奈良美智「Youth(仮)」|大人にとっての若さを考える
今回は奈良美智さん原案のグループ展Youth(仮)の作品展示の模様をご紹介します。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- 参加アーティストの中原正夫さん、奈良美智さん、上村洋一さん、谷口正造さん、ナタリー・ホーバーグさんとその作品について知ることができる
- 若さとは何かを再考し、今につなげるきっかけにできる
今はまだ与えられている人も、一歩ずつ与える側になっている人も、アートを通して「若さとは何か」を改めて考えるのに最適な空間です。それでは、展覧会の模様を観ていきましょう!
「Youth(仮)」グループ展について
まずは、展覧会タイトルに込められた意味をみていきましょう。
“若さ”をテーマにした展覧会
「Youth(若さ)」というタイトルは、コロナによる閉塞感がある中で、だれにも妨げられない自由な時間、感受性の強さを取り戻すイメージから生まれたそうです。
展示会場の空間づくりも、社会システムに組み込まれていなかったころの自由な想像力を取り戻すための、いわば秘密基地のようでした。
そして、Youthのとなりに添えれている「(仮)」は企画段階で付けられていたそうで、それが最後まで外れず正式タイトルとなっています。
そこには、肉体的には老いていても、若い時期が終わったと断定したくない、精神的には若いころに抱いた想いのままでいる、という気持ちを感じます。
参加アーティストとアート作品を観る
今回の展覧会は、奈良美智さんから声をかけて集った4人のメンバーが参加しています。
ベテランから若手まで、それぞれが持ち寄った「若さ」の表現を観ていきながら、自分と照らし合わせて「若さ」を考えてみましょう。
中原正夫
中原正夫さんは埼玉県出身のアーティストです。1980年代初頭にドイツに渡って以来、現在もデュッセルドルフ在住で、日本での作品発表は初だそうです。
デュッセルドルフの芸術アカデミー在籍時代には、「自身の記憶」「育った日本の空気・匂い」を表現するような作品制作をメインに制作をしていたそうです。アカデミー卒業後は生活と育児に集中する為に活動を休止していたそうですが、20年ぶりとなる2016年からアーティスト活動をリスタートしています。
奈良美智さんにとっては初めてドイツに行ったときに最初にお世話になった人で、同じアカデミーに通い、絵を描く場所を貸してもらっていたそうです。
今回展示している作品は、自身の子どもに影響を受けながら描いたスケッチもあり、「ゆな」という小学生の男の子が自身の夢や体験を絵日記形式でつづったものがあるのだそうです。
夏休みの宿題に描いていた絵日記のような無邪気さや緩さがあって、心身ともに若い子どものころを思い出し、「そのころどう思ってこういう絵を描いていたんだろう」と回想していました。
奈良美智
奈良美智さんは青森県生まれのアーティストです。1988年にドイツに渡り、デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学してから2000年までドイツで活動をされています。
奈良美智さんと言えば、キャンバスだけでばなく封筒や紙の切れ端などの媒体に少女を描いているイメージがあります。描かれる少女には無邪気さと残酷さ、親しみやすさと神聖さといった相反するテーマが共存していて、鑑賞者の観方によって受け取るものも変化します。
中には言葉としてのメッセージが入っている作品もあり、その訴えは社会の中では力を持たないけれど、今の社会とは異なるものを求めているようであったり、独り言のようであったりします。
今回は奈良美智さんの私物も展示しているようで、中でもブラウン管テレビの下に積み重ねられた手紙が気になりました。この手紙、当時28歳の奈良さんが日本からドイツ行ったときに、それ以前に働いていた予備校の生徒から毎日のように届いた手紙なんだそうです。
SNSのように瞬時に届くものではなく、手紙は届くのに1週間ほどかかったようですが、時を超えてものとして残る思い出やアナログだからこその温もりをつなぐ良さを感じます。
また、今回の展覧会に対しての奈良さんのインタビューも公開されています。
展示作品を観て周りながら解説をしているので、展示に対してより深い世界観に浸れます。
上村洋一
上村洋一さんは千葉県出身のアーティストです。フィールド・レコーディングを「瞑想的な狩猟」と捉え、今回は視覚や聴覚から風景を知覚する方法を探った作品を制作されています。
