VIKI「Unconscious Mirror」|時間のささくれが宿るレシートアート
何気なく手にする「レシート」を作品に取り入れアートを制作するVIKI(ヴィキ)さん。普段手にするものがアートとなる驚きと共に、作品には一体どんな意味が込められているのでしょうか。
そこで、今回はギャラリー自由が丘にて開催したVIKI(ヴィキ)さんの個展「Unconscious Mirror」の模様をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- VIKI(ヴィキ)さんは2022年 東京藝術大学美術学部先端藝術表現科を卒業したアーティストです。
- 制作テーマは「時間のささくれ」で、最近では主にレシートを用いた作品を制作しています。
- 今回の展覧会は「日常の情報を“正しい”と言えるだろうか?」という問いから、“情報の捏造”をコンセプトに、レシートで架空のポートレートを展示していました。
本記事では展示作品のうち6作品をピックアップしてご紹介します。それでは、観ていきましょう!
VIKI(ヴィキ)とは?
VIKI(ヴィキ)さんは2022年に東京藝術大学美術学部先端藝術表現科を卒業したアーティストです。東京藝術大学入学時の2016年からアーティストとしての活動を開始し、展示やパフォーマンス、メディアへの露出など、精力的な活動をされています。
アーティストネームは「Viablekid(ヴァイアブルキッド)」といい、
- 「Viable」=「存立可能な」「生存可能な」
- 「kid」=「こども」
という意味になります。これを略して「VIKI」というそうです。
制作テーマは「時間のささくれ」
VIKIさんの作品制作のテーマは「時間のささくれ」です。
その人にとって当たり前すぎること、ふと日常の中で思い出したときに見えるものを制作したいという考えが根幹にあるそうで、それが全ての制作のテーマである「時間のささくれ」にも繋がっています。
過去には絵画作品なども制作してるそうですが、近年は主にレシートを用いた作品制作をしています。
レシートには個人情報や買い物をした時間が含まれ、まるで自分の細胞から剥がれ落ちたものみたいな存在です。このレシートは感熱紙といって、熱を加えると色が変わる特性もあり、この現象を利用して作品制作をしています。
メンタリストDaiGoの部屋に飾られている作品も
メンタリストのDaiGoさんが論文を元にした科学的な情報を発信をするYouTubeには撮影場所として読書スペースがよく映りますが、最近その一角にアート作品も展示しています。
あくまで私の予想になりますが、その中にあるモノトーンの抽象的な人物画はVIKIさんの作品ではないかと思います。レシートを使って制作された架空の女性のポートレート作品と特徴が似ています。
上に掲載した動画は、いくつか投稿されている動画の中から作品を比較的確認しやすいものを選んでいます。DaiGoさんの後ろの本棚、ニコニコ動画のマスコットキャラクターの隣に飾られている作品です。
ギャラリーやアートフェアなど、アートに特化した場所以外でも、ふとしたきっかけからアート作品に触れる機会があるのも、SNS発信が活発となっている今だからこそできる体験ですね。
個展タイトル「Unconscious Mirror」とは?
