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髙橋こうた「80°05′」|未踏の南極点到達ルートを目指す冒険家の動機を探る写真作品をご紹介

よしてる
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人類未踏の南極点到達ルートをつなげる挑戦をする冒険家が「なぜ冒険をするのか?」という“問い”を探る、髙橋こうたさんの展覧会「80°05′」をご紹介します。

未知の領域に初めて足を踏み入れた時に人はどんな感情になるのか、リアルタイムで進行中の挑戦を捉えた作品を通じて、自分の目で現地現物を見る大切さに気づけます。

累計120の展覧会レポートをまとめた、2021年からアートコレクションをしている視点からレポートします。

髙橋こうたとは?

髙橋こうたさんは1986年生まれ、秋田県出身の写真家です。

秋田大学工学資源学部を卒業され、2019年より作家活動を開始しています。

主な展覧会に

  • 個展「KG+SELECT “80°05′”」(2023、堀川御池ギャラリー、京都)
  • 作品集展示「The Rencontres d’Arles 2022」(2022、Espace Van Gogh、フランス・アルル)
  • グループ展「fotogo -f5-」(2019、Galerie Planète Rouge、フランス・パリ)

などがあります。

アートの特徴:社会や人と接する中で抱いた“問い”を探る作品

髙橋こうたさんの作品は、社会との接点や人との関わりの中で抱いた“問い”を探究したことを写真を通じて表現しているのが特徴的です。

例えば、

  • 「生きる上で本当に必要な情報とは何か?」という問いから続く、髙橋こうたさんの祖父の日常記録を収めた写真作品《Live Together》シリーズ
  • 「そもそも自分はなぜ上京したのか?」という問いから発展した、地方出身者の視点で大都市を捉えた写真作品《Greedy Otherworld》シリーズ

など、髙橋こうたさん自身が感じる違和感やギャップから、作品が紡がれています。

髙橋こうた「80°05′」展示作品をご紹介

今回展示していた作品は2020年に着手した、冒険家・阿部雅龍(あべ まさたつ)さんが「なぜ冒険するのか?」という問いを探るストーリー作品

なぜ冒険家は今も単独徒歩・人類未到のルートで南極点を目指すのか、展覧会ステートメントにある「冒険家の動機や人間性、さらに髙橋こうたさんとの関係性」にも注目しながら、作品を観ていきましょう。

Q
今回参考にした展覧会ステートメントはこちら

…1912年、人類初の南極点到達を目指したものの南緯80度05分の地点で勇退した探検家・白瀬矗(しらせ のぶ)。その地点から人類未踏のルートを開拓し、単独徒歩で南極点に立ちたいという話は出会った頃から聞いていた。標高4000m級の大陸横断山脈が行く手を阻む最難関ルート。そのために彼は毎年冒険をしながら経験を積んできた。
本来であれば2019年11月に白瀬ルート挑戦を予定していたが、直前に飛行機会社の都合で翌年に見送りとなり、2020年は新型コロナウイルスによる影響で再度見送りとなった。2度に渡り冒険の道を阻まれながらも諦めない姿を見て、本作品の制作に着手した。そこまでして冒険にこだわる理由は一体何なのだろうかと。
本展示では、2021年 南極遠征で中継地プンタ・アレーナス(チリ)まで同行した際の初公開写真をはじめ、冒険家の動機や人間性、さらに写真家である私との関係性について視覚化を試みた。2023年、阿部は再び南極冒険に挑む。彼は悲願を達成することができるのだろうか。そしてその先に見据えるものとは。

展覧会展示のステートメントより引用

写真作品①:約100年を超え南極冒険の意思を継ぐ動機を探る

現代で単独徒歩・人類未到のルートで南極点を目指す冒険家・阿部雅龍さん(左)と、1912年に人類初の南極点到達を目指した探検家・白瀬矗(しらせ のぶ)さん(右)のコラージュ作品。

約100年間人類未到だった冒険が受け継がれ、ルートを推し進める一途な意思が両者の瞳に宿っているようです。

地図の上にある白黒写真は白瀬矗さんが1912年、南緯80度05分の地点(後ろに置かれた南極地図上の南側にある赤点)で勇退した際の写真で、「大和雪原(やまとゆきはら)」と名付けられています。

