込める場所「ヘテロトピア」を描き出しているようでした。

《After Dark》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、Each panerl:227.3 × 162.0cm

展覧会の中でも一番の大型作品で、広角レンズで撮影したかのような景色が3枚分のパネルに描かれています。20人ほどの名前も知らない誰かが描かれていて、公衆電話ボックス、車のヘッドライト、街灯、電車の踏み切り、駅のホームといった場所の明かりが空や路面の暗さと対照されているようです。また、右上にゴジラの頭がみえるところから、舞台は新宿付近かなと想像できます。

公衆電話ボックスの隣にいる女性ふたりは誰かと待ち合わせをしているのか、ひとりが電話を掛けています。この一コマで電話に対する価値観の変化を感じます。今や非常時以外ではあまり利用しない公衆電話ボックスも、この街を照らし続ける灯りとしても役割をまっとうしているところに哀愁を感じました。

また、駅のホームにいる女性も印象的な見た目をしています。

それぞれが良いことから悪いことまで、さまざまな時間を過ごした後ここに映っているのでしょう。決して特別ではない、ありきたりな風景なのに「美しいな」と感じてしまうのは、その光の捉え方から来るのかもしれません。

ふたつのポートレイト作品

男女それぞれのポートレイト作品も展示していました。女性の方は柔らかな雰囲気、男性はクールな雰囲気を感じます。こうして並んで展示していると、同じ時間、同じ場所で目が合った瞬間を別角度で捉えているのでは、という想像も掻き立てられます。

《Night Walk》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、145.5 × 112.0cm

街灯や自販機の光を浴びて緑色に映る女性。凛とした表情でどこかを見つめています。いつも着ている服で、いつもの街を歩く、そんなよくある日常を街を照らす光で演出しているかのようです。

日常も光の当て方次第で絵になるなと感じました。

《Until the Sun Comes Up》
2021、森本啓太、Acrylic and oil on linen over panel、145.5 × 112.0cm

澄んだ青色の街に照らされている男性。街明かりの冷たさに溶け込んでいるように男性の表情も硬めに感じます。

その表情にはかすかな赤みも含まれています。すぐ近くに止まっている車のバックライトに照らされているからか、それとも《Night Walk》の女性と目が合い心が反応したからか、そんな物語性も感じられました。

これらの作品を通して、現代社会における生きづらさを融解するような作品だなと感じました。

「現代社会において、多くの人が生き苦しさを抱えている」と、森本は言います。特にそれは相互監視の社会システムが作られ続けている現代において、私たち自身が無意識のうちに自分自身の外側に規定される価値観に対し、自身の意識を向け過ぎていることで生まれているのではないかと森本は考えています。

KOTARO NUKAGA|After Darkより引用

街灯や自販機、街明かりなどの光を使って現代風景の捉え方の変化を体感することで、無意識のうちに構築した外向けの価値観へも刺激を与えられているようでした。

小型の油彩画も展示

大型作品の迫力はもちろん、小型の作品も存在感がありました。いずれもポートレイト作品で、背景が真っ黒の中にモチーフが虹のように7色で描き分けられています。

《4:52 AM》
2021、森本啓太、Oil on linen over panel、27.3 × 22.2cm

背景が真っ黒の中に、寒色系のライティングを受けた女性が描かれています。こちらのシリーズのみ油彩画のようで、全体的にもっちりとした質感となっていました。テネブリスム(暗黒主義)のようなスポットライト間もかすかに感じる作品でした。

現地鑑賞できない方:VRで鑑賞もできます

引用元:Matterportウェブサイト|Keita Morimoto – After Dark|Kotalo Nukaga

ギャラリーでの鑑賞が難しいという方は、VRでのオンライン鑑賞も可能です。今回ご紹介できなかった作品も間近で観られるようになっているので、気軽に覗いてみてください。

まとめ|観たかったあの景色を観にギャラリーへ

森本啓太さんの日本帰国後初の個展「After Dark」を鑑賞してきました。何気ない日常に特別な光を当てることで、普段持っている価値観をズラした見方で明日を過ごす楽しさを教えてくれるような作品群でした。

画像で観るよりも作品は大きく、素敵な展示空間となっています。天王洲に行かれる方はギャラリーへも足を運んでみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名After Dark
会場KOTARO NUKAGA(Instagram:@kotaro_nukaga
東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
会期2021年11月20日(木)〜2022年1月29日(土)
※日、月、祝休廊
開廊時間11:00~18:00
※開廊時間、入場制限等については随時変更の可能性あり。
※感染症拡大防止のため、会場の混雑状況により入場を制限する場合あり。
サイトhttps://kotaronukaga.com/exhibition/after-dark/
観覧料無料
作家情報森本啓太さん|Instagram:@morimotostudio
ABOUT ME
よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA