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くらやえみ「散歩道」アート鑑賞レポート|アニメ風の女の子が映す儚い日々の特別さ

よしてる
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実在する風景の中に、アニメ風にデフォルメした女の子を描いたアートで知られるくらやえみさん。

国内外で活躍されているくらやえみさんの個展「散歩道」がKaikai Kiki Galleryで開催されました。

そこで今回は、くらやえみさんの作品を知りながら、展示作品のご紹介と、個展を通じた作品探究を含めた鑑賞レポートをまとめていきます。

くらやえみとは?

くらやえみさんは1995年生まれ、神奈川県出身の作家です。

2018年からカイカイキキに所属し、2020年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業されています。

直近の主な展覧会に

などがあります。

Kaikai Kiki Galleryでの展覧会は2019年以来、3年ぶりとなります。

作品について:作家の内面を投影した少女と外側の風景を描いた作品

くらやえみさんの作品と聞いて思い浮かぶのは、デフォルメされた少女と実在の風景を合わせた肖像画です。

漫画に登場しそうなキャラクターの少女にはくらやえみさんの内面が投影されていて、そこにはこれまで見てきた様々な人物やイメージが集合体となって描かれているそうです。

また、風景はくらやえみさんの外側の世界を描いていて、実際にある場所の写真やドローイングをもとにしているそうです。

日常に明暗のコントラストをつけるように女性像が描かれることで、平凡な日々にあった輝きを思い出させてくれるような感覚になります。

今回の作家ステートメントからも、無意識に過ぎ去る日常の儚さを感じさせます。

いつか忘れてしまいそうになる瞬間を、日記を綴るように描いている。
私にとって絵は、流動的な記憶と記憶を繋ぐ橋のような存在だ。
毎日少しずつ形が変わっていく見慣れた道や、頭の中で考えている事の変化は、いつも私に絵を描くきっかけを与えてくれる。

作家ステートメントより引用

展覧会に合わせて初の大型作品集「Partly Cloudy」が発売

今回の展覧会に合わせて初の大型作品集「Partly Cloudy」(2023)が発売されました。

2017年から2022年までに制作されたペインティング全90点、ドローイング約380点が紹介された、大ボリュームな画集となっています。

これまでの制作の歩みや制作にかける想いもインタビューから知れるので、作品の世界観を知るのにピッタリな一冊です。

個展「散歩道」展示作品を鑑賞

それでは、Kaikai Kiki Gallery入口にある小さな案内板を頼りに、作品鑑賞へ進んでみましょう。

「散歩道」では、これまでの作品とはまた違った構図の新作を含む、ペインティング13点、ドローイング25点が展示されていました。

今回はその中から14点をピックアップしご紹介します。

アニメ風の少女が過ごす情景を描いたキャンバス作品

くらやえみさんの作品には少年や動物も登場しますが、多くの場合はアニメ風のタッチで描かれた少女が登場します。

キャンバスの中央に一人描かれた少女は澄んだ表情をしていて、スマホ片手に歩き慣れた道を進んでいる様子。

アニメ風のキャラクターが油絵の中で描かれる点ではMr.さんを彷彿とさせますが、くらやえみさんの作品は作家の内面を少女に投影された私小説的な絵画となっている点が特徴的です。

