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マイケル・ホー「I must humbly and honestly acknowledge that things are really bad」|文字を操作し“対話”を生むアート

よしてる
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アートは絵画を描いて表現する以外にもさまざまな表現方法がありますが、“文字を操作して表現するアート”があることをご存知でしょうか。いろんな意味にとれる、曖昧な文字を通した表現で、鑑賞する側との対話を促しているようなアートを鑑賞してきました。

今回は渋谷区神宮前にある「HIRO OKAMOTO」にて開催したマイケル・ホー(Michael Rikio Ming Hee Ho)さんの個展「I must humbly and honestly acknowledge that things are really bad」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • マイケル・ホー(Michael Rikio Ming Hee Ho [マイケル・リキオ・ミン・ヒー・ホー] )さんは1996年生まれ、アメリカ・ハワイ島出身のアーティストです。
  • マイケル・ホーさんは主に、巧みな言葉選びで文字を組み合わせた、いろんな意味にとれる作品を制作しています。
  • 本展の展示作品は、AIツールが自動生成したイメージを用いた《Meltdowns》、幼少期の映像が記録されたVHSのケースをモチーフにした《VHS BLANK BOX》の2シリーズです。

本記事では展示作品の中から6作品をピックアップし、作品への考察も交えてご紹介します。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

マイケル・ホーとは?

マイケル・ホー(Michael Rikio Ming Hee Ho [マイケル・リキオ・ミン・ヒー・ホー] )さんは1996年生まれ、アメリカ・ハワイ島出身のアーティストです。2018年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)芸術学部を卒業してまもなく拠点を東京に移し、作品制作をしています。

主な展覧会に

  • 「HIDDEN IN PLAIN SIGHT AND NOT AFRAID TO DIE」(2022、Tokyo International Gallery、東京)
  • 「Scope Art Fair Miami」(2021、Tokyo International Gallery、マイアミ)
  • 「Welcome to the Grèy Market」(2021、Tokyo International Gallery、東京)
  • 「Art Central Hong Kong」(2020、Tokyo International Gallery、香港)

などがあります。

巧みな言葉選びで文字を組み合わせた作品を制作

マイケル・ホーさんの作品は、いろんな意味にとれる曖昧な文字が添えられているのが特徴です。今回展示している作品ひとつひとつにも、印象的なフレーズが登場します。

フレーズに伝えたいメッセージを乗せているというよりは、言葉を巧みに操作して、あえて曖昧なフレーズを選んでいるそうです。そうすることでビジュアルの持つ意味を多様に変化させ、作品と鑑賞者の間にさまざまな対話・読みを誘発させることを意図しているようです。

ちなみに、マイケル・ホーさんの代表作のひとつとして、立体的に見える平面作品や大型モノリスのような箱型作品などがあります。

絵画でありながら彫刻のようにも見える、視覚的表現を用いた作品には、“絵画は彫刻である”という概念を作品を通して実践しているように感じます。

本展タイトルは「ソフトバンク決算会見での孫正義の言葉」

本展のタイトル、「I must humbly and honestly acknowledge that things are really bad」は、2022年8月8日にソフトバンクグループが開催した2023年3月期 第1四半期の決算説明会で、孫正義さんの発言を報じた海外メディアの言葉から来ています。直訳すると「私は、謙虚に、そして正直に、事態が本当に悪いことを認めなければならない」という意味になります。

孫正義さんは会見の中で「ソフトバンク創業以来の大きな赤字を、この2四半期で連続して出してしまいました。しっかり反省して、戒めとして覚えておきたい。」と話していて、その内容を英訳で報じたものと思われます。

過去最大となる約3.2兆円の赤字の要因として「世界的な株安」「急速な円安」を挙げていました。株安、円安は日常生活の中でも感じる機会があり、現代を取り巻くさまざまな問題も相まって起きた、企業にとっては過去最大に厳しい状況です。その中でも孫正義さんが発した堂々と立ち向かうような諦めのような言葉は、展示作品と共通する社会のアティチュード(態度、姿勢)を表しているようです。

展示作品を鑑賞

本展では視覚的表現を用いた代表作とはまた違った、巧みな言葉選びから生まれる遊び心や即興性を感じる未発表作品が展示されていました。

AIツールが自動生成したイメージを用いた《Meltdowns》

まずは1階に展示している作品《Meltdowns》シリーズからピックアップしご紹介します。

Survival Technique

《Survival Technique》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Digital print on archigal cotton paper,silk screen on matboard,and wooden frame、606 × 454mm

印象派の画家が描いたような正方形の絵画。よく見ると脚がありえない角度に曲がっていたり、駅のホームにある椅子に絶妙なバランスで乗っていたりと、違和感が多く見つかります。