近年は北海道の知床をベースに「流氷鳴り」という聴くことが難しくなっている自然音を、知床の人々による口笛や吐息によって再現しているようです。
展示作品の中には、「自由にかけてください」と書かれた紙とレコードが。
上村洋一さんは大学時代に音楽活動もしていたようで、活動していたころの曲とフィールド・レコーディングした音源を混ぜ合わせた音声作品が展示されていました。
若いころの活動と今している活動を重ね、一つの音にする。そんな制作が、若いころの遺産を今に持ち込むとエネルギーを持ったものになることを教えてくれているような気がしました。
谷口正造
谷口正造さんは愛媛県出身のアーティストさんです。2010年から東京に拠点をおき制作活動をしています。
自身の記憶や感覚を、目の前にあるノートやキャンバスに書き留めたかのような作品が多く展示されていました。
クレイジーケンバンドのタイガー&ドラゴンの歌詞のような、ペットの嘆き。ペットという立場なんかお構いなしに、自分の言いたいことをいう。恥ずかしげのない明るい表現は、中学、高校時代に大学ノートの1ページに描いた落書きのような軽快さを感じます。
若さとは恥ずかしいことを貫く行為なのかもしれません。
ナタリー・ホーバーグ
ナタリー・ホーバーグさんはアメリカ・ニューヨーク州出身のアーティストです。高校に通いながら作品制作をしていて、日常と非日常、厳かさとユーモア、異様さと愛らしさを行き来するような作品を発表しています。
奈良美智さんとはInstagram経由で知り合ったというナタリー・ホーバーグさん。Instagramでダイレクトメッセージを送ったことがきっかけで奈良美智さんとの交流が始まり、今回の展覧会への参加へとつながるという、シンデレラストーリーな経緯で参加がきまったとか。
参加が決まった時はワクワクでいっぱいだったようですが、冷静になって考えると奈良美智さんと同じ空間に作品が並ぶという恐れ多いさで自信を失いかけたそうです。それでも、奈良美智さんが発表の機会をくれたことへの感謝や自己肯定により、無事に展示に至りました。
作品からは展示に至る過程にあったワクワク感と不安が線から伝わってくるようで、感情の起伏を感じることができました。
他者と比べたら、自分の才能のなさに落ち込むこともあるけど、そういう目に見えないヒエラルキーではなく、人間性を見つめる大切さも感じました。
まとめ:若さとはいろんな価値観を肯定すること
いろんなアーティストが青年期の自由さを表現しているようで、自分の正体を見つける旅路を観ているような感覚になりました。
私がアーティストさんの作品やストーリーを観て感じたことは、「肯定することの大切さ」でした。
若いころはあらゆるものを肯定して、自分でもやってみて、失敗して、学んでいたと思います。大人になると失敗は恥という感覚がなぜかありますが、自分や相手の失敗、挑戦、表現を肯定できることが、ある種の若さのような気がしました。
全身全霊で共通点や違いを肯定してくれる偉大さが奈良さんにあるから、今回グループ展も開催できたのかな、と感じました。
展示会情報
展覧会名 | Group Exhibition「Youth(仮)」 |
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会場 | Yutaka Kikutake Gallery |
会期 | 2021年4月10日(土)~6月19日(土) ※日・月・祝日休廊 ※5日、12日のみ予約制。 |
開廊時間 | 12:00~18:00 ※営業時間は変更になる可能性がるので、最新情報は公式ウェブサイトをご確認ください。 |
サイト | http://www.ykggallery.com/exhibitions/youth/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 中原正夫さん|Instagram(@masao.nakahara) 奈良美智さん|Instagram(@michinara3) 上村洋一さん|Instagram(@camyyu) 谷口正造さん|Instagram(@syozo_taniguchi) ナタリー・ホーバーグさん|Instagram(@nataliehorberg) |
関連書籍
今回の展覧会に合わせて刊行された書籍です。
- 奈良美智さん初の短編小説
- 出展作家たちの物語、エッセイ
- その他さまざまな著者たちのYouthにまつわるエピソード
が掲載されています。