新藤杏子、スガミカ、友沢こたお「face to face」|顔を合わせて生まれる姿勢
今回は渋谷のBunkamuraにあるBox Galleryにて開催した新藤杏子 さん、スガミカ さん、友沢こたお さんの展覧会「face to face」の模様をご紹介します。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- 「マスクなしの顔で対面した時、我々はいったいどんな想いを経験するのか」をテーマとした展覧会
- 新藤杏子 さん、スガミカ さん、友沢こたお さんとその作品について知れる
- 顔を合わせるから向き合う姿勢が生まれることに気づける
マスクをつけるのが日常になっている今、作品の「顔」との対面を通してどんな感情を抱くのでしょうか。作品鑑賞しながら体験していきましょう!
「face to face」展覧会のテーマ
本展覧会では、感染症拡大の影響で生活様式が変化するこの時を象徴するアイテム、「マスク」に注目しています。
特に外出先ではマスクで顔の半分を隠し、はっきりとした表情が読み取れない状態が続いている中で、「いつかこの辛い時期を励ましあった人々とマスクなしの顔で対面した時、我々はいったいどんな想いを経験するのか」をテーマにしています。
素顔での対面をアートを通して体験してみる、そんな意図から、今回は3名のアーティストそれぞれの描く「顔」をメインモチーフとした作品が展示されています。
face to face展示作品を鑑賞
世界観の異なる作品の顔と対面したとき、あなたにはどんな感情がうまれてくるでしょう。展示作品の一部をご紹介しながら、鑑賞してみましょう!
新藤杏子
新藤杏子(しんどう きょうこ)さんは東京生まれのアーティストです。
OPEN CALL KAIKA TOKYO大賞やシェル美術賞入選、、GEISAI TAIWAN #2、Young Artist Japan 2011などで審査員特別賞を受賞されています。
現代の風俗画ともいえる世界観を、「光と闇」「生と死」「善と悪」などをテーマに想像と現実の狭間で、「いきもの」の営みを描かれています。
wither
マスクとは逆に、顔の上半分が植物の蔦のような線で覆われた作品。ブラシストロークの躍動感が印象的で、生き生きとありのままに生きる植物と、生活に制限があるヒトを対比しているに感じます。
しかし、タイトルのwitherは日本語で「枯れる」という意味です。赤い斑点が実をつけているようにも見えて、繁栄していそうに見える分、タイトルに不思議さを感じます。
口元からは穏やかな印象を受けますが、目が見えないと表情はなかなかに掴めないことを、表情が枯れて見えると表しているのでしょうか。
Hello Good bye
綺麗な新緑を感じる、夏の景色のような作品。中央にいる男の子の姿からも季節は夏かなと感じ取れます。
この森林の中で二人の男の子が、小さな木を囲んでいます。その表情はどことなく硬く、何かから木を守っているように見えます。向かって右側の男の子の視線の先には、白っぽい何かが描かれていて、自分たちではどうしよもない何かによって、大切なものが狙われているみたいです。その驚異が親で、「もう帰る時間だからっ!」と諭している様子だったら、ちょっとかわいい光景ですね。
papaya
2つの作品のうち、右の《papaya》を観ていきます。
papayaとは日本語で果物の「パパイヤ」という意味です。鼻の位置にパパイヤを持ってきている人物の表情は、どことなく無表情に感じます。パパイヤの果実はクセのある独特な香りがするそうで、実本来の香りを初めて嗅いで、驚いているのかもしれません。
初めてのもの/こととの出会いに対しての反応の瞬間を切り取っているようにも見えました。
スガミカ
スガミカさんは大分県生まれのアーティストです。
vol.24 HBギャラリーコンペテション永井裕明特別賞、vol.25 HBギャラリーコンペテション永井裕明賞受賞され、展示を中心に活動されていて、最近はコスメキッチンの「リサイクルキッチンエコバック」企画に参加されています。
Chameleon
カメレオンに感化されてか、顔の色を変化させているような作品。
見る角度によって顔の色が変化するため、その人のことを理解するには多角的にみなければいけない、と語りかけているようでした。
Silent voice
女性の左耳をナメクジが覆ってしまっています。口や鼻を赤らめていて、血気盛んな女の子のように見える一方で、ナメクジののんびりとした姿から「徐々に進む、静けさ」という印象も感じます。
やってみたいことにチャレンジを勇んでやれば、その行動は世界からしてみたらナメクジのように僅かな移動距離だとしても、しっかり進んでいるというメッセージなのかもと感じながら観ていました。
