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GORILLA PARK・渡邊涼太「SO」鑑賞レポート|未知の空間で味わう、曖昧な存在を捉え彫刻と絵画に着地させていくアート

よしてる
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浮き彫りに線を描き絵画的な平面へ還元する作品を制作するGORILLA PARKさんと、削ぐという彫刻的な行為を通じて存在の曖昧さを感じさせる作品を制作する渡邊涼太さん

高校から10年来の友人同士という二人の大学院卒業後初となる展覧会「SO」を観に原宿・HIRO OKAMOTOへ行ってきました。

お二人の息の合ったシナジーを展示空間から感じつつ、

  • GORILLA PARKさんの精巧な彫刻と渡邊涼太さんの削ぎ描く絵画が揃い生まれる未知な存在感
  • 惑星に降り立ったような異質感を体感できるギャラリー空間づくり
  • 変化が激しく不確実性の高い中でも、自分が捉えられるものを使って組み上げながら進んでいく力強さ
  • 曖昧な存在を捉えて作品として着地させていく共通項から見えてくる「枝葉を切り捨てて幹を見る」抽象化の要素

といったことを感じる展示でした。

累計120の展覧会レポートをまとめた経験と、2021年からアートコレクションをしている視点から、やりたいことをイキイキと表現しつつも、宇宙のような未知さと魅惑を同居させていた展覧会をレポートしていきます。

GORILLA PARKとは?

GORILLA PARK(ゴリラ パーク)さんは1998年生まれ、埼玉県出身の作家です。

2021年に武蔵野美術大学 造形学部 彫刻学科を卒業、2023年に東京藝術大学 大学院美術研究科 彫刻専攻 修士課程を修了されています。

主な展覧会に

  • グループ展「ドローイングー身体の軌跡」 (2022、UENO ART GALLERY、東京)
  • グループ展「1998」(2022、GALLERY ROOM・A、東京)
  • 個展「+K.A.S 2021 成島麻世『宇宙人の幽霊に会ってみたい』& Art book(速水一樹, たなかまさき, ひだかもと, ハンマー出版)」(2021、GALLERY TAGA 2、東京)

があります。

浮き彫りに線を描き平面へ還元する作品

GORILLA PARKさんの作品は木彫の中でも、絵画的な浮き彫りが特徴的です。

横線が引かれた彫り模様上にはドラゴンなどの具体的なものや、特定の何かとは言い表しにくい、見たことのない造形物が彫り描かれています。

そして、その上にはスプレー塗料や岩絵具による一色の線が。

この線はGORILLA PARKさんが彫る前に木を通して見えた線なのだそうで、立体作品を立ち上げながらも、制作当初に見えた線を描くことで、平面の正面性に還元する制作となっています。

Q
「正面性」とは?

現代アートにおける「正面性」とは、視覚芸術の観念を再解釈し、鑑賞者と作品の関係を新たな視点から探求するための方法として使用されます。

正面性の観念は、作品が視覚的な一体性を持ち、どの角度から見てもそのエッセンスが変わらないという特性を表すことがあります。これは作品が前面から鑑賞されることを要求し、その直接性と力強さを強調します。例えば、抽象表現主義の絵画はしばしばこの特性を持っています。

渡邊涼太とは?

渡邊涼太(わたなべ りょうた)さんは1998年生まれ、埼玉県出身の作家です。

2021年に東北芸術工科大学 芸術学部 美術科を卒業、2023年に東京藝術大学大学 油絵第六研究室を修了されています。

主な展覧会に

  • グループ展「1998」(2022、GALLERY ROOM・A、東京)
  • グループ展「One Art Taipei 2022 藝術台北」(2022、The Sherwood Taipei、台湾)
  • 個展「HORIZON」(2021、ロイドワークスギャラリー、東京)

があります。

削ぐ行為を通じて存在の曖昧さ捉えた作品

渡邊涼太さんの作品は絵の具を削ぐように描かれているのが特徴的です。

この描き方にはカッターや自作の道具を使用しているそうで、絵の具を壊す・盛る反復によって描かれています。

高画質化し薄く、早くなっていく時流に逆らいながら、「解像度を落とす編集」という再構成をして、境界線がなくなってしまった感覚に境界を与え、何者であるかを残すような作品を制作しています。

