ギャラリー
PR

赤松晃年「新しい風景」アート鑑賞レポート|流転するギャル文化“カワイイ”をしなやかに纏う女の子を描いた作品

よしてる
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

「カワイイ」という概念は暗黙の共通認識があり、理解するのが難しい印象があります。

この日本のオタク文化、ギャル文化にある女の子の集合知的な「カワイイ」をアート作品に映し出し表現しているのが作家・赤松晃年さんです。

今回は東京・銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARYにて開催した赤松晃年さんの個展「新しい風景」展示作品のご紹介と、個展を通じた作品探究を含めた鑑賞レポートをまとめていきます。

Mr.さんのアシスタントを務めた経歴を持つ赤松晃年さんの描く女の子には、二次元的なカワイさだけでなく、例えば

  • 風景を華やかにして新しい景色のごとく映し出す
  • 純粋に女の子の快活なエネルギーを感じる
  • 流転する時代に柔軟に対応しカワイイを表現するギャル文化のしなやかさ
  • 日本人特有のハイコンテキストな文化を前向きに伝えている

といった、カワイイの深度を感じる作品だなと思います。

累計120の展覧会レポートをまとめた経験と、2021年からアートコレクションをしている視点から、展覧会の模様をまとめていきます。

赤松晃年とは?

赤松晃年(あかまつ あきとし)さんは1977年生まれ、北海道出身の作家です。

2004年に創形美術学校研究科を卒業された後、2007年から村上隆さんが代表を務めるカイカイキキ所属アーティスト・Mr.さんが独立してスタジオを持った際のアシスタントを約6年ほど勤めていました。

主な展覧会に

があります。

2022年に9年ぶりとなる個展を開催し再び注目を集め、村上隆さんがその個展に長文のコメントを寄稿したことでも話題となりました。

9年間の紆余曲折のストーリーには困難な時期が多かったことが、村上隆さんのコメントはじめ、今回の個展の1,660字もの作家ステートメントからも伝わってきます。

そうした困難な状況を通じて形成された視点や、絵画に対して持ち続けた情熱から描かれる作品には、人を惹きつける魅力を宿してるように感じます。

日本のギャル文化にある女の子のカワイイ・カッコいいを描いた作品

赤松晃年さんの作品には日本独特のオタク文化、特にギャル文化、アニメ、漫画、ゲームなどの要素を背景に持つ「カワイイ」、「カッコいい」女の子が描かれているのが特徴的です

マンガのような白いアウトラインで縁取られた女の子は画面上で視認性が増し、二次元的なカワイさをより強く放っています。

こうした女性像に至る背景には過去アルバイト先で出会ったギャルの影響があるそうで、作品には2010年からギャル文化独自の「盛る」や「デコる」といった身近なオシャレ・自己表現の要素と、「萌え」や「カワイイ」といったアニメ絵に特徴的な要素を取り入れたものとなっています。

一方で、女の子の背景は赤松晃年さんが見た現実の場所が緻密に描かれています。

現実と非現実が交差した絵画には、仮想と現実の境界線が曖昧になっていく様子も感じ取れます。

個展「新しい風景」展示作品を鑑賞

今回の個展には初となる3メートルの大型作品を中心に、キャンバス作品6点、ドローイング作品24点が展示されていました。

今回はその中から9点をピックアップしご紹介します。

街を華やかにする非現実的なカワイイ女の子

まずは展覧会のメインビジュアルにもなっている、コーヒーショップの風景に女の子が複数描かれている作品から観ていきましょう。

前方にいる女の子のカラフルなアウトラインが後方を埋め尽くすように、連続して描かれているのが特徴的です。

女の子の感情がアウトラインと色で強調されているようで、スマホで待ち合わせ相手と連絡を取り合う一日の始まりのワクワク感が街に伝播し、風景も華やかにしているようです。

また、手に持ったスマホ背面には自己表現にもなっている「デコる」様子が描かれていて、今を生きる女性像が映し出されています。

例えば、ハート型の「Girls Don’t Cry(ガールズドントクライ)」ステッカーはVERDY(ヴェルディ)さんによる国内外問わず高い注目を浴びているプロジェクトで、2021年にはアート作品も発表しています。