この絵画は、AIツールに入力した文字列から自動生成されたものです。AIツールで描くとは、現代ならではの表現方法だなと感じます。自動生成により制作しているため作品はプリントですが、ひとつひとつがユニーク作品となっています。

テキストからイラストを自動生成するAIツールは近年SNS上でも見る機会が増えていて、例えば「Midjourney(ミッドジャーニー)」や「Dream(ドリーム)」など、一般向けにも利用ができる環境が整ってきていますよね。

マイケル・ホーさんの作品は開発者向けのAIツールを用いて制作されたものなのだそうで、生成に用いた言葉は、絵画の下に描かれた「SURVIVAL TECHNIQUE ©︎(サバイバル術 ©︎)」をベースに、必要に応じて言葉による指示も加えながら生成されているそうです。

その言葉から、何が描かれているのでしょうか。

サラリーマンが仕事終わりに飲み会にいざなわれた後、一日のやるべきことが全て終わって帰れるのに、終電を逃しつつある瞬間のように見えます。仮に、家族にみっともない姿を見られ威厳を失うくらいなら、他人の前で一日限りで恥ずかしい姿を見られる方が合理的という解釈で、AIが「SURVIVAL TECHNIQUE©︎」から判断し描いているとしたら面白いです。

日本でたまに見かける無防備なサラリーマンの姿は、ハワイ島出身のマイケル・ホーさんにとっては衝撃的な景色で、それが作品にも反映されているのかもしれません。

I Must Humbly and Honestly Acknowledge That Things are Really Bad

《I Must Humbly and Honestly Acknowledge That Things are Really Bad》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Digital print on archigal cotton paper,silk screen on matboard,and wooden frame、606 × 454mm

次に観るのが、展覧会タイトルと同様の英文「I MUST HUMBLY AND HONESTLY ACKNOWLEDGE THAT THINGS ARE REALLY BAD(私は、謙虚に、そして正直に、事態が本当に悪いことを認めなければならない)」というテキストが添えられた作品です。

決算説明会での孫正義さんの言葉をベースにAIツールが描いたイメージは、右奥に2人の人が描かれ、その手前には重力を無視して逆立ちで描かれた人が直立しています。また、左下の白いものが車体のように見えますが、どんな景色を描いたものかまでは判別できません。

現代を取り巻く不穏な状況の中、起きたマイナスな出来事に対して発せられた堂々とした諦めのような言葉。そこから何が描かれているかを連想するに、逆さに吊るされて車に轢かれそうになるというありえないほど不幸な状況なのに、周りの人は手を差し伸べて助けようとしない様子を感じます。

しかし、そんな状況でもしょうがないと割り切って、服装を乱さずに堂々としている様子も描かれているようで、志やビジョンは一切変えないで在ることの大切さを表しているように感じました。

A Post-Vandalist’s Near Death Aesthetic

《A Post-Vandalist’s Near Death Aesthetic》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Digital print on archigal cotton paper,silk screen on matboard,and wooden frame、606 × 454mm

「A POST-VANDALIST’S NEAR DEATH AESTHETIC™️(荒らし屋の死と隣り合わせの美学™️)」という言葉が添えられた作品。TMマークは「Trade Mark(商標)」を意味する記号で、商標登録する前段階にその表記が商標であると示しています。

積み上げられた箱の上に絶妙な角度で座っている酔っ払いのように見えた瞬間を美学として登録しようとしているのでしょうか。

作品の下に添えている文字ですが、この部分は単に印刷している訳ではなく、シルクスクリーンによる手吊りで描かれているそうです。そして、文字の描かれているマットボードの切り抜き部分も既製品ではなく、マイケル・ホーさんが手作りで制作しているそうです。AIによる機械的な描き方に手作業が介入することで、作家の存在をしっかりと感じることができる仕掛けを施しているようです。

テキストで指示してAIに描かせる《Meltdowns》の作品を鑑賞して感じたのは、鑑賞者がイメージしている言葉の解釈と、AIが解釈する言葉のイメージの差です。同じ言葉でもAIは冷静に、違和感も思わずに絵画を出力しますが、鑑賞者にとっては違和感のある関節を無視した脚の曲がり方や、何を描いたのか不明なモチーフも登場します。AIが絵画を描けるようになっても、この差は埋まるのだろうかと感じました。

ただ、人とAIで生じる言葉の解釈の差はまだまだ存在していますが、いずれは気づかないくらいフラットに、この差は融解していくのかもしれないとも感じました。

VHSケースをモチーフにした《VHS BLANK BOX》

地下1階には《VHS BLANK BOX》シリーズの作品が展示されていました。この作品は、2022年の夏に制作を始めた新シリーズとのことでした。念の為、VHSとはビデオテープのことで、データを保存・再生するための記録媒体です。

Everyone Deep in Their Hearts Just Wants to Take a Nap

《Everyone Deep in Their Hearts Just Wants to Take a Nap》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Paint pen on cotton paper、841 × 594mm