今回の展示で描かれている星や宇宙といったテーマからも、そのものを間近で見たわけではないけど存在は知っている、存在の曖昧さを感じさせます。

二人展「SO」展示作品を鑑賞

高校からの付き合いがあるGORILLA PARKさん・渡邊涼太さん。

今回の展示は二人が同じ時を過ごしたり、別の環境で研鑽したりした時間の蓄積の中で形作ってきた層(SO)が作品・空間を通して表現されています。

会場では展覧会タイトルが縦書きで描かれていて、例えば数学記号として捉えた場合、高校という原点「O」から現在まで相似「∽」してきた二人が表現する展覧会、という解釈もできて面白いです。

ちなみに、今回の展示は作品のインストール当日までお互いにどんな作品を持ち込むかは知らないまま進めたそうですが、それを感じさせないほど息の合った展示空間となっているのに驚きました。

長年の友人でも彫刻と絵画で異なる表現を追求

まずは1階に展示していた作品から観ていきましょう!

入口付近に展示している作品。

右がGORILLA PARKさんの《Relief ーciranvoleuspt》、左が渡邊涼太さんの《星屑》です。

ほぼ同じサイズの作品を比較できるように並んでいて、長年の友人であっても彫刻と絵画で全く異なる表現を追求してきたことが、明白に伝わってきます

GORILLA PARKさんの作品には中心にミントグリーンの円が描かれていて、正面からじっと見ていると簡略化した棒人間の顔のようにも見えてきます。

渡邊涼太さんの作品の方も肌色や黒など、顔のパーツに見られる色が引き伸ばされている様子に見えることから、誰かの顔をモチーフにしているのかもしれません。

そういった点から、証明写真のような、自己紹介を含めた肖像画と仮定して観るのも面白いです。

渡邊涼太の作品:削ぐ行為に見る現代の変化速度と存在の曖昧さ

1階では渡邊涼太さんの作品を中心に観ていきます。

モチーフの解像度が極限まで落とされている様子で、何が描かれているのか明確にはわかりません。

そこで描き方に注目してみると、青や紫などの寒色を中心とした色で、斜めの直線がほぼ直角に交差し合うように描かれ、そして削られているのが見て取れます。

削るという行為に、存在を曖昧に感じさせる「解像度を落とす編集」そのものが表現されているようです。

近年はメタバースやAIといったデジタル技術が発達し、生活に急速な変化が起きてはリアルとデジタルの境界線が曖昧になっていくことの繰り返し。

そんな現代の変化の速さが削ぐ勢いの中で描かれているようにも感じました。

次の作品は、渡邊涼太さんの新たな試みを感じる作品。

先ほどの削る行為とは逆に、大きく分厚い羊の革がキャンバス上に貼られています。

その革を裂いた隙間には、深い暗闇と銀色の輝きがあり、まるで膨張し続ける宇宙が見えているようです。

一見破壊されているように見えて、そこに現れるのは凝縮されたエネルギーのようで、新たな生命が産声を上げて誕生しているように感じました。

砂利が敷き詰められた未知な空間で見るアート

地下1階に行くと、これまで見たことがない、砂利が敷き詰められた空間が広がっているのに驚かされます。

メゾネットタイプの部屋がまるで惑星に降り立ったような異質感を放っていました。

そんな空間で観る作品もまた、未知の惑星にいる存在に見えてきます。

渡邊涼太さんの100号作品には星が描かれているそうで、その周りの黒い部分は宇宙を表現しているようです。

カメラで焦点をズラし、ピンボケしたところを描いているような、十字線で星が描かれています。

砂利の感触も感じながら観ていると、小さな惑星から星を見ているようで、明暗のコントラストにより白い部分が本当に光を放っているように、美しく見えます。

GORILLA PARKの作品:色の存在感が立体を1枚の絵画に見せる

地下1階ではGORILLA PARKさんの作品を中心に観ていきます。

星を描いた作品の隣には、GORILLA PARKさんによるレリーフ作品が展示されています。

ピンクと青色の岩絵具で描かれた棒人間は発色が綺麗で、見た目は粒子上で息を吹きかけたら飛んでいってしまいそうですが、しっかりと木に固着されています。

単に線を描く行為でも、注意して観ると興味深い技法を発見できて面白いです。

彫刻の方に目を向けると、虫のような見た目の未確認生命体が。

表面はとても滑らかで技術的な魅力を感じる一方で、アメーバのような頭にカマキリの鎌、蛾の触角に見えるものが混在していて、地球上で見たことがない異様さを感じます。

砂利に立ち鑑賞するからこそ、より異様さを感じてしまうのかもしれません。

そんな未確認生命体が気になってしょうがないですが、それに引けを取らない岩絵具による色の存在感が、浮き彫りという立体作品なのに1枚の絵画を見ているような、不思議な感覚を届けてくれます。