続いての作品にも、こうしたスマホにデコる点がさり気なく描かれています。

目のついたハートロゴは「PLAYハート」と呼ばれるFilip Pagowski(フィリップ・パゴウスキー)さんがデザインしたもので、ファッションブランド・ラインのPLAY COMME des GARÇONS(プレイ・コムデギャルソン)に用いられています。

コムデギャルソンの「多勢に動じない自分としての工夫・独自さ」を貫徹するように、女の子は髪を緑色にしたり、黒マスクもファッションコーデの一つにして自己表現をしているようです。

荒川に掛かる秋ヶ瀬橋に非現実的なカワイイ女の子が描かれることで風景を華やかにしているようで、赤松晃年さんの描く女の子が放つ魅力を感じます。

実在の景色を描写した風景

作品にはアニメ絵のように非現実的なカワイイ女の子が描かれる一方で、背景には実在の景色が緻密に描かれています

この作品は「Good morning.I’ll do my best as well.」(2022、大雅堂、京都)でライブペインティングしていた作品で、京都にあるレトロな商店街・古川町商店街をモチーフに描かれています。

作品中には赤松晃年さんにとって9年ぶりとなる個展開催の思い出を残すようにさり気なく個展のフライヤーが置かれ、京都へ遠征し観に行った自分のストーリーとも重なり、思い出深い鑑賞となりました。

次の作品も、今では見れなくなった思い出の景色のひとつです。

ダイバーシティお台場前に佇む全高18mの実物大ガンダムをモチーフにした作品で、2017年にこのガンダムは公開終了し、現在はユニコーンガンダムに建て替えられています。

こうした思い出の景色も絵画の中で再構築して描かれることで、自分の中にある記憶とリンクし、作品との距離感が近くなるように感じます。

近距離で観たくなる緻密な描き込み

赤松晃年さんの作品全体に言えることだと思いますが、どの作品も緻密な描き込みがされています

例えば、ヴィレッジヴァンガードの店内を背景にした作品には、カオスな人形の陳列が再現されています。

後方の風景にカラフルなポケモンの人形やグッズが細かく描き込まれていて、ヴィレヴァンらしい趣味性の高いカオスな店内がリアルに表現されています。

そんな店内でも、明暗や色調のコントラストが効いていることで、自然と中心にいる女の子に視線が移るようになっています。

女の子はプーさんを抱え、ミニーマウスのようなヘアスタイルをしている点に、周囲の空間に合わせず、自身の好きを貫く魅力が表現されているようです。

作家初の3メートル越えの大作に描かれる新しい景色

キャンバス作品の最後は、赤松晃年さん初となる3メートルを超える大作です。

画像では捉えきれない存在感を放つ大きさと描き込みで、浅草にある名所と抽象的な模様が折り重なり、その風景の中で大小さまざまなサイズの女の子が描かれています。

雷門や五重塔の下町の景観と、スカイツリーの最新技術を駆使したランドスケープ、そのどちらの建造物にも共通する点を考えると、「その時代にできる工夫をめぐらせて完成したこと」が挙げられると思います。

そうしたモノのデザインとしての完成と、女の子の魅せるための工夫としての完成に共通点が見えてきて、形は違えど同じく工夫をめぐらせ完成したもの同士が共存し、新たに新鮮な景色を生んでいるようでした。

そういう意味で、作品タイトルの《新しい景色。》に納得感がありました。

カワイイの多様さを体感できるドローイング作品

赤松晃年さんのドローイング作品24点

今回は額装されたドローイング作品も24点展示していました。

ドローイング作品も描き込みが緻密で、一つの壁面で様々なパターンのカワイイ女性像を俯瞰し鑑賞できるようになっています。

抽象的な背景に描かれた「カッコよさ」を感じる女性像

まずはスクーターに腰掛けている女の子のドローイングです。

背景が抽象的になっていることと、スクーターのカチッとしたイメージ、それらと物腰柔らかな女の子を対照的に描くことで、女の子のカッコよさを強調しているような印象を受けます。

