NEW AUCTION「NEW 003」|カジュアルにアートを楽しめるオークション下見会をご紹介
アートオークションはギャラリーだけでは出会いきれない、国内外のアート作品との出会いの場として活用できることは、意外と知られていないのではないでしょうか。そこで今回は、渋谷神宮前にあるSAIにて開催したNEW AUCTIONによる「NEW 003」下見会の模様を中心にご紹介します。
- 要点だけ知りたい人へ
- NEW AUCTIONとは?
- 平面作品
- Chim↑Pom from Smappa!Group:平和の日 (鹿)
- 梅沢和木:神鬼勃ツ三千世界之画像海
- 井田幸昌:End of today – 2/10/2019 Portrait of N –
- 猪瀬直哉:Stella Maris
- 平子雄一:Pattern of Grain 5
- ロッカクアヤコ:Untitled
- 流麻ニ果:肥
- 赤瀬川原平:紙型千円札
- 高松次郎:影 No.1411
- 草間彌生:かぼちゃ 2000 (黄) (Kusama 298)
- KYNE:Untitled
- 山口歴:RD NO. 8
- TIDE:DECADE
- リチャード・プリンス:Untitled (portrait)
- アンディ・ウォーホル:Life Savers :「Ads」より (F. & S. II. 353)
- キース・ヘリング:Growing (Littmann p.91)
- バンクシー:Donuts (Chocolate)
- 立体作品
- 写真作品
- 映像作品
- カタログには作品への理解が深まる説明文も
- (おまけ)トークイベントも開催
- まとめ
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- NEW AUCTIONとは、2021年に発足した、渋谷・原宿を拠点とするアートオークションハウスです。
- オークション前には、ミヤシタパーク(渋谷)内にある「SAI」で下見会を実施しています。
- 本記事では2022年11月に開催したオークション「NEW 003」展示作品のうち、平面、立体、写真、映像に分けて、合計27作品をピックアップしてご紹介します(以下敬称略)。
平面作品17つ(Chim↑Pom from Smappa!Group/梅沢和木/井田幸昌/猪瀬直哉/平子雄一/ロッカクアヤコ/流麻二果/赤瀬川原平/高松次郎/草間彌生/KYNE/山口歴/TIDE/リチャード・プリンス/アンディ・ウォーホル/キース・ヘリング/バンクシー)
立体作品7つ(土屋仁応/大谷工作室/奈良美智/花井祐介/名和晃平/トム・サックス/ダニエル・アーシャム)
写真作品2つ(森山大道/ヴォルフガング・ティルマンス)
映像作品1つ(クリスチャン・マークレー) - カタログには一部作品に、作品の制作背景やアーティストの背景を知れる解説文が掲載され、多くの人にアートの魅力を知ってもらうための工夫が伝わってきます。アカウント登録すれば、冊子版カタログでもチェック可能。
- おまけで、アートコレクションとオークションに関するトークイベントに参加した感想もまとめています。
それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!
NEW AUCTIONとは?
NEW AUCTIONとは、2021年に発足した、渋谷・原宿を拠点とするアートオークションハウスです。主にモダンから現代美術品まで幅広く扱うオークションハウスで、絵画から立体、写真、映像作品など、多岐にわたるメディア作品が取り揃えています。
「従来からのオークションという概念に縛られずに、新しい体験、新しい価値観を提供する」ために、これまでとは異なる新たな仕組みを取り入れるなど、オークションをより身近に感じれるような取り組みをしています。
ちなみに、「NEW AUCTION」のロゴの“NEW”の“W”にもう1本、斜線を加えているのは、コミュニティを広げる、次につなげるというメッセージも込めているそうです。
日本初の還元金制度を導入したオークション
NEW AUCTIONでは実験的に、落札額の何%かをアーティストへ還元する「還元金制度」を導入しています。従来の日本のオークションハウスではこうした制度は導入していませんでした。作品を生み出すアーティストへの還元を通じて、アートマーケットの持続的な循環を促す取り組みといえます。
ちなみに、海外では似た制度で追及権というものがあります。
追及権とは、オークションなどで作品が転売されたときに、取引額の一部を制作したアーティスト(著作者)に支払う権利のことです。例えば、書籍の著者が販売部数に応じて印税を受け取れるところを、古本に対しても売上の一部を受け取れるようにするようなイメージです。この制度はフランスから始まり、EU加盟国を中心に80以上の国が導入している一方で、アメリカや日本、その他の多くの国には作者への還元金に関する法律がありません。
追及権がないと、オークションなどのセカンダリーマーケットでどれだけ高値で作品の取引があっても、アーティストに収入は発生しません。そこで、このような状況を是正する法制度として登場したのが追及権です。
(参考:日本美術著作権協会)
ひとつの作品と向き合いやすい展示空間
会場:ミヤシタパーク内にある「SAI」
下見会は渋谷ミヤシタパークにあるアートスペース・SAIで開催しています。商業施設内にあるため、散歩がてら立ち寄れるカジュアルさがあり、気軽にアートを楽しみやすい空間となっています。
実際に私が下見会の会場で作品を観ていると、制服を着た学生や買い物終わりの人が立ち寄っていました。そういったところはギャラリーや美術館よりも開かれているように感じます。
ギャラリーでの個展とは異なり、色々なアーティストの作品が一堂に並ぶオークション下見会は、新たなアーティストや作品との出会いができるのが魅力的です。出品数の多さから作品間の隙間がなくなるほど詰めた展示となることもよくあります。
NEW AUCTIONでは作品と作品にある程度の“間”を持たせた展示をしています。この間が、鑑賞者がひとつの作品と向き合い、作品を楽しめる空間を作り上げているようです。そんな展示空間の下で開催されたNEW 003下見会展示作品の一部を、平面、立体、写真、映像作品に分けてご紹介します。
平面作品
Chim↑Pom from Smappa!Group:平和の日 (鹿)