デフォルメした少女が鑑賞者を非現実的な視点に誘うことで、「自分もこんな体験をしたかも」といった記憶を喚起し、溶け込でいくような親近感があります。

例えば、正方形のキャンバスに描かれた作品は、まるで少女が窓からこちらを覗き込んでいるように見えます。

一枚の絵画に生活の中で起こり得そうな、瞬間的な物語が描かれているようです。

実際の風景とリンクする再現度に注目

作品に描かれる風景は実際にある風景を描いているそうで、街路樹やビニールハウス、公園、ファッションモールなど、日常を切り取った景色が描かれています

郊外の作品は具体的な場所を想像しにくいですが、一方で、描かれる場面によっては景色のヒントから実際の場所を知ることもできます

例えば、うさぎのコスプレをした金髪の少女が描かれた作品は場所が分かりやすく描かれています。

池袋駅の看板、ABCマート、街並みをヒントにすると、この作品の場所は池袋のサンシャイン通りにあることが分かります。

実際の風景写真を見ると、作品に描かれる風景の再現度が高いことが分かります。

続いては、食事中を描いたこちらの作品。

色合いや食事の包装紙から、マクドナルドでの食事風景という想像ができます。

風景はどこかで見たことのある場所で、人物はデフォルメされ特定の誰かではない容姿となっている点からも、自分を風景と照らし合わせやすいため、親近感が湧くのかもしれません。

薄塗りや下書きを残す表現で日常の記憶を呼び起こす

次に、表現にも注目しつつ作品を観てみましょう。

写真だと伝わりにくいですが、明暗のコントラストはありながら、全体的にはパステルカラーのような淡さを感じる色調となっています。

これは油絵具を薄く塗り、そして拭き取るを繰り返す描き方により生まれているそうです。

また、作品を近くで観ると気づくのが、下書きの線が残ったまま油絵具で着彩されている点です。

下書きの線が淡い色調と重なり、輪郭に揺れが生まれることで、日常の儚さを生み出しているようだなと感じます。

水彩やコラージュなどで描かれるドローイング作品

くらやえみのドローイング作品が25点展示

今回は額装されたドローイング作品も合計25点展示していました。

出先で見た景色や悲しい出来事が題材となり、忘れたくないことを覚え書きするようにドローイングを残しているそうです。

油彩とは違い色の切れ間がはっきりとした色調で、ハツラツとした雰囲気があります。

布地とのコラージュ作品もあり、作品制作の源泉を垣間見ているようです。

吐いた息がねこブレスとなって現れているのが可愛らしいです。

キャンバス作品の下絵にあたる作品も

ドローイング作品の中には、今回展示していた作品の下絵にあたるものも展示していました。

大きさの違いもあり、ドローイング作品とキャンバス作品で雰囲気がかなり違うので、比較してみても面白いです。

探究:儚く過ぎる日々の視点を変えてくれるアート

くらやえみさんの作品を鑑賞して感じたのは、「儚く過ぎる日々も視点を変えれば特別な日になる」ということでした。

ペインティングの背景となっている景色は街路樹やビニールハウス、公園、ファッションモールなど、観光スポットのような場所ではなく、日常で見かけそうな景色が多くを占めています。

実際の場所は見たことがなくても、懐かしさを感じてしまうところがあります。

記念撮影をするような非日常の風景は人生の中でも一部で、大半は見過ごすことの多い日常の中で過ごすことが多いはず。

そんな日々の風景に焦点を当て、デフォルメされた少女が描かれることで、その場所は非現実的で新鮮な景色になります。

ある種聖地巡りの舞台のように変化させているようでもあり、何気なく見ている景色も特別な場所になる、という思考が広がっていきます。

現実で生きていく時も日々流れるようにこなす行動の一部をデフォルメしたり変化させることで、視点が変わり、特別な日になるかもしれません

そんなことを作品から感じとりました。

まとめ

今回はくらやえみさんの「散歩道」鑑賞レポートをまとめました。

散歩道というタイトルも振り返ると日々のルーティーンを意識させる言葉だなと感じます。

作家の内面を投影した少女と外側の風景を描いた作品を実際に目にして、楽しんでみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名散歩道
会期2023年5月5日(金)〜 2023年5月25日(木)
開廊時間11:00 〜 19:00
定休日日、月
サイトhttps://gallery-kaikaikiki.com/
観覧料無料
作家情報くらやえみさん|Instagram:@emikuraya
他展示でのくらやえみさん作品はこちら
会場Kaikai Kiki Gallery(Instagram:@kaikaikikigallery
東京都港区元麻布2丁目3−30 クレストビル B1F

画集情報

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1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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