展覧会タイトルの「80°05′」も白瀬矗さんが勇退した地点に由来しているのでしょう。

阿部雅龍さんはこの白瀬矗さんが冒険したルートを南極点まで繋げるため、単独・人力で南極点到達を目指しています。

先人が断念したルートを完結させた先に何が見え、何を思うのか、そんな「人類の限界を超えた先の未知を知る」という欲求が、冒険家を突き動かしているのかもしれません。

写真作品②:南極冒険が進行中の物語と思わせる展示構成

南極点冒険の意志が継承されていることを天に届けるかのように、高さ3.5mの円柱に写真作品が天井近くまで展示されています。

パズルのピースが埋まっていないように見える余白は、南極点を目指す中で増える場面のために残してある空間にも見える構成に。

そして、大小さまざまな作品には、阿部雅龍さんの冒険の裏側を捉えた作品が並びます。

冒険で使うソリやスキー板を被写体とした作品は、命を預ける道具という重みを感じさせます。

単独の南極冒険の危険は寒さはもちろん、例えば、ヒドンクレバスという雪が覆い被さった氷の割れ目に落ちたら一発アウトの世界。

こうした危険にひとりで向き合う挑戦への緊張感が、作品からも伝わってきます。

そして、

「Follow Your Dream.(夢を追いかけて)」
「A New Hero. A New Legend.(新しいヒーロー。新たな伝説。)」

と書かれたメモに、冒険を応援する人たちの温かさを感じる展示も。

冒険の裏側にはさまざまな人が関わり、その一つ一つに物語があることを彷彿とさせます。

写真作品③:写真家髙橋こうたと冒険家阿部雅龍の関係性

写真家髙橋こうたさんと冒険家阿部雅龍さんは大学の同級生で、2006年からの仲なのだそう。

南極へ向かう中継地である世界最南端の都市、チリのプンタ・アレーナスでマゼラン海峡を背に撮影する姿が、二人の関係性を表しているようです。

これらの写真は2021年、阿部雅龍さんが南極冒険へ向かう中継地でのワンシーンが多く、次生きて会えるか分からない何ともいえない感情が見えてきます。

そして、日常生活は次また会える保証があると思い込んでいることにも気づけ、1日のかけがえなさを訴えているようです。

冒険への好奇心と、旅立ちの瞬間、言葉にならない感情が映し出されているようでした。

極地で使った装備品や冒険の軌跡に触れる展示も

本展覧会で展示されている、阿部雅龍さんが実際に使っている冒険道具も必見。

道具は実際に触ることができ、例えば、すべての荷物を入れるソリの底を触ってみると、冒険先の地面の違いによる傷の違いが見えてきます(赤いソリは南極、青いソリはグリーンランドで使用したもの)。

極限のお状況下で、ひとつの落とし物、ソリの破損が命に関わる中でのものづくり、込められた想いの質量を感じます。

スキー板には想いの込められた言葉も。

冒険でなるべく体力を温存できるように、スキー板からストックの先にまでこだわりが詰まっています。

そして、特に印象的だったのが、南極に行くまでに身につけているスカートのような防寒具。

一日に数千カロリーを消耗する南極冒険をするのにも関わらず、私の手と比較してもかなり細いのが分かるのでは。

これらの道具を万全に準備し挑戦する「しらせルート」での人類初南極点到達は、今も続いています。

Q
阿部雅龍さん南極冒険の軌跡(抜粋)
  • 2014年3月:カナダ北極圏単独徒歩 南極への第一弾 32日 500㎞
  • 2016年3月:グリーンランド北極圏単独徒歩 750㎞
  • 2019年1月:日本人初踏破メスナールート単独徒歩南極点到達 55日 918㎞
  • 2019年11月:しらせルート挑戦を予定していたものの、飛行機会社の都合で見送り
  • 2020年:新型コロナウイルスの影響で見送り
  • 2021年11月:人類未到しらせルートでの南極点単独徒歩、白瀬矗さんが勇退した大和雪原を超えルートを前進させ、時間制約などの影響で撤退 54日 780㎞
  • 2023年11月:前回のピックアップポイントからの再挑戦を予定中

参考:阿部雅龍プロジェクトHP

予定通り進めば、2023年に南極冒険に挑戦することになります。

悲願を達成することができるのか、リアルタイムで進行中の挑戦にも注目です。

まとめ:冒険にみる未知をリアルで体感する大切さ

髙橋こうたさんの写真作品を観て感じたのは、自分の目で現地現物を見る大切さでした。

南極冒険のように、未知のものは世の中にたくさん存在します。

そんな冒険をなぜするのかという問いを自分の目で体感し表現された写真作品には、ウェブ検索で得る情報にはないリアルさや意志が宿っているようでした。

誰かがつけた評価ではない、自分が見て受け取ったあらゆる感情を素直に受け止めてみる必要性を今の社会へ訴えているようでもありました。

髙橋こうた「80°05′」展覧会情報

展覧会名「80°05′」
会期2023年7月22日(土)〜 8月31日(木)
開廊時間9:00 – 17:00
定休日月 ※7月24日、8月14日は開館
サイトhttps://www.kouta14.com/exhibition/dreams-science/
観覧料無料
作家情報髙橋こうたさん|Instagram:@kouta.t14
(冒険家・阿部雅龍さん|Instagram:@masatatsu_abe
会場板橋区立教育科学館(Instagram:@itbs_sem
東京都板橋区常盤台4丁目14-1

参考リンク

  • 「80°05′」は京都展示も開催していました。その模様はこちらをチェック
個展「KG+SELECT “80°05′”」の模様(2023、堀川御池ギャラリー、京都)
外部リンク
「80°05′|Exhibition - KG+SELECT 2023 -」オンライン鑑賞
「80°05′|Exhibition – KG+SELECT 2023 -」オンライン鑑賞

参考書籍

※本展は特別展「夢と科学の関係展 プロ冒険家 阿部雅龍と板橋人たち、まだ見ぬ景色を見つめて…」の一環として開催された展覧会です。

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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