大規模個展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング(2022、森美術館、六本木)」を境に改名したことも記憶に新しいChim↑Pom from Smappa!Groupによる《平和の日》シリーズの作品。
《平和の日》シリーズは、2011年と2013年に制作されたおよそ440枚にものぼる絵画シリーズで、1点1点が「平和の火」と呼ばれる、1945年8月に広島へ投下された原爆の残り火で焼き上げられています。歴史的な出来事により宿った火のイメージを、新たなものを生み出すものに更新しているような作品だなと感じます。作品サイズも大きく、迫力があります。
Chim↑Pom from Smappa!Group(チンポム フロム スマッパ!グループ)とは、2005年に東京で結成されたアーティスト・コレクティブ(複数のアーティストが協働する形態)です。卯城竜太(うしろりゅうた)さん、林靖高(はやしやすたか)さん、エリイさん、岡田将孝(おかだまさたか)さん、稲岡求(いなおかもとむ)さん、水野俊紀(みずのとしのり)さんの6名で活動しています。
結成当初から「個と公」を表象した「都市論」をテーマに作品を制作していて、積極的かつ変則的に、現代社会の多様な問題を取り上げた作品を生み出しています。
Chim↑Pom from Smappa!Group|Instagram:@chimpomfromsmappagroup
他展示でのChim↑Pom from Smappa!Group作品はこちら
梅沢和木:神鬼勃ツ三千世界之画像海
梅沢和木さんの代表的な表現である、膨大なキャラクター画像の断片を組み合わせてできた作品です。中央には巨大な像が描かれていて、3本の角をを生やした鬼のような造形が鎮座しているようです。
本作品は「風景地獄−とある私的な博物館構想(2016、A/D GALLERY、六本木)」で展示された大型作品なのだそうで、「東京の風景」をテーマに、六本木ヒルズの展望台から見下ろした東京を背景に描かれています。
日本のオタク文化に寄った、キャラクターという大衆のロウ・アートが東京の中心地に配置されひとつのアート作品となっているところに、日本の中心的なアートは漫画やゲームといったオタク文化の中にあると訴えているようです。
梅沢和木(うめざわ かずき)さんは1985年生まれ、埼玉県出身のアーティストです。2008年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業されています。
インターネット上に散らばるキャラクターの断片コラージュを施した、膨大な情報量に対峙する感覚をカオス的な画面で表現した作品を主に制作しています。
梅沢和木さん|Instagram:@umelabo
他展示での梅沢和木さん作品はこちら
井田幸昌:End of today – 2/10/2019 Portrait of N –
井田幸昌さん自身の心象風景や身近な無名の人々を出会ったその日に描く《End of today》シリーズの作品です。小柄な作品ながら、顔には油彩で厚塗りされ横から観たら立体感があり、存在感があります。さらに、太く力強く描かれた筆致からは、その人物の持つ特徴を抜き出しているようです。
このシリーズには無名の誰かが描かれることが多いそうで、その日に出会った人との時間はかけがえのないもので、平等の価値があることを訴えているように見えてきます。
井田幸昌(いだ ゆきまさ)さんは1990年、鳥取県出身のアーティストです。2019年に東京藝術大学大学院油画を修了されています。2022年は前澤友作さんが国際宇宙ステーション(ISS)に井田幸昌さんの作品を持ち込んだことでも注目を集めました。
友人や旅先で出会った人など、身近な人々との出会いの瞬間を描きたいと思ったのが始まりで、「一期一会」をテーマとした作品を主に制作しています。
井田幸昌さん|Instagram:@yukimasaida
他展示での井田幸昌さん作品はこちら
猪瀬直哉:Stella Maris
猪瀬直哉さんによる、草原の中に忽然と現れたプールのようなものが描かれた、幻想的な作品です。現地取材のもと選択された風景モチーフとしているそうで、作家自身のイマジネーションでコーティングし完成される作品群です。作品には19世紀から受け継がれるロマン主義的な精神性の継承と同時に、それまで定式化されていた「美」としてのアートと「崇高」としてのアートを統合するピクチャレスク(崇高という意味が込めた「絵のように美しい」という意味)としての側面を持つ、現代美術家ならではの新しい表現が成されています。
自然の中にあるプールという人工物は、人の存在を感じさせます。人間の我欲の強さを感じる一方で、そんな景色でも美しいという感情を湧かせるのは我欲に動じない自然の寛大さも表しているのかもしれません。
猪瀬直哉(いのせ なおや)さんは1988年生まれ、神奈川県出身のアーティストです。2012年に東京藝術大学美術学部油画科を卒業後、2017年にロンドン芸術大学チェルシーカレッジオブアートMA Fine Artsを修了されています。
自然界と人間の強欲な在り方、それによって生み出される不調和な関係性を探求した、細部まで精巧な風景と抽象的な世界観の作品を主に描いています。
猪瀬直哉さん|Instagram:@naoyainose
他展示での猪瀬直哉さん作品はこちら
平子雄一:Pattern of Grain 5
自然と人間の関係性を問う作品を描く、平子雄一さんの作品です。個展「GIFT(2021、KOTARO NUKAGA、天王洲)」の展示作品群が放つカラフルで温もりを感じる作品とは異なり、少しダークな雰囲気を感じます。
スーツを着た人物の顔はイネを積み重ねたような見た目で、人間の食糧として摂取される穀物たちから見た一生の儚さを感じます。リアルタイムに観れなかった作品の進化の過程を知れるのも、オークション下見会の魅力ですね。
平子雄一(ひらこ ゆういち)さんは岡山生まれのアーティストです。2008年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業されています。
都会の人々が嗜好する自然が人工的に制御されたものであることに違和感を覚えたことがきっかけに、自然と人間の関係性をテーマにした、現代社会における自然と人間との境界線を問う作品を制作しています。
平子雄一さん|Instagram:@yuichihirako
