ロッカクアヤコ展|手にのせて描く瑞々しい色彩のアート
カラフルな色彩世界に漂う女の子を手指で描くロッカクアヤコさん。エネルギッシュに感じる作品を一堂に観てみたいと思いつつ機会がなかった中で、都内では5年ぶりに個展が開催されたので観に行ってきました。
今回は天王洲にある「T&Y Projects」によるコレクション企画、ロッカクアヤコさんの個展の模様をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- ロッカクアヤコさんは1982年生まれ、千葉県出身のアーティストです。
- 鮮やかな蛍光色を使い手指でペインティングする独自の手法で描くのが特徴です。
- 作品にはモチーフとして、大きな目で顔をしかめている女の子が頻繁に登場し、作家曰く、「自分の一部であり、自分の性格をよりよく表現してくれる」そうです。
- 作品と一緒に置かれている、ジャン・プルーヴェさんの家具作品にも注目。
本記事ではキャンバス作品、宇宙戦争シリーズ、フラワーベース、木版画作品をピックアップしてご紹介します。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!
ロッカクアヤコとは?
ロッカクアヤコさんは1982年生まれ、千葉県出身のアーティストです。グラフィックデザインの専門学校イラストレーション科に通った後、独学で絵を描きはじめます。
直近の個展には
- 「Born in the Fluffy Journey」(2021、König Galerie、ドイツ)
- 「Phantom Thief Stray Junkie」(2021、Gallery Trax、山梨)
- 「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」(2020、千葉県立美術館)
- 「Fumble in colors, tiny discoveries」(2019、ヤン・ファン・デル・トフト美術館、オランダ)
などがあり、ヨーロッパ、日本を中心に国内外で活躍しています。
2003年から現代アーティストの登竜門のひとつで村上隆さん主催のアートイベント「GEISAI」に参加し、2006年「GEISAI #9」でスカウト賞を受賞。同年に村上隆さんの招待で、Art Baselでのグループ展「volta」(スイス)への参加をきっかけに現所属ギャラリーであるGallery Delaive(オランダ)のオーナーと出会い、活動を広げます。そのオーナーは2006年「GEISAI #10」で壁に並べられた約40点のダンボールの絵をすべて買い上げるほど、ロッカクアヤコさんの作品に惹かれたそうです。
2010年からはベルリンを拠点に活動し、海外の美術館で大規模な個展を開催するようになり、2019年以降はポルトガル、ベルリン、東京、アムステルダムを拠点に世界各国でライブ・ペインティングや個展を行なっています。
鮮やかな色彩を手指でペインティングする独特の手法
ロッカクアヤコさんの作品はピンク、赤、黄、緑、青など、鮮やかな蛍光色が境界線なく描かれていて、まるで花園のような印象を受けます。これらの作品は筆ではなく、手指でペインティングする独自の手法で描かれています。カラフルな色彩を身体性をともない描くことから、まるで子供が好きな色のクレヨンで何も考えず一生懸命描いた絵のように、無邪気なエネルギーを感じるのと似た感覚になる人も多いのでは。
また、下書きをすることなく一気に書き上げるスタイルも特徴です。描きながら形を決めていくところからも、迷いなく描く子供の無邪気さを感じるのかもしれません。
描かれる女の子のモチーフ
作品にはモチーフとして、大きな目で顔をしかめている女の子が頻繁に登場します。この女の子はロッカクアヤコさん曰く、「自分の一部であり、自分の性格をよりよく表現してくれる」そうです。
絵本に登場するキャラクターのように、髪型、服装、持ち物、行動とカラフルな色を掛け合わせた女の子の姿からは、好奇心旺盛なエネルギーを感じ取ることができます。
一方で表情は笑顔というわけではなく、どこか顔をしかめているように見えます。そこには内面の「恥ずかしがり屋で臆病ではあるけれど、決心を固めたならば、簡単に諦めたりしない」、見た印象とは異なるものも映し出しているように見えます。
明るい印象だけではない、紆余曲折ある人生の山と谷の部分の両方を作品世界に落とし込んでいるのかもしれません。
2022年にオークションレコードを更新し話題に
オークションの動向についても、近年注目されています。
2022年7月に開催されたSBIアートオークションはライブ配信型オークション「Bid For Summer」でエスティメイトが4,000〜7,000万円のところ、1億6,000万円で落札、オークションレコードを更新する結果となり話題となりました。
展示作品を鑑賞
今回の個展は、東京都内でいえば2017 年にGallery Targetにて開催した個展「Obscura」以来5年ぶりの開催となります。
T&Y Projectsのコレクション展ならではの展示も楽しみながら観ていきましょう!
