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大平龍一「SYNDROME」|創作の幸福から生まれる“パイナップル”のアート

よしてる
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アートが“意味の創造”でなければいけないという固定概念を持っているとしたら、この作品たちがアートの楽しみ方をさらに広げてくれるかも知れません。今回は、渋谷区神宮前にある「NANZUKA UNDERGROUND」にて開催した大平龍一さんの個展「SYNDROME」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 大平龍一(おおひら りゅういち)さんは1982年生まれ、東京都出身のアーティストです。
  • 大平龍一さんは作品制作に一貫したテーマを決めているわけではないそうで、現在は主に木彫で「意味の定まらない」造形物を制作しています。
  • 本展では作家のチェーンソーで掘り出した大小さまざまなサイズの彫刻作品を中心に展示していました。

今回は展示作品の中から12作品をピックアップしてご紹介します。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

大平龍一とは?

大平龍一(おおひら りゅういち)さんは1982年生まれ、東京都出身のアーティストです。2011年に東京藝術大学大学院 美術研究科彫刻専攻にて博士号を取得されています。

直近の主な展覧会に 「The Yellow Portal」(2021、2G Tokyo & 3110NZ、東京)、「CAR BONE DRAGON」(2021、銀座 蔦屋書店、東京)や、世界遺産上賀茂神社で開催された「よりしろプロジェクト」(2013、上賀茂神社、京都)で大型彫刻作品「TONGARIMARU」が展示・奉納されるなど、多くの展覧会やプロジェクトを通しさまざまな形で作品を発表しています。

木彫で「意味の定まらない」造形物を制作

大平龍一さんは主に木材を用いた彫刻作品を制作していて、作品制作に一貫したテーマを決めているわけではないそうです。それはまるで、生きていく過程で考え方が変化していく様子を作品にも反映しているかのように感じます。

制作に対するこの姿勢は、今回のステートメントにも垣間見えるように感じます。

・・・なぜか今この時代に、青くて逆さまのパイナップルをどうしても作らなければいけないという使命感を持っている。その理由はまだ言語化することができていない。それが解るまで?いや、正解を見つけようとしているのではない。私は不可能な行為としてパイナップルを作り続けるときに幸福に包まれる。

NANZUKA UNDERGROUNDより引用

今回の展示にはパイナップルを象った作品が展示されていますが、作品に何か意味があるわけではないようです。そんな姿勢から、アートが“意味の創造”でなければいけないとする宿命への柔らかな抵抗をしているとも捉えることができます。

ちなみに、今回の展覧会タイトル「SYNDROME」は直訳すると“症候群、病的現象”の他に、“行動様式”という意味もあります。自身の好きなものをひたむきに、職業的に創作する行動の反復の結果生まれた作品であることを、タイトルで表現しているのかもしれません。

展示作品を鑑賞

展示会場にはとにかくダイナミックな木彫作品が展示されていました。今回はその中から作品をピックアップしてご紹介します。

パイナップルを象った作品

Tall pineapple figure

左から順に
《Tall pineapple figure Ⅳ》
2022、大平龍一、ヒバ,欅,水性塗料、H234 x W22.5 x D22.5 cm
《Tall pineapple figure Ⅲ》
2022、大平龍一、ヒバ,欅,水性塗料、H270.5 x W27 x D26.5 cm
《Tall pineapple figure》
2022、大平龍一、ヒバ,欅,蛍光塗料、H223.5 x W27 x D27 cm
《Tall pineapple figure Ⅱ》
2022、大平龍一、焦がしたヒバ,欅、H225 x W26.5 x D26.5 cm

2メートル以上の高さがある、逆さになったパイナップルの作品です。今回の展示では青色のパイナップルが多く登場していますが、他にも蛍光色や黒色のパイナップルもあって、バリエーション豊かです。

素材には秩父にある三峯神社の参道脇に生えていた、倒木の危険があり伐採された樹齢300年以上のヒバ材を使用しているそうです。ヒバはヒノキと同じく、防菌や防虫効果のあるヒノキチオールがヒノキ材より多く含まれているそうで、その影響もあってか、会場内を歩いていると柔らかな香りがして、森林浴をしているような感覚になります。

また、一番右にあるパイナップルは表面を火で炙って炭化させているようです。黒いパイナップルだけ表面に凹みが目立つところもあります。チェーンソーによる人工的な加工と火による偶発的な加工のどちらが優しく、どちらが過酷か、そんなことを問われているようでした。

Blue pineapple chair study

左から順に
《Blue pineapple chair study》
2022、大平龍一、楠,水性塗料、H31.5 x W16 x D18.5 cm
《Blue pineapple chair study Ⅱ》
2022、大平龍一、楠,水性塗料、H27.5 x W14 x D25 cm

青いパイナップル椅子のための習作、という意味のタイトルの作品。椅子にパイナップルが同化していて、シュールな印象を受けます。この作品含め、青の色味が素敵です。

パイナップルが座るのを拒んでいるのか、椅子と同化することで何かを表現しているのか。不思議な造形で、習作の次も気になる作品でした。

いろんな形に姿を変えるパイナップルの作品を観て個人的に感じたのは、興味を引く対象が他人にとって意味があるかどうかで選ぶ必要はないということ。自分にとって興味あるものならば満足するまで探求してみることに面白さがあるのかもしれないと、作品を通して感じました。