他展示での平子雄一さん作品はこちら
ロッカクアヤコ:Untitled
今回のオークションのメインピースである、ロッカクアヤコさんの作品です。カラフルな色彩で描かれた大作には何かを願うように目を瞑った女の子と、そこに寄り添うように青い花々が並んでいます。
手指でペインティングする身体的な行為で描き込まれていく作品は、抽象と具象の間を行き来しながら鮮やかな作品となっていきます。人間と植物とが寄り添いながら生きる温かな世界観が描かれているようで、心穏やかになる幻想的な雰囲気を醸し出しています。
ロッカクアヤコさんは1982年生まれ、千葉県出身のアーティストです。グラフィックデザインの専門学校イラストレーション科に通った後、2002 年から芸術家としてのキャリアをスタートし、独学で絵を描きはじめています。
下書きをすることなく手指でペインティングする独自の手法で一気に書き上げるスタイルで、主に大きな目をした女の子をモチーフにした作品を制作しています。最近では時間制限によるエディション作品を制作したことでも話題となりました。
ロッカクアヤコさん|Instagram:@rokkakuayako
他展示でのロッカクアヤコさん作品はこちら
流麻ニ果:肥
「色彩の作家」と称される流麻二果さんによる、大半が黒で塗られている大型作品です。「トーキョーワンダーウォール個展(2000、東京都庁、新宿)」にて展示された作品で、左上には淡い色彩がいくつも塗り重ねられています。
本作品《肥》を描いた当時は、“他者に対する興味、観察を元に、人物を描くもその対象を捉えきれぬままその姿が作品の中で変容した”そうで、本作品にも面影は視認できないものの、元は人物が描かれていたようです。性別や年齢も分からないヒトが絵具で塗り重ねられ、作品の「肥やし」となっている様子は、昼夜問わず人工的な強い光に当てられることの多い現代人を描いているように感じます。強い光は深い影を落とし、見えなくなるものもあることを描き出しているようです。
流麻二果(ながれ まにか)さんは1975年生まれ、大阪出身のアーティストです。1997年に女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻を卒業されています。
自然光の下で絵具を一色ずつ幾層にも重ね、透明感と陰影が重なり合う特有の質感の作品を制作しています。その作品から「色彩の作家」とも称されています。
流麻二果さん|Instagram:@manikanagare
赤瀬川原平:紙型千円札
赤瀬川原平さんによる、1950年から1965年にかけて発行された1000円札をモチーフに製作された作品です。表面には聖徳太子が精巧に描かれている一方で、裏面には法隆寺夢殿ではなく、個展のダイレクトメッセージのような内容が描かれています。
裏面の上部には“人体<細胞総数約8兆個>=海水<ドラムカン約6000杯>”と描かれています。偽の貨幣製造は技術の精巧さにより実現できる一方で、人体を精巧に生み出す素材はあっても、それだけで条件が満たされるのかどうかという問いも生まれてくるような印象を感じます。
赤瀬川原平(あかせがわ げんぺい)さんは1937年から2014年にかけて活躍した、神奈川県出身の前衛美術家です。武蔵野美術学校(現 武蔵野美術大学)油絵学科を中退されています。美術家以外にも、マンガ、文筆、写真など様々な分野で活動していました。
《梱包作品》シリーズである宇宙を缶詰に閉じ込めた《宇宙の罐詰》や、千円札を描いて印刷したことで裁判に発展した作品、展示するかのように美しく保存されている無用の長物の中でも、不動産に属するものをトマソンと呼んだ発起人としても有名です。
高松次郎:影 No.1411
遠くから見ると本当に人の影が映っているように見えるペインティングは、高松次郎さんの代表的な《影》シリーズの作品です。二次元の影からも三次元的な手の姿を想像できますが、こうした「次元のずらし」を駆使して、現象を捉えようとしているような印象を受けます。
高松次郎さんは小学生時代に敗戦を経験し、社会の価値観が一変する経験をした世代です。そういった背景からも、今ある常識を疑い、問いを立て、入念な思考の上で結果を導き出す過程の大切さを、作品を通して示しているのかもしれません。
高松次郎(たかまつ じろう)さんは1936年から1998年にかけて活躍した、東京都出身の前衛美術家です。1934年に東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻を卒業されています。
赤瀬川原平さん、中西夏之さんとで前衛芸術グループ「ハイレッド・センター」を結成し、街頭ハプニングなど反芸術的な活動を展開していました。その後の1964年頃から、画面に人間の影だけを描き、実在物と虚像のあり方を問いかける《影》シリーズを制作するほか、《点》シリーズ、《紐》シリーズ、世界の根源的な成り立ちに視線を注いだ作品を多く残しています。
草間彌生:かぼちゃ 2000 (黄) (Kusama 298)
水玉模様のかぼちゃに、背景には無限に続く網目模様が描かれた、草間彌生さんによる作品です。このかぼちゃのモチーフは、草間彌生さんの祖父がやっていた畑にあったかぼちゃから引用されており、幼少期に幻覚と幻聴に悩まされていた草間彌生さんを慰めてくれていたそうです。「太っ腹で無骨で飾らぬ形、そのたくましい造形に魅せられた」といいます。
背景にある網目のネットペインティングも単一モチーフの反復と増殖という、草間彌生さんの代表的なモチーフで描かれています。無限に繰り返される網という恐怖に捕まっているように見えつつも、かぼちゃがどっしりと構えている強さを感じます。
草間彌生(くさま やよい)さんは1929年生まれ、長野県出身の前衛芸術家です。1949年に京都市立美術工芸学校絵画科(現 京都市立芸術大学)を卒業されています。
“前衛の女王”と呼ばれており、作品には「常同反復」「増殖」「集積」の要素がよく見られます。水玉や網目模様、突起などの造形が繰り返される表現は草間彌生さんの作品中に多く登場しますが、これらは幼少期から経験している幻覚や幻聴から影響を受けているそうです。
草間彌生さん|Instagram:@kusama_archive
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KYNE:Untitled