この作品はキャンバス作品に描かれたものもあり、両者を比較して観るという楽しみ方もおすすめです。

続いては、サンタクロースのコスプレをした女の子のドローイングです。

背景の淡い水玉模様がまるで、イルミネーションのような役割をしているようです。

近くで観るとドリッピング(絵の具を画面に散らして着色する技法)や、背景の白黒の淡い雰囲気をどう描いているのか、観てて気になる描き込みがされています。

その雰囲気の中でサンタのコスプレをした快活な女の子が描かれ、元気を分けてくれている様子が印象的に描かれています。

「盛る」や「デコる」が背景に描かれた女性像

ドローイングの中にはプリクラのような「盛る」や「デコる」ギャル文化が反映されているように感じる作品も展示していました。

デコる文字は「たくさん×2」や「ちゅくるのだぁ」という赤松晃年さんの熱意が乗っていそうな言葉が描かれています。

そういった熱のある言葉をもカワイイの表現の一部に組み込んでしまう、ギャル文化のしなやかさが表れているようです。

探究:作品のカワイイ要素は日本のハイコンテクストな文化を前向きに表現している

赤松晃年さんの作品鑑賞を通じて、「カワイイ」という感覚は日本人特有のハイコンテキストな文化を前向きに捉えているなと感じました。

ハイコンテキストとは、空気を読む、行間を読むといった言葉以外の表現を読むコミュニケーションのことを指します。

こうした暗黙の共通認識を大切にする動きはギャル文化にもある印象で、例えば、「カワイイ」の定義は常に変化しているけれど、変化の差異は暗黙の集合知として伝わっていきます。

これは、ハイコンテキストな文化とつながる価値観ではないかなと思います。

その価値観があるため、女の子は変化に柔軟で、今が一番いいと思えるカワイさを前向きに表現しているのではと感じます。

赤松晃年さんの作品に登場する女の子は主にネットやSNS上からモチーフを探して描いているそうで、まさに今を生きる女の子のカワイイ感覚が作品に映し出されている印象があります

暗黙の集合知の中でカワイイの定義は常に変化し、SNSが普及したことでこの変化が同時多発的に生まれるようになっていると思います。

作品の中には多彩なカワイイ女の子が描かれていて、そこにはSNSによってカワイイの定義が多様化している様子と、暗黙の集合知によってカワイイの定義は脈々と受け継がれている様子が表現されているようでした。

また、描かれる女の子は基本的に微笑んだ顔で、流転するカワイイをしなやかに捉え、楽しんで取り入れている様子も魅力的でした。

作品を通じて「カワイイ」と日本特有のハイコンテキストな文化をつなげて考えることができたのも面白い発見となりました。

まとめ

赤松晃年さんの個展「新しい風景」の模様をご紹介していきました。

日々流転する女の子のカワイイという概念を表現した作品、そこに映し出される情景はまさに「新しい景色」そのものでした。

東京で作品鑑賞ができるこのタイミングに、実際の作品の緻密さ、カワイさを体感してみてはいかがでしょうか。

展示会情報

展覧会名新しい風景
会期2023年5月20日(土) ~ 6月1日(木)
開廊時間11:00-19:00 ※最終⽇のみ18時まで
定休日
サイトhttps://store.tsite.jp/ginza/event/art/33325-1159540428.html
観覧料無料
作家情報赤松晃年さん|Instagram:@akitoshiakamatsu
他展示での赤松晃年さん作品はこちら
会場銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARY(Instagram:@foamcontemporary
東京都中央区銀座6丁目10−1 SIX6階

関連リンク

あわせて読みたい
赤松晃年「Good morning.I’ll do my best as well.」|“カワイイ”女の子を描いたアート
赤松晃年「Good morning.I’ll do my best as well.」|“カワイイ”女の子を描いたアート
あわせて読みたい
VERDY「RISE ABOVE」|日常の感情を表現したキャラクターたち
VERDY「RISE ABOVE」|日常の感情を表現したキャラクターたち

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
記事URLをコピーしました