巨大な丸太とスピーカーを組み合わせた作品

Speaker with loggerhead head or Goliath

《Speaker with loggerhead head or Goliath》
2022、大平龍一、Camphor, evony, loudspeaker, and water paint、H105 x W120 x D100 cm

作品タイトルにもあるようなゴリアテ(身長約2.9メートルあったといわれている、旧約聖書の「サムエル記」に登場する巨人兵士)サイズはあろう、人物の顔を彫り込んだ巨大な楠(くすのき)の丸太スピーカー。もちろん、音も鳴るようになっています。

人物の表情は落ち着いて見えるものの、三つ目がギロリとこちらを観ていて、場に緊張感を与えています。目の虹彩、光の反射まで描かれているのがリアルです。

ギャラリー入口のすぐ目の前にある作品ということもあってか、まるで展覧会の門番みたいな、俗世間と展覧会を繋いでいる役割をしているようでした。

キャビネット作品

《Pink bone in green》(一部)
2022、大平龍一、Camphor, plywood, ashtray, resin, brass ball, carpet, cuckoo clock, and water paint、H150 x W150 x D30 cm
《Blue bone in green》(一部)
2022、大平龍一、Camphor, ashtray, zelkova, plywood, carpet, gold leaf, exhaust pipe, oil paint, and water paint、H150 x W150 x D30 cm

プライベート空間をそのまま再現しているような展示もありました。ソファの後ろには創造の結果生まれた作品たちがキャビネットに並べられていました。

パイナップルに骨、掛け時計、車が飛び出している花…どんな関連があるのか分からない作品たちが並んでいます。唯一の繋がりは大平龍一さんの理由のない愛着だそうです。

《Cherry》(左)
2022、大平龍一、楠,蛍光塗料、H21.5 x W12 x D6 cm

棚にはいくつかの本が置かれていました。例えば、

といった、社会人類学、民族学、神話研究、哲学などの多様な学術書が中心に置かれています。学術書を踏まえて鑑賞すると、もう一歩踏み込んだ作品の捉え方ができるのかも知れません。

個人的には知る人ぞ知る(?)、女神転生の攻略本もあって驚きました。

本展の主役となる合体ロボット的な作品

Blue pineapple syndrome

《Blue pineapple syndrome》
2022、大平龍一、楠,水性塗料,金箔、H310.5 x W100 x D60 cm

本展の主役として置かれた、約3メートルもある大型の木彫作品です。青いパイナップルを中心に、6本指、天狗、壺、大平龍一さんのお子さんが描いた絵をイメージソースにしたという鳥や象または性別を表す象徴などを連想させる矢印、改造車といったものがトーテムポールのように階層的に積み重なって構成されています。

それぞれ個別に制作し、後から繋げているように見えますが、下段のパイナップルとそれに挟まれた性別を表しているような矢印は、ひとつの丸太から彫り出しているそうです。

足元の改造車は「CAR BONE DRAGON」(2021、銀座 蔦屋書店、東京)で観た作品を思い出すところもあり、懐かしさがありました。

炭化した合板を用いた絵画的な作品

Two female figure

《Two female figure》
2022、大平龍一、Burned plywood、H243.8 x W243.8 x D2.2 cm (diptych)

合板にチェーンソーで描いたふたりの女性像を、火で炙って炭化させた作品。線の見た目からチェーンソーで描かれているように見えます。チェーンソーのパワー系のイメージに反して、描かれた女性像からは繊細さを感じます。

ちなみに、その上からチェーンソーでさらに傷を与えたような線がありますが、この線は展覧会の初日につけられたものです。

会場ではチェーンソーによるパフォーマンスも

展覧会の開催初日には、動画のようなチェーンソーによるパフォーマンスが行われました。マフラーのようなパーツを取り付け改造されたチェーンソーとダンスをするように、細い線や波打たせた模様などが目の前に立ち上がっていくのが大胆で素敵でした。

改造マフラーには“彫刻いのち”というステッカーが貼られていて、そんなところからも彫ることへの愛情を感じました。

ちなみに、チェーンソーの勢いがギャラリーにも爪痕を残していました。

まとめ

大平龍一さんの彫刻作品を鑑賞してきました。

自分の感じたことを言葉にしてみましたが、大小さまざまな作品が配置された空間はとにかく香りのインパクトが良くて、森林の中でリラックスしながら鑑賞している感覚が強かったです。そうしているうちに作品の意味について考える思考が削ぎ落とされて、シンプルに観て、楽しむ、ができた気がします。

今回は鑑賞した感想をまとめましたが、これからの作品(個人的には《Blue pineapple chair study》の次の作品)も楽しみにしつつ、いずれは作品の持つメッセージも自分の中で言語化できたらいいなと思います。

展示会情報

展覧会名SYNDROME
会場NANZUKA UNDERGROUND 1F
東京都渋谷区神宮前3丁目30−10 1F
会期2022年7月23日(土)〜9月4日(日)
※月曜、祝日休業
※夏期休業期間:8月11日(木)〜 8月15日(月)
開廊時間11:00〜19:00
サイトhttps://nanzuka.com/ja/exhibitions/ryuichi-ohira-syndrome/press-release
観覧料無料
作家情報大平龍一さん|Instagram:@ryuichiooohira

関連リンク

本展と同じ会場の2階で同時期開催された、谷口真人さんの展覧会はこちらをチェック。

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1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
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