漫画のようなコマ割りの中に、独特のカッコよさを放つ女性とバイクが描かれたKYNEさんの作品です。ガソリンスタンドなのかモーテルなのか、その場所で待つ女性のもとへバイクで向かうワンシーンが描かれているように見えます。
今や日本のアートは漫画と捉えられる中で、漫画のような作品を制作するところに意味があるような印象を受けます。平面的な世界で繰り広げられる物語の中には、作家がこの時代に生きていたからこそ感じ、影響を受けたものたちが溶け合って、ひとつの作品として表現されているように感じます。どこか懐かしさを感じるのも、その影響かもしれません。
KYNE(キネ)さんは1988年生まれ、福岡県出身のアーティストです。大学時代に日本画を学ぶ一方で、同時期にグラフィティ表現に出会い、それぞれの表現方法で作品を制作していました。また、1980年代の大衆文化、そして現代のミックスカルチャーからの影響も受けており、それらが作品にも反映されています。
“KYNE-girl”と呼ばれる女性のポートレート作品が有名で、モノトーンで描かれた凛とした表情の女性の作品を多く制作しています。
KYNEさん|Instagram:@route3boy
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山口歴:RD NO. 8
ブルーやブラック、ホワイトといった、山口歴さん独自の鮮やかな色彩で制作された作品です。キャンバスという枠から一つ次元を飛び越え、ブラシストローク(筆跡)がキャンバスとなっていていて、筆の勢いや絵具のしぶきから力強さを感じます。
“描く”という行為が世紀を超えて残り続けていることを、普遍的なカッコよさとして落とし込んでいる作品に感じます。
山口歴(やまぐち めぐる)さんは1984年生まれ、東京都出身のアーティストです。2007年に渡米し、松山智一さんのアシスタントを経て、現在はニューヨークのブルックリンを拠点に活動されています。
主な作品として、ブラシストローク(筆跡)をテーマとした《OUT OF BOUNDS》シリーズが挙げられます。「固定概念、ルール、国境、境界線の越境、絵画の拡張」というコンセプトのもと、キャンバスという枠を超えて、ブラシストローク自体をキャンパスとしています。
山口歴さん|Instagram:@meguruyamaguchi
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TIDE:DECADE
独特なモノクロームの世界観の中に猫が描かれた、TIDEさんによる《CAT》シリーズの作品です。2019年から制作している作品で、このねこは最初ぬいぐるみのねこから描き始まり、次第にフラットなねことなっていき今のモチーフに至っているそうです。
よく見ると、生きている猫はフラットに、それ以外の非生物は立体的に描かれています。モノクロームの世界観はまるで昔のアニメを見ているようで、フラットな猫は可愛らしく表現されています。
TIDE(タイド)さんは1984年生まれ、静岡県出身のアーティストです。20代前半に滞在していたオーストラリアでゲゲゲの鬼太郎で有名な漫画家・歴史家の水木しげるさんの作品に出会い、独学で絵を描き始めます。
作品のテーマには「子供時代の原風景やノスタルジア」といった、独自の絵画世界で表現しています。一貫してモノクロームの世界を描き、ひとつのキャンバス上で2 次元と3 次元のモチーフを組み合わせた作品を制作しています。
TIDEさん|Instagram:@tide_1984
他展示でのTIDEさん作品はこちら
リチャード・プリンス:Untitled (portrait)
リチャード・プリンスさんによる、ソーシャルメディアのInstagramに投稿された写真を流用し、コメント欄に脈絡のない言葉やジョーク、絵文字などにコメントを付した《New Portraits》シリーズの作品です。この作品も、オランダ人モデルであるブレッヒェ・ハイネンさんがInstagram上へ投稿したイメージをモチーフにしています。コメント欄にはリチャード・プリンスさんのコメント「Not me behind. I’m holding umbrella☔️(後方にいるのは私ではありません。傘をさしているのが私です)」が添えられています。
Instagramの投稿をキャンバスに転写し、コメント欄のみリチャード・プリンスさんによって手が加えられた作品の著作権はモデルにあるのか、作家にあるのか、どこまでが著作権侵害にあたるのか、その境界線について考えさせられる作品です。
リチャード・プリンス(Richard Prince)さんは1949年生まれ、パナマ運河地帯(旧アメリカ領)出身の画家・写真家です。Nasson Collegeを卒業されています。
1970年代後半からマスメディア、広告、エンターテインメントからイメージを収集し、作家性、所有権、知覚の概念を再定義するような作品を制作しています。アプロプリエーションアート(広告など既存のイメージを複写するなどして加工し、作品とすること)の先駆者の一人として、また「再撮影」という独自の制作プロセスを踏むことで知られています。
リチャード・プリンスさん|Instagram:@richardprince_official
アンディ・ウォーホル:Life Savers :「Ads」より (F. & S. II. 353)
アメリカで有名なリング型キャンディ、ライフセーバーズ(LifeSavers)の広告をモチーフにした、アンディ・ウォーホルさんによるシルクスクリーン作品です。中央には「please do not lick this page!(このページは舐めないでね!)」という可愛らしい一言も添えられています。大衆が好きなお菓子で、大量生産される商品広告を、シルクスクリーンという大量生産が可能な技術を用いて制作することで、大衆文化のありさまを表現しているように感じます。
大量生産によってライフセーバーズのような人気なお菓子が多くの子どもの手に届き、笑顔を増やすものとなっている背景には、広告の流通による影響もあることを意識させます。アートへ転身する前は商業イラストレーターとして活動していたアンディ・ウォーホルさんだからこその関連性もあるように感じます。
アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)さんは1928年から1987年にかけて活躍した、アメリカ・ピッツバーグ出身のアーティストです。1949年にカーネギー工科大学(現在のカーネギーメロン大学)を卒業されています。