キャンバス作品
まずは展示作品の中でも特に大型の作品です。今回の展示に合わせて制作された作品とのことでした。
ピンク色でふわふわとしたドレスを着ているように見える女の子、頭にもピンク色のモコモコの帽子を被っているように見えます。
近くで観ると色の重なりがより鮮明に見えてきます。例えば、女の子の髪に注目すると、単に黄色だけで描いているわけではなく、緑や水色、ピンク、黄色と、明るい蛍光色で描かれています。また、目の瞳孔も黒ではなく、少し赤みがかっています。
また、黄色を垂らすようにしている線がいくつもあることに気づきます。まるで絵の具自身の意志を尊重しているかのようで、自由な描き方だなと感じます。
こちらも展示に合わせて制作された作品とのことで、女の子は雲を抱き枕にして眠っているように見えます。
最初の作品もなんとなくそうですが、最近描かれているものは、紫などの暗めな色の割合が多いような印象を受けます。紆余曲折ある人生の山と谷の部分が色にも現れているのかなと思いつつ、暗めの色があるからこそ、明るい色が際立つことを教えてくれているように感じます。
また、作品を近くで観てみると、鉛筆で書いたような小さなキャラクターが潜んでいることに気づけます。片腕だけ出して手を振っているようで可愛らしいです。中には黒く塗りつぶされた変わり種もいます。
ちなみに、本店ではこのキャラクターに似た人形もこっそり置かれています。人形もロッカクアヤコさんの手作りなのだとか。ぜひ探してみてください。
宇宙戦争をテーマにしたシェイプド・キャンバスシリーズ
宇宙戦争をテーマにしたシェイプド・キャンバスシリーズです。おそらく「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」(2020、千葉県立美術館)でも展示されていたものかなと思います。
翼のついた宇宙船に乗っている女の子の輪郭をなぞるように形作られた作品は、キャンバス全体を色で覆う作品とはまた違った味わいがあります。
女の子の前後にはトゲトゲした球体も配置されていて、時勢を鑑みるとウイルスのように見えてきます。後方にある大きい方が泡に包まれているような描写で、前方にある小さい方がトゲトゲした球体が剥き出しになっている描写から、後方のウイルスの無力化は成功し、今まさに前方のウイルスも無力化する瞬間を描いているように見えます。
浮遊感とストーリーを感じる配置も見どころではないでしょうか。
フラワーベース
ひょうたんのように大小の球体を組み合わせたような形をした、タモ材の一輪挿しです。作品の周りには女の子を中心に多様な色が配置されていて、素材の自然な風合いの上にあることで、一輪が花園の中で特に力強く咲いている存在のように見えてきます。
この一輪挿しは、伝統工芸である静岡挽物を継承するHOMEWAREブランド「SEE SEE」によるものです。挽物(ひきもの)とは、木材をろくろや旋盤でひき、円形の器物をつくる技術のこと。伝統的な技術と新鮮で現代的な発想を融合した作品です。
また推測ですが、生けてある一輪の花はその見た目から、アガパンサスかなと思います。涼しげな青や紫の花を咲かせる、初夏の花です。学名の「Agapanthus」はギリシャ語で愛を意味する「agape」と、花を意味する「anthos」が語源となっているそうで、花言葉は「恋の訪れ」「愛の訪れ」。
作品とどんな繋がりがあるのか、つい考えてしまいますね。
大きな木製トレイに描かれた作品
大きな木製トレイに描かれた作品が、個人的には一番印象的でした。
濃い緑をベースにしたドレスを着た女の子を中心に蛍光色が広がるように描かれています。木製トレイの自然な風合いを見えるようにしながら描いた作品は、うまく言葉で表せないですが、存在感のあるエネルギッシュな色をしていました。
木版画作品
アダチ版画研究所とのコラボレーションによる木版画作品の展示もありました。
アダチ版画研究所は、浮世絵の制作技術を継承した職人が現代のアーティストたちと新しい木版画の可能性を追求し続けていて、「現代の浮世絵」を追求しています。版木に絵の具を広げて和紙に摺りこみ、色を重ねて作品を仕上げているそうで、木版画ならではの温もりを感じる色彩を楽しむことができます。
このように、キャンバスだけでなく、木版画や挽物など、さまざまな表現にチャレンジしていることもわかる展示空間でした。
ジャン・プルーヴェの家具にも注目
今回の展示には、赤色を基調とした家具も展示されています。ロッカクアヤコさんの軽快な作品と鉄+木製の家具が調和して落ち着いた空間となっています。ついつい座ってしまいそうな場所に置いてありますが、実は、これらの家具も作品なんです。
家具は20世紀の建築や工業デザインに大きな影響を与えたフランスの構築家、ジャン・プルーヴェさん(1901–1984)の作品です。鉄と木材を組み合わせた家具はスタイリッシュで、特に鉄部分の造形は金属工芸家としてキャリアをスタートさせたこともあり、デザイン性の高さが伺えます。
家具については本展と同タイミングで「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」が東京都現代美術館にて2022年7月16日(土)〜10月16日(日)の期間で開催されています。気になる方はこちらもチェックしてみてください。
まとめ
ロッカクアヤコさんの個展を鑑賞してきました。都内で作品を観る機会がなかったのですが、今回のようにコレクション展をアーティストと共につくっていく取り組みをされている場所があり素敵だなと感じました。
また、主観ですが、ロッカクアヤコさんの色の重なりを見ていると、太陽光をプリズムを通して見た時に現れる、7つの虹色を観ているようだなと感じました。まるで手が太陽光を屈折させて、光の色ごとに描いているようだなと。そう考えるとロッカクアヤコさんの作品から感じるエネルギー感は、太陽光を色に変換しているからかもしれないと感じました。
作品に無題が多いことからも、作品の受け取り方は鑑賞者によってさまざまです。あなたにとっての解釈を大切に、鑑賞体験を楽しんでみてください。
展示会情報
展覧会名 | ロッカクアヤコ 展(T&Y Projects) |
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会場 | T&Y Projects 東京都品川区東品川1丁目32−8 TERRADA ART COMPLEX Ⅱ 4F |
会期 | 2022年8月6日(土)~9月17日(土) ※休廊:日曜、月曜、祝日 |
開廊時間 | 11:00〜16:00 |
サイト | https://www.ty-projects.com/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | ロッカクアヤコさん|Instagram:@rokkakuayako |
関連書籍
関連リンク
- 作家を消費しないためにできること。代表・栗田裕一が語る「T&Y Projects」が目指すもの(美術手帖)
- SEE SEE(オフィシャルサイト)
- アダチ版画研究所(オフィシャルサイト)
- ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで(東京都現代美術館)