続いても、棒人間が描かれたレリーフ作品の両脇に展示している、GORILLA PARKさんの作品。

ピンク色と青色それぞれの色で線が描かれた作品は鏡写しになっているようです。

この作品、1つ仕掛けが施されていて、一方がGORILLA PARKさんが通常通りの制作過程で制作されたオリジナル版、もう一方がオリジナルを元に複製したレプリカ版なのだそう。

見た目では分からず、どちらも精巧な作品に見えますが、その答えは作品タイトルに潜んでいます。

青色の作品名が《Relief ー5》なのに対し、ピンク色の作品名は《Relief ーゟ》となっていて、5に見えそうな字が用いられているところから、レプリカ版であることに気づけます

この5に見えそうな字は「ゟ(より)」と読む合略文字というもので、平仮名の「よ」と「り」をくっつけて略した文字。

GORILLA PARKさんが5と似ているけど違う字を見つけて、作品名に用いたそうです。

同じ作家が制作した作品に変わりはないですが、作品制作にある作家の思考過程の重要性を感じました。

最後は、先に登場した《Relief -蟲脳》と同じ丸太から切り出した木を使用しているという2021年の作品。

こちらはスプレー塗料による線と、具象的な龍が浮き彫りされています。

線をなぞるように龍が8の字を描いており、線から浮かび上がる像を掘り出しているようでした。

また、レリーフに亀裂が広がらないように鼓型の千切りが二箇所に入れられていて、龍の迫力を強める稲妻のような役割をしているのも印象的です。

探究:組み上げて進む強さと程よい抽象化を感じる作品

GORILLA PARKさん・渡邊涼太さんの二人展で作品を鑑賞し感じたのは、不確実性の高い中でも捉えられるものを組み上げながら進んでいく力強さでした。

GORILLA PARKさんの作品は平面の状態で見えたものを一旦掘りながら壊していって、浮き彫りができてから再度平面で見えたものを描く、再構築をしています。

渡邊涼太さんの作品は削ぐ行為によって曖昧な存在を描きつつも、何かが描かれているのは分かるところまで、モチーフを再構築しています。

同じ再構築ですが、GORILLA PARKさん・渡邊涼太さんが捉えているものはそれぞれ別のものです。

そこには、自分にとってしっくりくるものを捉えて、組み上げていく力強さがあるように思います。

また、曖昧な存在を捉えて作品として着地させていく点でも共通するのものがあるなと感じ、その時に思い出したのが「具体と抽象」という本にある、

抽象化とは一言で表現すれば、「枝葉を切り捨てて幹を見ること」といえます

具体と抽象 より引用

という言葉でした。

私自身、具体的である方がわかりやすいと考えていましたが、抽象的であるほど誰もが受け取りやすい幹の情報を抽出してるともいえます。

例えば、偉人の名言は抽象度が高い分、自分に合わせて解釈しやすいもの。

曖昧なものを捉え作品化していく行為にも、誰もが受け取りやすい、程よい抽象化が含まれているように感じました。

まとめ

作品はもちろん、展覧会の会場作りからもGORILLA PARKさん・渡邊涼太さんお二人のシナジーが伝わってくる、素敵な展覧会でした。

ギャラリーの空間ごと変容させてしまうほど自由度が高く、だからこそ作品の世界観に没頭できました。

今回の鑑賞レポートも参考に、今後の活躍もぜひチェックしてみてください!

展覧会情報

展覧会名SO
会期2023年5月20日(土) 〜 6月4日(日)
開廊時間11:00-19:00
定休日なし
サイトhttps://www.hirookamoto.jp/events/so
観覧料無料
作家情報GORILLA PARKさん|Instagram:@gorilla___park
渡邊涼太さん|Instagram:@wata_ryota_
会場HIRO OKAMOTO(Instagram:@hiro_okamoto_gallery
東京都渋谷区神宮前3丁目32−2 K’s Apartment 103

※入口は施錠されているので、正面玄関インターホンで「103」を呼び出すとギャラリーの方が開けてくれます。

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1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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