階段を降りてまずお出迎えしてくれるのが、こちらの作品です。

コロナ禍から渡航の規制が緩和され、マイケル・ホーさんが数年ぶりにハワイに帰省した際に、自身の幼少期の映像が残っているホームビデオのVHSを実家で見つけたそうで、そのVHSテープカバーのデザインをもとに制作した作品です。

当時のノスタルジーが現れるレトロで大胆なビデオテープのカバーデザインには、パロディのような遊び心で、現代に向けたメッセージが施されています。

作品には「Everyone Deep in Their Hearts Just Wants to Take a Nap(誰もが心の底では“昼寝したい”と思っている)」と描かれてます。確かに、《Meltdowns》の作品に添えられた言葉よりも、無邪気さを感じる言葉だなと感じます。

Failing Together Doesn’t Sound That Bad

《Failing Together Doesn’t Sound That Bad》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Paint pen on cotton paper、515 × 364mm

私の愛用しているカメラメーカーのビデオテープカバーもありました。作品を観ているとペイントの作品というのは分かりますが、写実的に描かないのは、手書きの温もりを出すためなのでしょうか。

“幼少期の映像が残っているホームビデオ”のカバーだから、幼少期の自分が描いたようにしているのかなと考察しながら観ていました。

また、こちらにも中央に言葉が添えられており、「Failing Together Doesn’t Sound That Bad(一緒に失敗するのは悪いことじゃない)」という意味のフレーズが描かれています。

このフレーズを観て、子供の頃は失敗は擦り傷の数だけしてきたことを思い出しました。失敗というものはなるべく避けて通りたいところですが、避けることばかり考えてたら、子供の頃のような成長スピードは出せないのかもと。

マイケル・ホーさんのチョイスする言葉には意味がありそうで曖昧なものや、主語がないものなどがあり、鑑賞者の読み方を加えて、作品が完成するような印象があるので、余白を考える楽しさが味わえる気がします。

Trust Me I Promise I’m Not Wrong

《Trust Me I Promise I’m Not Wrong》
マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)、2022、Paint pen on cotton paper、515 × 364mm

「Trust Me I Promise I`m Not Wrong(信じてください、私は間違っていません)」というテキストが描かれた作品。説得力を持って説明できればいいけれどそれができない、わだかまりが現れているように感じます。幼少期の目線でも大人の目線でも、両方の時間軸で解釈できる言葉で、シニカルなユーモアが出ているように感じます。

また、別の角度でホームビデオ自体に焦点を当てて作品を観てみます。そうした時に、アナログ時代に記録媒体として大量生産されたビデオテープは、全世界で推定300億巻以上も普及したといわれています。ところが、今ではデジタル化による需要低下により利用する機会が急激に減っています。

こうした大量生産・大量消費、そして衰退していく様子へのシニカルなユーモアを会場空間と一緒に感じました。

展示空間にも注目してみると、1階は建物自体のシックでカッコいい雰囲気の床でしたが、地下1階は人工芝を敷き詰めて、キャンプでよく使う折りたたみ椅子と机が置かれています。

人工芝、折りたたみ椅子、机と、どれもチープな印象を与える、大量生産されたもので空間を作ることで、《VHS BLANK BOX》シリーズのビデオテープのように、時代は繰り返されているのではないかというメッセージを感じました。

この読み方が正しいかは分かりませんが、展示空間の対比も含めて鑑賞を楽しむことができました。

まとめ

マイケル・ホーさんの新作を鑑賞していきました。AIツールへ文字で指示を出して絵画作品を制作したり、幼少期のビデオテープカバーのペイント作品を制作したりと、表現の見せ方は違えど、文字による表現を大切にした作品だなと感じました。

アートは筆で絵を描いて表現するもの、と考えている方は、文字を操作して表現するアートという新たな領域を知れるきっかけにもなると思いますので、実際の作品もぜひ鑑賞してみてください!

展示会情報

展覧会名「“I must humbly and honestly acknowledge that things are really bad”」
会場HIRO OKAMOTO
東京都渋谷区神宮前3丁目32−2 K’s Apartment 103

※入口は施錠されているので、正面玄関インターホンで「103」を呼び出すとギャラリーの方が開けてくれます。下記が正面玄関の写真です。
会期2022年8月20日(土)~9月2日(金)
開廊時間11:00~19:00
サイトhttps://www.hirookamoto.jp/events/i-must-humbly-and-honestly-acknowledge-that-things-are-really-bad
観覧料無料
作家情報マイケル・ホー(MICHAEL RIKIO MING HEE HO)さん|Instagram:@michaelho_official

参考リンク

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マイケル・ホー 30 ARTISTS U35 INTERVIEW(ARTnews J APAN)
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※英訳は翻訳ツールDeepLを参考にしました。

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ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
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