広告や新聞など大衆文化を主題とした美術運動「ポップアート」の巨匠と呼ばれています。キャンベル・スープ缶やブリロの箱、マリリン・モンローさんをモチーフにした作品などが有名で、そこには大衆文化のもつ大量消費、商業化により無差別に“同じもの”を求める現代社会を捉えている様子が、作品に表現されていると捉えることができます。
キース・ヘリング:Growing (Littmann p.91)
シンプルな線が描きこまれた、キース・ヘリングさんによる作品です。中心の赤い点から人のように見えるモチーフが広がっているようです。作品の制作年である1988年は、キース・ヘリングさんがエイズ感染と診断された年でもあります。そんな年にできた作品には、いろんな人が等しく生きてることを喜び合える大切さを発信しているように感じます。
1980年代のアメリカは、クラック(コカインの一種)の流行やエイズの蔓延が大きな問題となっていた時期でもあります。そういった時代背景からも、アートを通じて病気などによる差別や暴力をなくし、生きることを肩を組んで喜び合えるようにという願いを伝えているようでもあります。
キース・ヘリング(Keith Haring)さんは1958年から1990年にかけて活躍した、アメリカ・ペンシルベニア出身のアーティストです。1978年にニューヨークへ移り、スクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学します。
シンプルな線で描かれたキャラクターと色彩が作品の象徴的なアイコンとなっています。1980年代のアメリカ美術を代表するアーティストで、地下鉄の黒紙の貼られた広告板に白いチョークで絵を描く、通称「サブウェイ・ドローイング」と呼ばれるグラフィティアートで有名となりました。
バンクシー:Donuts (Chocolate)
ドーナッツの移動販売車の周りを護衛するように走る警察官たちが描かれた、バンクシーさんによる作品です。通常は保護するほど重要な存在ではない対象ですが、大量消費が生まれることで成り立つ資本主義を丁重に守ることへ警鐘を鳴らしているように見えます。
バンクシーさんの作品には反資本主義や反権力などへの風刺の効いたメッセージが込められたものが多く存在します。移動販売車は捉え方を変えると、警察官によって行動制限をされているという見方もできます。子どもの好きなドーナツをいろんな地域に届けられる利点を排除されていると捉えるとしたら、そこには反権力へのメッセージも込められているのかもしれません。
バンクシー(Banksy)さんはイギリスを拠点に活動する匿名の芸術家です。世界中のストリート、壁、橋などを舞台に神出鬼没に活動していています。
ステンシル(型版)を使用した独特なグラフィティアートが有名で、作品に添えられるエピグラムは風刺的でダークユーモアに溢れています。キャッチーでユーモラスな作品の背景には、鋭い社会風刺や政治的メッセージが込められています。
バンクシーさん|Instagram:@banksy
立体作品
土屋仁応:金魚
尾びれのふわりとした優しい趣が印象的な、土屋仁応さんによる金魚の彫刻作品です。金魚の台との設置面を見ると、顎の部分と胸びれの先端、尾びれの先端が設置しています。体の中で重い部分はしっかりと設置し、軽い部分はふわっと設置しているところから、身体の軽さが表現されているように見えます。
木肌が消える程色が重ねられて、表面の白から赤への淡い色彩が特徴的で、ふわりと浮かぶ雲のような浮遊感も感じます。
土屋仁応(つちや よしまさ)さんは1977年生まれ、神奈川県出身の彫刻家です。2001年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業、2007年に東京藝術大学大学院文化財保存学彫刻博士課程を修了されています。
実在の動物から神話や想像上の動物までをモチーフに、伝統的な仏像彫刻の技法を使った木彫作品による幻想的で柔和な質感な彫刻作品たちを主に制作しています。乳白色の彩色は木彫りとは思えないほどの絶妙な曲線で構成されています。
土屋仁応さん|Instagram:@yoshimasa_tsuchiya_info
大谷工作室:狛犬
大谷工作室さんによる、物腰柔らかな狛犬(こまいぬ)の作品です。狛犬とは獅子に似た日本の獣で、想像上の生物とされていますが、大谷工作室さんの狛犬は邪気を祓う存在というよりは、親しい隣人のような身近な存在に感じます。
陶芸のような質感を感じる立体作品でありつつも、穏やかな表情はまるで工作室で子供が無邪気に、真剣に制作したような独特の雰囲気があります。陶芸、彫刻、工作の境界線をたゆかいつつ、作品の方から鑑賞者に寄り添ってくれているようです。
大谷工作室(おおたにこうさくしつ)さんは1980年生まれ、滋賀県出身のアーティストです。2004年に沖縄県立芸術大学彫刻科専攻を卒業されています。奈良美智さんの陶芸作品を手伝っていたことでも知られています。“工作室”とはいわゆる屋号で、アーティスト集団を指しているわけではありません。
スイスの彫刻家のアルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti、1901 – 1966)さんに憧れて芸術の世界に入ったという大谷工作室さんは主に、陶、木、鉄など様々な素材による器、オブジェを制作しています。荒目の土の表情を生かしながら焼き締められた作品は外見のかわいらしさとともに彫刻として独特の存在感を放っています。
大谷工作室さん|Instagram:@ota539
奈良美智:Cross Eyed Kid
奈良美智さんによる、小柄な頭の立体作品です。目をバツの字にして、毒気に当てられたかのような様子が助けを欲していながらも可愛らしさを感じます。作品タイトルの《Cross Eyed Kid》とは“寄り目の子供”という意味からも、子供が今日の分の体力を使い果たした時の様子にも見えます。
大人になると明日のことを考えて体力配分を考えるようになりがちですが、子供の頃の一日にかける全力さを想起させてくれるようです。また、作品は大谷工作室さんの《狛犬》と並ぶように展示されていて、師弟でのコラボレーションも楽しめるような展示となっていました。
奈良美智(なら よしとも)さんは1959年生まれ、青森県出身のアーティストです。1985年に愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業し、1987年に愛知県立芸術大学大学院修士課程を修了されています。