それか、まるでBluetoothのイヤホンのように、外部からの音を遮断して自分の世界に入っているのかもしれません。
Lost Words
沢山の発した言葉やため息が宙を彷徨う様子を表している作品。渇ききった砂漠に身体が埋まっている様子をみると、行動範囲を狭める自粛を通してエネルギーの枯渇が起きていることを表しているように見えました。
また、よく見ると3つの顔それぞれの口は閉じているのに、吹き出しは出ているように描かれています。口は動かさずとも、発言をしている様子から、発言する領域がtwitterやinstagramといったSNSやネットとなっていることを表現しているのかなと感じました。
ここ最近ネットの治安が悪くなっているということを耳にしますが、モラルなしに交わされることも多いネットの言葉達に、「本当にしたい会話はこうではないのに」と感じている表情にも見えてきます。
友沢こたお
友沢こたお(ともざわ こたお)さんはフランス生まれのアーティストです。
藝大アートプラザ大賞入選や久米賞を受賞されていて、現在は現役で藝大で学びながら、東京で展覧会を開催しています。
スライム状の物質と有機的なモチーフを組み合わせた独特な作品を制作されてて、そのコンセプトは「表現する人の長い歴史の中で積み重ねられてきた地層が端々に顕れていること」なのだそうです。
slime LXXVI
展示会場に入る手前に展示された作品。赤ちゃんのフィギュアが透明なスライムに覆われかけた作品です。
遠目で見るとスライムの独特な透明感と艶感がリアルに見えますが、近くで鑑賞してみると、意外とシンプルな白い点で光のテカリを表現していて、フィギュアの奥行きが丁寧に表現されているのが分かります。
slime LXXIV
顔がスライムよりも固めな、水あめのようなもので覆われているために、本来の表情を確認できません。顔のおよそ半分を覆われてしまうと、その人の外見を判断しづらくなるんだなと感じます。
直接表情を見れないもどかしさがありつつも、「隠されているものこそがその人にとって大切にしている部分」とも感じ取ることができます。目視することも出来ないものにこそ、その人の奥ゆかしさとか、魅力、言葉にできないけど本質の部分なのかもしれません。
Slime
赤ちゃんのフィギュアの表情アップバージョンも展示していました。こちらは透明なスライムで表情もかろうじて見て取れます。その代わりにか、色調は隠すようにモノクロで表現されています。
愛情は言葉だけでは表現しきれないように、言葉にはできないけれど根源的に大切なものがあって、そこを深く育んでいくことが大切だと、語りかけているようでした。
(おまけ)渋谷駅からBunkamura Galleryまでの行き方
Bunkamuraにはいくつかの入口があって分かりずらかったので、会場までのルートもご紹介します。地図でみると、こんな感じです。
スクランブル交差点から、道玄坂方面に進んで、SHIBUYA 109のあるY字路を右折します。
2つ目の信号まで進むと再びY字路があり、正面にBunkamuraが見えます。
このY字路を左折し、直進すると右手にこんな入口が見えてきます。
こちらから入ると、Bunkamura Galleryに直行できます。
まとめ:顔を合わせるから向き合う姿勢が生まれる
渋谷Bunkamuraにて開催した「face to face」展についてまとめていきました。3人のアーティストの作品鑑賞を通して、「顔を合わせるから向き合う姿勢が生まれる」のではないか、と感じました。
どの作品も直接対面することで、「この人は何を思ってこの表情をしているのだろう」「なんでこんな状態になっているんだろう」と、自然と向き合って思考を巡らせていました。
向き合えば相手のことが全て分かるわけではありませんが、その姿勢は自然と相手にも伝わって、相手との価値観が共鳴したときはじめて、目には見えない大切なものを共有することができるのかもしれません。
展示会情報
展覧会名 | face to face |
---|---|
会場 | Bunkamura Box Gallery 東京都渋谷区道玄坂2丁目24-1 |
会期 | 2021年8月25日(水)~9月5日(日) |
開廊時間 | 10:00~19:00 |
サイト | https://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/box_210825face.html |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 新藤杏子 さん:Instagram:@shindokyoko3 スガミカ さん:Instagram:@micapower 友沢こたお さん:Instagram:@tkotao |