「Unconscious Mirror」を直訳すると”無意識の鏡”となります。無意識に馴染んでいる様式を疑い、鏡をみるようにチェックする、そんな意味が込められていそうです。
今回の展覧会のステートメントはこちらになります。
日常の情報を“正しい”と言えるだろうか?“情報の捏造”をコンセプトに、レシートで架空のポートレートを制作した。プライベート情報でもあるレシートは私たちの多様な暮らしを覗かせている。日本全国から集めたレシートを解体し、その情報から浮かび上がった、不鮮明なポートレートは、アノニマスな存在であることを物語る。私にとってこのフィクション化する行為は、世に自身のアバターを生成させる行為である。また、一緒に設置されたキャプションも作品の一部である。記載された金額は使われたレシートの総額であり、販売価格ではない。本来なら赤丸シールは売約済みの証であるが、この展示では金額を隠すだけの機能に過ぎない。私たちはどれだけ、アート産業で見慣れている様式やシステムを疑い、純粋に作品を観ることが出来るだろうか。
ーステイトメントより引用
情報の真偽が曖昧である社会に、レシートで構成された作品とキャプションの相互関係を反映しながら、現代のリアリティを問いかけたい。
展示作品を鑑賞
LOT.048
会場の中でも一番大型の作品です。
今回のポートレート作品は某アイドルグループに準えて全部で48作品を制作しているようで、その中の最後のロット番号に当たるのがこの作品でした。
モチーフの解像度は作品の大きさのわりには荒く、水が垂れているような表現も観て取れます。まるで、レシートから瑞々しい細胞となり、自身の姿を鮮明にしようとしているような印象を受けます。
ちなみに、キャプションに書かれたサイズ上は直径300mmと記載がありましたが、実際には900mm程度はありそうでした。
LOT.001
先ほどとは逆に、ロット番号が一番最初の作品も展示していました。
作品にはクリアのキャプションも添えられていて、価格の表記と購入済みを表す赤丸のシールが貼られています。
「この作品この価格で販売されているんだ!」
「すでに購入されているのかぁ」
と、展覧会に行き慣れている人ほど反射的に思ってしまいそうですが、実はキャプションも作品の一部。今回の展示手法は通常のものと異なり、人の持つ無意識な先入観を問うものとなっています。
価格は使用したレシートの合計金額(販売価格ではない)、赤丸のシールはフェイクとなっていて、その人にとっての当たり前は正しいのか、意識の見つめ直しができる作品となっています。
LOT.046
作品制作にあたり、VIKIさん自身がもっと人に興味を持つように、人物のポートレートを主題に選んでいるそうです。
また、今回の作品には女性のポートレートのみが描かれていて、男性のものは存在していません。そこには、例えば繁華街にある女性の宣材写真のような、消費されていくイメージも反映されているのだそうです。
レシートと同じように消費されていくものと重ねて、アートとして新たな価値を持って生まれ変わる、そんな可能性も見えてくるなと感じます。
ちなみに、この作品の中には「Love is Calling ¥ 200,640」という遊び心のレシートも加えられています。消費ではなく繋がりが価値を生んでいく、そんな感情も見えてきます。
LOT.011
キャプションの価格が「¥ 100,002,197 JPY」という、驚異的な価格がついていて驚く作品。その理由は、作品をよく観ることで判明してきます。
作品の中央をよく観ると、「悪魔との契約 ¥ 100,000,000」という表記を発見できます。
もちろん、実在しないレシートではありますが、1億円で契約をした(であろう)この女性は何を叶えたかったのでしょう。
情報の捏造というコンセプトが現れている作品です。
LOT.008
続いての作品もキャプションの価格が「¥ 12,300,370,200 JPY」と、悪魔との契約以上の支払いがなされています。その内容とは一体なんなのでしょうか。
123億円はアート関連に詳しい人であればピンとくる値段かもしれませんが、比較的わかりやすい場所にその内容が表記されているので、ぜひ探してみてください。
LOT.006
中には海外のレシートのみで制作された作品もありました。ここにもロット番号があるので、おそらくはポートレートが描かれているのかもしれませんが、他作品と比べると感熱による模様が少なく、レシートそのものの状態を保持しているように見えます。
日本と海外の表現の違いを表しているのかなと解釈しつつ、沢山のレシートを幾重にも重ね人物像を描かないことで、はっきりと意見を言う人や、奥ゆかしい人それぞれに良さがあることを訴えているようでした。
レシートがあらゆる出来事と向き合う鏡となる
VIKIさんのレシートによる作品群を観ていきました。
レシートに含まれる個人の生活様式や時間が作品として残るという観点から、どんな人の生活も、過ごしている時間も意味があって、作品としての価値を持つ可能性があると感じました。
良い出来事はもちろん、うまくいかなった出来事と向き合う鏡を観ているような鑑賞体験ができました。
展示会情報
展覧会名 | Unconscious Mirror |
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会場 | ギャラリー自由が丘 東京都世田谷区奥沢5丁目41-2 アトラス自由が丘ビル1F |
会期 | 2022年3月16日(水)~22日(火) |
開廊時間 | 13:00~19:00 ※最終日は17:00まで |
サイト | https://www.gallery-jiyugaoka.com/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | VIKI(ヴィキ)さん|Instagram:@viablekidviki |