少女をモチーフにした作品で知られ、ポピュラー音楽、幼少期の記憶、時事問題などに影響を受けながら、それらを自伝的なものとしてだけでなく、より広い文化的感性にまたがる感情、孤独感、反抗心を感じさせる作品を制作しています。
奈良美智さん|Instagram:@michinara3
他展示での奈良美智さん作品はこちら
花井祐介:Down But Not Out
花井祐介さんにとって初のウッドスカルプチャー作品と言われている立体作品です。作品タイトルの《Down But Not Out》とは“ダウンしたが、まだKOされていない”というボクシング⽤語から派⽣した⾔葉なのだそうです。ちょっと休んでまた⽴ち上がって前に進む、そんな思いが込められています。
生きていれば失敗や辛いことがたくさん起こるけれど、そんな日は一緒に椅子に座って、お酒の飲み相手になってくれているようです。笑い合って、明日また立ち上がって生きる気力を与えてくれるような作品です。
花井祐介(はない ゆうすけ)さんは1978年生まれ、神奈川県出身のアーティストです。20代でサンフランシスコへ渡りアートを学ばれています。
50年代~70年代のサーフ系イラストやアメリカのカウンターカルチャーに影響を受け、⽇本の美的感覚とアメリカのレトロなイラストレーションを融合した独⾃のスタイルの作品を制作されています。普段の生活の中で書きたいと思ったり、訴えたいことだったり、面白いことだったり、それらが織り混ざった作品を描いています。
花井祐介さん|Instagram:@hanaiyusuke
他展示での花井祐介さん作品はこちら
名和晃平:Velvet – Trans Double Yana (R)
名和晃平さんによる、女性の身体にモヤが重なっているような《TRANS》シリーズの作品です。3Dスキャンなどで得たデータを元に彫刻化するもので、実在する身体と情報としての身体を重ねた見た目になっています。
ベルベット状の表面をした作品は、アナログの身体部分は滑らかな一方で、デジタルの身体部分は細胞ひとつひとつが膨張したかのようになっています。デジタル空間では一定の体積になったら形を安定させるために、シャボン玉のように球形を目指して形を成していくのかもしれません。もしくは、表面積が大きくなるほど、身体が不安定になることを表現しているのかもしれません。表皮から解釈が広がるところに面白さがあります。
この作品は丸の内ストリートギャラリーにも同じシリーズの大型作品が展示されています。
名和晃平(なわ こうへい)さんは1975年生まれ、大阪府出身のアーティストです。1998年に京都市立芸術大学美術科彫刻専攻を卒業し、2003年に京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程彫刻専攻を修了されています。
彫刻の表皮に着目し、肉眼では捉えられない細胞(セル)を大きくしたような粒で全体を覆い、情報化時代を象徴する《PixCell》シリーズで有名です。他にも、生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマにした作品など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出しています。
名和晃平さん|Instagram:@nawa_kohei
他展示での名和晃平さん作品はこちら
トム・サックス:Ashtray Lion
防衛・航空事業を展開するRaytheon(レイセオン)社のロゴがあしらわれた掃除機を彷彿とさせる装置の端に、灰皿、人形、ライオンが配置され、上部にはランプが取り付けられた、トム・サックスさんによる作品です。日用品として手に入りやすそうなものを素材にしていて、普段使っているものが作品になることに対してつい疑問を抱いてしまいます。
これらの素材は使い古されていて、消費や新製品への欲求が生み出したものとも受け取れます。ランプと掃除機はまだ動くのに、生活の便利さを優先する行動に、何かを失った気を起こさせる作品です。
トム・サックス(Tom Sachs)さんは1966年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身の現代美術家です。1989年にベニントン大学(バーモント州)を卒業されています。Nikeとのスニーカーの共同開発でも有名です。
発泡スチロールやベニヤ板、接着剤や台所用品などの日常的な素材を切り貼りし、自らの手で寄せ集めた彫刻作品やインスタレーション作品や、シャネル、マクドナルド、NASAといった実存するブランドのロゴを転用した作品を制作しています。こうした“月並みな材料を讃え、それを使って斬新な作品を生むこと”を作家は「オート・ブリコラージュ(一流の日曜大工)」と呼んでいます。
トム・サックスさん|Instagram:@tomsachs
ダニエル・アーシャム:Volcanic Ash Eroded Leica CL Camera
ドイツの有名なカメラメーカー、ライカ(LEICA)をモチーフにした、ダニエル・アーシャムさんによる作品です。「フィクションとしての考古学」というコンセプトのもと、現代にあるアイコンや実際に使われているものを化石化したような表現が特徴的です。
ライカはところどころ腐食していて、カメラとは認識できるけど、実用はできないものとなっています。しかし、崩れそうで崩れない、壊れそうで壊れない、ライカとしての存在感は保存されているところに、未来に残るものの強度やライカの築き上げてきた歴史、文化の美しさを感じます。
ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)さんは1980年生まれ、アメリカ・オハイオ州出身のアーティストです。クーパー・ユニオンを卒業されています。
「FictionalArcheology(フィクションとしての考古学)」というコンセプトに基づいた作品を制作しています。日本では「ポケットモンスター」が化石化して内部からクリスタル結晶が見える立体作品を展示したことでも知られています。
ダニエル・アーシャムさん|Instagram:@danielarsham
写真作品
森山大道:階段
モノクロでコントラストが強く、粗く、締まった黒が印象的な、森山大道による作品です。街中に存在する何気ない景色を森山大道さん独自の表現で切り取ったスナップ写真からは、日々街頭の表情は変わり続け、それを歩いて、見て、撮った景色には時代によって変化するリアルさがあります。
