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【徹底レポート】村上隆「もののけ 京都」|作品の重層的な魅力を紐解く

よしてる
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最後に村上隆さんの作品を見たのはいつですか。

数年見てない人こそ、村上隆さんが国内で約8年ぶりに開催した美術館での大規模個展「もののけ 京都」はおすすめ。

村上隆さんが関心を寄せてきた京都を舞台に、これまでの活動から最新トレンドまでが紹介されています。

新作を中心とした作品を見ていくうちに、村上隆さんは「日本文化やアニメ・マンガへのリスペクト」を持ちながら現代アートと向き合っているんだと感じます。

とはいえ、「アニメっぽい絵がなぜ評価されているの?」と思う人も多いはず。

そこで今回は、押さえておきたい村上隆さんの基本情報や、「もののけ 京都」会場に展示していた200点近くある作品ほぼすべてを詳しく紹介します。

約5万字の内容は、「村上隆さんの作品の重層的な魅力」を知る一助になるはず。

展覧会を巡るように、村上隆さんの世界観を体感していきましょう。

©︎Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

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Contents(全体)

1. 村上隆とは
 ・更新され続けている芸術概念「スーパーフラット」
 ・代表的なモチーフ「お花」とは何か
2. 京都・もののけをテーマにした展示
 ・「もののけ」とは何か
3. 村上隆「もののけ 京都」展示作品をご紹介
4. 館内展示:来場者を迎える大型作品
 ・来場者をもののけから守る「阿吽の大鬼」
 ・日本庭園と調和する《お花の親子》
5. 第1室:もののけ洛中洛外図
 ・一味違う展示方式を物語る「言い訳ペインティング」
 ・日本文化とポップカルチャーが交差する「大仏オーバル」
 ・目玉作品のひとつ「洛中洛外図屛風(舟木本)」の本歌取り作品
 ・千年以上の歴史を持つ八坂神社の祭礼「祇園祭」の作品
 ・金箔の意味と尾形光琳ペインティング
6. 第2室:四神と六角螺旋堂
 ・不安を感じる仕掛けが施された空間
 ・「四神相応の地」の考えをもとした京都・平安京を守護する四神獣
 ・京都の異変を知らせる伽藍
7. 第3室:DOB往還記
 ・「DOB君」とは何者か
 ・「727」の誕生背景
 ・キノコ、めめめファミリー、パンダなどのキャラクター達も集結
 ・村上隆の制作を支える工房名「カイカイキキ」の由来
 ・6年の歳月をかけて完成した抽象画《鮮血を捧げよ》
8. 第4室:風神雷神ワンダーランド
 ・琳派の絵師が100年おきに描き継いだ「風神雷神図」の現代版
 ・奇想の絵師「曽我蕭白、狩野山雪」を題材にした作品
 ・尾形光琳の葵図を題材にしたお花に表れる無常感
 ・奇想の画家以外の画家から着想を得た作品も
 ・カイカイキキ流の絵画制作プロセス
9. 第5室:もののけ遊戯譚
 ・NFTプロジェクト「CLONE X(クローンエックス)」の作品
 ・なぜ村上隆はNFTやゲーム、カードに力を入れているのか
 ・アートと他ジャンルとの橋渡しが生む日本の文化的な豊かさ
 ・カワイイの中にある禅画のような「慧可断臂図」
10. 第6室:五山くんと古都歳時記
 ・腕で展示室同士を繋ぐ川端康成
 ・舞妓、歌舞伎、金閣寺、五山が映し出す「京都の今」
 ・最後の言い訳ペインティングに込められた「正直な言葉」
11. 「村上隆 もののけ 京都」開催までの軌跡
 ・1. 展示作品に新作が多くを占める理由
 ・2. ふるさと納税
 ・3. 入場特典としてカードを配布
12. まとめ:鑑賞体験を反芻して村上隆の魅力を発見しよう
 ・村上隆「もののけ 京都」展覧会情報

村上隆とは

まずは知っておきたい村上隆さんの基本情報をまとめていきます。

村上隆さんは1962年生まれ、東京都板橋区出身の現代美術家です。

1993年に東京藝術⼤学⼤学院美術研究科博⼠後期課程を修了、東京藝術⼤学⼤学日本画科で初の博士号取得者としても知られています。

アニメが好きで、大学ではアニメーターを目指しアニメ部で上映会をしていましたが、当時話題となった「DAIKON Ⅳ」「AKIRA」「風の谷のナウシカ」を見て追いつけないと感じ、ほかにも様々な挫折がありアニメーターの夢を断念したそうです。

悶々とした時期に大竹伸朗さんの展覧会を観たことをきっかけに、現代アートの道を選びます。

その後も紆余曲折はありつつ、2000年にスーパーフラットを提唱、2001年に有限会社カイカイキキを設立し、海外を中心に活動の幅を広げていきます。

直近の展覧会に、

  • 個展「Takashi Murakami: Unfamiliar People -Swelling of Monsterized Human Ego」(2023、アジア美術館、サンフランシスコ)
  • 個展「Understanding the New Cognitive Domain」(2023、ガゴシアン、ル・ブルジェ)
  • 個展「MurakamiZombie」(2023、釜山市立美術館、釜山)
  • 個展「Stepping on the Tail of a Rainbow」(2022、ザ・ブロード、LA)

などがあります。

更新され続けている芸術概念「スーパーフラット」

「スーパーフラット」とは、村上隆さんが2000年に提唱した現代美術の芸術運動および概念のこと。

日本の絵画(飛鳥時代の仏画や平安時代の大和絵、江戸時代の浮世絵など)に見られる輪郭線、簡略化、色面の平面的な構成による伝統的な表現様式が、現代のアニメや漫画に通じていることを作品を通じて表現されています。