作品に使うカメラは持ち運びのしやすさを重視して、コンパクトカメラで撮影されています。それほど、毎日変わる街の様子を記録することへのこだわりを感じます。
森山大道(もりやま だいどう)さんは1938年生まれ、大阪府出身の写真家です。写真家である岩宮武二さん、細江英公さんのアシスタントを経て、1964年に独立されて活動しています。
写真の「正確に、目の前にある景色を切り取るもの」という考え方に一石を投じ、「アレ・ブレ・ボケ」という、⽩と⿊の⾊調の差が⼤きいハイコントラストの写真や、被写体の輪郭がぼやけていたり、粗かったりする独自の写真作品を発表しています。
森山大道さん|Instagram:@daidomoriyamaphotofoundation
ヴォルフガング・ティルマンス:paper drop (passage) III
ヴォルフガング・ティルマンスさんの代表作のひとつ《paper drop》シリーズの作品です。中央に雫が横たわっているように見える、幻想的な作品ですが、これはCプリントの印画紙をくるっと丸めて撮影されています。
光と影が生み出す淡くニュートラルなワンシーンは、印画紙と言われないとわからない、抽象的なものとなっています。遊び心のある不確かさで、知覚の既成概念を揺さぶる作品となっています。
ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)さんは1968年生まれ、ドイツ・レムシャイト出身の写真家です。1992年にザ・ボーンマス・アンド・プール・カレッジ・インターナショナル(イギリス)を卒業されています。2000年に写真家として初めてターナー賞を受賞した写真家としても知られています。
カメラを通じて現代社会のさまざまな側面を切り取りながら、芸術の可能性を追求した作品を制作しています。私小説的な思索を感じさせるシンプルなスナップショットから同世代の若者やユースカルチャー、セクシャルマイノリティに目を向けた作品などで注目され、その後ファインアートとして高い評価を得ています。
ヴォルフガング・ティルマンスさん|Instagram:@wolfgang_tillmans
映像作品
クリスチャン・マークレー:電話
聴覚と視覚の結びつきを探る作品で知られる、クリスチャン・マークレーさんによる初期映像作品です。ハリウッド映画から引用されている通話のワンシーンたち。前半は受話器をとるシーン、後半は受話器を戻すシーンが連続して投影されていきます。
作品の制作年である1995年はインターネットの黎明期にあたります。そこから、現代ではSNSといった個人で発信する術が多くなり、こうした情報技術が発達した社会においてこそ生じる過剰なコミュニケーションと、その不達が生み出す寂しさを予言しているようにも見えます。
クリスチャン・マークレー(Christian Marclay)さんは1955年生まれ、アメリカ・カリフォルニア出身の芸術家です。マサチューセッツ芸術大学(アメリカ・ボストン)を卒業されています。
視覚的な情報としての音や、音楽が現代社会においてどのように物質化されているかに焦点を当てて活動しており、現代美術と音楽を橋渡しするような作品を制作しています。
カタログには作品への理解が深まる説明文も
オークション開催日の約2週間前には、全出品作品が掲載されたオンラインカタログをウェブサイト上で公開しています。
作品の一部には、作品の制作背景やアーティストの背景を知れる解説文が掲載されています。作品を知るきっかけ作りにも見える取り組みからは、多くの人にアートの魅力を知ってもらうための工夫が伝わってきます。
また、事前にアカウント登録をしておくと冊子版カタログを入手することもできます。冊子版カタログは無料で入手できるものですが、中身はフルカラーで、多彩なアーティスト作品を収めた作品集としても楽しめる、クオリティの高いものとなっています。オンラインカタログの場合は、著作権上の観点から作品の画像を非表示にする場合があるため、全作品をチェックするなら冊子版カタログもチェックしてみてください。
(おまけ)トークイベントも開催
NEW 003では予約制のトークイベントが開催されました。ゲストには著名なアートコレクターである川崎祐一さんを迎えたトークイベントは「若手作家の見つけ方とオークション活用術」と題し、アートの買い方、楽しみ方などについて語られました。
ここでは詳細な内容までは書けませんが、トークイベントを通じて感じたことを3つにまとめてみようと思います。
1. オークション下見会は新たな作品との出会いの場になる
まず、オークション下見会についてですが、作品を下見会でチェックしていると、新たな作家の作品と出会うことにも繋がるなと感じました。
今回はいつもよりも多めに展示作品をご紹介しましたが、もしかしたら作家との新たな出会いに繋がった人もいるかもしれません。私自身も新たな発見がたくさんありました。下見会会場ではここで紹介した作品以上に数多くの作家による作品との出会いが待っています。
ギャラリーといったプライマリーだけでは出会いきれない、国内外のアートの世界に浸れる場ではないかなと思います。
そして、NEW AUCTIONの下見会は渋谷のミヤシタパークという商業施設内にあるので、ついでに入りやすいという点も魅力的です。生活の一部にアートを取り入れる第一歩に活用しやすい場だなと感じました。
2. 作品の裏側を観れるのは作家とアートコレクターだけ
次に、アートコレクションの魅力を表した一言「作品の裏側を観れるのは作家とアートコレクターだけ」というのが印象的でした。
作品をコレクションすると、作品の表面だけでなく裏面まで含めて楽しむことができます。油彩画であればキャンバスに染み込んだ跡が見れたり、作家によるサインやタイトルといった情報が潜んでいます。それらを見て、もう一度作品を見たら、作品から新たな発見ができるかもしれません。
こうした制作の裏側も楽しめる特別感があることも、コレクションの魅力の1つだなと感じました。
3. アートコレクションは情報戦
そして最後に感じたのは、アートコレクションは情報戦だなということです。
次世代の若手作家を探すことや、特定のアーティストの作品を購入するときにも、どこで、どんな作品発表の場があるのかなどを感度を高く保ちながら、あらゆる情報網から得ることが大切だなと感じました。
例えば、世界のコレクターはInstagramをチェックしているそうです。今は作家自身がInstagramを通して作品を世界に発信できる時代。その発信を世界のコレクターはチェックしているかもしれません。コレクションとは別ですが、MADSAKIさんが村上隆さんと出会ったきっかけもInstagramでした。
また、今回ご紹介した、世界から注目されるロッカクアヤコさんは2022年11月23日にAvant Arteとコラボレーションし、ライブペインティングで描き下ろされた新作の版画を、24時間限定で発売していました。
版画などは通常エディションが予め決まっており、抽選で作品販売をパターンが多いため、人気であればあるほど当選することは稀です。一方で、今回実施したのは24時間内であれば誰でも購入できるというもので、アートコレクションをする楽しみをより身近にする取り組みだなと感じます。
オークションにおいても、同じ作家の作品でも片方はエスティメート(予想落札額)内に収まるものがあり、片方はそれを超えた価格で落札されるものがあります。これもひとつの情報で、落札額の違いについて考察してみると面白いものがあります。
コレクションを始めたばかりの私にとってはまだ見えない情報も多いですが、こうした情報をいかにキャッチしていくかが、良いコレクションをしていくことにも繋がるなと感じました。
まとめ
今回はNEW AUCTION「NEW 003」の模様を中心にご紹介しました。
NEW AUCTIONは新たな取り組みを試みていたり、アートを展示する場所としては珍しい商業施設内でアートを鑑賞できます。オークションは必ずしも買わなければいけない場ではないので、まずは生活の一部にアートを観る時間を加えるところからオークションを活用し、アートを楽しんでみてはいかがでしょうか。
オークション情報
下見会名 | NEW 003 |
---|---|
会場 | ■下見会 SAI Gallery(Instagram:@sai_miyashita ) 東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F ■オークション BA-TSU ART GALLERY 東京都渋谷区神宮前5-11-5 |
会期 | [終了] ■下見会 PART 1:2022年11月17日(木)〜 11月20日(日) PART 2:2022年11月22日(火)〜 11月25日(金) ■オークション 2022年11月26日(土) |
開廊時間 | ■下見会 11:00 – 20:00 ■オークション 開場:13:30 開始:14:00 |
サイト | https://newwwauction.com/catalog/2022112601/ |
観覧料 | 下見会は無料 |
作家情報 | Chim↑Pom from Smappa!Group|Instagram:@chimpomfromsmappagroup 梅沢和木さん|Instagram:@umelabo 井田幸昌さん|Instagram:@yukimasaida 猪瀬直哉さん|Instagram:@naoyainose 平子雄一さん|Instagram:@yuichihirako ロッカクアヤコさん|Instagram:@rokkakuayako リチャード・プリンスさん|Instagram:@richardprince_official 流麻二果さん|Instagram:@manikanagare バンクシーさん|Instagram:@banksy 草間彌生さん|Instagram:@kusama_archive 梅沢和木さん|Instagram:@route3boy 山口歴さん|Instagram:@meguruyamaguchi TIDEさん|Instagram:@tide_1984 トム・サックスさん|Instagram:@tomsachs ダニエル・アーシャムさん|Instagram:@danielarsham 土屋仁応さん|Instagram:@yoshimasa_tsuchiya_info 大谷工作室さん|Instagram:@ota539 奈良美智さん|Instagram:@michinara3 花井祐介さん|Instagram:@hanaiyusuke 名和晃平さん|Instagram:@nawa_kohei ヴォルフガング・ティルマンスさん|Instagram:@wolfgang_tillmans 森山大道さん|Instagram:@daidomoriyamaphotofoundation |
■下見会
PART 1:2022年11月17日(木)〜 11月20日(日)
PART 2:2022年11月22日(火)〜 11月25日(金)
■オークション
2022年11月26日(土)
11:00 〜 20:00
■オークション
開場:13:30
開始:14:00
梅沢和木さん|Instagram:@umelabo
井田幸昌さん|Instagram:@yukimasaida
猪瀬直哉さん|Instagram:@naoyainose
平子雄一さん|Instagram:@yuichihirako
ロッカクアヤコさん|Instagram:@rokkakuayako
流麻二果さん|Instagram:@manikanagare
草間彌生さん|Instagram:@kusama_archive
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山口歴さん|Instagram:@meguruyamaguchi
TIDEさん|Instagram:@tide_1984
リチャード・プリンスさん|Instagram:@richardprince_official
バンクシーさん|Instagram:@banksy
土屋仁応さん|Instagram:@yoshimasa_tsuchiya_info
大谷工作室さん|Instagram:@ota539
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花井祐介さん|Instagram:@hanaiyusuke
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ダニエル・アーシャムさん|Instagram:@danielarsham
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