さらに、社会構造の平面性にも注目し、日本の社会と文化に通底する同質性を捉えて「スーパーフラット」と名付けられています。

スーパーフラットは現在も更新されている概念で、例えば、平面的な構成の中に奥行きを見せる表現がアップデートされていたり、トレーディングカードの発表といった他ジャンルとの橋渡しも印象的です。

日本の漫画・アニメが文化的価値を持つことを世界に発信

村上隆さんは日本社会のヒエラルキーの中で、芸術よりもアニメやマンガの方が上と考えているそうです。

実際に、村上隆さんの作品の中にはドラえもんが登場するものがあり、「これがアートと言えるなら、ドラえもんもアートだ」と言わんばかりの入れ子構造が読み取れます。

このようにアニメやマンガが美術的な評価を持つとしたら、日本は芸術の大豊作状態です。

そう言われると、アニメやマンガは世代を問わず国境を超え多くの人に届くことを考えると、芸術よりも世界中に影響を及ぼす力を秘めているのかもしれません。

例えば、鬼滅の刃や呪術廻戦、葬送のフリーレンなどの人気作品が生まれ、人々に影響を与えていく様子は世界的にある種の変革を起こしています。

村上隆さんは漫画やアニメにある文化的価値が、今後、日本の資産としても現代美術以上に世界的な影響力を持つ未来を予見するかのように、現代アートで表現しています。

代表的なモチーフ「お花」とは何か

村上隆さんの作品を代表するモチーフのひとつに「お花」があります。

このお花、一体どういう意味が込められているのでしょうか。

まず、村上隆さんがお花を描く理由のひとつに日本画出身背景があり、美大生時代から「雪・月・花」などの日本独特の画題に取り組んできたことがあります。

画題に取り組むうちにお花が好きになったそうです。

それ以外にも、日本独自の美的感覚や価値観、日本絵画とアニメ・マンガとの関係性などの意味合いが重層的に込められているように受け取れるのが面白いところ。

具体的には、

  • 日本の伝統的な画題としてのお花
    古くからの言葉「雪月花」や「花鳥風月」があるように、日本は自然を愛でる美的感覚があり、日本の美の表現するために花は画題として欠かせない存在だった。
  • 笑顔に表れる自然の無常さ
    日本には自然を愛でる感覚と同時に畏怖の念も持つ感覚もある。そのため、自然災害に対し恐れを感じながらも、あるがままを受け入れて暮らす独自の感覚がある。
    お花の笑顔には幸せや可愛さと同時に、目が笑っていない様子からくる畏怖や恐ろしさも一緒に現れているところに、自然の無常さが見て取れる。
  • 日本絵画とアニメ・マンガをつなぐ平面的な表現
    平面的に描かれたお花は、やまと絵などの日本の絵画から現代のアニメ・マンガまでに続く日本独自の二次元的な表現の歴史が反映されているようにも受け取れる。

といった要素が含まれていると考えられます。

日本にある価値観や絵画の歴史、そして今をひとつのモチーフとして昇華されたのが「お花」なのです。

今ではお花はスーパーフラットはもとより、日本美術における画題や漫画アニメカルチャー、ポップアート、抽象表現主義までも横断し、それぞれを接続する存在になっています。

京都・もののけをテーマにした展示

「村上隆 もののけ 京都」展は主に「京都の歴史を現代までたどる」と、「村上隆さんの過去から未来までをたどる」の2軸が見て取れる構成です。

  1. 京都の歴史を現代までたどる

    京都はきらびやかな観光地としての姿の裏に、かつて日本の首都・平安京があり、死屍累々としたおどろおどろしい歴史、陰陽師的なローカルな文脈を持つ都市でもあります。
    そんな京都の持つ歴史も紹介するように、スーパーフラット的な文脈で解体・再構築した展覧会です。
  2. 村上隆さんの過去から未来までをたどる

    絵画表現から制作方法、カイカイキキの工房システムに至るまで、江戸時代の絵師に大きな影響を受けている村上隆さん。
    中でも特に慕う美術史家・辻惟雄さんの著書「奇想の系譜で取り上げている江戸時代の個性的な6名の絵師(岩佐又兵衛さん、狩野山雪さん、曽我蕭白さん、伊藤若冲さん、長沢芦雪さん、歌川国芳さん)の代表作を独自に解釈・引用し、再構築した新作が多く発表されています。

展示構成は村上隆さんと長く親交を持つ、京都市京セラ美術館企画推進室の高橋信也さんによる脚本を元に、村上隆さんの過去・現在・未来と、それらを京都と絡めた内容となっています。

全体的に新作が多い展覧会となっていて、そこには予算の問題で過去作品を外国の美術館やコレクターから借りられなかった経緯もあったそうです。

会期スタート時は展示に間に合わない作品があったり、未完成作品が並んだりと、展覧会として未完成な状態でした。

そこから、ある意味、ドキュメンタリー的に展示替えが行われながら完成形に近づいていく過程も特徴的です。

「もののけ」とは何か

「もののけ(物の怪)」とは、古代の日本では人間に病気や死をもたらす得体の知れない、恐るべき怨霊のようなものを指しました。

今では、幽霊や妖怪、そして人間の世界で説明のつかない自然界の精霊のような不思議なものをまとめて「もののけ」と呼ぶこともあり、時代によって受け取り方が変化しています。

本展の中では、恨みを持って取り憑く霊などを指す辞書的な意味と、宮崎駿さんの映画「もののけ姫」を背景にした広義の「この世ならぬもの、異界のもの」も意味しているそうです。

かつて科学技術が未発達だった頃、説明のつかない事象を「もののけ」として、不安な世の中の有り様を豊かに伝える存在として生まれた、ある種の「キャラクター」と捉えても面白いかもしれません。

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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